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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第288話 幕間・Pay it Forward

オークヴィルのとある武具屋にて

「地竜素材で鎧を作って欲しいって?」


「ガリシア氏族の族長、ジオット・ガリシア殿から紹介されてね。地竜素材で革鎧を作るなら、貴殿をおいて他にいないと仰っていたよ。ジオット族長の一番弟子、【革細工師(レザースミス)】のヘルマン殿」


「師匠の紹介だぁ? あんた何者(なにもん)だい?」


「ああ、すまない、名乗っていなかったな。マーカス・フォン・セントルイス殿下の親衛隊隊長エドマンド・イーグルトンだ」


「はぁ!? こ、これは失礼した!」


 おいおいおい。いったいなんだってんだ。師匠の紹介で、王子殿下の親衛隊隊長? しかも姓持ちってこたぁ、貴族様ってことだよな? そんなお偉いさんが、鎧を作るためにわざわざオークヴィルまで来たってのか?


「大量の地竜素材が手に入ったので親衛隊の装備を一新することになったのだ。だが残念なことに王都クレイトンには竜素材を扱ったことがある鎧職人がいなくてね。貴殿には私の煮革鎧を仕立ててもらいたい。それと、その工程をこの二人に伝授してもらいたいのだ。もちろん職人の技を教わるのだから、相応の礼はさせてもらう。これはジオット族長の紹介状とマーカス殿下の依頼状だ」


 そう言って貴族様は、立派な封蝋が押された二通の手紙を俺に寄越した。


 ああ、確かにこの印章、ガリシア家のもんだな。なになに? 大恩あるセントルイス王家の騎士団大隊長殿に技巧の限りを尽くして武具を仕立てて欲しいと。大恩ってのはなんだ?


 こっちは、王子殿下の手紙か。貴族様らしい回りくどい文章で書いてあるが、王家御用職人の二人に竜素材の扱いを教えてやって欲しいってとこか。


 こりゃまた面倒な仕事が回ってきやがったな。師匠の紹介ってんなら受けるのは吝かじゃあねえが、竜素材の加工法を教えろってか。王命だってんなら断るわけにもいかねえが、ちと面白くねえな。


「……そっちの二人の加護はなんだ?」


【鍛冶師】(ブラックスミス)のイーヴォだ」


「【革細工師】のミッキーだ」


 イーヴォは土人(ドワーフ)、ミッキーは央人(ヒューム)だ。二人ともなかなか良い体格だし、ガッサガサの肌で手傷と肉刺(マメ)だらけの手つきしてやがる。王家の御用職人ってだけはありそうだ。しっかし、土人の方は【鍛冶師】かよ。羨ましいねぇ。


「ヘルマン殿、貴殿に聞くのはなんだがイーヴォは革細工を教わるのに適しているのだろうか?」


「あん? どういう意味だい?」


「イーヴォは【鍛冶師】だ。地竜の皮を扱うのに【革細工師】でなくとも、良いのか?」


 ああ、そういうことか。貴族の騎士様は職人の加護を分かってねえのか。ったく、王都騎士団の大隊長だか親衛隊隊長だかの騎士様ともあろうものが、己の命を預ける武具の職人について知らねえとは、嘆かわしいことだな。


「鍛冶師の加護をもってるってんなら問題ないだろ。技術は別だがな」


 武具は革細工師・木工師(カーペンター)彫金師(ゴールドスミス)甲冑師(アーマラー)、珍しいところだと鍛冶師や錬金術師なんかの加護を持つ者によって作られる。


 革細工師は魔物の皮や牙なんかの素材を扱うのに長けていて、甲冑師は鉱物・金属素材を、木工師は植物系の魔物素材や木材を扱うのに長けている。彫金師は甲冑師と同じく鉱物や金属素材を扱うが、より精緻な細工を作るのに向いた加護だ。


 まあ、どの加護を持っていても技術を学べば素材の扱い自体は出来るようになる。だが、素材の真価を発揮させることはどうしたって出来ねえ。どの加護持ちも素材特性を選別・分離する【精錬(リファイン)】ってスキルを使えるんだが、それぞれ扱いが得意な素材からしか特性を引き出せねえからな。


 革細工師の俺の場合は魔物の生体素材からは特性を引き出せるが、鉱物や金属からは引き出せねぇ。例えば前に扱った火喰い狼からなら火属性耐性って特性を抜き出して、他の武具に付与するなんてことも出来る。だが白銀(ミスリル)から魔法耐性を引き出すことは出来ねえってわけだ。


 だが、鍛冶師や錬金術師の加護持ちは別だ。あいつらはほとんど全ての素材の特性を扱うことが出来る。


 ほんっと羨ましいこったよ。俺も鍛冶師の加護を授かってりゃなぁ。腕はガリシア自治区でも上の方だったから、今ごろルイーズ様やフリーデ様に婿入り出来てたかもしれねえ。


 まあ、セントルイスに来たおかげで綺麗な嫁さんを二人も娶ることが出来たんだ。俺にしちゃ上出来だけどよ。


「なるほど、勉強になった。それで、依頼は受けてもらえるかな?」


「王命なんだろう? 仕方ねえさ、受けてやる。だが、師匠に教わった技を手取り足取り教えるってわけにゃいかねえ。工程を見せるぐらいなら、まあいいだろ」


「そうか! これで私も、あのアルフレッド殿と同じ匠に拵えてもらった武具を身に着けられる。宜しく頼むぞ、ヘルマン殿」


「あん? アルフレッドって……もしかして、あの新人冒険者(ルーキー)のことか?」


「新人……? アルフレッド・ウェイクリング殿のことさ。彼の武具は全て貴殿が拵えたものなのだろう? 決闘士武闘会の準優勝者にして、Aランク冒険者。魔法剣士(スペルフェンサー)魔人殺し(ダークエルフキラー)……ああチェスターでは紅の騎士(クリムゾンリッター)なんて呼ばれている、あのアルフレッド殿だよ」


 あぁん!? 俺が武具を拵えたアルフレッドと言えば、Cランク魔物『火喰い狼』を新人ながらに討伐し、オークヴィルを救ってくれたアイツだけどよ。Aランク冒険者? しかも魔人殺しって、はぁ!?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「【精錬】……よし、これでいい。見てみな。竜の皮の真皮には脂や漿液が詰まってるから、しっかり落とさなきゃならねえ。ああ、それと、この脂はかなり強力な強精剤になるから、無駄にするんじゃねえぞ。薬師ギルドに持って行きゃあ高値で引き取ってくれる。硬さに自信がないなら、自分で使うのもいいさな」


「ふむ……汚れと脂が取れただけで、光沢と結晶の反射がいや増すな」


「ああ、素材の美しさを引き出すのももちろんだが、ここで手を抜くと仕上がりが脆くなっちまう。気を付けてくれ」


 技は見て覚えろなんてことを言っちゃいたが、気が変わった。二人には懇切丁寧に教え込んでやってる。


 いやー気分も良くなるってもんさ。俺が拵えた武具を使って、アルフレッドが王都と地元レリダで大暴れしたって言うじゃねえか! 


 しかもだ! チェスターを襲った魔人族を討伐したのもアルフレッドってんだからよ! ウェイクリング家のご兄弟が魔人族を討ったって話はもちろん聞いてたさ。だが、その兄貴の方とアルフレッドが同一人物だとは思わんかった。


 ギルバード様は最近オークヴィルにちょくちょくいらっしゃる。シエラ樹海の深層で凶悪な魔物を積極的に狩ってるらしく、魔人族を討つほどの御仁は違うなと思ってたんだが、トドメを刺したのはアルフレッドらしいじゃねえか。


 さらにだ! 集団暴走(スタンピード)で地竜に占拠された俺の故郷レリダを解放した立役者がこれまたアルフレッド! 俺が属性付与した『火喰いの剣』が火龍イグニス様の祝福を受けて聖剣に昇格(ランクアップ)して、それを振るってレリダ陥落の元凶を作った魔人族を一刀両断したってんだから、職人冥利に尽きるってもんだ。


 そりゃあよ、俺も出来る限りの協力をしようって思うよな。エドマンド殿も遠くガリシアまで行ってレリダ奪還作戦にも魔人族討伐にも尽力してくださったってんだからよ。ガリシアから離れて数十年経つとはいえ、恩返しの一つもしねえのは土人族の恥ってもんだ。


「なめし剤にはマンドレイクの根の粉末と、白銀を強酸で溶かした溶剤の二種類を使う。普通は二種のなめし剤を使うことはないんだが、竜の皮は曲者でな。表皮と真皮でまるで性質が違うから使い分けなきゃいけねえ。まずマンドレイク粉末を水に溶かして……」


 二人の職人と、なぜかエドマンド殿も真剣な顔で筆を走らせている。何一つ聞き漏らすまいって気概が感じられて大変結構。


 この二人は王都に戻ってから、大量の地竜素材で新設の親衛隊隊員に揃いの防具を拵えるそうだ。そりゃあ真剣にもなるさな。エドマンド隊長の専用防具を作るんだから、俺も責任重大だけどよ。


「あなた、お茶を淹れましたよ。そろそろ一休みなさってください」


「お、お父さん、お茶菓子のクッキーはウチが作ったんだよ」


「父ちゃん! クッキーうめえぞ!」

「うめぇぞー!」


 おっと、ちいとばっかし根を詰め過ぎてたか。ここらで一服入れとくかな。俺の可愛い新妻と娘達が茶あ淹れてくれたんだから、冷めねえうちに飲まねえと。


「おう、ありがとなマーゴ。ジェシー、旨そうじゃねえか」

「ねぇかー!」


 俺はアランとリタの頭を撫でながら、エドマンド殿達を茶に誘う。


「ふむ……旨いな」


「だろう? マーゴは調理師の加護持ちだからな。茶あ淹れるのも上手えんだ」


「あなた、そんな、お貴族様相手に恥ずかしいわ」


 いやいや本当に旨いんだからよ。そのお貴族の騎士様がふっと漏らしちまうぐらいなんだから間違いねえさ。


 マーゴは先月に娶ったばかりの俺の可愛い新妻だ。まあ新妻って言うにはちとばかしトウが立っちゃいるし、3人の子連れだけどな。長女のジェシーはまだ遠慮が残ってるが、長男のアランと二女のリタはまだ小さいからすぐ俺に懐いてくれた。


 魔人族の襲撃後、俺は復興支援のために久方ぶりにチェスターへ足を運んだ。そしたら、俺の弟弟子が開いていたはずの鍛冶工房が無くなっちまってるじゃねえか。鍛冶師ギルドに乗り込んだら、数年前に流行り病でおっ死んじまったって話だった。


 弟弟子とマーゴの結婚の時には祝儀も出したし、ジェシーは生まれたばっかりのころにオシメを替えてやったこともある。四方八方を探し回ったら、スラムのあばら家で貧しい暮らしをしてんだからよ。弟弟子の忘れ形見にそんな生活させられねえって、無理やりオークヴィルに連れ帰ったってわけだ。まあ、妻には女子供を4人も連れてくるなら一言ぐらい相談しろって大目玉食らったけどな。


 とは言っても妻にしてもマーゴのことは知らねえ仲じゃねえ。連れてきたんだから責任取って二人目の妻に迎えろってきたもんだ。いやー、おらぁ良い妻を持ったもんだ。しかも二人もだ。果報者だぜ、ホントにな。


 それで詳しく聞いてみりゃ、マーゴから聞いてた命の恩人の『黒髪の聖女』ってのが、アルフレッドが連れてたお嬢ちゃんってんだから驚きだ。食糧不足の最中に娘達にたっぷり飯を食わせてくれたうえに、スラム中の怪我人を回復魔法で癒して、炊き出しを振舞った聖女様だぜ!?


 ほんっとに、あの二人には頭が上がらねえ。今はアストゥリア帝国にいるって話だから、北西には足向けて寝られねえな。


「そんでだ。なめしが終わったら、蜜蝋で煮込んで硬化処理するんだけどよ、ただの蜜蝋じゃ竜素材には負けちまうんだ。この辺で見かけるパラライズビーの蜜蝋なんかじゃ話にならねえ。最低でもキラーワスプか、出来ればヘルホーネットの蜜蝋を使いたい。エドマンド殿、なんとかなんねえか?」


「ふむ、当たってみよう」


「それと鋲打ちするから骨を鋲に加工するぞ。金剛石(アダマンタイト)製の工具は持ってるか?」


「いや、白銀(ミスリル)合金製を使ってる」


「なら今回は貸してやる。竜の骨は硬えぞ」


 エドマンド殿に最高の竜革鎧を作る。そして竜素材の加工法を徹底的に教えこむ。だがそれぐらいじゃ、アルフレッド達への恩は返しきれねえ。どうやって報いたもんかねぇ。


 よしっ、ギルバード様のおかげで樹海深部の特殊魔物素材が手に入りやすくなってるし、俺の技巧の全てを注いで武具を拵えるか。冒険者パーティ『火喰い狼』(フレイムウルフ)の連中に聞けば冒険者コードを知ってるだろうから、いつか手渡すこともできるだろ。


 だっけどよぉ。あいつら、盗賊と薬師って話じゃなかったか? なんで魔法を使えんだよ?





ちょい役、まさかの再登場。


革細工師ヘルマンは22話・33話・37~38話、ジェシー・マーゴ・アラン・リタは53~55話・61~62話に登場してます。エドマンドは……覚えてくれてますよね?


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