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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第285話 錬金術師

 ガラァーン、ガラァーン、ガラァーン。


 魔法都市エウレカに乾いた鐘の音が響き渡る。街行く人々が立ち止まり、白天皇城(ホワイトパレス)を仰ぎ見て首を垂れた。


 騒ぎが一応の決着を見せたため、俺達は軟禁生活から解放され、皇城がよく見える広場で鐘が鳴るのを待っていた。多くの市民達と同様に、首を垂れ胸に手を添えて黙祷する。


 今、皇城では聖女キャロル・トレス・アストゥリアの国葬が執り行われているのだ。


 ガラァーン、ガラァーン、ガラァーン。


 もう一度、鐘が鳴ると足を止めていた人々は、再び俯き加減で歩き出した。その表情は一様に暗く、濃い不安が影を落としているように見える。


「お葬式に参列もさせてもらえないなんてね……」


「この国じゃ、俺達は平民以下の扱いだからな。仕方ないさ」


「見送りだけでもしたかったのです……」


「エルサにはごめんだけど、エルフが嫌いになっちゃいそう」


「俺も、この都はあんまり好きにはなれないな……」


 葬儀自体は皇城で行われるため神族しか出席は出来ない。だが皇族の陵墓がある霊園に棺が運ばれる際に、沿道で見送ることは市民にも許されている。多数の市民が天龍大路に詰めかけていることだろう。それも神人族(エルフ)に限られるわけだけれど。


「水が、半分も流れていないのです」


 緑地に設けられた噴水を見て、アリスが呟く。


 この街の上水路を流れる水は魔法陣エウレカで創り出してるって話だった。天龍の間から吸い上げる魔力が少なくなったから、水量が減ってしまったのだろう。


 周辺の魔素を吸い上げる機能の方は壊れていないから、全く水が流れないってことはない。でも、この都市の中にある畑や緑地を潤すことは出来ないだろう。


 それに、魔法都市エウレカでは水の生成だけでなく、様々なことに魔力を使用していただろう。機能不全に陥ってしまうのは、避けられない。


「これから、この街はどうなっていくんだろう」


「魔力を犯罪奴隷から奪ってたなんてね……。同じ人なのに、まるで化石燃料みたいに扱うんだもん。残酷だよね」


 アスカが眉根をしかめてそう言った。


 残酷……か。


 正直言うと、俺はそこまで残酷なこととは思っていない。セントルイス王国でだって似たようなことをやってるしな。


 シエラ樹海で火喰い狼と戦っていた時に襲い掛かって来た冒険者二人組や、カスケードで捕らえた数十人の盗賊達を、俺達は領兵に突き出して報酬を得た。


 あいつらは犯罪奴隷となって、たぶん鉱山なんかに送り込まれている。殺人を犯した者達が送られるのは非常に過酷な環境ばかりだという。刑期を終えれば解放されるという建前にはなっているけど、それまで生き延びることは稀だろう。


 鉱山で使い潰すのも、魔力を吸い上げて死に追いやるのも、本質的には同じことだ。罪を犯した者が、それに見合った罰を受けるのは当然のこと。死ぬのが早いか遅いかの差しかない。


 わざわざ口には出さないけど。


「魔法陣を壊したから、もう天龍の間で人が死ぬことはないさ」


「ん、そうだね」


 天龍の間には未だ大量の人骨や魔物の骨や牙が埋まっているし、閉じ込められた死者の怨念が渦巻いている。退魔の魔法陣を壊してしまったから、不死者が湧くことは抑えられない。


 今後、冒険者ギルドが天龍の間の不死者退治を担うことになるだろうから、冒険者達に死者が出る可能性はある。でも、魔力吸収は出来なくなっているから、魔石扱いされて人死にが出ることはなくなるはずだ。


 イヴァンナが監督するならそうそう死亡事故を起こすことも無いと思う。ラヴィニアに魔法陣を書き替えられた時みたいな速さで不死者が湧くってことはないだろうしね。

 


 パンパンッ!!


 そんな事を鬱々と考えていたら、アスカが手を打ち鳴らした。


「はいっ、暗いこと考えるのはこのへんにしとこっ。明日にはここを出るんだから、いろいろ準備しとかないとね!」


「……そうだな。じゃあ、まずはマイヤさんとこに行こうか」


 いつまでも寂寥感や無力感に捉われているわけにはいかない。切り替えていかないとな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「また凄い素材を持って来たね」


「堕天竜の素材だよ。これで防具を強化したいんだー」


 堕天竜とは、龍の間で俺が戦った不死者(アンデッド)化した聖天竜のことだ。なんでもWOTでは死の谷と呼ばれる、エウレカの西に広がる広大な砂漠を徘徊する賞金首だったらしい。


「この皮、光と闇の属性をもってるのか……おもしろいね。これで鎧でも作るのかい?」


「ううん。これを使って皆の防具に属性付与しようと思うんだ」


「いいんじゃない? じゃあ【革細工師(レザースミス)】を紹介してあげようか?」


 付与師系統の中位加護【祈り子(シャーマン)】を持つマイヤさんは、魔法付与は出来るが武具の製作や加工は出来ないので、知り合いを紹介してくれようとした。そんなマイヤさんに、アスカは不敵に微笑む。


「大丈夫! なんたって、うちには凄腕の【錬金術師(アルケミスト)】がいるからね」


「あわわわ。凄腕なんて、とんでもないのです」


 アリスが慌てて両手をぶんぶんと振る。


 そう、キャロルが【封印】を解いてくれた結果、なんとアリスは【鍛冶師(ブラックスミス)】から【錬金術師(アルケミスト)】への昇格(クラスアップ)を果たしたのだ。




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アリス・ガリシア


LV   64

JOB  錬金術師Lv.1

VIT  621

STR  749+300

INT  533

DEF  699+330

MND  533

AGL  577


■スキル

採掘・精錬・錬炉

鑑定・鍛造・付与


戦槌術Lv.7

人形召喚Lv.1・神具解放Lv.1・錬金Lv.1


■装備

地龍の戦槌

竜革のジャケット

火装の腕輪(ブレイブバングル)土装の首飾り(プロテクトペンダント)


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 キャロルが龍の間で封印を解放してくれた後に、あらためて右腕に刻まれていた『地龍の紋』を見せてもらったら、紋様の真ん中にあった封印の意味を持つ『Sealed(シール)』という単語を含めて、いくつかの単語が消えて無くなっていた。


 もともと、『地龍の紋』には『大地と人を結ぶ錬金鍛冶の加護を授ける』という効果があるということだった。もし、改竄されていない紋様を刻まれていたら、アリスは初めから鍛冶師系統の最上位加護である【錬金術師】を授かっていたのかもしれない。


 アスカも戦闘職以外の加護については何も知らないそうなので、いったい何が起こったのかは分からない。だが、キャロルのおかげで、アリスが渇望していた鍛冶師のスキルを使えるようになったことだけは確かだ。


「【錬炉(ファーネス)】」


 アリスの詠唱とともに、何もない空間に球状の歪みが生じた。以前に見せてもらった楕円形のいびつな空間ではない。僅かな輝きを放つ、真球の空間だ。アリスは、その真球状の空間に火喰いの円盾(フレイムシールド)と堕天竜の皮と鱗を浮かべる。


「【精錬(リファイン)】……【付与】(エンチャント)!」


 堕天竜の皮と鱗から純白と漆黒の光球が浮かび上がり、火喰いの円盾に吸い込まれていく。円盾は何度か明滅しながら、鮮やかな紅から黒鳶色に変わっていく。


「成功……しました!」


 空間の歪みがふっと消失し、落下した円盾を両手で受け止める。アリスは瞳を潤ませつつ、満面の笑みを浮かべて俺に円盾を差し出す。


「うん、しっかり属性付与されてるみたいだ。少し大きくなって、腕全体をカバーできるようになったな。扱い易そうだ」


 手渡された盾は、使い慣れた火喰いの円盾よりも、一回り大きくなり、ずっしりと重くなっているように感じる。とは言っても【騎士(ナイト)】の加護を習得した今となっては誤差程度にしか感じないが。魔力を込めると、ぼんやりと鈍い鳶色の光を放つ。


「ありがとう、アリス。やっと……夢が一つ、叶ったな」


 俺はアリスの髪を撫でて、微笑みかける。


「はいっ!!!」


 アリスの鮮やかな夕日の様な茜色の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。




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■ログ


混沌の円盾(ケイオスシールド)」を入手した



■武具鑑定


・混沌の円盾

 ランク:B+

 物理耐性・魔法耐性・火属性耐性・光属性耐性・闇属性耐性


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