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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第284話 魔都エウレカ

「貴方達のおかげで選帝侯キールを失脚させることが出来たわ! これで次期皇帝の座はゼクス家のものよ! よくやってくれたわ!」


 天龍の間での戦いから4日後、俺達は冒険者ギルドのマスタールームを訪れていた。部屋に入った俺達に、イヴァンナが開口一番で言ったセリフがこれだった。


「……俺達は不死者退治を手伝っただけだろうが。誤解を招くようなことは言わないでくれ」


「エルフの権力者争いなんて全く興味ありませーん」


「迷惑なのです」


「なによ。わざわざお礼を言ってあげているんだから、素直に感謝を受け取っておきなさいよ」


 不死者との戦いの後、俺達は冒険者ギルドにイヴァンナを送り届け、そのまま軟禁された。軟禁とは言っても、正確に言うと冒険者ギルドで保護してもらったという方が適切なのだけど。


 不死者が街中を徘徊し、魔人族(ダークエルフ)の王を名乗る者が現れた。そのうえ先代の【神子(シビュラ)】が神人族(エルフ)を裏切り、聖女キャロルが殺されるという大事件が起こったのだ。当然ながらその場に居合わせた俺達は、事情聴取のために衛兵詰所への出頭を命じられた。


 だが、エウレカに来てからというもの、俺達の中で神人族(エルフ)の印象はかなり悪くなっていた。神人族の区画では金払いの良い客だったというのに慇懃無礼な態度をされ、エルサの邸宅でさえも邪険に扱われたのだ。他種族というだけで、あからさまに見下した態度を取られ続けたのだから、気分を害するのは当たり前だろう。


 不死者討伐に貢献したとはいえ、この都市では立場の弱い他種族の俺達が衛兵詰所に行ったら、支配階層である神人族にどんな扱いをされるかわかったものじゃない。もしかしたら政争に巻き込まれて、長期間にわたって拘束されてしまうかもしれない。


 出来る限り神人族と関わりたくないと思っていたら、イヴァンナがしばらく匿ってくれると申し出てくれた。曲がりなりにも一緒に戦ったイヴァンナの世話になる方が、他の神人族と関わるよりはマシと考え、冒険者ギルドの厄介になる事にしたのだ。不当な扱いを受けても、冒険者ギルドなら余裕で脱出できるだろうしね。


「ここ数日間は外出も出来なくて窮屈だったでしょう?」


 そう言ってイヴァンナが、事の経緯と近況を教えてくれた。


 ことの発端は、十数年前に遡る。成人の儀で【神子】の加護を授かったキャロルは、先達であるラヴィニアに師事し、魔法陣や様々な魔道具の扱いを学んだ。キャロルは数年をかけて様々な技能を習得し、ラヴィニアと共に積層型広域魔法陣エウレカの管理を任されるようになった。


 それから数年後にラヴィニアが突然姿を消し、しばらくして天龍の間でラヴィニアの服を着た神人族女性のミイラが発見される。ラヴィニアは不慮の事故で死亡したと見做された。


 魔法陣エウレカの管理を担う【神子】の影響力は非常に強い。たった一人の【神子】となったキャロルを擁すトレス家は、次第に帝国議会での発言力を増していった。キール・トレス・アストゥリアが次期皇帝の座に就くことは確実視されていたそうだ。


「そこに、死んでいたはずのラヴィニア様が現れたってわけ」


 ラヴィニアが『選帝侯キールに、龍の間に閉じ込められた』と語ったことと、魔王アザゼルが復讐のためにキャロルを殺害したと言ったことを、イヴァンナだけでなくエルサも証言した。俺やアスカも事実確認をされ、それを追認した。


 ラヴィニア殺害未遂の容疑をかけられた選帝侯キールは、容疑を認めるか、尋問に嘘偽りを述べることが出来なくなる『隷属の魔道具』の装着を受け入れるかのどちらかの選択を迫られる。


「追い込まれた選帝侯キールは、諦めて容疑を認めたわ」


 キャロルの父である選帝侯キールは次期皇帝の座を欲して、敵対派閥の出身であるラヴィニアを天龍の間に閉じ込めて殺害を謀ったのだそうだ。希少な【神子】の加護を持つラヴィニアの殺害を企て、エウレカ唯一の【神子】であるキャロルを失う原因を作ってしまった選帝侯キールの責任は重い。選帝侯キールは投獄され、極刑をも検討されているそうだ。


「キャロルはただ純粋に神子の務めを果たそうとしていたし、聖女として俺達の力になってくれようとしていた。そんな子が、実の父親の権力欲のために殺されることになってしまうなんてな……」


「アリスが解呪をお願いしなければ、キャロルさんが死ぬことはなかったのです。どうやって償えばいいか、わからないのです……」


 アリスが沈痛の面持ちで項垂れる。そんなアリスに、アスカがそっと手を添える。


「ううん。キャロルは退魔の魔法陣をなんとかするために、あそこに来たんだよ。アリスの解呪のために地下墓所に来たんじゃない。それにキャロルを殺したのはアザゼルなんだよ。悪いのはキールとアザゼルで、アリスのせいなんかじゃないよ」


「そうね。魔法陣エウレカの中枢である龍の間に侵入し、退魔の魔法陣を書き替えてエウレカに混乱をもたらしたのは、あの魔人族とラヴィニア様よ。本当に、好き放題にやられてしまったわね」


「『魔法陣エウレカ』と『龍の間』か……」


 魔法陣エウレカと退魔の魔法陣については、不死者討伐の後にイヴァンナが教えてくれた。


 魔法陣エウレカは、神人族の守護龍である天龍サンクタスが、神人族の祖先達に伝えた秘術なのだそうだ。天龍サンクタスが永い眠りについた後に、自身の魔晶石を有効利用できるようにと言い遺した、と言い伝えられているらしい。


 秘術を授かった神人族の祖先は、天龍サンクタスの遺言通りに、魔晶石が安置された天龍の間に魔法陣エウレカを組み込み、膨大な魔力を活用して集落を築いた。集落には安住の地を求めた人々が集まり、次第に拡充し栄えていった。


 時が経ち、住民がどんどん増えて集落が町と言える規模になると、龍の間から供給される魔力だけでは不足するようになってしまう。神人族の祖先たちは、龍の間だけでなく町の周辺からも魔力を吸い上げるように、魔法陣エウレカを書き換えた。


 十分な魔力を得た町はさらに繁栄を謳歌し、都へと変貌を遂げた。人々は安全で豊かな生活を求めて魔力を使い続け、周辺の土地は次第に魔力を吸いつくされて荒野と化していった。


 そして神人族は思いつく。魔法陣エウレカは、魔晶石だけではなく龍の間にいる人からも魔力を吸い上げていく。ならば龍の間に生き物がいれば魔力不足は解消されるではないか。


 最初は魔物を閉じ込めて魔力不足を補った。だが、魔物を捕らえて生かしたまま連れていくのは多大な労力を必要とした。もっと簡単に魔力を持った生き物を連れていくことは出来ないものか。人を龍の間に閉じ込めるという発想に至るのに、さして時間はかからなかった。


 人が多く集まれば、罪を犯す者はどうしたって現れる。罪を犯した者を犯罪奴隷へと堕とし、龍の間に放り込む。最低限の食事を与え、死ぬまで魔力を吸い尽くす。



 ここからは俺の想像に過ぎないが、神族(ハイエルフ)が差別的な身分制度を敷いたのは、多くの犯罪者を生むためだったのではないだろうか。


 被差別対象である他種族が居住する区域は神人族に比べて生活水準が低くなる。当然ながら不満が募り、犯罪率も高くなる。そうして生まれた犯罪者を、龍の間に放り込むのだ。


 犯罪奴隷とは言え、人から魔力を吸い取るなんて、さすがに外聞が悪い。神人族達は『龍の間』と『魔法陣エウレカ』の情報を秘匿する。


 いつしか『龍の間』は、『処刑場』や『地下墓所(カタコンベ)』と呼ばれるようになっていったのだろう。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前話と話がつながってない気がする [一言] もしかして大切な話が抜けてない? その後を数話読んでみたけど何かすっぽ抜けてるっていうか・・・
2023/12/08 12:59 退会済み
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