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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第280話 解呪

「ラヴィニア様!?」


「な、なぜ貴方が!」


 イヴァンナとエルサが揃って驚愕の声を上げる。


「久しぶりね。イヴァンナ」


 ラヴィニアと呼ばれた女は、嫣然と微笑んだ。


「ラヴィニア様……貴方は、亡くなったはずでは!?」


 イヴァンナが動転した様子で、ラヴィニアに問いかける。


 灰色ローブの女、ラヴィニアのことを、3人とも知っているみたいだ。キャロルが『お師匠様』と呼んでいたことから、もしかしてラヴィニアは先代の【神子(シビュラ)】か? 既に亡くなったと聞いていたが……。


「ええ。エウレカの贄として捧げられ、永き眠りにつくところでしたわ」


「……贄、ですって!?」


「選帝侯キール・トレス・アストゥリアによって、この『龍の間』に閉じ込められたのです。キャロルが一人前になったことで、私が邪魔になったのでしょう」


「なんですって!? どういうことなのです、キャロル様!?」


 イヴァンナが気色ばんでキャロルに詰め寄る。


 ……トレス家って、キャロルの家のことだよな。選帝侯ってことはキャロルの父親か? その父親が希少な加護を持つ先代の【神子】を殺そうとした?


「ぞ、存じません。私は、お師匠様は、不慮の事故で、逝去されたとしか……」


 頭に血がのぼっている様子のイヴァンナに両肩を掴まれ、キャロルが狼狽える。エルサも呆気に取られているようだし、二人とも何も知らなかったように見える。


「なぜ貴方が、魔人族に与するような行いをなさるのです!?」


 イヴァンナが困惑した様子でラヴィニアに訴える。ラヴィニアはそっと目を伏せ、穏やかに微笑んだ。


「魔法陣エウレカによって魔力が枯渇し、根源に至るまで消失しかけていたところを、魔王アザゼル様が救ってくださったのですよ。今の私は魔人族(ダークエルフ)と共にあります」


「そ、そんな……」


 なんだか複雑な事情がありそうだが……それよりも今は退魔の魔法陣や、周囲に浮かぶ闇色の靄から生まれそうな不死者をなんとかすることの方が先決だ。


「おい、のんびり話している場合か? 結局、その魔法陣はどうするんだ? 破壊するのか?」


 ラヴィニアは魔法陣を壊すしか方法は無いと言っていたが、その通りなのだろう。キャロルが直せないと言うなら、魔法陣を壊すか放置して撤退するかのどちらかを選ばなくてはならない。


 既にかなり長い時間、不死者と戦っているというのに、エウレカの兵士達はここにやって来ない。街中に現れた不死者討伐に手間取っているのだろうか。『地下墓所(カタコンベ)』の存在は隠されていたから、ここで不死者が湧いていることを知らないのかもしれない。

 

 加勢が期待できないとなると、このまま延々と戦い続けることなんて出来ない。魔力が吸い取られ、スキルも魔法もまともに使えないような場所なのだ。


 魔法陣を壊すつもりが無いのなら、撤退するしかないだろう。冷たいようだが、魔法都市エウレカのためにアスカやアリスを危険に晒すわけにはいかないのだ。


「アルフレッド様の仰る通りです。もう、貴方達に選択肢は残されていません。際限なく生まれ続ける不死者にエウレカを滅ぼされたくなければ、退魔の魔法陣を破壊するしかありません」


 ラヴィニアが表情を変えず、淡々とそう言った。


「キャロル。貴方には私が書き換えた退魔の魔法陣を書き直すことは出来ません。ですが、魔法陣エウレカから流れる魔力を操ることは出来るでしょう? 貴方は為すべきことを為しなさい」


 その言葉に、キャロルがハッと顔を上げる。


 ラヴィニアは口元に冷笑を浮かべ、そっと片腕を上げる。アザゼルが身に着けていた物と同じ金色の腕輪から光が溢れた。


さようなら(・・・・・)、キャロル」


 ラヴィニアの姿が掻き消え、それと同時に闇色の霧から剣や弓を手にしたスケルトンが現れた。さらに、実体化を危惧していた一際大きい靄から禍々しい殺気が溢れ出る。


「くそっ……アスカ! 撤退するぞ!」


「お待ちください! もう少し、もう少しだけお力添えを!」


「ダメだ! 退魔の魔法陣を壊すつもりがないのなら、これ以上は協力できない!」


「違うのです! 魔法陣は破壊します! ですが、その前に為さねばならないことがあるのです!」


 キャロルが、何かを心に決めたかのような強い眼差しを俺に向け、魔法陣は壊せないという意見を翻した。


「積層型広域魔法陣エウレカを利用します! 反転した退魔の魔法陣に流れ込む魔力を用い、地龍の従者アリス様の【封印(シール)】を【解放(リリース)】するのです!」


 アリスの呪いを……? そうか!


 『反・地龍の紋』を彫られてから長い年月が経ったために、アリスにかかった呪いを解くには、Sランクの魔石に宿る魔力を超えるほどの膨大な魔力が必要だということだった。だが、魔法陣エウレカの魔力を使用すれば、アリスの封印も解けるとも言っていたじゃないか!


「アリス様の呪いを解いた後に、退魔の魔法陣を壊しましょう! 不死者の発生を抑えることは出来なくなりますが、今のように際限なく不死者が現れる状態からは脱することが出来るはずです!」


「了解した! アリスを頼む、キャロル!」


 アリスの呪いを解き、魔法陣を壊すというなら、否はない。今ここにいる不死者と闇色の靄を一掃すれば、いったん状況を落ち着かせることも出来るだろう。


「承知しました! アスカ様、アリス様をこちらへ! 解呪のお手伝いをおねがいします!」


「うん、わかった! アル、気をつけてね!」


「ああ!」


 アスカはアリスを横抱きに抱えると魔法陣の上に向かう。


 さて……アリスのことはひとまずアスカとキャロルに任せて、骸骨戦士(スケルトンソルジャー)の殲滅だ。俺は先頭の一体に詰め寄り、横薙ぎに聖剣を振って首を斬り飛ばす。


「おおぉぉぉっ!!」


 カタカタと音を立てて歩み寄る骸骨戦士達を次々と斬り伏せながら、魔法陣の方へと目を向ける。


 アスカ達が魔法陣の中心に座り込んでいるのが見えた。アスカがアリスの身体を支え、キャロルは片手をアリスの腕に、片手を魔法陣に添えている。


 さっきまで退魔の魔法陣に立ち上がっていた暗赤色の光の柱は消え、代わりにアリスの腕に添えたキャロルの手が眩い白色の光を放っている。そして、断続的にキャロルの身体が青緑色の光に包まれる。アスカがキャロルの魔力を回復し続けているようだ。


「くっ、はぁっ!」


 イヴァンナが骸骨戦士が振り下ろした灰色の剣を魔剣で受け流し、流れるような動きで魔剣を振るって腕を斬り飛ばした。善戦はしているが、肩で荒い呼吸をしており、かなり苦しそうだ。


「イヴァンナ、いったん退いて回復薬を飲め!」


 俺はイヴァンナに迫る骸骨戦士を蹴り飛ばしつつ、叫ぶ。


「はぁっ、助かるわ。まったく、とんでもないことになったわね……」


「イヴァンナだけでも、撤退して構わないぞ?」


「ふんっ。地下墓所の不死者討伐はギルドの仕事だと言ったでしょう? それにトレス家を追い落とすチャンスだからね」


 イヴァンナはニヤリと笑いながら回復薬を煽る。


「アルフレッド! あれを見て!!」


 魔法陣の反対側で骸骨戦士を捌いていたエルサが大声を上げた。


 エルサが指差す先で、刺すような殺気を放っていた巨大な靄から、ついに不死者が実体化しようとしていた。


「聖天竜……!」


 イヴァンナが光属性を持つ上級竜(エルダードラゴン)の名を呟く。


 現れたのは、暗赤色の靄を巨体に纏い、翼を大きく広げた四本足の純白の竜だった。




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