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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第277話 死者

「ロッシュ……!」


「フラム!? チェスターでアルが倒したはずなのに!」


 フードの下に隠されていたのは見覚えのある顔だった。レッドキャップを引き連れてチェスターを襲った魔人族フラム。もう一人は地龍の洞窟で緋緋色の金竜とともに現れたロッシュだ。


「仲間を……不死者(アンデッド)にしたというのか……」


「ふふん。央人族(ヒューム)は親切だな。自分達を襲った敵だというのに、丁寧に葬ってくれるのだから。墓を暴くのが簡単だったよ」


 そう言ってアザゼルは、ほくそ笑む。


「下衆が……仲間の尊厳ですら踏みにじるのか!」


「尊厳? ははっ、彼等も喜んでいるだろうさ。死してなお、主の役に立てるのだから」


「…………」


「…………」


 フラムとロッシュは何も語らない。双眸は暗赤色の光を放ち、表情からは感情が抜け落ちている。青褪めた褐色の肌は、まるで土塊(つちくれ)を藍染めしたかのようだ。


「さあ、お喋りはお終いだ。ガリシアではロッシュを容易に退けたようだが、今度はどうかな?」


 アザゼルはそう言い放つと、もう一人の灰色ローブと共に数歩後ろに下がった。


「さあ、行け! フラム、ロッシュ!」


「ちっ、アスカ、アリスを頼んだ! イヴァンナ、アスカ達を守ってくれ!」


「えっ!? いっ、いったい何だっていうのよ!?」


 アリスを投げるようにアスカに託すと、俺は盾を前面に押し出すようにして身構えた。イヴァンナは戸惑いつつも細身の魔剣を抜き放つ。


「くっ、はぁっ!!」


 ほぼ同時にロッシュの前蹴りが飛んで来る。身体を捻って蹴りを躱し、お返しに聖剣を突き出すが鉤爪で弾かれる。


 その間にフラムはふわりと飛び退り、魔法詠唱を始める。俺は詠唱を妨害するため、即座に【岩弾】(ストーンバレット)を放つがロッシュに拳で弾かれてしまう。


 続けて繰り出されるロッシュの拳撃を捌く間にも、フラムの纏う魔力が昂っていく。いくつもの炎塊が周囲に浮かび上がり、灰色の地面にひび割れが走る。


「まずっ!! ブルー・フィールド!!」


 アスカが叫び、属性魔晶石(エレメンタルストーン)が砕ける乾いた音が鳴る。


 俺はアスカ達の側まで飛び退り、火喰いの円盾(フレイムシールド)に魔力を注ぎ込む。アスカがフラム対策に作らせた盾に、再び出番が来るとはね。


「【断罪ノ劫火(インフェルノ)】」


 フラムの平坦な呟きとともに、浮かび上がっていた無数の炎塊が俺達に殺到する。同時に灰色の地面に走ったひび割れから、溶解した土とともに炎が噴き出した。


【大鉄壁】(ヒュージ・ウォール)!」


「【大鉄壁】!」


 渾身の魔力を込めて発動した魔力の盾を前面に展開し、飛来する炎塊と炎の柱を受け止める。俺のすぐ後ろには、アスカと気を失ったアリスがいる。炎を通すわけにはいかない!


「ぐっ、おぉぉl!!」


「きゃぁ!!」


 俺はなんとか耐え切ったが、イヴァンナが降り注ぐ炎塊の衝撃に堪えきれずに弾き飛ばされる。


「イヴァンナ!」


「アルっ! イヴァンナはあたしにまかせて! アルはそっちを!!」


「っ! 頼んだっ!」


 炎と入れ替わるように飛び込んで来たロッシュの【剛脚】(スマッシュ)を円盾で受け止める。


【盾撃】(シールドバッシュ)!」


 ロッシュを盾で殴りつけて弾き飛ばし、再度詠唱に入ろうとしていたフラムに【岩弾】を射出する。


 余裕で躱されてしまったが、詠唱は中断できた。そう何度もあんな大魔法を使われてたまるかって言うんだ。


 それにしても、フラムはあんな奥の手を隠していやがったのか。やはりチェスターの時は手を抜かれていたみたいだ。死んだふりに騙されてくれるような間抜けで助かったな……。


「すごいじゃないか、ダンナ。ずいぶん腕を上げたな。まさかフラムの最強魔法を防いでしまうとはとは思わなかったよ」


 アザゼルがパチパチと手を鳴らして、そう言った。フラムとロッシュはピタリと動きを止める。


 アザゼルの横には灰色ローブが静かに佇んでいる。深々とフードを被っているため容姿はわからないが、体型からするとおそらく女性だ。


「そりゃどうも」


 不死者と化したフラムとロッシュだけでも厄介だというのに……。アザゼルと灰色ローブの女に参戦されたら、その時点で詰みだな。


 だが……アザゼルの今までの行動や言動を考えると、この戦いに加わるつもりは無いのかもしれない。


「エウレカの試練、とか言っていたな。今回はフラムとロッシュを片付けることが課題だとでも言うのか?」


「ははっ。理解が早いじゃないか」


 そう言って、アザゼルはほくそ笑む。


「いったい、お前達は何がしたいんだ。いつもいつも俺達の周りをウロチョロしやがって」


「ああ、今回はちょっとした手助けさ。アリスの封印を解きたいんだろ?」


「なに……?」


「まっ、課題をこなすことができたらな」


 そう言ってアザゼルは透き通った漆黒の石を取り出し、灰色ローブの女に手渡す。あれは……属性魔晶石か? 直径10センチはありそうだ。少なくともAランク以上、あの色合いからすると闇属性の魔物の魔石か……。


「何をするつもりだ……」


 灰色ローブの女は魔石を手に、中央にある魔法陣に向かって歩き出す。このタイミングであんな禍々しい魔石を取り出すのだから、ろくなことには使わないだろう。


 灰色ローブの女を制止したいところだが、間にロッシュとフラムが立ち塞がっていて迂闊には飛び込めない。


「積層型広域魔法陣エウレカは、この都市周辺から常に魔素を吸い上げている。それは知っているな?」


「ああ……」


「この魔法陣はその魔力の一部を利用し、不死者の発生を抑えている。魔法陣エウレカに捧げられ、怨嗟の声を上げながら死んでいった者達の魂を抑え込んでいるのさ」


「捧げ……魂……?」


 語りだしたアザゼルが何を言ってるのかわからない。怨嗟の声? 


「大地に還ることも叶わず、魔法陣に囚われた死者の魂を解放する」


 アザゼルは口の端を吊り上げる。魔法陣の中央で跪いた灰色ローブの女が、祈るように漆黒の魔石を掲げた。


「いったい何をするつもりだ!?」 


 あの女を止めなくてはならない。それだけは直感的に理解する。


 だが俺の後ろにはアスカと、意識を失ったままのアリスがいる。不用意に踏み込むわけにもいかない。


【付与】(エンチャント)


 灰色ローブの女が魔法陣に魔石を押し付けながら、そう呟いた。


 その声に応じるように、灰色の地面のいたる所から闇色の靄が立ち昇る。靄はいくつもの塊となり、次第にそれは人の形を成していく。


「ロッシュとフラムだけじゃあ、物足りないだろ?」


 現れたのは、闇色の靄を纏った夥しい数のスケルトン。骨と同じ灰色の剣や弓を手にした、骸骨戦士達(スケルトンソルジャー)だ。


「さあ。試練を再開しよう。楽しんでくれ、ダンナ」


 アザゼルが胸に手を当てて仰々しく御辞儀をした。




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