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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第275話 狂戦士

 廃屋に入ると縦長の広間があり、正面奥に講壇が設置されていた。やはりここは聖ルクス教会の跡地のようだ。


 広間の板張りの床には所々に足跡が残っていて、今でもそれなりに人が出入りしていることを窺わせる。イヴァンナは慣れた足取りで広間を通り抜け、講壇に向かった。


「アルフレッド、講壇を横にずらして」


 言われた通りに講壇をどけると、その下には蓋が隠されていた。イヴァンナが鍵を取り出して蓋を開けると、人一人が通り抜けられるぐらいの穴と地階へと続く梯子が現れた。


「先に降りて安全を確保なさい」


 俺は頷いて、中空に浮かべていた【照明(ライト)】を穴に放り込み、地階へと降りる。湿った空気と黴臭さに眉を寄せつつ周囲の気配を探り、付近に魔物がいないことを確認して皆を呼ぶ。アスカとイヴァンナがするすると、アリスはおそるおそる梯子を降りてきた。


「道中の魔物は、見敵必殺。頼りにしてるわよ、アルフレッド」


 イヴァンナが口の端を吊り上げて微笑んだ。


「見敵必殺ね……あまり雑魚は相手にしたくないんだが、しょうがないか」


 採取した魔石の大きさからするとスケルトンはFランク、ダークスライムはEランクといったところだろう。スキルの熟練度を上げることはできないし、無駄に魔素(経験値)を得てしまう。


 出来れば無視して進みたいところだが、冒険者ギルドマスターのイヴァンナの目的は不死者の殲滅なのだから、護衛としてここに来ている以上は討伐せざるを得ない。ここで見逃すと街中に出て被害が広がってしまうかもしれないしな……。


「さあ、地下墓所に向かうわよ」


 俺達はイヴァンナの案内に従って地下道を歩いて行く。アーチ状の地下道は、壁も地面も灰色のレンガ造りだ。


 イヴァンナの靴は底に鉄板が打ち付けられているようで、歩くたびにカツーンカツーンと足音が響く。隠密行動を全く考慮していない……というより不死者を誘き寄せるために敢えて履いているのかもしれない。耳が無いスケルトンに聞こえるのかはわからんけど。


「早速か……」


 ジグザグに進む地下道の曲がり角からスケルトンが姿を現した。


 効きが良い火魔法で片付けたいところだが、狭い地下道で使うわけにもいかない。他の属性魔法には耐性があるらしいので、一足飛びに詰め寄って火龍の聖剣で斬り伏せる。


「いえー! ガイシューイッショク!」


 さっきまで怯えて俺にしがみついていたアリスは、地下道に降りてからはアスカに押し付けた。さすがに手を繋いだままじゃ剣は振るえないからな。


「へぇー。やっぱり魔法だけじゃないのね。それ、聖剣?」


「ああ。火龍様から賜った」


「ふぅん。私のも、それなりの魔剣なのだけど……帯びている魔力が段違いね。それ、譲る気は無い?」


「あるわけないだろ」


 イヴァンナが値踏みをするように火龍の聖剣に視線を這わせる。得物を抜こうともしないので俺が戦っているが、イヴァンナは装備からすると剣士の加護持ちのようだ。


 その後、スケルトンを蹴散らしながら、奥へ奥へと進んで行く。地下墓所に近づいているのか、段々とスケルトンとの遭遇頻度が上がってきた。


 地下道をさらに進むと、不意にアーチ型の天井が途切れ、鉄製の重厚な扉が現れる。イヴァンナが鍵を取り出して扉を開けると、その先には鉄格子が嵌められた部屋が連なっていた。


「地下牢?」


「…………」


 答える気は無いようでイヴァンナは沈黙している。歩いて来た距離と方角からすると、おそらくは聖区の地下だろう。となると、ここは白天皇城の牢屋だろうか。


 地下牢にベッドは無く、排泄に使用されたのであろう壺だけが転がっていた。囚人の姿は無いが、酷い臭いが鼻につく。糞尿の臭いに、腐肉のような臭いが混ざったような悪臭だ。


「うぇぇっ……」


 アスカが悲鳴を上げて、鼻をつまむ。


「酷い臭いだな……っと敵襲!」


「ひぎゃあぁぁぁっ!!」


 現れたのはスケルトン……ではなく生ける屍(リビングデッド)。眼球が今にも零れ落ちそうな死体に、臓腑を引きずって歩く死体……なかなかに衝撃的な絵面だ。


「はぁぁっ!!」


 あまり近寄りたくはないが、そうも言ってられない。火魔法で燃やし尽くしたい気持ちをぐっとこらえて、聖剣を振るい首を斬り落とす。


 スケルトンも同じだが、リビングデッドは首を飛ばせば、活動を停止する。俺はアリスの悲鳴を背に、次々と現れるリビングデッドの首を無心で刈っていった。


「ふうっ……もう大丈夫だ。落ち着けアリス」


「ひっ、ひっ、うぷっ」


 半泣きのアリスの背を撫でて落ち着かせる。アスカはそんなアリスを心配そうに横目で見つつ、崩れ落ちたリビングデッドを片っ端からアイテムボックスに収納していった。


「よく平気で触れるな、アスカ」


「んー、WOTで見慣れてるからねー。リアルだとえぐいなーとは思うけど」


 さすがに手袋は着けたようだが、腐った死体に触れて顔をしかめるぐらいでいられるんだから大したもんだ。


 アスカが死体を収納してくれたおかげでアリスも少しは落ち着いたようだ……いやこれ落ち着いたって言うか思考停止状態だな。


「い、今の何よ!? 死体はどこに行ったの!?」


「企業秘密でーす。龍の従者のちょっとした手品だよ」


 アスカは手の平を突き出して何も持っていないのを見せた後に、ニコっと笑って『コカトリスの風切羽』を手の平に出現させた。


 それを見たイヴァンナは盛大に顔を引き攣らせる。アスカから受けた拷問……いや尋問を思い出したのだろう。


「くっ……さ、さっさと行くわよ!」


 アイテムボックスの収納を見て浮かんだ疑問の追及は、一瞬で諦めたようだ。えぐいな……アスカ。


 ずんずんと歩いて行くイヴァンナを追って地下牢を通り抜けると、先ほどと同じような鉄製の扉が現れた。その前でイヴァンナが立ち止まって振り返る。


「さて……ここからが正念場よ。覚悟は良い?」


「扉の奥にウジャウジャといるな……。この先が地下墓所か?」


「…………ええ、そうよ。開けるわよ?」


 危険な場所に踏み込むんだから、アリスはここに置いて行きたいところだけど、手の届くところにいないと守れなくなるしな……。本当に旅館に置いて来ればよかった


「ああ。開けてくれ」


 イヴァンナはこくりと頷くと、小さな宝玉を取り出して扉の中央に押し付けた。宝玉が白い光で瞬いた直後、扉がゴゴゴッと重い音を立てて開いていく。


 扉の先には広大な空間が広がっていた。明かりが無いため奥は見通せないが、ドーム状に広がった円形の空間のようだ。その空間に夥しい数のスケルトン、そしてアンデッドの双眸が放つ鈍い暗赤色の光が、浮かび上がっている。


「ここなら火魔法を使っても大丈夫よ。思いっきり暴れなさい、アルフレッド」


「冗談じゃねえぞ……なんだこの数は」


「愚痴っても数は減らないわ! じゃ、お先に! はぁぁぁっ!!」


 イヴァンナが魔剣を抜き放ち、ドームの中に突っ込んでいく。


「やるしかないか……。食らえっ!【大爆(エクスプロージョン)炎】(・マキシマ)!!」


 渾身の魔力を込めて紅の魔力球を弾きだす。轟音と共に魔力球が爆ぜ、スケルトン達を炎が包む。


 だがスケルトンやリビングデッドたちの歩みは止まらない。倒れた仲間を踏み越えてじわりじわりと迫って来る。


【烈功】(アグレッサー)!【瞬身】! アスカ、アリス! 俺の後ろから離れるなよ……って、アリス?」


 アリスの瞳が光を失い、肩が細かく震えている。一瞬、痙攣しているのかと思ったが、なんだか様子が変だ。


 ああ、そうか……変だと感じるのは、目は死んでいるのに…………笑っているからだ。


「アハッ! アハハッ! アハハハハハハハハハハハ!!!!」


「あ、アリス!?」


 突然のアリスの哄笑に振りむくアスカ。だが、既にそこにはアリスはいない。


「しねええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」


 怒声を上げて、一瞬で最前線に突っ込んだアリスが地龍の戦槌(ラピスハンマー)を叩きつける。


「消えろっ! 消えろぉっ!! 消えろぉぉぉっ!!!!」


 縦横無尽に走り回り、鬼の形相で雄叫びをあげるアリス。金色に輝く戦槌が右に左にと振り回されるたびに、スケルトンやアンデッドが消し飛んでいく。


 あまりの光景に、今度は俺が思考停止状態に陥ってしまった。




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