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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第261話 待ち人

「今日も待ち人来たらずかぁ……」 


「アルセニーさんに手紙を渡してまだ3日だから、届いていないのかもな」


 待ち合わせに指定した街道の近くにある大岩付近に、今日も人の姿は無かった。街道を通り過ぎる旅人や行商人はいても、留まる人はいない。


「ご迷惑をおかけするのです……。アリスのことは後回しでも良いのですよ?」


「気にしないで、アリス。どうせ他にやること無いんだし」


「でも、何日も野営することになってしまって、申し訳ないのです」


「それこそ気にしなくていいよ。アスカのおかげで俺達の野営は快適そのものだしな」


 幌馬車には土人族(ドワーフ)の集落で手に入れた羊毛のベッドが2台あるし、薪ストーブで手の込んだ料理も出来るし、猫脚のバスタブで風呂にだって入れる。特にやる事も無いので手の込んだ料理を作ったり、シーツや衣服を洗濯したり、アリスと戦闘訓練をしたりとのんびりと過ごしていた。周りに気を遣わなくて済むので、むしろ野営の方が居心地がいいかもしれない。


「毎日お湯につかれるなんて、とっても贅沢なのです」


「そだねー。王都でも良くて蒸し風呂だもんね。やっぱお肌のためにはお湯につからないと!」


「アルセニーさんの話だと、エウレカにはお湯につかれる公衆浴場があるって話だったよな。潤沢な水がある街だからこそ……って、あれは……」


「あ、誰か来たね」


 待ち合わせ場所の大岩に、三人の人影が街道から逸れて近づいていくのが見えた。離れた高台から見下ろしているし、ローブを羽織っているので顔貌は見えないが、背格好からすると細身の男女三人組のようだ。ようやくエルサと再会、かな?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ようやく会えたわね、アルフレッド」


「ああ、アンタ達か。何の用だ?」


 三人組は残念ながら待ち人では無かった。イヴァンナとお供の神人族(エルフ)達だ。


「ふふっ、聞いておきたいことがあると言ったでしょう? 今度こそギルドまでついて来てもらうわよ」


「それは断ると言っただろ? ここなら誰に話を聞かれるわけでも無い。聞きたい事があるなら、ここで聞けばいいだろ?」


「いいえ。今度は貴方も断れないわ。ねぇ、なぜ私達がこの場所を知っていたと思う?」


 芝居がかった仕草でイヴァンナがニヤつく。神人族だけに美しい容姿を持つイヴァンナだが、この醜悪な表情を見ると、とてもじゃないが好きにはなれそうにない。


「興味が無いな。話が無いなら帰るぞ?」


「貴方が帰ったら、貴方が手紙を預けたお仲間が酷い目に合うことになるわよ? それでもいいのかしら?」


 なるほど、ね。手紙を託したアルセニーさんを捕らえたということか。コイツらはどうしても俺達の身柄を抑えたいらしいな。


「お仲間ね。誰のことか知らないが好きにすればいい」


「はぁ!? 仲間のアルセニーって男がどうなっても良いって言うの!?」


 返ってきた言葉が予想外だったのか、イヴァンナは驚いた様子で大声を上げた。


「手紙の配達は頼んだが、彼は俺達の仲間じゃない。どうするつもりなのか知らんが、好きにすればいい」


 ここで仲間だと認めてしまうと、彼の身がさらに危険になってしまいそうだ。あくまでも依頼人と請負人という関係であり、人質にはならないと思わせておいた方が良いだろう。


 彼は危険を承知で俺達の依頼を受けたわけだし、それに見合った報酬も渡している。巻き込んでしまって申し訳ないし、心配ではあるのだけど……。


 彼は神人族だから、エウレカではそこまで乱暴な扱いは受けない……と今は信じるしかない。こいつらをあしらってから助け出しに行くから、無事でいてくれよ、アルセニーさん。


「ふ、ふんっ。だからと言って貴方を逃がすわけは無いでしょう」


 イヴァンナがそう言うと、後ろに立っていた神人族の男が口笛で合図を出す。すると、大岩の裏から続々と人影が飛び出して来て俺の周囲を取り囲んだ。


 不潔な恰好をしている者はいないので、盗賊などではなさそうだ。身に着けている装備はバラバラなところを見ると、帝国兵士というわけでもないだろう。


 おそらくはエウレカ支部の冒険者達だ。種族は央人(ヒューム)が大半で、獣人(セリオン)土人(ドワーフ)も混ざっている。


「先日はまんまと逃げられてしまったが、今度は四倍の人数を連れて来ている。一対二十では勝ち目はないぞ。まずは武装を解除してもらおうか?」


 男は蔑むような目で俺を見て嗤う。勝ち目は無い、ね。まあ普通なら、そう思うよな。


「さあて、どうかな!?」


 俺は転移陣の神殿で手に入れたばかりの『ガリシアの手甲』を着けた両拳で、耳を塞ぐ。


 その瞬間、辺り一面を眩い光が包み、世界が割れたかのような轟音が鳴り響いた。


「キャアァッ!」

「うくぁっ!!!」


 アスカのフラッシュ・バンが炸裂し、冒険者達は酩酊しているかのようにふらついた。耳を塞いだ俺でさえ、酷い耳鳴りで頭が痛むぐらいなのだ。不意打ちでこれを聞かされたら、まともに立っていることさえままならなくなるだろう。


「アリス! 殺さないようにな!」


「了解なのです!!」


 大岩の上に隠れていたアリスが飛び降りつつ冒険者の一人に蹴りを食らわせる。俺も手近にいた冒険者の一人を、最小限度に魔力を抑えた【爪撃】(ネイルブロー)で防具の上から殴りつけた。『ガリシアの手甲』の爪で防具は抉られるが、そうたいした怪我は負わないだろう。


「はあっ!」

「【爪撃】!」

「『うたた寝の水薬(ナップポーション)』っと」


 俺とアリスが、次々と冒険者達を殴り倒し、倒れた相手にアスカが眠り薬を使っていく。目と耳を潰されたところに、一撃をもらって悶絶した冒険者は、ダメ押しで薬を嗅がされて昏倒していった。


 いやーずいぶんとあっさり罠にはまってくれたものだ。


 冒険者の中に【暗殺者】がいたようで、【隠密】で気配を隠していたが、俺の【警戒】の目は誤魔化せていなかった。数十人で罠を張っていることなんてお見通しだったのだ。


 集められた冒険者達はおそらくCランクか良くてBランクといったところだろう。真っ正面からぶつかってもなんとかなったかもしれないが、さすがに殺さずに無力化することはは難しい。搦め手を使って一気に無力化することにしたのだ。


 俺はイヴァンナ達の前に一人で姿を現して注意を引き、その隙にアスカ達は大岩の上に登る。俺が耳を塞ぐことを合図にして、アスカがお得意の『フラッシュ・バン』で奇襲。後はぶん殴って、薬で仕上げ。もはや作業だ。


 『識者の片眼鏡(ワイズマンズモノクル)』を身に着けたアスカの【ステータス鑑定】によると、俺よりもレベルが高い奴がちらほらいた。せっかくだから『ガリシアの手甲』で習得した、喧嘩屋の上位加護である【拳闘士】の熟練度稼ぎをさせてもらっている。【爪撃】で敵を殴り続けると、スキル【剛拳】を習得できるそうなのだ。


「そろそろスタンが解けちゃうよー!」


「了解っ! 【影縫】!」


 俺は黒い魔力の刃を放って、イヴァンナを拘束する。


「うくっ……な、なにが起こったの!?」


 ようやくフラッシュ・バンによる前後不覚状態から立ち直ったようで、イヴァンナが金切り声を上げた。ちなみにお供の二人は既にアスカの眠り薬でお寝んねだ。


「あ、これに座らせて」


「おう。【影縫】」


 効果時間が切れないうちに【影縫】を重ね打ちし、身体を硬直させたイヴァンナをアスカが取り出した椅子に座らせる。


「さ、触るな、汚らしい央人(ヒューム)が!!」


「はいはい。大人しくしとけよー、ケガするから」


 椅子に座らせたイヴァンナをロープで縛り上げて、頭から革袋をすっぽりと被せた。


「な、何をする! 無礼者!!」


 大騒ぎするイヴァンナをいったん放置し、眠り薬で昏倒した冒険者達を後ろ手に縛り上げる。続いて手首と足首を縛り上げた冒険者達を、アスカが片っ端から武装解除していく。


 彼等もかわいそうにね。イヴァンナの依頼を受けたばかりに、身ぐるみ剥がされてしまうのだから。俺達にしてみれば敵意を向けられた盗賊みたいなものだから、容赦はしないけど。


「さてと、じゃあ色々と喋ってもらいますか」


 神人族のお供と冒険者達は片付いたので、今度はイヴァンナだ。被せた革袋を取ると、イヴァンナは俺達を見上げて『ひぃっ』と小さく悲鳴を上げた。




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