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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第258話 エウレカ支部ギルドマスター

 やっぱり冒険者ギルドか。まあ、俺達を注視していそうな組織といったら、手紙配達依頼の時に不自然なやり取りになったギルドぐらいだからな……。


「ギルドマスターの名は?」


「イヴァンナだ……」


神人族(エルフ)か?」


「……そうだ」


 面倒だな……。神人族と面倒を起こすなと言われて早々にこれかよ。俺達が何かしたってわけでも無いけどさ。


「目的は?」


「しっ、知らねえ! 俺は数日間、動向を監視しろって言われただけだ!」


「大きな声を出すなよ。ナイフを持つ手が滑りそうだ」


 男の耳元でささやくと、ひっと小さく悲鳴を上げる。再度発動した【威圧】は効果てきめんのようだな。


 【威圧】は『自分よりレベルの低い相手に効果がある』と聞いていたが、正しくは『自分よりステータスが劣る相手に効果がある』なのかもしれない。俺のレベルは21で、冒険者の中じゃ高い方でも無いからな。加護の補正は段違いだけど。


 おっと、思考が逸れた。


「それで? 目的は何だって?」


「だ、だから知らねえって……」


「嘘をつくとためにならないぞ?」


「ほ、ほんとだ! 詳しいことは何も知らないんだ! 俺はただ尾行して報告しろって言われただけで……」


 ふむ……。この怯えっぷりからすると、嘘をついてるようにも思えないな。


不死者(アンデッド)地下墓所(カタコンベ)、どちらかに心当たりは?」


「地下墓所? な、何だって?」


 うん、表情も全く変わらないし、やっぱり何の情報も持っていなさそうだ。


 うーん……どうしたもんかな。ここでコイツを解放すると、依頼をしたギルドマスターにこの事を報告するだろう。面倒ごとになるのは間違いない。


 じゃあコイツを処分する? いやいや、もっと面倒事になるに決まってるか。尾行されただけで、実害があるわけでもない。襲われたというならまだしも、尾行されたから私刑に処すってのはやり過ぎだ。


 衛兵に突き出す? いや、尾行の依頼人はギルドマスターだもんな。それなりに政治権力はあるだろうし、訴え出たところで無駄だよな。


 どっちにしろ神人族のギルドマスターと揉めるのは避けられない。なら成り行きに任せるか。 


「依頼主に伝えろ。聞きたいことがあるなら直接聞きに来いってな。それと、次に尾けまわしてみろ? タダじゃおかないぞ」


「ひっ、は、はいっ!」


「よし、行けっ!」


 俺は【影縫】を解除し、漆黒の短刀(アサシンダガー)を引く。男は、慌てて走り去っていった。


 さてと、飲みなおすか。なんだか警戒されているようだし、賞金首ハントも終わったから、エルサから連絡があるまで、旅館で大人しくしておくかね。今夜はいっそのこと深酒してしまおうかな。料理も旨いし。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ドンドンドンッ!!!


「アルさん! アルさん!」


 翌朝、部屋のドアが乱暴に叩かれる音で、俺は目を覚ました。同時にズキンっと走る頭痛と倦怠感に辟易しつつ、【解毒】(デトックス)を唱える。少しだけ治まった頭痛に眉根をひそめつつ、テーブルの上にある水差しからコップに水を注いで一気にあおる。


 ああー、アリスのペースに付き合うもんじゃないな。やはりお酒は適度に節度をもって、だな……。


「アルさん!」


「あぁー、起きたよ、今。どうぞ」


「あのっ、アルさんを尋ねてイヴァンナって人が……って!!!? ご、ごめんなさいなのです!」


 勢い良くドアを開けて部屋に入って来たアリスが、俺と目を合わせたとたんに顔を真っ赤にして、慌てて後ろを向いた。なんだ? 耳の先まで真っ赤だぞ、アリス。


「んんーー……なにぃ? うるさいなぁ……」


 ベッドに腰かけた俺の背後で、半裸のアスカがむっくりと起き上がる。つるりとした肩とふっくらとした双丘が差し込む朝日に照らされて、俺は朝から劣情を……


 って、ああ真っ赤になって俯いている理由はコレか。よく考えたら俺も上半身裸だった。


「スマンな、アリス。今、服着るから。で、どうしたんだ? こんな朝から」


「あ、イヴァンナっていう神人族の人が訪ねて来てて、なんというか、その、穏やかな雰囲気じゃないのです」


「イヴァンナ……?」


 アリスに言われて、ようやく状況に気付く。ギルドマスター自ら早朝に?


 しかも……【警戒】で確認したところ、旅館の出入口に腕が立ちそうなヤツが何人もいる。おっと、裏口もか。


「……出入口を抑えられてる。アスカ、起きろ。服を着ろ」


 俺はベッドの下に散らばっていたアスカの服を拾って手渡し、自分も急いで服を着る。


「イヴァンナって人はロビーで待っているのです。お供に神人族の男性を二人連れていたのです。二人とも強そうな人だったのです」


「エウレカのギルドマスターだよ。お偉いさん自らお出ましとはね。ったく、朝から忙しいな」


「昨日、尾行してた人のことだよね?」


「そうだろうな。いったい何が連中の気に障ったんだろうな?」


 セントルイスからやって来た善良な冒険者に対して、何だって言うんだ。俺達は、エウレカに来てから、飯食って、酒飲んで、賞金首ハントしただけだぞ? なんで尾行されたり、朝からギルドマスターに突撃訪問されたり、まるで犯罪者みたいに逃走経路をおさえられたりするんだ。


「不死者か地下墓地のどっちか、もしくは両方がNGワードだったんだろうねー」


「たぶんな。まあ、襲って来たわけじゃないし、まずは話を聞いてみるか。もしかしたら何か誤解されているのかもしれないし」


 俺は靴紐をきつく縛りながら、アスカに応える。アスカに目線を送ると【装備】(イクイップ)で、布鎧と革鎧を着けてくれた。盾はアスカに預け、腰に聖剣、背中に短刀を取り付ける。


「アリスは準備はいいか? もしかしたら戦いになるかもしれない」


「大丈夫なのです。いつでも行けるのです」


「よし。じゃあ、行ってみようか」


 俺達は互いに頷きあって部屋を出た。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 階下に向かうと、ロビーで長い金髪の女性が足を組んでソファに座り、その後ろに二人の男性が直立不動の姿勢を取っていた。3人とも先の尖った長い耳が髪の間から突き出ている。こいつらが冒険者ギルドの連中なのだろう。


「あなたがAランク冒険者のアルフレッド? ずいぶん待たせてくれるわね」


 イヴァンナは立ち上がりもせずに、顎をくいっと上げてそう言った。すごいな。座ったままなのに人を見下せるって、器用なものだな。


「約束もしていないのに、待たせたもないだろう」


 俺はそう言ってイヴァンナの真向かいにドサッと腰を下ろす。俺の返答と態度が気に食わないようで、後ろに立つ二人の男がピクリと眉を吊り上げた。


「あなたが傲慢にも私を呼び出したんでしょう! これだから田舎者は嫌いなのよ。礼儀の一つも知らないんだから」


「そう、田舎者だからな。礼には礼を、無礼には無礼を返すことにしているんだ」


 本来なら『無礼には寛容を』と続くところだけど、今回はへりくだるつもりは無い。面倒を起こすなとは忠告してくれたアルセニーさんには悪いけど、『尾行をつけられて不快感と不信感を持ってます』ってちゃんと訴えておかないとね。


「……央人(ヒューム)風情がたいそうな口を叩くんじゃないわよ。エウレカで冒険者として働けなくしてあげましょうか? 私の一存でランクを剥奪することだって出来るのよ?」


 イヴァンナはそう言って、せせら笑う。 


「好きにすればいい。冒険者ランクなんて、あっても大して役に立つものでもない」


 Aランクともなれば冒険者ギルドで様々な便宜を図ってもらえる。性能の良い武具や魔道具などを融通してもらえたり、提携店で割引を受けられたりと、冒険者として活動するにはかなり有益だ。実際にこの旅館も割引利用させてもらっている。 


 それにランクが高ければ高いほど指名依頼を受けることも多くなるため、有力者と様々な縁を結ぶこともできる。そういった縁から、貴族や王族に仕官する機会を得ることもある。冒険者はランクを出来るだけ上げたいと望むのが普通だろう。


 だが、俺達の旅の目的は、成功者になることでもなければ、大金を得ることでもない。ランクが高い方がなにかと便利だから上げていただけで、無ければ無いでさほど困りもしないのだ。


「どうした? 冒険者ギルドなんて、所詮は魔石と素材の買い取り屋だろう? 降格でも除名でも好きなようにすればいいさ」


 呆気にとられた顔をしているイヴァンナ達に俺は言い放った。


 冒険者ギルドは登録冒険者に様々な便宜を図る代わりに、優先的に魔石や素材を買い集める。それらの素材が人々の生活に欠かせない物ばかりだからこそ、その流通の大部分を占めるギルドの発言力は高くなるし、施政者とのかかわりも強くなる。王都クレイトンのギルドはセントルイス王家との結びつきが強いし、レリダのギルドもガリシア氏族と太い繋がりがあった。


 だが、逆に他国や他領のギルド同士の繋がりは、その地の施政者との連携ほどは強固では無い。せいぜい共通の規格や規範があることや、情報の共有があるくらいなものだろう。


 もし、エウレカでランクを剥奪されたとしても、王都クレイトンに行けばヘンリーさんに不当な剥奪への不服申し立ても出来るだろうから、ここでランクを奪われたとしてもさほど気にすることも無い。


「ふんっ、まあいいわ。あなた達に聞いておきたいことがあるの。今からエウレカ支部にいらっしゃい」


 額に青筋を立てながらイヴァンナが言った。後ろの二人も、あからさまに怒気を放って俺を睨んでいる。


「断る。話したいことがあるならここで話してくれ」


 俺の返答に、イヴァンナはさらに顔を引き攣らせた。




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