第257話 賞金首ハント
「【火球】!」
宙に浮かぶ、蔦の生えた仙人掌のような魔物に火魔法を放つ。Cランク魔物である飛び蔦は、蔦を触手の様にうごめかせて飛来する炎を受け止めた。
火球に焼かれ、蔦がボロボロと崩れ落ちる。だが、すぐに新たな蔦が生え出てきた。
「ちっ!」
……蔦は何度でも再生するのか。やはり中心にある茎みたいな部分を片付けないとダメみたいだな。
「蔦に絡まれたら吸血されちゃうから気を付けて! 距離を取って火魔法で攻撃! 体力を削りききって!」
「わかった!!」
鞭のように襲い来る蔦を避けながら、アスカに叫び返す。
「おーりゃぁぁぁーーっ、なのです!!」
ゴォンッ!!
アリスが振るった地龍の戦槌が、岩の塊に衝突する。六本の脚と二本の腕を持つ、蜘蛛のような見た目の岩人形が、弾かれてゴロゴロと地面を転がる。
全長3メートルを超える巨体を戦槌一つで弾き飛ばしちゃうって、とんでもないな。やはりアリスは頼りになる。
「良いよっ、アリス! 岩人形の胴体は魔法も物理も効きにくいから、部位破壊を狙って!」
「了解なのです!」
アスカの声に応え、アリスは岩だらけの大地を疾走する。走り抜けた勢いそのままに振るわれた戦槌は、見事に岩人形の右腕を粉砕した。
「ヒヒィィンッ!!」
続いて、少しだけ伸びた螺旋角に紫電を纏わせたエースが、反対側から岩人形に突っこむ。すれ違いざまに首を振ると、角の先から紫電が伸びて刃を形成する。紫色の雷の刃は、岩人形の左脚の一本を斬り飛ばした。
「すごいぞ、エース! よしっ、こっちも負けてられないな! はあぁぁぁっ!」
火球を発動し、溜め! 宙に浮かべた火球にどんどん魔力を注ぎ込む。
「いくぞっ、【豪火球】!!」
直径1メートルほどの大きさにまで膨れ上がらせた火球を放つ。飛び蔦は炎に包まれ、触手がどんどん焼け落ちていく。
「魔力撃、常時発動! トドメだぁっ!」
焼かれながらも宙に浮かび続け、蔦を再生しようとしていた飛び蔦に一気に詰め寄り、横薙ぎに剣を振るう。炎を纏った火龍の聖剣は飛び蔦の分厚い茎を一刀両断した。
「いよっしゃっ! アリス、今行く……」
救援に向かおうと振り返ると、ちょうどアリスが宙に飛び上がって、全身をぐるんっと回転させ、遠心力をのせた戦槌を振り下ろそうとしているところだった。いつの間にか3本の脚を砕かれていた岩人形に、それを避けることは出来ない。
ゴォンッ!!
手足を捥がれ、岩塊と化した岩人形は、為す術も無く砕け散った。
「お疲れさまー!」
「ふいー、びっくりしたのです」
「エース、良くやってくれた。かっこよかったぞ」
「ブルルッ!」
「それにしても……まさかCランクの魔物を同時に相手することになるとは思わなかったな」
「ほんとにねー」
俺のぼやきにアスカとアリスが苦笑いする。
冒険者ギルドでCランクの賞金首『飛び蔦』と『岩人形』の討伐依頼を受けた俺達は、まず目撃情報のあった飛び蔦を討伐すべく、エウレカから北の荒野を目指した。
そして、対象を探し当てて戦闘を開始した直後、突然近くにあった岩塊が動き出したのだ。
「動き出すまで俺の【警戒】には何の反応も無かったよ」
「岩人形は気配を隠すスキルを使っていたのです?」
「スキルとはまた違うかな。ゴーレムとかミミックみたいな『擬態種』は近づくまでわかんないんだよねー」
擬態種か。迷宮で宝石や鉱石なんかに擬態して、人や魔物が近づいたところに襲い掛かる人形種の魔物がいるって聞いた事があるな。こいつもその一つか。
「今回は大したことない魔物だったから良かったけど、奇襲されるのは怖いな。見分ける方法って無いのか?」
そう聞くとアスカは眉根を寄せた。
「修得した【警戒】で分からないんじゃどうしようもないなぁ。上位加護になったらわかるようになるかもだけど……それは無理だし」
「そうか……。まあ、皆に怪我が無くて良かったよ」
ギルドの情報では、この周辺に出現するのはEかDランクの魔物がほとんどだったはず。賞金首になっていたCランクの『飛び蔦』と『岩人形』は倒したし、さらなる強敵は出現しないと考えて良いだろう。
魔物だけなら、奇襲を受けてもなんとかなる。
「さてと、エウレカに帰ろう。賞金首の依頼は他に無かったから、明日は休みだな。今日は酒場にでもくりだそうか」
「さんせー!」
「わぁっ、嬉しいのです!!」
そう言えばCランクって、オークヴィルで戦ったあの『火喰い狼』と同じランクなんだよなぁ。あれだけ苦戦した賞金首と同ランクの魔物二体を相手に、奇襲されたにもかかわらず無傷の勝利か。頼りになる味方がいるって、本当に心強いな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「かんっぱーい!」
エウレカに戻った俺達は、ギルドで報告を済ませた後に、さっそく酒場に繰り出した。
賞金首の報酬は2体あわせて金貨3枚。アリスがどんなに深酒したとしても、たっぷりお釣りが出るだろう。
ちなみに回収できた素材は5,6センチ大の魔石のみ。岩人形の方は倒したらただの石に戻ってしまったし、飛び蔦の方は燃え尽きて消し炭しか残らなかった。
魔石は討伐報酬並みの金額で買い取りたいと言われたが、いつもの通り断った。地竜の魔石『竜石』を大量に持っているから売り払ってもいいのだが、せっかくだから砕いてエースに食べさせることにした。
今まで規格外品やGランクの小さな魔石を餌に混ぜて食べさせていたのだが、それでもエースは見違えるほど強くなっていた。今ならBランクの地竜を相手にしても、そう簡単には負けないと思う。
Bランクの地竜の魔石は調剤などで使い道があるそうだが、Cランク以下は使う予定は無いそうだ。それなら、いつも旅の足になってくれていて、今日は戦闘でも活躍してくれたエースに食べさせて、活躍に報いないとな。
「ぷはー! エウレカのエールはすっきりしてて美味しいのです!」
「アリス、それはラガーっていうらしいぞ。エールじゃないんだってさ」
「えっ? そうなのです!? 何が違うのです?」
「いや、わからん。さっき店員が言ってたんだ。アスカ、わかるか?」
「エールも飲めないあたしに分かるわけないよ。でも、確かエールの方が歴史が古いって授業で習った気がするよ!」
「へぇ……。ん、このビーフシチュー、旨いな! 細切りにしてあるからかな。肉が柔らかい」
「あ、ほんと。クリーミーでおいしー!」
「店員さん! おかわりなのです!」
「さすが土人族……。飲みっぷりがいいな」
それにしてもエウレカの料理はほんとに美味しいな。肉やチーズなんかを包んで焼いたパンやパスタ生地で具を包んで茹でたのとかが特に気に入った。トマトベースやビーツベースのスープも優しい味わいで、飽きがこない。
エウレカにいる間に、レシピを調べとかないとな。スープの方は、ぜひアスカに作ってもらおう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はぐびぐびと酒を飲み続けるアリスと、ほろ酔いのアスカに一言告げて席を立つ。便所で用を足しつつ【隠密】を発動し、酒場の裏口からそっと抜け出る。建物の周りをぐるっと回って、酒場を覗ける路地裏に足を運んだ。
「動くな」
俺は漆黒の短刀を路地裏に隠れていた男の首筋に押し付けつつ、低い声でそう言った。同時に【影縫い】を撃ち込んでるから、動きたくても動けないだろうけどね。
「っ!!」
男は声を掛けられて、ようやく背後に潜む俺に気付いた。
「な、何のつもりだ! 衛兵を呼ぶぞ!」
男が目深にかぶっていたフードをめくって顔を覗いてみるが、見覚えは無い。
「ああ、誤魔化そうとしても無駄だよ。今日、ずっと俺達を尾けてただろ? お前を撒いてしまわないように、敢えてゆっくりエースを走らせたんだぞ?」
石人形の気配には気づけなかったが、こいつの気配には気付いていた。早朝からずっと俺達を尾けていたが、多少の起伏と岩塊ぐらいしか隠れるところが無い荒野について来るってどういうことだよ。見つけてくれって言ってるようなものじゃないか。もしかしたら【潜入】か【隠密】で気配を隠していたつもりかもしれないけど、下手過ぎなんだよなぁ。
「な、何を言ってるんだ? 俺はここで休んでただけだ!」
「押し問答をするつもりは無い。誰の命令か答えろ。答えなければ、5秒後にナイフがお前の首に吸い込まれる」
俺は【威圧】を発動しながら、男を脅す。
「ごぉ、よん、さん……」
相当に恐怖を感じたのだろう。男の股座がじわっと湿る。うん、威圧、便利だな。
「ギルドッ! 冒険者ギルドのマスターだ! ゆ、許してくれ! 俺は依頼を受けただけだ! ただの冒険者なんだっ!」
男が答えた犯人は、予想通りだった。
エウレカ料理はロシア料理を参考にしてます
肉やチーズなんかを包んで焼いたパン→ピロシキ
パスタ生地で具を包んで茹でたの→グルジア水餃子
トマトベースやビーツベースのスープ→ボルシチ
ビーフシチュー→ビーフストロガノフ
人名が由来の料理名ってどう表現するか迷いますね
サンドイッチ伯爵とかストロガノフ伯爵とかいないし
エール酵母とラガー酵母が異世界に存在するのか?
そもそもパン酵母は自然酵母?イーストは?
とか言い出したらキリが無いので
ざっくりですが勘弁してください(言い訳




