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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第255話 情報収集

「……まずは今日の宿を探しましょう。宿を取ったら冒険者ギルドにお付き合いいただけますか?」


「え、あ、はい」


 気になることを言っておきながら、アルセニーさんは唐突に話をぶった切ってしまった。まあ、遅めの昼食も食べ終わったし、ギルドに行くのも予定通りだからいいんだけど……。


「なにそれー。急に話を止めないでよー。話しとかなきゃいけないことって何?」


「後できちんとお話ししますよ、アスカさん。私も30年ぶりなので、今のエウレカを見てから、お話ししたいんです。変わっていれば、良いのですが……」


 アスカの不平にアルセニーさんは苦笑いして椅子から立ち上がり、食べ終わった食器を屋台に返しに行ってくれた。


「……アスカ、何の話かわかるか?」


「んー、なんだろうね? WOTでは賞金首討伐(ブラックリストハント)とお使いクエストはあったけど、メインクエストの不死の神人(アンデッドエルフ)討伐以外はこれといってイベントは無かったと思うけど……」


「そっか。まあ、今までみたいに違うことが起こる可能性も高いしな。後で話すって言ってるし、今はいいか」


「アンデッド……」


「気になるけどねー」


 顔を青褪めさせるアリスをよそに、のほほんと答えるアスカ。うーん、アリスは不死者の類いはやっぱり苦手みたいだ。この街では戦力にならないかもしれないな……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺達はエウレカの中心部へと向かい高位冒険者御用達の旅館に部屋を取った。アルセニーさんお勧めの旅館で、数百年の歴史があるらしい。さすが長命種の神人族が治める都市だけあって、経年の単位が長い。


 広めの馬房には寝藁の代わりに砂が敷き詰められていた。たぶん、アストゥリアでは麦藁や木屑が手に入りにくいんだろうな。


 エースは興味津々な様子で膝を曲げて寝転がっていた。粒が細かい砂でふわふわとした手触りだったので寝心地が良いのだろう。砂まみれになっていたので洗い流すのが面倒だが、楽しそうなので良しとしよう。


 アルセニーさんも当面は宿に泊まるということだったので、それぞれに個室を取る。遠慮されたが、今日は案内依頼中なので宿代は俺達で持たせてもらった。


 ガリシアで手に入れた大量の地竜素材を王都で売却して、俺達はとんでもなく金持ちになっているから、そのくらいは全く問題無い。とりあえず1週間分を前払いしておいた。


「こちらが冒険者ギルド、エウレカ支部です」


 石やレンガで組積みされた冒険者ギルド庁舎の壁には龍や英雄のレリーフが彫られていて、正面には五本の高い尖塔が立っている。セントルイス王都の大聖堂や王城によく似た建築様式の建物だ。セントルイスは朱色、アストゥリアは白一色という違いはあるけど。


 ギルドに入ると、テーブルに腰かけていた冒険者達から無遠慮な目線を向けられる。こういった反応は、世界中どこでも変わらないようだ。かと言って絡んでくるヤツはいなかったので、ちょうど手が空いていた獣人族の受付嬢のところへと足を運ぶ。


 やはりギルドの受付は妙齢の綺麗な女性が多い気がするな。ふとガリシアのパウラが脳裏に浮かんだが、思い出さなかったことにする。


「絡んでこないね。テンプレは無しかー」


 アスカが不満そうに言った。いやいや、ギルドに足を運ぶたびに面倒ごとに絡まれてたまるかっていうんだ。


「願わくば王都支部みたいな、ふざけた受付がいないことを祈るよ」


「あ、フラグですか?」


 アスカ、うるさい。


「護衛依頼の完了報告です」


「依頼者のサインは……はい、依頼完了ですね。お疲れさまでした」


 アルセニーさんの報告ついでに、俺達は新たな依頼をする。


「それと、この手紙を配達して欲しい」


「はいはい。宛先は……エ、エルサ・アストゥリア様!? 依頼を出すのは構いませんが、ご本人の手元には届かないと思いますよ? 神族様(ハイエルフ)が一介の冒険者、しかも央人の手紙を受け取るとは思えません」


 きちんと封蝋をした手紙を渡すと、受付の女性は宛先を見て顔を顰めた。エルサは選帝侯家の人だって話だからなぁ。


 なんだか、王家だとか氏族だとか、立場のある人とずいぶんと縁があるよな。こういう時は面倒でしか無いけど……。


「ええと……本人から冒険者コードを聞いているんだが、これでも難しいか?」


「個人コードを? 失礼しました。それなら大丈夫でしょう。承ります」


 ふむ。神族としてではなく冒険者の立場としてなら、手紙も届けてもらえるのか。


 ほんと面倒だな、特権階級ってやつは。まぁ俺が言えたことじゃないけど。


 俺は既定の料金を支払い、依頼の手続きを済ませる。宿の名前を書いておいたので、エルサがエウレカにいれば連絡をくれるだろう。


「しばらくエウレカに留まるつもりなんだけど、この辺りのことを教えてもらえないか?」


「はい。ええと、まず魔物についてですが……」


 ギルド受付嬢曰く、エウレカ周辺はさほど魔物は現れないらしい。都市エウレカに多量の水を供給する巨大な魔法陣が周囲の魔素を取り込むため、魔物には生息しづらい環境になっているらしい。


 とは言っても10キロほど離れれば魔物も出現するようになる。よく現れるのは、ストーンリザード・サンドスネーク・デザートウルフ・マッドスコーピオンなどで、珍しいところでは岩人形(ロックゴーレム)飛び蔦(フライングプラント)なんてのも出るそうだ。


 周辺はほとんど荒野で、南と北に数十キロも行けば町があるそうだが、特に用事も無いので行くことは無さそうだ。東には海岸があり、西には『死の谷』と呼ばれる広大な砂漠が広がっている。


 死の谷は灰白色の砂砂漠(すなさばく)がただただ延々と続いているそうだ。砂に埋まった遺跡や洞窟が見つかることもあるそうだが、昼は酷暑で夜は底冷えという過酷な環境で、さらに魔物も凶悪になってくるそうなので出来れば近寄りたくないな。


 岩人形や飛び蔦とかいうCランクの賞金首はこの辺りに出現するそうだ。なおさら行きたくないな。


「ところで不死者(アンデッド)についての情報は無いか? 地下墓所(カタコンベ)で発生すると小耳にはさんだのだが」


 最後に不死者について尋ねてみる。ガリシアのように集団暴走(スタンピード)が起こるというなら、その兆候が見られているかもしれない。既に起こっていると言う可能性もあるけど……。


「……そんな噂、どこで聞いたのですか?」


 軽い気持ちで聞いたのだが、妙に強張った声で受付嬢に聞き返された。表情がすっと抜け落ち、警戒するような目つきになっている。


「俺達はセントルイス王国の王都クレイトンから来たんだ。たぶんギルド支部で噂を聞いたんだと思うな」


 本当に息を吐くように嘘がつけるようになったな俺は。王都で聞いたってのは本当だけど。詐欺師は真実を少しだけ混ぜて騙すと言うが、もしかしたら才能があるのかもな。そんな才能要らないけど。


「……そうですか。ご安心ください。それは根も葉もない噂ですね。エウレカで不死者が現れたことはありません。この先も現れることはありません」


 受付嬢は無表情のままに淡々とそう言った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「お帰りなさい、アルフレッド様。夕飯のご用意は出来ていますよ」


「ありがとう。着替えてからまた来るよ。少し遅くなっても大丈夫かい?」


「ええ、お酒を嗜まれる方もいらっしゃいますから、大丈夫ですよ。ごゆっくりお越しください」


 旅館『砂上楼』に戻ると央人の主人がにこやかに挨拶してくれた。俺達は部屋で旅装を解いてから食堂に集まることにした。


 今日は荒野を駆けて来たから身体中が砂まみれだ。食事をとる前に、体を拭いておきたい。


 残念ながら、この旅館には浴室は無いそうだ。部屋にお湯を運んできてもらうことは出来るが、俺達は自前で用意できるので断った。部屋に置いてある家具をアイテムボックスに収納してバスタブを出せば入浴も楽しめるだろうけど、今日のところはタライにお湯を出して体を拭く程度で良いだろう。


 それぞれの部屋にお湯を配った後に体を拭き、普段着に着替えて食堂に向かう。来ていたのはアルセニーさんだけだったが、ほどなくアスカ達も集合した。


「では、無事の到着を祝ってかんぱーい!」


「乾杯!」


 旅館自家製だと言う黒いエールで乾杯し、お預けを食らっていたアルセニーさんの話を聞くことにした。


「アルセニーさん、話ってここで聞いてもいい内容なんですか?」


 そう聞くとアルセニーさんは苦笑いを浮かべた。


「ええ。別に秘密の話ってわけじゃ無いんです。エウレカに住む人なら、誰でも知っていることですから」


「誰でも知ってる?」


 アスカがアルセニーさんに話を促す。


「はい。アスカさん、エウレカに来て不思議に思いませんでしたか? 神人族が統治する国家に来たと言うのに、未だ一人も神人族とすれ違ってさえいないことに」


 アルセニーさんは、悲しそうに眉をひそめ、話し始めた。

 



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