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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第254話 巨大な魔道具

「美しい都市だな……」


 白一色の石造りの建物が、大通りの左右両側に延々と連なっている。街並みは碁盤目状に区画整理されていて、区画ごとに建物の高さが定められているようだ。外縁部は無個性な箱のような建物ばかりだが、中心部に近づくほどに高層化し尖塔や彫刻で装飾されている。


神族(ハイエルフ)様方は整合と調和を重んじますから」


「神族様?」


「古くから神人族を統治する選帝侯家の方々のことです。セントルイス王国で言う貴族と同じですね。エウレカの第一区画に住む、我々冒険者からすれば雲の上の存在ですよ」


「ふーん。その神族ってのがキレイ好きなんだ?」


 アスカが周囲の街並みを見回しながら、アルセニーさんに尋ねる。


「ええ。神族様の定めた法により、このエウレカでは全ての構造物が左右対称になってるんですよ。区画も、建物も、水路も、緑地の樹木の配置でさえもね」


 アルセニーさんによると、今俺達が歩いている道は『天龍大路』と言い、エウレカのちょうど中心を南北に通っている目抜き通りだ。東西には『天龍大条』という大通りがあり、こちらもエウレカの中心を通っている。その二つの大通りを中心に碁盤目状に街路が通っているため、地理が非常に分かりやすい。


 そして驚いたことに全ての街路には石畳が敷かれている。王都でさえ石畳が敷かれていたのは、中心街と貴族だけで、平民街は土の地面だったというのに。


「あの、この水路の水はどこから来て、どこに抜けているんですか?」


 俺はアルセニーさんに気になっていたことを聞いてみる。


 天龍大路の真ん中には綺麗な水が流れる水路がある。人が多く集まる場所には水が必要不可欠なのだから、水路があるのは至極当然なのだが、気になるのはその水がどこから来ているかだ。


 転移陣から都に来るまで白い荒野が延々と続き、水場と言えるような場所はどこにもなかった。たくさんの人が集まる都市は、大きな河川に沿って作られるのが普通なのだが、それが見当たらなかったのだ。


「ふふっ。気になりますよね。その秘密の答えは、あそこです」


 そう言ってアルセニーさんが指し示したのは、遠くに見える純白の城。丘から都を一望した時に見えた、エウレカの中央にそびえ立つ『白天皇城(ホワイトパレス)』だ。 


「あの城が? 城で地下水脈でも汲み上げているんですか?」


「いえ、あの城でエウレカ全体を潤す水を創っているんですよ」


「水を……創っている?」


「はい。この碁盤目状に整備された通りも水路も、魔法都市エウレカという巨大な魔道具の一部なのですよ」


 アルセニーさん曰く、魔法都市エウレカの全ての街路や水路で巨大な魔法陣を描き、海岸から吹き込む冷たく湿った空気を城に取り込んで、水を精製しているのだそうだ。大地や空気中に漂う魔素を吸い上げて白天皇城に集積し、練り上げた魔力でエウレカ全体を潤すほどの【静水】魔法を発動する……という仕組みらしい。


「とんでもないですね……」


「これだけ大規模な魔法陣は、この世界のどこを探しても他には無いでしょう。神人族の守護龍である天龍サンクタス様が、神族様の祖先に授けたと言われています。選帝侯家の中でも皇帝に選ばれた方にのみ伝えられる秘中の秘なのだそうです」


「魔法陣……」


 アスカがポツリと呟いた。


魔道具(マジックアイテム)に、魔法陣か。これは……期待できそうだな」


 俺の言葉に、アスカとアリスが肯く。


 神人族には、人や物に魔法を宿らせるスキルを持つ【付与師】(エンチャンター)という種族限定の加護を持つ者がいる。アスカが身に着けている、身体能力を向上させる『お守り(アクセサリー)』なんかも、そのスキルで作られたものだ。


 そして、アストゥリア帝国が世界中に輸出している『魔道具』も、付与師が製作したものだ。俺が使っている薪ストーブなんかもその魔道具の一つで、燃やした薪の火力を摘み一つで調整することが出来る優れものだ。生活魔法を習得することが出来る『スクロール』なんかも、付与師が製作したものだという。


 その『魔道具』と『スクロール』には共通点がある。『古代エルフ文字』を用いて魔法陣が描かれている事だ。アリスの右肩に刻まれた『地龍の紋』の紛い物と同じく。


 都市全体の街路や水路を利用して巨大な魔法陣を描くような技術が神人族にあるなら、『地龍の紋』の紛い物を消すか効果を失わせることも出来るに違いない。業腹だが、魔王アザゼルの助言に従ってエウレカに足を運んだことは、間違いではなかったようだ。


「どうかしましたか?」


「いや、なんでもないです。それより遅くなってしまいましたが昼食でもとりませんか? ギルドに報告に行く前に腹ごしらえでもしましょう。ご馳走しますよ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺達はアルセニーさんに案内されて、近くの緑地に向かった。水路から潤沢な水が流れ込んでいるようで、緑地は豊かな緑に彩られている。緑地は市民の憩いの場になっているようで、屋台料理を楽しむ者や卓上遊戯に興じる者で賑わっている。


「お待たせしました。これぞアストゥリア屋台料理ってのを選んできましたよ」


「わぁっ、美味しそう!」


「これは、パンを揚げてるのです?」


「ん……この真っ赤なスープ、トマトじゃないのか?」


 アルセニーさんが両手に抱えるようにして持ってきてくれたのは、こんがりと焼き色のついたパンと真っ赤なスープ、そして魚と肉、野菜の串焼きだ。


「これはパン生地で具材を包んで焼いた家庭料理です。魚に肉、卵なんかが包まれてますよ。中身は食べてみてのお楽しみということで。こっちのスープは、ビーツっていう赤い野菜のスープですね」


「美味しい! あー、これピロシキだ! 食べたことある!!」


「ん、このスープ、見た目の割にさっぱりしてて美味しいな。上にのってるチーズ、酸味がきいててうまい。アスカ、これも食ってみろよ」


「あ、卵とチーズが入ってたのです! 当たりなのです!」


「ふふふっ。うーん、やはり数十年ぶりの故郷の料理はいいですね。皆さんも、気に入ってくれたようで何よりです」


 干し肉をかじる程度で、ほとんど食事をすることなくエウレカまでやって来ただけあって、皆がすごい勢いでテーブルに並べた食事を平らげていく。アルセニーさんも懐かしさに、うっすらと涙を浮かべながらバクバクと食べていた。


「ふー、満足満足!」


「お腹いっぱいなのです!」


「うん、旨かったな。ガリシアでは食事を楽しめなかったけど、アストゥリアは旨いものがたくさんありそうだな」


 ガリシアは食糧不足だったからしょうがないけど、やはり食事は旅の楽しみの一つだからな。懐も温かいことだし、食事は妥協せずにいただくことにしよう。


「そう言えば、アルフレッドさん達は、これからどうなさるんです? どこか行くところがあるのでしたら、私がご案内しましょうか?」


 食後に、アストゥリアでは盛んに飲まれていると言う、真っ黒なホットエールを飲んでいたら、アルセニーさんがそう申し出てくれた。


「ああ、キャロル・アストゥリアという人物を訪ねるつもりなんです。決闘士の『舞姫』エルサを頼ろうと思っているのですが、どこに向かえば良いですかね?」


 今日はもう夕方近いから、訪ねるなら明日だな。今日のところはギルドに立ち寄って、宿を探さないと。明日も案内してくれるなら、アルセニーさんも一緒に泊まってもらおうかな? 


 って、あれ? アルセニーさんの表情が優れないけど……。


「…………選帝侯家の方ですか。神族様をお訪ねになるのでしたら、お話ししておかなければならないことがあります」


 そう言って、アルセニーさんは表情を歪めた。




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