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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第250話 助言

 魔物が寄りつけない転移陣の聖域ではあったが、警戒は怠っていなかった。暗い玄室から外に出たことで目が眩み、一瞬だけ目を瞑ったその時まで、ここには誰もいなかったはずだ。


 俺はアザゼルを睨みつけながら慎重に火龍の聖剣を引き抜き、円盾を構えて腰を落とす。アリスもそれを見て地龍の戦槌を腰だめに構えた。


「魔王アザゼル……!」


 俺の言葉にアリスが息を飲む。魔王、すなわち『魔人族の王』と言うその言葉に、表情を引き攣らせた。


「ダンナ、よくもオイラの大事な仲間を殺してくれたな。敵討ちをさせてもらおうか」


 薄笑みを浮かべてそう言った直後、アザゼルの魔力が膨れ上がる。強烈な魔力の奔流と共に濃密な殺気を放たれ、背筋が凍りつき、指先が震える。


 アザゼルには闘技場で対峙した時に、明らかな戦力差を見せつけられた。だが、俺もあれからの旅路でレベルを積み上げ、多くの戦闘経験を得た。加護の補正により倍増した身体能力で、魔人ロッシュをも圧倒することができた。今なら少しは戦える、そう思っていた。


 だが、これは、無理だ……。心の底から湧き上がる恐怖。ロッシュとは比べ物にならないほどの圧迫感……。俺とアリスで全力で戦っても、数分も持ちはしないだろう。


 アスカとアリスだけでも逃がすしかない……。


 幸いにもここは転移陣だ。地中より隆起した神殿を駆けのぼれば魔法陣がある。王都にでも転移してエースに乗って逃げれば、アザゼルも簡単には追いつけないだろう。


 俺が全力で突っこんで、数十秒だけでも時間を稼ぐ。その間にアスカ達には転移石を使って逃げてもらう。俺は無事じゃ済まないだろうが……アスカが死ぬよりはいい。


 アザゼルに突貫しようと剣の柄を握る手に力を込めたその時、アザゼルは両手を上げ、手の平を俺達に向けた。


「ふふっ、冗談だ。そう、怖い目で睨むなよ。ここで争うつもりは無いよ」


 アザゼルがニヤニヤと笑って、嵐のような魔力の奔流と殺気をおさめる。強烈な圧迫感が消失し、その存在感すら希薄になった。


「ふーん。首尾よく守護龍からの祝福を受けたようだね。アリス・ガリシア」


「っ!!」


 アザゼルはアリスに語りかける。 


「金色に輝く戦槌か……土人族の勇者ヴァルターを彷彿とさせるね」


 俺は緊張で身体を強張らせているアリスの前に立ち、アザゼルに問いかける。


「アザゼル……敵討ちじゃないなら何の用だ? 世間話でもしに来たのか?」


 こいつらの目的が、全くわからない。闘技場では、俺やヘンリーさん達を易々と拘束し、生殺与奪を手にしながら『挨拶をし来ただけ』と言って姿を消した。


 ロッシュも俺達を逃がした理由を明かさなかった。今も、争うつもりは無いなどと言い、敵意をおさめてしまった。


 いったいこいつらは何がやりたいんだ? 俺達を挑発したいだけなのか?


「そう警戒するなって、ダンナ。一つ助言をしに来ただけさ」


「助言?」


「アリス・ガリシアの根源を縛る呪いについての助言だよ」


「根源を縛る呪い……? 封印(シール)の呪いのことか!?」


「ああ、そうだ。聞きたいだろ?」


 そう言ってアザゼルはニヤリと笑う。


「ふざけるなっ! フリーデに魔法陣を渡したのはお前だろうが!」


「……えっ!?」


 俺の背後でアリスが驚きの声を上げる。


「ははっ。バレていたか」


「いったい何のつもりだ……。なぜ『地龍の紋』の紛い物をフリーデに渡した!?」


「おいおい、そう喚くなよ。オイラは魔法陣を渡しただけだぜ? アレを使ったのはオイラじゃない。アリスの叔母だろう?」


「お前がそう仕向けたんだろうが!」


「ふふん。『魔法陣』は、ただ在るだけでは何も成さない。使うのは嫉妬や強欲にまみれた『人』さ」


 アザゼルはそう言って、嘲るように笑った。


「貴様っ!」


「アルッ! ちょっと待って!」


 アスカが俺の腕を掴んで叫ぶ。


「ア、アザゼル、助言ってなに?」


 震える声でそう言ったアスカに、アザゼルが微笑む。


「アスカ、だったね? 君の方が話が分かりそうじゃないか」


「……アリスの呪いを解く、ほ、方法があるんでしょ?」


「ご名答! それを伝えに、わざわざここに来たんだよ。その呪い、解きたいだろ?」


「呪いを……解く?」


 アリスのスキルにかけられた封印の呪いが解けるのか!? だが、なぜその方法をアザゼルが?


「まず、そのタトゥーは安易に消さないことだ。魔法陣は既にアリス・ガリシアの根源と深く結びついている。肌を焼いて消す、なーんてことをしたら呪いは解けなくなるよ」


「…………」


 アスカは続きを促すように、浅く頷いた。背後から、アリスが困惑している気配が伝わって来る。


「神人族の都、魔法都市エウレカでキャロル・アストゥリアを訪ねるといい」


「アストゥリア? 皇族か?」


 アストゥリア帝国の国名を姓に持つ人名に驚き尋ねると、アザゼルはそっと片手を頭上にかざした。前腕につけた金色の腕輪が強い輝きを放ち始める。


「ふっ、確かに伝えたぜ? ダンナ、アスカ、アリス」


「ま、待てっ!!」


「また会おう」


 アザゼルがニヤリと笑い、光が身体を包んで強く瞬く。その直後、アザゼルは忽然と掻き消えた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後、俺達は転移陣でガリシアからカーティスの森へと転移し、そのまま王都に直行した。巨大な緋色の城壁やどこまでも続く石造りの建物を見て目を白黒させていたアリスを引っ張り、寄り道せずに懐かしの『楡の木亭』へと辿り着く。


 幸いにも王都ではそれなりに顔を知られていたし、長期間の滞在をしていたので宿の店主は顔を覚えてくれていた。おかげで、本来は大商会や貴族専用の宿なのだが、快く部屋を用意してくれた。


 部屋に入り旅装を解いたところで、部屋まで運ぶようお願いしていた昼食が届いたので、食事をしながら改めて自己紹介をする。今後一緒に旅をするということもあり、俺達の素性や旅の目的など全てを、アリスに話すことにしたのだ。


 出自と加護の特殊さから、アスカの素性は出来る限り秘匿してきた。だがアリスは俺達と同じ『龍の従者』で、人柄も十分に信用できる相手だ。アスカも同意したので、俺は包み隠さずアリスに俺達の秘密を打ち明けた。


 元々、アスカが『アイテムボックス』や『魔物解体』などの特殊なスキルを持っていることや、俺が6種もの加護を持っていることは話してはあった。だが、それは『龍の従者』としての特別な力だと誤認させるように話をしていた。


 アスカが別の世界からやって来た言わば異世界人であること。この世界とよく似た物語(ゲーム)を知っていること。この世界で起こったことや、これから起こるであろうことを予見できること。『JK』という唯一無二の特殊な加護を持っていること。特殊スキルである、ジョブ・ステータス・アイテムボックス・魔物解体・植物採集・調剤・武具解体……。


 全てを話し終えると、アリスは大きく首を振って深いため息をついた。


「加護を与える加護……とても、信じられないのです……。でも実際に見せられると、疑いようがないのです」


 話をする中でアスカが浮かび上がらせていた透明な石板(メニューウィンドウ)を、アリスは不意に見ることができるようになった。


 初めて会ったランメル鉱山でも、レリダでも、地龍の洞窟でも、アスカはメニューウィンドウを出していたが、誰一人としてそれが見える人はいなかった。それが、急に見えるようになったのだ。


 おそらくは、アスカの素性を知ることか、正式なパーティメンバーになること、そのどちらかかあるいは両方が、きっかけになったのだろう。


「これから、よろしくね、アリス!」


「はいなのです! こちらこそよろしくお願いするのです!」

 

「とりあえず次の目的地は、神人族の国家、アストゥリア帝国だな」


 アスカが元の世界に帰るための旅。そして神龍ルクスを救う旅に、初めての仲間(パーティメンバー)が加わった。




250話記念メモ

ブクマ1319

ご評価2006

総合P4644

総PV1294133

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