第241話 ゼノ
「くそっ! 自殺なら一人でやりやがれ!」
「自殺? そんなつもりは無いさ」
【挑発】は敵意や殺意を乗せた魔力を敵に浴びせ、敵の注意を自分に集めるスキルだ。人への効果は低いが、魔物などの知性の低い生き物の敵愾心を煽ることが出来る。
今回は敵意と魔力を目いっぱい込めて全方位に魔力の波動をばら撒き、10体にも及ぶ地竜を釣った。今、その10体の注意……というか敵意は俺一人に向けられている。
確かに地竜10体を相手に挑発をぶつけるなんて自殺行為以外の何物でもない。俺がただの【剣闘士】ならば、の話だが。
「【隠密】」
俺は10体の地竜が傭兵団の近くまで迫ったところを見計らって【隠密】を発動する。隠密は潜入の上位スキルで、俺自身と周囲にいる仲間を魔力の膜で覆って気配を隠すことが出来る。地竜からしてみれば、自分達に敵意を向けた人族の気配が忽然と掻き消えたかのよう感じられただろう。
「暗殺者のスキルか!! 『龍の従者』っっ! 反則だろ、てめえ!」
俺達を取り囲んだ傭兵団は、自らが頭上に浮かべた【照明】の光に照らされている。暗闇に包まれた地竜の洞窟の中で、彼らの周りだけが昼間の様に明るいのだ。逆に、照明から離れた場所にいる俺達の周りは薄暗い。
地竜も夜目は効くだろうから、俺達のことも見えてはいるだろう。だが、自分達に敵意を向けていた人族の気配が掻き消え、周囲には明かりを灯す人族の小集団がある。必然的に、地竜は傭兵団に襲い掛かるってわけだ。
「それは完全に同意するよ。ところで、お仲間が地竜に襲われてるぞ? 助けに行かなくていいのか?」
傭兵達の慌てた声や怒号、地竜の咆哮が洞窟に響く。俺達に向けていた鏃や短杖を背後に現れた地竜に向け、魔法や矢を放ちはじめたようだ。
「はんっ! 奇襲を受けて混乱はしてるだろうが、腐っても荒野の旅団の精鋭100人だぞ? 地竜の10体ぐらいならなんとかなる。それまでお前たちの相手は俺がやってやらぁ!」
ふむ……確かにな。レリダ奪還作戦の時も、荒野の旅団は問題無く地竜を相手取っていた。ここにいるのが、その中でも選りすぐりの精鋭だとすれば、10体ぐらいなら片付けてしまいそうだ。
「ビッグス?」
「いやいや、お前さんもなかなかの策士だねえ。じゃー行くぜー。【魔物寄せ】!」
「なぁっ!」
ビッグスが俺の意図を察して、【狩人】のスキル【魔物寄せ】を発動する。このスキルは、その名の通り周囲にいる魔物を誘き寄せるスキルだ。【狩人】の上位加護である【弓術士】を持つビッグスにも当然使える。
弓使いの加護には詳しくないが、【魔物寄せ】は魔物を引き寄せる魔力を周囲に漂わせるスキルだったはず。【挑発】は魔物の注意を自分に引きつけるスキルだが、【魔物寄せ】はスキルを発動した『場所』に魔物を引き寄せる。
さっきは魔力を極限までつぎ込んだ【挑発】で地竜を無理やり引き付けたが、このスキルならより広範囲の地竜を呼び寄せ続けることが出来る。つまり、地竜10体をなんとか片付けたとしても、お替りは続々と集まってくるというわけだ。
「てめえら……」
「おっと、お客さんだぞ? 俺達だけにかまってていいのか?」
傭兵団の包囲網を抜け出した地竜が、俺達に狙いを定めたようだ。
「くそっ……【金剛】! 【戦場の咆哮】!」
ゼノが聞き覚えの無いスキルを発動する。そう言えば前も知らないスキルを使っていたな。って、俺も強化しとかないと。
「【不撓】!【瞬身】! エドマンドさん、地竜を頼みます!」
「任された!」
エドマンドさんがいれば地竜相手に後れを取ることはまず無いだろう。俺は……コイツの相手だな。
「来いっ!!」
「おっらぁっ!!」
ゼノが横薙ぎに振るった大剣を、【鉄壁】を常時発動した火喰いの円盾で受け止める。闘技場でルトガーに教えてもらった、というか盗んだスキルの使い方だが、やはり対人戦ではこっちの方が扱いやすいな。
「ふんっ!」
ゼノは凄まじい速さで大剣を繰り出して来る。その剣の速さと重さは、あのルトガーすら凌駕しているように思える。
「はぁっ!」
さっきのスキルはやはり身体強化のスキルなのだろう。この剣撃の鋭さと重さ……おそらく膂力と敏捷性の強化か?
上下左右から次々と襲い掛かる大剣を、盾で受け止め、いなし続けていると、不意に剣撃の重さが軽くなった。強化スキルが切れた隙を逃がさず、鉄壁の魔力が乗った【盾撃】を放つ。
盾の殴打を大剣で受け止めたゼノだったが、衝撃を抑えきれずに後方に弾け飛ぶ……いや、自分から飛んで衝撃を逃がしたのか。
さすが、超一流の傭兵団の団長だけあるな。個人能力もかなり高い。
「そのスキル、ウォークライって言ったか? 聞いたことが無いが、獣人族の固有加護なのか?」
「はぁっ、はぁっ、随分と、余裕じゃねえか」
ちょうど身体強化スキルが切れたので、ゼノに話しかけつつ、今度は【烈攻】と【瞬身】を掛けなおす。わざわざ【不撓】をかけなくても、ゼノの剣は【鉄壁】で捌けそうだ。隙があれば、【不撓】もかけ直すけど。
その間に、ゼノの方も身体強化をかけ直したみたいだ。さて、仕切り直しだ。
「じゃあ、今度はこっちから行くぞ」
フェイントを入れつつ、斬り下ろし、斬り上げ、左右からの横薙ぎと、連続して剣を振るう。だが、ゼノは大剣を盾に連撃を受け止めてみせた。
ふむ……なら、追加だ。【魔力撃】を常時発動。火龍の聖剣が炎を纏う。
さすがのゼノも重さを増した剣撃には耐え切れないのか、打ち込むたびに左右に大きく体勢を崩すようになる。それでも何とか聖剣を受け止めているが、纏う炎までは防げない。剣を受ける度に火の粉が舞い、炎はびっしりと生えたゼノの体毛を焦がしていった。
「はあっ!!」
右から横薙ぎに振るった剣を受け止め、ゼノが吹き飛ぶ。今度は自ら飛んだわけでは無く、勢いを殺しきれなかったようだ。
「なるほどね……騎士の【不撓】と似たようなスキルみたいだな」
ヴァジュラって言ってたか? 防御力の向上、もしかしたら魔法耐性を上げる【水装】と同じ効果もあるのかもしれない。そうじゃないと聖剣が纏う炎に焼かれながら、体毛が焦げるだけで済むわけが無いもんな。
「じょ、冗談じゃねえぞ……。力を、隠してやがったのか……?」
「そういうわけじゃないんだけどな」
あえて隠していたわけじゃない。盾役や斥候を担ってばかりだったし、魔素を稼ぎたくないから、積極的に攻撃に回らなかっただけだ。
「まあ、一対一なら負けるつもりは無いよ」
傭兵団に取り囲まれたまま、奇襲をされてたら危なかったけどな。ゼノが取引を持ちかけてくれたおかげだ。地竜を引き付けて、混戦に持ち込めたんだから。
「ははっ、とんでもねえヤツを敵にまわしちまったみたいだな……」
ゼノは決して弱いわけじゃない。A級決闘士のルトガーにだって引けを取らない。それどころか身体能力だけなら、上を行っているだろう。
ただ単に、俺がルトガーと接戦していたころに比べて遥かに強くなっただけだ。レベルが8から20に上がってるんだから、そりゃあね。
--------------------------------------------
アルフレッド
■ステータス
Lv : 20
JOB: 暗殺者Lv.2
VIT: 1096
STR: 914
INT: 870
DEF: 1523
MND: 870
AGL: 1305
■ジョブ
騎士・喧嘩屋・槍術士
癒者・魔術師・暗殺者Lv.2
■スキル
初級短剣術・初級弓術・初級剣術・初級槍術・初級盾術
馬術
夜目・隠密・警戒・瞬身
挑発・盾撃・鉄壁・烈攻・不撓・魔力撃
威圧・気合・爪撃
第三位階黒魔法・第三位階光魔法
牙突・跳躍・看破
投擲Lv.7・剣術Lv.2・盾術Lv.2
暗歩Lv.8・影縫Lv.5
--------------------------------------------




