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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第240話 アリスの夢は

「アリスを……?」


「ああ。アリス・ガリシアを俺達に引き渡してくれ。危害は加えないと約束する。お前らは、予定通りあの神殿に向かえばいい」


「そんなことっ、させるわけないでしょっ!」


 アリスを円陣の中に引っ張りこみながら、アスカが大声で叫ぶ。


「そうなると、お前ら全員死んでもらわないとといけなくなるな」


 ゼノの淡々とそう言った。俺達は反射的に、アリスを守るように背後に庇う。


 ガリシア氏族の長女の誘拐、もしくは殺害? 傭兵団は誰かの依頼を受けてるのか? それとも何か他の目的が? 


 冷静になれ……まず、するべきことは傭兵団の目的を推し量ることだ。幸い、ゼノは対話の姿勢を見せている。会話を続けて、情報を得るべきだ。


(アスカ、ゼノのステータスを見てくれ)


(そ、そっか、わかった)


 小声で告げると、アスカが【装備】スキルで『識者の片眼鏡』(ワイズマンズモノクル)を一瞬で装着する。 


(状態異常は無し、魔人族が化けてるって事も無いね)


 アスカがそう囁き、俺は軽く頷いた。操られてるわけでも、魔人族がゼノに化けてるわけでもないってことは……誰かの依頼で動いてるってことか。


「誰の依頼だ?」


「依頼人の情報を明かすわけないだろ」


「明かすわけない……ね」


 横目でアリスの表情を窺う。アリスは青褪めた顔で俯いていた。


 そりゃあ、察するよな。これだけヒントを出されれば……。


「イレーネか、フリーデ。もしくは二人からの依頼、だろ?」


「ええっ!?」


 アスカやダミー達が驚きの声を上げる。


「さあて、ね」


 ゼノはそう言って、肩をすくめた。


「なんで……? あの二人が? あんなに良い人なのに……」


 アスカがわなわなと震えながら、言った。


「……なんでゼノが、ジオット族長から直々に受けた極秘任務のはずの、集団暴走(スタンピード)の原因調査のことを知っている? ガリシア氏族でも極一部の人しか知らない、神殿のことを知ってる? 全てを知っているガリシア氏族の誰かから依頼されたからだろ。そして後継者候補のアリスがいなくなることで、最も得するのは誰だ? 他に候補者もいるだろうけど、少なくともあの二人が無関係ってことは無いだろ」


 俺は、アリスの顔色を窺いながら、静かにそう言った。


「……でも、なんで……。だってアリスは長女かもしれないけど、後継者にはなれないって……」


「俺達のせいだろうな。アリスがスキルを使えない理由を俺達が気づいたことに、気づいたんだろ。アリスがスキルを使えるようになったら、ガリシア氏族の次期族長はアリスになるだろうからな」


「そんな……」


 ゼノは俺とアスカのやり取りを黙って聞いている。


 いったい、どういうつもりなんだコイツは。依頼人は明かせないと言っておきながら、わざわざ俺達にヒントを与えたのはなぜだ?


「それにしても、アリスの誘拐もしくは殺人か。『荒野の旅団』(ヴァルドイェーガー)は、盗賊まがいの依頼も受けるんだな?」


 少しでも情報を引き出そうと煽ってみたら、ゼノは肩をすくめた。


「報酬が良ければな。でかい仕事が控えててよ。何かと物入りなんだ。それと、俺達が受けた依頼はアリス・ガリシアの暗殺だ。誘拐じゃない」


「……だとしたら、見過ごせないな。殺し合いをするしかない」


 10対100で、しかも相手は歴戦の傭兵団『荒野の旅団』か。レリダでの動きを見る限り、ほとんどの戦士達がBからCランクの冒険者並みの力量があるように見えた。まともにやったら、とても勝ち目は無いが……。


「待てって。悪い話じゃ無いって言ったろ? わざわざここで待ち伏せしたのも、姿を見せたのも、お前らと交渉するためなんだ」


「交渉?」


「ああ。アリス・ガリシアの身柄の安全を保障する。暗殺の依頼を受けておいて解放するわけにはいかないから、アリス・ガリシアには俺達と一緒に国外に出てもらうけどな」


「国外に?」


「ああ。匿って国外に逃がしてやるよ。戦力にもなりそうだから、ウチに入ってもらってもいい」


 アリスを国外に逃がしてくれる? 確かに命を狙われているというなら、亡命ってのもいい選択かも知れない。荒野の旅団が、信じられるのならだけど……。


「なぜゼノがそこまでするんだ?」


「前にも言ったろ? 『魔人殺し』とは仲良くしたいんだ。ここでアリス・ガリシアの身柄の保護と亡命の手助ければ、貸し二つ目だろ? アルフレッドとアスカに次の仕事を手伝ってもらってチャラってことでどうよ?」


「そのために、依頼を受けたのか?」


「俺だってよ、こんな罠に嵌めるような真似をしたいわけじゃ無いんだぜ? よく考えろよ。もし俺達がアリス・ガリシア暗殺の依頼を受けなかったら、他の誰かが受けることになるだろ? そうなったらアリス・ガリシアの命の保障は無いじゃねえか」


「……確かに、な」


 なるほど、そういうことか。殺害したと見せかけてアリスを保護する代わりに、前に言っていた魔人族が関わっているかもしれないというマナ・シルヴィア周辺での仕事を、俺とアスカに手伝わせたい。そして俺達に『魔人殺し』を押し付けたい、ってところか?


 ふむ。辻褄は合ってるな。


「断ったら?」


「依頼は既に受けてるし、前金も貰ってる。アリス・ガリシアを殺さざるを得ないな。邪魔するなら、お前らも殺す。仕事だからな」


 淡々と、ゼノは言った。どうやら、俺とアスカに次の仕事を手伝わせるという一石二鳥を狙っているだけであって、優先するのはアリス殺害という依頼の方のようだ。


 さて……どうするか。選択肢は少ない。


 一つ目は、アリスを荒野の旅団に引き渡し、ゼノの言う通りに俺達も荒野の旅団に同行する。元々、マナ・シルヴィアには行く予定だったし、魔人族が関わっているのならなおさらだ。魔人族との衝突があるとしたら、荒野の旅団の戦力をあてにできるってのも一つの利点だ。


 二つ目は、アリスの引き渡しを拒否する。その場合、荒野の旅団との衝突は避けられない。とてもじゃないが勝ち目は無さそうだから、逃げるしかない。そう簡単に逃げ切れるとも思えない。


「アリスは、投降するのです」


 アリスは円陣の内側から俺の隣に進み出て、そう言った。


「アリス……」


「アルさんとアスカさんには迷惑をかけてしまうけど、皆が殺されるよりはいいのです。巻き込んでしまって、ごめんなさいなのです」


「アリス! だめだよ! コイツらの言うことなんて信じられない! それにアリスには、夢があるんでしょ! ガリシアから離れたく無いんでしょ!?」


 アスカが叫ぶ。


 そう。一つ目の案は、アリスがガリシアから亡命することを前提にしている。この案を選択するとなると、アリスはもう二度とガリシア自治区にも、ガリシア氏族にも戻ることは出来ないのだ。


「でも、エドさん達やクラーラさん達を、死なせてしまうわけにはいかないのです……」


「それは……」


 アスカが言葉を飲み込む。アリス・俺・アスカの3人がゼノに従えば、エドマンドさん達やクラーラ達を巻き込まずに済む。そう言われれば、アスカも黙るしかない。


「どうする? アリス・ガリシアとともに俺達と一緒にレグラムに行くか、それとも全員ここで死ぬか。まあ、選択肢は一つしか無いようなもんだけどな」


「そうか? お前たちを突破して、地竜の洞窟から脱出。ガリシア氏族の館を強襲して、フリーデとイレーネの身柄をおさえる。暗殺を依頼した犯人を見つけ出して、アリスの安全を確保……って選択肢もあるだろ?」


 俺がそう言うと、ゼノはポカンとした顔をした。


「はあ? お前、この状況で、俺達から逃げられると思ってんのかよ?」


 そう言って、ゼノが強烈な殺気を放ちだす。どうやら、ゼノを含む百人以上の傭兵達を突破すると言ったことが気に障ったようだ。


「みんな、付き合ってくれるか?」


「……構わんが、勝算はあるのか? そう簡単には行きそうもないぞ?」


「考えがあります。ダミー達もいいか?」


「当然!」

「アスカお姉さまについて行きます!」

「アルフレッドさん達に、拾ってもらった命ですから。とことん付き合いますよ」


 親衛隊組も孤児院組も付き合ってくれるみたいだ。無理やり付き合わせているようなもんだけど。


「アルさん! ダメなのです! 荒野の旅団相手に、この人数で敵うわけが無いのです! アリスが投降するしか方法は無いのです!!」


「アリス……国外に亡命したら二度とガリシア自治区には帰って来れない。母親の願いはどうなる? アリスの天命はどうなる? アリスはその夢のために、耐えて生きて来たんじゃないのか? 本当に、それでいいのか?」


「でも……死ぬよりはいいのです! アリスの我が儘のために、皆を死なせるわけにはいかないのです!」


「大丈夫。考えがあるって言ったろ? 俺達なら余裕で突破できるさ」


 そう言ってアリスに微笑みかける。アスカも深く頷いた。


「……アルフレッド。この戦力差で俺達を突破なんて、万に一つも出来ねえよ。あんまり俺達を舐めるんじゃねえぞ?」


 怒気をはらんだ声で凄むゼノ。俺が余裕と言ったことに、相当頭にきているみたいだ。

 

「アリス、俺を信じろ」


 ゼノに注意を払いながら横目でアリスを見る。アリスは戸惑いを見せながらも、ゆっくりと頷いた。


「皆さん、ゴメンナサイなのです! アリスは、母様の願いを、夢を、捨てきれないのです!」


「いよっしゃ! 付き合うぜ!」

「孤児院再建の恩返しね!」

「承知!!」

「ひぇえー、ほんとダイジョブなんスか!?」


 アリスの叫びに皆が答える。


「チッ、バカどもが……。全員殺すって言っただろうが!」


 ゼノの殺気が一気に膨れ上がる。それに呼応して、周囲を取り囲む傭兵団も殺気立った。


「さあて、どうかな?」


 確かに、10対100じゃ勝ち目はほぼ無い。でもさ、素直に真正面から戦うわけないだろ? それに、考えがあるって言ったろ?



【大挑発】(タウント・マキシマ)!!」


 

 俺は極限まで魔力を注ぎ込んだ【挑発】を発動する。俺の殺気とともに膨大な魔力の波動が、地竜の洞窟を駆け巡る。


 ふふん、どうだい? アスカにスライムを何度も何度もけしかけられ、服を溶かされながら修練した俺の【挑発】の効果は抜群だろ!?



ドドドドドドドドッッ!!!



 地竜の洞窟に、まるで土石流のような轟音が響き渡る。5トンもの巨体が踏み鳴らす足音が、何体分も重なっているのだ。そりゃあ、轟音にもなろうというもの。


「てっ、てめえ!! 何を考えてやがる!!?」


「10人対100人じゃ、敵いそうに無いからな。10人対100人対10体、ならどうかな?」


 俺達を取り囲む傭兵団の、さらにその周りを10体もの地竜が取り囲んだ。




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