表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
240/499

第235話 次の問題

「アルジャイル鉱山の攻略?」


「ああ。ガリシア族長からの公開依頼(クエスト)だ。アルフレッド達にも、ぜひ受けてもらいたい」


 レリダ解放から1週間後、俺達は孤児院リーフハウスでパウラの訪問を受けていた。


 孤児の女の子が紅茶を持ってきてくれたので、にっこりと笑って礼を言う。女の子は顔を紅く染めて嬉しそうに微笑み、俺とアスカが寝泊まりさせてもらっている部屋から出て行った。


「どうする、アスカ?」


「受けてもいいんじゃない? 掃除も引っ越しも終わったし、今日からやること無いしね」


 ここ一週間は、レリダにいる魔物の残党狩り、孤児院の補修や掃除、難民キャンプからの引越しなど、かなり慌ただしかった。


 体高3メートルを超す地竜、体高1メートル・体長3メートルほどの軍蟻などの大きな魔物は、レリダ奪還作戦の際にあらかた掃討は済んでいた。だが、ゴブリン種は建物の中や下水道などに、けっこうな数が潜んでいたのだ。索敵ができる俺とダミーは冒険者ギルドに駆り出され、レリダ中を歩き回ってゴブリンを片付けて回る事になった。


 その後は数キロ離れた難民キャンプからの引越しと、住まいの補修と大掃除。物資の輸送に関してはアスカのアイテムボックスが大活躍したが、掃除や補修の方は完全に手作業だ。さすがは手作業が得意な加護を持つ者が多い土人族だけあって、建物や路面の激しい損壊が驚くほどの速さで修繕されている。


 ダミー達が住んでいた孤児院の掃除と補修には、多くの土人達が手を貸してくれた。どうやら奪還作戦で活躍したことが噂になっているようで、孤児院再建を手伝ってくれたのだ。


 ようやく孤児たちが元の住まいに帰れたわけだが、いつの間にかダミー達が面倒を見る孤児たちが倍増していた。悲しい話だが難民キャンプには、集団暴走(スタンピード)の際に保護者を失った孤児達がたくさんいて、クラーラが孤児院リーフハウスに収容できる目いっぱいまで引き取って来たのだ。


 現在、リーフハウスで暮らしているのは俺とアスカを除いて33人。ダミー達の家族は一気に3倍に膨れ上がったわけだ。それでも、ダミー達は既にCランク冒険者並みの実力を身に着けているから、なんとか支えていけるだろう。


 俺とアスカからも、けっこうな金額の運営資金と食糧を渡している。当初、クラーラは『もう十分に良くしてもらった。後は自分達でなんとかする』と言って頑なに受け取りを拒否したのだが、今回の作戦でかなりの数の地竜(グランドドラゴン)軍蟻(ウォーアント)の素材を手に入れたので、その分け前を渡すだけだと言って無理矢理に受け取らせた。


 実際のところ、アスカがアイテムボックスで確保した素材、特に地竜の素材を王都クレイトンで流せば、かなりの金額が手に入る。まだ食糧不足は続いているので、地竜肉は全て冒険者ギルドに納品したが、その他の素材はかなり高額で売れるだろう。旅の軍資金で困ることは、もう無いと思われる。


「鉱山には集団暴走で湧いた魔物が、まだうようよいるだろうから、そいつらを掃討して採掘を再開したいんだ。アルジャイル鉱山で手に入れた魔石は、5割増しで買い取る。がっぽり儲けるチャンスだよ!」


「ってことは、パーティ単位で攻略するってことか?」


「ああ。通常のダンジョンアタックと同じだな。ガリシア兵も分隊(セクション)単位で攻略に参加するよ」


「鉱山はいつから解放されるんだ?」


 レリダ解放後、アルジャイル鉱山はガリシア兵団が封鎖している。魔物が出てくることも考えられるため、当然の処置だ。


「今、斥候に特化したパーティが先行調査してるんだ。今日中には戻ってくる予定だから、その情報を冒険者に開示する。アタック開始は明日からだな」


「了解。俺達も潜る事にするよ」


「おう、たっぷり儲けな!」


 そう言うとパウラはすぐに帰って行った。冒険者ギルドマスターとして多忙を極めているだろうに、俺達にわざわざ伝えに来るってことは相当期待されてるんだろうな。


「うーーん」


 不意にアスカが難しい顔をして唸った。どうした?


「鉱山に潜るより、地竜の洞窟に行った方がいいんじゃないかなって」


「地竜の洞窟に?」


「うん。今回のスタンピードはさ、アルジャイル鉱山が地竜の洞窟に繋がったから起こったって言ってなかった?」


「あ、そう言えばエドマンドさんがそんな事を言ってたな」


「でさ、WOTでは地竜の洞窟からスタンピードが起こって、レリダの防衛線になったって話したじゃん?」


「ああ、そうだったな。それで、洞窟の最奥で魔人族と戦うことになるって……」


「うん。だから地竜の洞窟を攻略した方がいいんじゃないかと思って」


 レリダが陥落したのはアルジャイル鉱山が地竜の洞窟に繋がり、集団暴走を起こした地竜が鉱山に流れ込んだからって話だった。アスカが読んだ物語(WOT)でも、地竜の洞窟で集団暴走が起こったって話だから、展開は違ったとしても原因には共通点がある。だとしたら、WOTと同じように、地竜の洞窟の最奥に魔人族がいる可能性がある。


 以前、エドマンドさんは魔人族が関わっているのなら力を貸してくれると言っていた。エドマンドさん達が魔人族討伐に協力してくれるなら、とても心強い。

 

「そうか……。まずは……エドマンドさんに相談してみるか」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 エドマンドさん達はレリダの復興支援について話し合うために、ガリシア氏族の館に滞在しているので会いに行くことにした。


 レリダの街を歩くと釘を打ったり、建物を解体したりする工事の音があちらこちらから聞こえてくる。大通りの脇にはたくさんのレンガや鉄柱などが積み重ねられていて、多くの土人族の男達が笑顔を浮かべて工事作業に勤しんでいる。


 チェスターの復興の時も思ったけど、災害や苦難から立ち上がろうとする人々ってのは本当に力強い。出来る限り協力したいって思うな……。


「やあ、アルフレッド。どうした?」


「打ち合わせ中に申し訳ありません。ご相談したい事があり、お邪魔しました」


「我等も、同席していい話かね?」


「はい、閣下。出来れば皆さんからご意見を頂きたい」


 ガリシア氏族の館の応接室には、エドマンドさん達4人と、ジオット族長、ロレンツ参謀がいた。アルジャイル鉱山の攻略はジオット族長からの依頼ということだったから、ちょうどいい。


 俺とアスカは火龍の天啓を受けた『龍の従者』(サーヴァント)

 旅の目的は、魔人族の手から世界を救うこと。

 アルジャイル鉱山ではなく地竜の洞窟を攻略した方が良いのではないか。

 今回の集団暴走は魔人族の仕業ではないかと睨んでいる。


 ごく簡潔にそう話すと、ジオット族長とロレンツは眉根を寄せた。


「あの集団暴走が魔人族の……!!」


 ジオット族長が絞り出すように、そう言った。


「あくまで、予想ですが。ですがチェスターでも王都でも、魔人族は魔物を操り奇襲を仕掛けてきました。今回の集団暴走も何らかの形で関わっているのではないかと思います」


「それならば、ガリシア氏族からも兵を出しましょう! 何にせよ集団暴走の原因は探らねばならないのですから」


 ロレンツがジオット族長に提案する。


 俺達の話を信じてくれたようだし、手助けをすると言ってくれたのは嬉しい。だが……


「ロレンツ殿。地竜の洞窟はご存知の通り、Bランクの地竜が蔓延る、言わば魔境です。地竜以上の強敵を相手取れる戦士を、今のレリダから引き抜けるのでしょうか」


 そう言うと、ロレンツはぐっと口ごもった。


 遠回しに言ったつもりだが、意味するところは『足手まといだからついて来るな』だ。


 先の奪還作戦で、ガリシア兵の中に少数で地竜を相手どれる程度の実力者はそう多くはないことはわかっている。聞くところによると集団暴走が起こった際に、土人族の主力部隊は殿として戦い抜き、全滅してしまったのだそうだ。


 地竜の洞窟に潜るなら、消耗を防ぐためにも出来る限り戦闘を避けられるよう少数精鋭が望ましい。下手に連れて行くと、戦死させてしまう可能性が高い。それなら連携に慣れたエドマンドさん達や、出来ればダミー達に協力を求めたいところだ。


「それならアリスを連れて行って欲しいのです!」


 ドアが勢いよく開き、フリフリのレースのついたピンク色のドレスに身を包んだアリスが、応接室に乱入してきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ