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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第234話 レリダ解放

「グルルアァァッ!」


「【影縫】!」


 盾の裏から引き抜いた投げナイフを金竜の影に向かって投擲する。金竜はビクンッと身体を震わせて、一瞬だけ身動きを止める。


 その間に金竜に詰め寄り【暗歩】を発動。挑発で金竜の目を引きつけつつ、【爪撃】(ネイルブロー)を躱し、【咬刃】(ブレードバイド)をいなし、【尾撃】(テイルブロー)を飛び越える。


「すげえ……」


「踊っているみたいだ」


 アスカが回復したガリシア兵達はすぐさま戦闘に復帰。金竜を遠巻きに取り囲んで狙いやすい胴体に次々と魔法や矢のスキルを浴びせ、少しずつ金竜に傷を負わせていった。硬い鱗が次第に剥げていき、金竜の身体は既に流血で赤銅色に染まっている。


 パーティメンバー達はガリシア兵の攻撃に巻き込まれないよう、既に金竜から距離を取っている。俺はと言えば、途中から【暗殺者】のスキルを多用した回避盾の練習に切り替えて、金竜の注意を引き続けていた。


 ガリシア兵達は既に戦勝したような雰囲気になっている。広場の中央で金竜の周りを駆けまわる俺に向けて、手拍子を鳴らす者すらいるぐらいだ。


 レリダに巣くっていた魔物のうち、大型の地竜や中型の軍蟻は全て狩り尽くされている。後は建物に潜んでいるであろうゴブリン達を殲滅すれば、レリダ奪還は成されるだろう。


 浮かれてしまうのもわかるが……ガリシア兵達は緊張感を無さすぎるんじゃないだろうか。かくいう俺も、スキルの熟練度稼ぎに手を出すくらいなのだから、人のことは言えないけど。


 ガリシアに来てからというもの地竜を中心に魔物を狩りすぎたおかげで、レベルはかなり上がってしまった。意図的にトドメをさすのは避けていたが、レリダに入ってからも何十もの魔物を倒したので、おそらくは20の大台に乗ってしまっただろう。


 地竜クラスになれば話は別だが、その辺に出現する魔物じゃもう熟練度稼ぎは出来ない。この金竜のような大物と安全に戦える機会はほぼ無いだろうから、未修得の暗殺者スキルの【暗歩】と【影縫】の熟練度稼ぎに精を出していると言うわけだ。


 まあでも、それもそろそろ終わりかな。金竜の動きもかなり緩慢になってきている。


 俺は再度【暗歩】を発動する。金竜や周囲のガリシア兵からは、俺の姿が二重に見えたり、ぼやけて見えているだろう。


 以前は気配を隠すスキル【潜入】の発動と解除を繰り返すことで相手を撹乱していたが、気配で惑わせて戦うなら【暗歩】の方が便利だ。自身が纏う魔力を、身体からズラしたり、滲ませたりすることで、相手の攻撃を誤誘導して躱しやすくしてくれる。潜入の発動と解除の繰り返しでも似たようなことは出来るが大量の魔力を消費してしまうのが欠点だったのだ。


「グルルルゥッ……」


 金竜が四つん這いの姿勢で低い唸り声をあげた。何度も【照明】で目を潰されたのを学習したのか、金竜は目を固く瞑っていた。


「【影縫】!」


 だが、【照明】を使っていたのは、あくまでスキル発動を阻害する隙を作るため。なにも閃光の目くらましでなくとも、一瞬身動きさえ止めればいいのだから【影縫】だっていいのだ。


 それにしても、敵を目の前にして目を瞑るとか……竜種と言えども所詮は獣か。俺は一瞬で金竜に詰め寄り、盾で頭部を殴りつける。


 頭を揺らされ、金竜が集めた魔力が霧散する。おそらくは最期の一撃のつもりだったのだろうが、ここまでだ。


 俺は後方に宙返りしつつ飛び退く。そこにガリシア兵が放った魔法と矢が殺到。金竜は四つん這いの姿勢から、崩れるように倒れ伏した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「お疲れさん。さすがだな、魔人殺し(ダークエルフキラー)


「だから、その二つ名はやめろって」


「はん。騎士、暗殺者に魔術師の加護持ちか? 『龍の従者』(サーヴァント)ってのはホントに反則だな」


 ゼノが呆れたような顔で言った。どうやら俺が使ったスキルから判断したようだ。


 実際には【喧嘩屋】の【気合】で体力を回復させつつ戦ってたし、【槍術士】のスキルも使ったんだけど、それには気づかなかったようだ。わざわざ説明しないけど。


「反則ってのは同意するよ」


 アスカ自身が反則(チート)って言ってるしな。


 ガリシア兵団が勝どきを上げる中、リーフハウスの面々とゼノで互いの無事を確かめ合っていると、豪華な白銀の鎧に身を包んだ土人族(ドワーフ)の一団が近寄ってきた。ガリシア兵団を率いていたロレンツだ。


「ゼノ殿、ご無事か」


「おう。見ての通り」


 さて嫌味の一つ、いや二つか三つぐらいは言われるのかな……と身構えたところ、ロレンツは俺達に向かって深々と頭を下げた。思わぬ態度に俺もゼノも顔を見合わせて戸惑ってしまう。


「傭兵団『荒野の旅団』(ヴァルドイェーガー)、旅団長ゼノ殿。此度の活躍に、心より感謝する。貴殿らの援護無くして、中部の制圧は叶わなかった」


「ああ。これで任務達成ってことでいいな?」


「もちろんだ。北部の制圧、中部での援護の既定報酬に加えて、追加報酬を支払うよう族長に口添えしよう」


「おっ、助かるね。ここまでの遠征で何かと経費がかさんでるんだ」


 こいつ……あのロレンツだよな? 下賤な冒険者とか毒を盛ったとか言って、失礼な態度を取り続けたアイツだよな?


「アルフレッド殿、アスカ殿、まず先日の非礼を詫びたい。不躾な態度を取り、大変失礼をした」


「え、あ、ああ。謝罪は受け取った。頭を上げてくれ」


 思わぬ謝罪に困惑しつつ返答する。俺の隣でアスカも呆気に取られてる。


 そりゃ、そうだよな。イレーネ達の前で会った時には、アスカも言い合いしたぐらいだったからな。


「聖女アスカ殿の広域治癒魔法が無ければ、この広場で数百の命が失われていただろう。我らの戦士を救ってもらったこと、ガリシア兵団を代表して感謝申し上げる」


「へ、あ、ど、どういたしまして?」


 アスカが慌てて返答する。ていうか、何? この態度の変わりよう。


「ロレンツは何よりもガリシア氏族のことを優先する忠臣なのです。排他的なところがあるですし、真面目でガンコ過ぎて融通がきかないのが玉に瑕なのですが……」


 戸惑う俺とアスカの雰囲気を察したのか、後ろからアリスが囁いた。


「アリス様、聞こえていますよ。そもそも、なぜ貴方がここにいらっしゃるのです。族長にすら本陣に留まって頂いていると言うのに、貴方という方は……!」


 ロレンツの苦言に、アリスが苦い物でも口にしたような顔をする。


「はぁ……。話は本陣に戻ってからです。アリス様、ご同行願いますよ?」


「はい、なのです……」


 どうやらロレンツが苦手なようだ。気持ちはよくわかるけど。


 ま、しょうがないよな。アリスは黙って抜け出して作戦に参加してるんだもんな。同行させた俺達も同罪だけど。


 俺が苦笑いしていると、ロレンツが今度は俺に対して一礼した。


「『龍の従者』アルフレッド殿。貴殿のおかげで、軽微な被害であの金鱗の竜を倒すことが出来た。助力に感謝する」


 なんだか、ロレンツのことを誤解していたのかもしれないな。口の悪い、嫌な奴だとばかり思っていたけど、アリスの言う通り融通の利かないカタブツなだけなのかもしれない。


「あれは俺達が勝手に乱入したんだ。礼には及ばないよ」


 俺もロレンツに一礼を返す。


「いや、貴殿の助力が無ければ、あの金竜を倒すのは困難だった。倒せなかったとは言わないが、甚大な被害を出しただろう」


「そんなことは無いさ。それにロレンツ殿も見ていただろう? 金竜を倒したのは俺達じゃなくガリシア兵団だ。俺はヤツの前で気を引いていただけだからな」


 そう言うとロレンツは意外そうな顔をした。


「だが、貴殿らが前に出なければ……」


「ゼノはガリシアが雇った戦力だし、ダミー、クラーラ、メルヒはレリダの冒険者だ。それにアリスはガリシア族長の娘だろう? 金竜を倒し、レリダを取り戻したのはガリシアの底力さ。俺はちょっと手助けさせてもらっただけ。な、アスカ?」


「うん! よかったね、レリダを解放出来て!」


 満面の笑みを浮かべるアスカ。


「そうだな…………ようやくレリダを、取り戻せた」

 

 ロレンツの言葉の最後はわずかに震え、目元は薄っすらと潤んでいた。




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