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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第229話 路地裏

「お、お前達! た、たた、助けてくれ!」


 脇腹をおさえ膝をつく兵士の周りを、3体のゴブリンと2体の軍蟻(ウォーアント)が取り囲んでいた。その周りには数体のゴブリンと兵士達がピクリともせずに転がっている。


「あ、あいつ……」


「……うん」


 今にも兵士が殺されてしまいそうな状況なのだが、なぜかダミーとメルヒは動かない。クラーラはわなわなと震えて、立ちすくんでいる。助けを呼ぶ声が聞こえて、ここまで駆けつけたんじゃなかったのか?


「……行くぞっ、アリス!」


「はい、なのです!」


 なぜか3人が動かないが、助けを求めるガリシア兵を放っておくわけにもいかない。俺は【挑発】(タウント)を発動しつつ、魔物の群れに突貫する。魔物達はスキルに注意を引かれて、手負いの兵士から俺に狙いを変えた。


「ふっ!」


「ぐぎゃぁっ」


 先頭のゴブリンが突き出した槍を、身をよじって躱し、盾で殴打。続けてゴブリンが振り回した剣を、火龍の聖剣で弾き飛ばし、腹に前蹴りを食らわせる。


 高い膂力を誇る【槍術士】の加護を修得した俺の打撃を、ゴブリン程度が耐えられるはずもない。1匹目のゴブリンは頭部が陥没し、2匹目は背骨がへし折れて絶命した。


 それを見た3匹目は背を向けて逃げ出そうとするが、逃がすつもりはない。即座に盾の裏から火喰いの投げナイフを取り出して投擲する。ナイフは吸い込まれるようにゴブリンの首に突き刺さった。


「おっりゃー、なのです!」


 アリスが小さな体をぐるんっと回し、戦槌を斜め上から振り下ろす。


 ドゴォッ!!


 アリスは、防具素材に出来るほどの硬度を持つ軍蟻の甲殻を、先端の尖った戦槌で易々と貫き、勢いそのままに軍蟻を地面に叩きつける。その衝撃は石畳がクレーターのように陥没するほどだ。もう一匹の軍蟻も既にアリスが倒していたようで、頭部を潰されて石畳に縫い留められていた。


「さすがだな、アリス」


「アルさんもすごいのです! 目にもとまらぬ早業なのです!」


 アリスとパンッと手を合わせ、周囲を見回す。残念ながら、倒れている兵士達は既に事切れてしまったようだ。


「ぐっ、おいっ、お前ら、冒険者か? ……毒が、まわってるんだ、【癒者】(ヒーラー)は、いないか?」


 ああ、脇腹をおさえていたが、軍蟻の毒針にやられたのか。


「ああ。今、【解毒】(デトックス)をかけてやる」


 軍蟻の毒くらいなら、俺の魔法で問題なく治せるだろう。そう思い兵士に近づくと、後ろから肩に手をかけられた。


「ちょっと待ってくれ、兄貴」


 ダミーが俺を押しのけて兵士の前に立つ。その横にメルヒが並び立った。


「なんだ……? おい、何をしている……。そこの、お前、癒者、なんだろう!? ぐずぐず、するな! ぐっ……早く、治すんだ!」


「ふんっ、ざまあねえな」


「僕たちのこと、覚えてないんですか?」


 ダミーとメルヒが、まるで仇敵を見つけたかのように、憎悪のこもった目で兵士を睨みつけている。振り返ると、クラーラが震えて俯き、アスカがその肩を抱いていた。


「あ? お前らみたいなガキなんか……あっ、その女は……」


「けっ。ようやく思い出したかよ。そうだよ、あん時は世話になったな?」


「因果応報、だね」


 そうか……。コイツはたぶん、クラーラを襲おうとして、止めに入ったダミーとメルヒに暴行を加えたという男か。


「なんで、てんで弱っちい、孤児のガキどもが、こんなところに……」


「てめえにハメられて、キャンプにいられなくなったから冒険者になったんだよ」


「冒険者義勇兵として戦場に来ました。あなたみたいなガリシア兵にレリダ奪還を任せておけないですからね」


「……孤児、ごときが、生意気な……おいっ、そこの、お前! いいから、早く、治せ!」


 毒が身体を蝕んでいっているのだろう。顔を真っ青に染めて、息も絶え絶えに兵士が喚く。


「アルフレッドさん、コイツはクラーラに乱暴を働いた下衆です。治癒する必要なんて、ありません。見捨てましょう」


「ああ、このままクタバレばいい。兄貴、行こう」


 ダミーとメルヒが吐き捨てるように言った。


 2人にとっては、この兵士は救う価値の無い命だよな……。最愛の恋人であり家族でもあるクラーラを汚そうとしたクズなんだ。俺だって、アスカがもし同じ思いをしたとしたら……治療なんてするわけがない。でも……


「いや、そいつを治療する」


「兄貴っ!」


「アルフレッドさん……」


 ダミーとメルヒが俺を睨みつける。


「最後まで聞いてくれ。……アリス、強姦未遂と暴行、ガリシアの法で量刑はどれくらいになる?」


 そう聞くと、アリスは事情を察したのか、沈痛な面持ちで呟いた。


「強姦は未遂であれば5,6年、暴行は2,3年の懲役刑だと思うのです。通常は犯罪奴隷として過酷な鉱山労働を課すことになるのです」


「そうか……」


 俺はダミーとメルヒの肩をぽんと叩き、うずくまる兵士を見下ろす。


「難民キャンプであの子を襲い、この二人に暴行を働いた。間違いないか?」


「そ、そんなことは、していない……。コイツらは、薄汚い、盗人なんだ。お前は、騙されてる。俺は、ガリシアの、兵士だぞ? 誓って、そんなことは、していない」


「てめえっ!」


「ダミー、待て! 最後まで聞けって。なっ?」


 兵士に殴りかかろうとしたダミーを抑え、なだめる。あらためて、兵士を見下ろした。


「罪を認めて罰を受けるなら治療してやる。認めないなら、お前を見捨てる。どうだ? 認めるか?」


「ぐっ……キサマ、俺を、誰だと、思ってる! ガリシア家の、十人兵長だぞ! いいから、早く、治せっ!」


 この期に及んで認めようとしないばかりか、権力を盾に恫喝か……。立場が分かっていないようだ。


「残念だ。ならば、そのまま死ね。行くぞ、ダミー、メルヒ」


 俺は兵士に背を向け立ち去る素振りを見せる。


「おっ、おいっ、待てっ、わかった! 認める、認めるから、た、助けて、くれ!」


「……それで? お前は俺のパーティメンバーに何をしたんだったか? はっきり、お前の口から聞きたいな」


「その女を、犯そうとした。邪魔を、しやがったから、そいつ等を、叩きのめした。はぁ、はぁっ……これで、良いだろう? 早く、毒を、クソッ、意識が、遠のいて、きやがった」


「罪を認め、罰を受ける、そう誓え」


「罪を、認める、罰を、受ける。そう、誓う」


 兵士は悔しそうに俺を睨みつけながら、俺の言葉を繰り返した。


「よし、治してやる。【解毒】(デトックス)【治癒】(ヒール)


 青緑色の光が兵士を包み、脇腹の刺し傷を癒していく。解毒は効いたようで、青褪めていた顔色に赤みがさしていった。


 回復した兵士は傷跡の塞がった脇腹をさすりながらホッと息をつく。そして立ち上がると、ニヤリと笑った。


「ふんっ、この薄汚い孤児どもが! ぐずぐずしやがって!」


「あ゛あん!?」


「罪を認める? 罰を受ける? なーにを言ってるんだ。お前らが盗みを働いたから、懲らしめた。それが事実だろうが!!」


「なんだと!? このっやろうっ!」


「ちっ……だから見殺しにすればいいと言ったんだ……。やっぱりガリシア兵にはクズしかいない」


 前言を簡単に引っ繰り返した兵士をメルヒが憎々し気に睨みつける。ダミーは怒りに震え、今にもダガーに手を伸ばしそうだ。


「ふっ、魔物を倒し、治癒をしたことに免じて、今日の非礼は特別に許してやる。じゃあな」


「おい、ちょっと待て。お前、名前は?」


「はぁ? 言う訳ねーだろ」


「アスカ?」


「あ、ちょっと待って、ええと……ヨアヒムだって。うっわ、レベルたったの12だよ? よっわ」


 識者の片眼鏡を取り出して、レンズをかざしたアスカが言った。


「なっ!? なんで名前を……いや、だから何だってんだ? 既にお前らが盗人だってことで片はついてるんだ。今さらお前らが何を言っても無駄だ。なんたって俺は、ガリシア兵団、十人長のヨアヒム様だからな! お前ら冒険者風情とは信用が違うんだ!」


 そう言ってニヤつく、ヨアヒム。まあ、今さらなのも、無駄なのもお前なんだけど。


「だってよ? アリス。公正な裁きを期待してるよ」


「はい、なのです。ガリシアの名にかけて、公正な裁きを下すのです。ガリシア家の闇魔術師に取り調べをさせますので、嘘はつけないのです」


 アリスが力強く宣言する。


「ガリシアの名に? おいおい、お嬢ちゃん、滅多なこと言うもんじゃないぜ? その家名を騙ることがどういう事か……」

 

 ヨアヒムはニヤつきながらアリスの顔を覗き込み、驚きに目を大きく見開いた。せっかく赤みがさした顔色が、再び青褪めていく。


「さっき……アリスって言って……その、先代とイレーネ様にそっくりな顔……ま、まさか、戻ってきたって話のアリス様!?」


 ようやく詰んでることに気付いたようだ。


「兄貴?」


「えっと、どういうこと?」


 あ、そっか。3人には、アリスの正体を伝えてなかったな。


 ちゃんと今から、説明するよ。ダミー達3人の盗人っていう汚名を返上しないとって思って、ヨアヒムを治したんだよ。それに、死んで楽にさせるなんて、もったいないじゃないか。ちゃんと罪を着せて、名誉を奪った上で、犯罪奴隷にでも堕ちてもらわないと。


 ガリシア家はイマイチ信用ならない気もするけど、アリスが公正に裁くと言っているんだ。たかだか十人兵長の罪を誤魔化すために、ガリシア家長女や他国の英雄(俺とアスカ)の証言を蔑ろにすることも無いだろう。


 あ、なんなら、厳罰を希望するってジオット族長やフリーデに嘆願書でも書こうかな? 食糧の輸送の件で、貸しもあるしね。




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