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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第228話 任務放棄

「おぉぉっ! 【鉄壁】(ウォール)!」


 頭上から振り下ろされる地竜(グランドドラゴン)の爪撃を真っ正面から受け止め、衝撃で踵が石畳にめり込む。


 巨大な地竜の重さが乗った強力な一撃。だが、俺のすぐ後ろにはアスカがいるんだ。たとえ竜種最硬を誇る地竜の爪であっても、俺の盾を貫かせはしない。


「いまだっ!」


「くらうのです!」


「いっけえっ! 【爪撃】(ネイルブロー)!」


 アリスが縦に回転しながら振るった戦槌が脚を砕く。バランスを崩して倒れかかった地竜に、クラーラが顎先を掬い上げるように【爪撃】を放った。ギャリンッと刃物どうしをぶつけあったような音を響かせ、地竜の鱗が弾け飛ぶ。


「はぁぁっ! 【牙突】(ブリッツ)!」


 鱗が剥げた地竜の顎に、メルヒの鋼鉄の短槍が深々と突き刺さる。牙突の勢いで地竜の顎が跳ね上がり、ガラ空きになった喉元に黒い影が目にもとまらぬ速さで飛び込んだ。


「シヤァッハー!!」


 地竜の喉元に一枚だけ生えた逆鱗を、ダミーの鋼鉄の短刀が切り裂いた。地竜はビクンッと身体を震わせた後、力を失い前のめりに倒れ込んだ。


「うわっ、えっ、ぶぎゃぁっ!!」


 短刀ごと右腕を地竜の喉元にめり込ませていたダミーは、倒れ込んで来た地竜の巨体から逃れられず下敷きになってしまう。


「まったく、しまらないわね」


 カエルの様に押しつぶされて藻掻くダミーのそばで、呆れたようにクラーラが呟く。


「お、重たいぃー。どかしてくれぇー」


「はいはーい」


 アスカが駆け寄って地竜の死体に手をかざす。一瞬で巨体が姿を消し、アイテムボックスに収納された。


「あんがとさん。いつ見てもすっげぇな、そのスキル」


「アスカちゃんの数少ないチートだからね! みんな、回復するよー、集まってー」


「ふう……これで大体は片付いたか?」


「そうみたいなのです。あ、あっちはまだ戦闘中みたいなのです」


 目を向けると少し離れたところで、ジェシーが大きく手を振っていた。傍らに地竜の死体がいくつも転がっているが、数の多い軍蟻(ウォーアント)に手間取っているみたいだ。


「よし、もうひと踏ん張りだ!」


「はいっ!」


 回復を終えた俺達は、エドマンドさん達が対峙する軍蟻の群れに向かって駆けだした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「担当エリアの殲滅は完了、かな」


「うん、あとは指示があるまで待機だね」


 割り当てられた中央部寄りの大通りには、地竜とうんざりするほどの数の軍蟻が徘徊していた。だが、孤児院組に俺・アスカ・アリスの6人と、親衛隊の4人組に別れて大通りを駆け回り、たった今ようやく狩りつくせた。


「でもよー、ほんとにここで待機してていいのか? 中央通りの方からはまだ戦闘音が聞こえるぜ?」


 かなり距離が離れているので央人の俺には聞こえないが、ガリシア兵団や他の冒険者達がまだ戦闘を続けているのを、俺も【警戒】で捉えていた。


「エリアの防衛も任された仕事だろ?」


「そうは言うけどよー。集団暴走の時に、とっとと逃げ出したガリシア兵団だぜ? あいつらには任せておけねーよ」 


 ダミーは不服そうに口を尖らせる。口には出さないがクラーラやメルヒも同じ思いのようで、不満そうな顔をしている。


 3人が不満を覚えるのは当然だ。ダミー達が今回の作戦に参加したのは、孤児院を取り戻すためではあるが……最も大きな動機は、復讐を果たすためなのだ。


 集団暴走で、兄は戦死し、姉は辱められ、母は子らを守り力尽きた。彼らのささやかな平和を奪った魔物達に、得た力を突き立てたい。そう思うのは当然のことだろう。


「いつも踏ん反り返って偉そうにしてるくせに、ガリシア兵は市民を守らずに逃げ出したんです。おかげで、たくさんの人達がレリダから逃げ出せなかった。あいつらなんかに、東部と中央部を取り返せるはずがないです」


 普段はあまり自己主張をしないメルヒが、俺の目をしっかりと見据えながら淡々とそう言った。


「…………」


 クラーラとアリスも、無言で俺を見る。だが、その目に宿る感情は全く違っていた。アリスの目には戸惑いが浮かび、クラーラの瞳には強い憎しみが見え隠れしている。


 復讐を自らの手で成し遂げたいという、ダミー達の気持ちもわかる。自分達を守ってくれなかったガリシア兵に対する不満もわからないでもない。


 だが、今俺達は作戦に組み込まれた義勇兵として行動している。持ち場を離れるのは、軍隊なら命令違反や職務放棄といった立派な軍事犯罪だ。


 ダミー達の気持ちもわかる。だが任務を放棄するわけにもいかない。……どうしたものかな。


「行ってこい、アルフレッド」


 判断に迷っていた俺に、そう声をかけたのはエドマンドさんだった。


「エドマンドさん……?」


 エドマンドさんは王家ミカエル騎士団の大隊長で、マーカス殿下の親衛隊隊長が内定している生粋の軍人だ。そんな彼から、任務放棄を認めるような言葉が出てくるとは意外だった。


「大通りの防衛なら俺達に任せろ。俺達も冒険者パーティ、リーフハウスの一員だろう? リーフハウスがここを防衛できるのなら問題あるまい」


 問題無いってことはないだろうけど……。だが、担当エリアの殲滅と防衛という任務を達成出来るなら、他のエリアの援護をするぐらいは許容されるか?


「それに……ダミー君達の懸念もわからないではない。ガリシア兵団は……奪還作戦ということで士気はそれなりだったが、練度は低い。私の見立てでは、東部の掌握で精いっぱいというところだろう」


「5千人もの兵がいながら……ですか」


「ああ。ガリシア兵団とは言うが、ガリシア氏族直属の兵は半分にも満たない。いくつもの氏族の私兵が寄り集まった、いわば烏合の衆だ。遅かれ早かれ、傭兵団に支援要請を出すだろう」


 そう言えば荒野の旅団のゼノも、それを見越しているようだった。ガリシア兵団が東部の掌握でまごついているようなら、いっそのこと中部に攻め込むか?


「それに、君たちは冒険者だろう? 冒険者ギルドの義務は何だったかな?」


 そう言って、エドマンドさんはニヤリと笑う。


「なるほど……『地域の安定』ですか」


 魔物が蔓延るダンジョンに嬉々として飛び込む血気盛んな荒くれ者。暴力で身を立てるヤクザ者。冒険者はそんなイメージで語られることも多い。


 そんな冒険者達のイメージをイメージを良くするたに、冒険者ギルドは冒険者に二つの努力義務を課している。一つ目は『民間人の保護義務』、二つ目は『地域安定への寄与』だ。


 『魔物を狩って地域の安定に貢献するよ。盗賊や魔物から市民を守るよ。だからそんなに怖がらないでね』ってわけだ。今回の場合、民間人はいないけど、中央部に乗り込むのは地域の安定に寄与することとも言えるか。言い訳でしかないけど。


「よし……。エドマンドさん、ビッグス、ウェッジ、ジェシー。ここは頼みました」


「任せておけ」


「了解っす!」


「竜種がゴロゴロいるってのに、物好きだねぇ」


「行ってらっしゃい。気を付けてね」


 エドマンドさん達に頭を下げてから、振り返る。目線を送ると、ダミー達はもちろん、アリスとアスカも深く頷いた。


「行こうか。中央部に攻め込むぞ!」


「おうっ!!」


 俺達は景気よく拳をぶつけ合って、中央部に向かって走り出した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ひっ、ひっ、ひいやぁぁぁー!! た、助けてくれぇ!!!」


 大通りを堂々と突き進むわけにもいかないので、俺達は街路と小路を走っていた。すると、そう遠くない場所から、叫び声が聞こえてきた。


「こっちだ!!」


 そう叫んで、ダミーが速度を上げて先行する。さすがは犬……いや狼獣人だけあってダミーは耳が良い。【索敵】の精度は、もう敵わないかもしれない。街路を二つ越えて小路に飛び込むと、そこには横たわる数名の死体と、ゴブリンと軍蟻に囲まれた兵士の姿があった。


「お、お前は!!」


 その兵士の姿を見た途端に、ダミーとメルヒの気配が急に殺気立った。




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