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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第22話 お買い物

 冒険者ギルドを出た俺たちは、まず仕立屋に向かう。今日は、この後に防具屋と魔道具屋に寄る予定だ。


「こんにちはー。頼んでた服は出来てますかー?」


「あ、お客様、お待ちしておりました。服はもちろん、お下着の試作品も出来上がっていますよ。試着されますか?」


「はいっ! お願いします」


 アスカは出迎えてくれた定員とともに店の奥に入っていく。先日、ニヤニヤと俺を見ていた店主らしきオバさんは、今日はなぜか真面目な顔をして直立不動の姿勢をとっている。


 奥から『ぴったりー!』とか『かわいいー!』とか声が聞こえてくるので、仕立ててもらった服も問題なかったのだろう。アスカは相変わらず騒がしい。


「アル! 見て見て! どう!?」


 アスカが店の奥から出て来て、くるりと回ってポーズをとる。膝丈ぐらいのゆったりとしたグレーベージュのチュニックに、細身のピッタリとした黒のボトムスを合わせ、茶色の太い革ベルトを着けている。


「うん……かわいい……」


「あ、ありがと……」


 思わず口から出た言葉に、アスカが顔を赤く染める。確かに俺のお下がりなんて着せてちゃだめだった。


 ダボダボの俺の服を着ていたもっさりとした印象から、ふわっとした可愛らしい印象に変わり、文字通り見違えた。思わず見とれてしまう。


 アスカは顔を赤く染めてうつむきながら、ちらちらと俺の顔を見て、目が合っては慌てて目をそらしている。なんてかわいいんだ!いつもの小生意気なアスカはいったいどこに行ったんだ。


「あのー、そろそろいいですかね」


 そのまま数十秒、見つめあってはアスカが目をそらすという状態を続けていたら、しびれを切らした店員が呆れたような顔つきで話しかけてきた。


「ご、ごめんなさい。お代ですよね!」


「……お代は後ほどで結構なのですが、ご相談したいことがありまして……」


 店主と店員が奥の部屋のテーブルに俺たちを誘い、紅茶とプティフールを用意してくれた。アスカはプティフールを出されると、目の色が変わり俺の分も当たり前のように奪い取りむしゃむしゃと平らげてしまった。


 苦笑いをしながら、店主がお替りを出してくれたのだが、それも一瞬で平らげる。相当に甘いものに飢えていたんだろう。


 紅茶も甘いお菓子もとても高価な物なので、なぜ俺たちをこんなにも厚遇してくれているのか疑問に思ったが、その理由は店主の話で明らかになった。


「ご相談というのは、アスカ様が着ていらしたお下着の事なんです」


 要約すると、アスカが着ていたブラジャーとパンティという下着を、この仕立屋が開発した新商品として売り出したいという事だった。


 店主は昔、王都にある貴族御用達の高級婦人服店で働いていたそうなのだが、アスカが着ていた下着は見たことも無かったそうだ。


 アスカの下着は女性の体のラインを美しく見せ、かつ扇情的であるため、売り出せば新しく美しいものが好きな貴族や商人たちに間違いなく高値で売れるだろうとのこと。


 試作品を家族や関係者に試させたところ、かなりの高評価を得たため手ごたえも感じたらしい。オークヴィルではウールの他に絹などの生地も安く仕入れられるそうで、すぐにでも製作に入れるそうだ。


 そんなこと、黙ってやればいいのにと思ったが、断ってからにしないと商人ギルドに睨まれるかもしれないからだそうだ。商人ギルドのセシリーを伴って訪れたために、俺たちの事も商人でギルドの関係者だと思っているようだ。確かに回復薬商人と言えなくも無いかもしれないが。


 アスカが二つ返事で了承したうえに、『レースをつけた方がいい』とか『赤、黒、紫色なんかも勝負事に使える』とか色々と提案をしていた。


 店主と店員は『素晴らしい発想です!』『それは盛り上がりますね!』と、興奮した様子だった。店主は提案のお礼にと、なんとアスカの洋服をタダにしてくれた上に、試作品の下着もたくさん譲ってくれた。


 ちなみにアスカが着ていた下着にはゴムという伸縮性のある素材が使われていたそうだが、それと同じような素材が無かったらしく、両脇を紐で結ぶ形に落ち着いたらしい。アスカは『憧れの紐パン!』と鼻息を荒くして興奮していた。


「ありがとうございました!」


「セシリー嬢にも、よろしくお伝えください!」


 最敬礼で二人に見送られ、一銭も払わずに服を手に入れた俺たちはホクホク顔で店をあとにした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 これには、後日談がある。後に『ジェイニー&タバサ』という高級下着専門店が、斬新かつ官能的な商品を引っ提げて王都クレイトンに出店。貴族や豪商達に大変な人気を博した。なおジェイニーは店主、タバサは店員の名前だ。


 『ジェイニー&タバサ』では『セシリィ』という胸を大きく美しく魅せる下着と、『アスキィ』という尻の形を上向きに整える下着を主戦力の商品として取り扱った。またたく間にセシリィ とアスキィの上下を着用することは、貴族の嗜みとまで言われるようになったそうだ。


 なぜブラジャーとパンティという既存の名称を使わなかったのかはわからないが、セシリィ・アスキィという名は、こういった形状の下着の名称として広く一般に認知されるようになる。


 当然、他の婦人服店もこぞって類似商品を販売したのだが、『ジェイニー&タバサ』はTバック・アスキィやハイレッグ・アスキィ、フロントホック・セシリィなどの、新商品を次々と打ち出して他店の追随を許さなかった。


 ちなみにメインストリートからは少し離れたところにあった『ジェイニー&タバサ』の一号店は、オークヴィルの広場に面する一等地に場所を移した。広い店のど真ん中にはアスカが当初つけていた下着を、『オリジナル・セシリィ』『オリジナル・アスキィ』と書かれた金のプレートと共にガラス張りで展示しているそうだ。


 後にそれを知ったアスカは、全身を真っ赤に染め上げて悶絶したことは言うまでもない。商人ギルドの才媛セシリーは本気で改名をしようかと悩んでいたとか、いないとか……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 思った以上に仕立屋で時間を使ってしまった俺たちは、次に防具屋に移動した。武器に関しては、鋼鉄製のダガー、ショートソード、短槍を持っているので購入の必要は無い。購入するのは俺の防具一式だ。


 店に入った俺たちは並べてある防具を一通り見分する。畜産が主産業のオークヴィルだけあって革製品がほとんどだ。牛型の魔物ワイルドバイソンの革を使っているらしい。


 胸部のみを覆った胸当て、胴回りまでを覆ったブレストプレート、同じブレストプレートでも袖のあるもの無いもの、バックプレートがあるものと無いもの……と様々な形状のものが置いてある。


その中から、俺はバックプレート付きで、袖の無いハードレザー製のブレストプレートを選んだ。俺の生命線でもある動きの早さを阻害しないベストに近い形状のものだ。体格に合わせたものを選んだが、ある程度は微調整が出来る。さすがにアスカほど体格差があると、調整は不可能だけど。


 あわせてブレストプレートの下に着こむソフトレザー製の薄いクロースアーマー、ハードレザーのガントレットも購入する。アスカの強い要望でクロースアーマーは黒色、ブレストプレートは黒に近い焦げ茶色だ。


 ガントレットは、狼の噛みつきを防御する盾替わりだ。バックラーやラウンドシールドと迷ったが、やはりこちらも速度重視で断念した。


 火喰い狼の噛みつきを守れるとは思えないが、腕を食いちぎられさえしなければそれでいいだろう。回復薬はたんまりあるし。


 アスカが火喰い狼の素材を加工できるか店主に聞くと、初心者冒険者丸だしな俺たちを見て、『持ってこれるものなら持ってきな。タダで作ってやるよ』と鼻で笑っていた。

 

 覚えてやがれ。タダで作らせてやるからな。アスカも『言質、取ったからね!』と息巻いていた。


 冒険者ギルドの割引も効いたが、値段は全部で金貨1枚と大銀貨5枚だった。これでも革を現地で仕入れられるから、この値段で作れるそうだ。武器や防具というのは、値が張るものだな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後に寄ったのは魔道具屋だ。ここでは仕立屋以上に長い時間がかかった。


 冒険者ギルドで教えてもらった町一番の魔道具屋だけあって品ぞろえはなかなかのものだった。俺も持っているランプやらストーブなどの家具から、宝飾品、アクセサリーなど多種多様の商品が並んでおり、どれもそれなりに値段が張りそうだった。


「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか」


 出迎えてくれた執事風の衣装を身に着けた男の顔には、あからさまに『どうせ冷やかしだろ?』といった表情が浮かんでいた。


 まあこれは致し方ないかもしれない。俺は見るからに冒険者という格好だし、アスカは新品の服とは言えちょっとお洒落な町娘といった風情だ。金を持っているようには見えないだろう。


 アスカはムッとした表情で財布から金貨を3枚取り出し、『これで買える護身用のアクセサリーを買いたいんだけど、見繕ってもらえる?』と言うとエセ執事の表情は一変し、にこやかに揉み手をしだした。……あからさますぎるだろ。


 たくさんの商品のなかからアスカが選んだのは、『オニキスのペンダント』と『マラカイトのアンクレット』だった。ペンダントには体力を向上させる効果があり、アンクレットには敏捷性を高める効果があるらしい。


 両方ともエルフの【付与師】が魔力を込めたアミュレットらしく、自慢の一品らしい。エセ執事のおススメなので正直言って胡散臭かったのだが、アスカも十分な効果があると言っていた。アスカがそう言うなら信じよう。『あーこれもかわいい!』『ちょっとデザインがなー』などと言いながら、楽しそうに選んでいたけど、まさか装身具が欲しかっただけじゃないよな? 信じてるからな?


 そんなこんなで装備品に関しては用意が整った。回復薬も十分にあるので準備は万全。もう夕方も近いし、デール達と落ち合って『山鳥亭』で夕食兼作戦会議だ。




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