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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第223話 神授鉱

「とっても美味しいのです!」


「うん。旨いよ、アスカ。ありがとう」


「うふふ、アスカちゃんも腕を上げたでしょ?」


「ああ。シチューに関してはもう敵わないな」


 エドマンドさん達とともに地竜の洞窟に潜った日の夕方、俺達はゆっくりと時間をかけて食事を摂っていた。メニューはアスカお得意のクリームシチュー。今回はオークヴィル産の羊肉ではなく蛇鱗の怪鳥(コカトリス)の肉を使った贅沢な一品だ。


 明日はレリダ奪還作戦の作戦会議が行われる予定なので、移動の足が無いエドマンドさん達は一足先に難民キャンプに向かっている。俺達はエースに乗せてもらえば明日の朝出発でも十分に間に合うので、今日のところはのんびりと休むことにしたのだ。


「アリスは焼くか煮るぐらいしか料理は出来ないのです。アスカさんを見習わなきゃいけないのです」


「ああ、ずっとランメル鉱山に籠ってたんだもんな。あそこじゃ料理なんて出来ないだろうからなぁ」


「ずぅーっと鉱山の中にいたんでしょ? すごいよね。あたしにはとても真似できないよ……」


 本当だよな。俺も始まりの森に5年も籠っていたけど、アリスが自ら身を置いた過酷な環境とはまるで違う。Cランクまでの魔物が跋扈するダンジョンなのだ。動物しかいない聖域の森とは比ぶべくも無い。


 しかも俺の場合は父が生活環境を整えてくれたし、クレアが定期的に物資を運び込んでくれた。エドガーがチェスターとの送り迎えもしてくれたし……。


 勝手にアリスに共感してたけど……共感するのも失礼なくらいだ。俺は安全な環境で、ただ自分の運命を悲観してただけだからな……。


「どうしても……スキルを使えるようになりたかったのです。でも、レベルばかりが上がって……スキルは一向に使えなかったのです……」


「アリス……」


 膝の上で握りしめたアリスの小さな手に、アスカがそっと手を重ねる。


「良かったら……話して? 聞くことしかできないけど、人に話すと少しは楽になると思うんだ……」


 アスカが優しく声をかける。俯いてしまったアリスはゆっくりと顔を上げた。


「……アリスが【鍛冶師】の加護を授かった時、一族の皆は心から喜んでくれたのです。スキルを身に付けるために、すぐに一族の戦士達にダンジョンに連れて行ってもらってレベル上げをしたのです……でも……スキルがまともに使えなかったのです」


 その後、アリスはぽつりぽつりと加護を授かってから俺達に出会うまでの経緯を独白した。


 ガリシア兵団の熟練の戦士とともにレベル上げを行ったアリスは、問題なくスキルを取得することができた。だが、発動したスキルは全くと言っていい程に、効果を発揮してくれなかった。


 岩壁や地中から鉱物を掘り出す【採掘】は、小さな石片を引き剥がすことしかできない。採掘した鉱物を選別したり、魔物素材からその特性を分離したりすることが出来る【精錬】は、ただただ素材をゴミ屑に変えてしまう。


 素材の整形・合成などをすることが出来る空間を形成する【錬炉】は、歪な空間しか造り出せず維持も出来ない。武具の鑑定を行える【武具鑑定】も、錬炉の空間で素材を整形する【鍛造】も、素材特性を武具に合成する【付与】も、発動はするのだが効果が発揮されない。


 何らかの呪いにかかっているのかもしれない。レベルが低いからかもしれない。魔力が足りないからかもしれない。ガリシア氏族の知識と経験を、伝手を、全てを総動員して、アリスがスキルを使えない原因を探った。


 試せることはほとんど試した。レベルを上げた。高位の神官を呼び解呪を施した。魔力増強の魔道具を装備してみた。だが、アリスはスキルをまともに発動することが出来なかった。 


 それでも諦めなかったアリスだったが、1年後にガリシア氏族の支援は唐突に打ち切られた。従妹のイレーネが【鍛冶師】の加護を授かったからだ。


 血統上の族長継承権は、アリスが一位、フリーデが二位、そしてイレーネが三位だった。だが、フリーデは鍛冶職の加護を持っていないため族長の座を引き継ぐことは出来ない。一方、アリスは【鍛冶師】の加護を授かっているがスキルをまともに発動することが出来ない。


 そんな中、継承権を持つ者の中に新たに【鍛冶師】の加護を得た者が現れたのだ。一族の期待はイレーネに集中し、それまでアリスの支援に回されていた人材と資源は、イレーネの成長のために費やされることになった。


 そして、イレーネは一族の期待を一身に背負い、それに応えた。


「正直に言うと……ホッとしたのです。出来損ないのアリスが族長になったら、ガリシアは他の氏族から愛想をつかされてしまうかもしれなかったのです。優秀なイレーネが族長になれば、ガリシア氏族の未来は安泰なのです」


「えっ? アリスは……族長になりたかったから、加護を……スキルを鍛えてたんじゃなかったの?」


 それまで、ただ相槌を打ってアリスの話を聞いていたアスカが口をはさんだ。


 ……俺も、そうだとばかり思っていた。そうでなければ、なぜアリスはあんなにも過酷な環境に身を置いたのか。


「族長になりたい……とは思っていたのです。父様はそう望んでいたから、アリスもそうなりたいって……。でも、アリスがスキルを使いたかったのは、族長になりたかったからではないのです」


 それなら、なぜ? そう問いかける俺とアスカの目線に、アリスはゆっくりと頷いた。


「……アリスには夢があるのです。ガリシア一族に伝わる奇跡の(ディヴァイン)鉱物(マテリアル)『神授鉱』(オリハルコン)。神授鉱を用いて奇跡の武具を創造する。それは、ガリシア一族の悲願なのです。……アリスの夢、だったのです」


「神授鉱……」


「オリハルコン……WOT(ワールドオブテラ)にも……あったんだ……」


 俺とアスカが同時に呟く。俺は初めて聞く言葉だったが、アスカは聞いた事があるようだ。


「アリスが幼い頃に亡くなった母様が、よく口にしていたのです。アリスは神授鉱から奇跡の武具を創造することが出来る。そう、天啓を授かったと……言っていたのです」


「天啓!?」


 龍の従者が、神龍から授かると言う啓示。それをアリスの母が授かっていた……!?


「……今となっては、本当に天啓を授かったのか、幼かったアリスに話して聞かせた御伽噺だったのか……わからないのです。でも……母様……先代の族長ルイーズ・ガリシアは最期の時にも、アリスの手を握って願ったのです。ガリシアの悲願を成して。アリスなら出来るって……そう言って、微笑みながら逝ったのです」


「…………」


「ガリシア氏族のことはイレーネに任せられる。そう思って、アリスは家を飛び出して、ランメル鉱山に潜ったのです。アリスがスキルを使うと貴重な鉱物や素材を無駄にしてしまうのです。役立たずのアリスのレベルを上げるために、氏族の戦士達を付き合わせ続けることも出来ないのです。だから、一人で鉱物と素材を集めて、レベルを上げるために、鉱山に潜り続けたのです」


 神龍の啓示、母の願い、そしてガリシア氏族の悲願。それがアリスの原動力だったのか……。


 族長になりたいなんて俗物的な願いではなく。ただ一族と、母のためだけに、たった一人で苦行に挑んだのか……。


「アリスは、母様の願いを叶えるために、ガリシアの悲願を叶えるために……どうしてもスキルが使えるようになりたかったのです。でも……アリスは結局、スキルを使えるようには……なれなかったのです」


 そう言って、アリスは力なく微笑んだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌日、難民キャンプのガリシア氏族のゲルで、レリダ奪還に向けての作戦会議が行われた。本来であれば俺は一介の冒険者に過ぎないのでこの会議に参加できないのだが、族長のジオットに請われてエドマンドさんとともに傍聴人として立ち会っている。


「先に説明した通り戦力を3つに分けてレリダに攻め込む。北門は荒野の旅団(ヴァルド・イェーガー)、南門は冒険者ギルド義勇兵、そして最も兵数の多い我らガリシア兵団が東門から突入する」


 会議を取り仕切っているロレンツの言葉に、それぞれの団体の代表者が首肯する。嫌なヤツだけど、ロレンツはジオット族長の参謀のような立場らしい。嫌なヤツだけど、けっこう偉い立場のヤツだったんだな。嫌なヤツだけど。


「各団体の代表者から簡単に挨拶をしてもらおう。では、ジオット族長、お願いいたします」


 ロレンツが一歩下がり、上座に座っていたジオット族長が立ち上がった。


「ガリシア氏族の族長、ジオット・ガリシアだ。ガリシア兵団を統率するとともに、本作戦の将を務める。諸君らの奮闘に期待する」


 ジオット族長が簡潔に挨拶をすると、続いてパウラが立ち上がった。


「冒険者ギルド、レリダ支部臨時ギルドマスターのパウラだ。私がギルド義勇兵を統括する。冒険者はパーティごとに南部にいる魔物の殲滅に当たり、その後は防衛に回る。私のパーティは南門付近を担当する予定だ。よろしく頼むよ」


 パウラの説明の通り、冒険者義勇兵はパーティ単位でレリダの南部にいる魔物の殲滅に当たる。南部を細かくエリア分けし、冒険者パーティごとに担当エリアを振り分けるのだそうだ。


 本来なら戦力の分散は避けるべきだろうが、普段バラバラに動いている冒険者を班や分隊に編成し直しても、本来の力を発揮できないだろうし、その指揮も難しいだろう。それなら連携に慣れたパーティごとに、決められたエリアの攻略と防衛に回った方が良いと判断したそうだ。


 ちなみに俺とアスカ、アリスは、ダミー・メルヒ・クラーラの孤児院3人組とパーティを組む予定だ。孤児院組は斥候・拳士・槍使いのパーティだから、組み合わせがあまり良くない。俺が盾役・アスカが回復役を担当すれば、かなりバランスが良くなる。


 エドマンド・ビッグス・ウェッジ・ジェシーの王家騎士団4人組とは同じエリアを担当する予定だが、基本的に彼らとは別れて行動する予定だ。彼らは前衛と後衛のバランスがいいし、個々の力量も高い。地竜を軽々と倒していたぐらいだから、二手に分かれて行動しつつ緩く連携した方が効率が良いだろう。


「旅団長のゼノだ。俺達は団員3千名を率いて、北部エリアを制圧する。中部エリアの制圧はガリシア兵団に任せるが……手が回らないようなら支援要請してくれ。もちろん、対価は頂くけどな」


 パウラに続いて立ち上がったのは、『荒野の旅団』の旅団長のゼノと名乗る男だ。狼型の獣人なのだが……なんというかケモノ度が濃い。顔周りは央人より彫が濃いかなと思えるほどだが、手足や首回りはふさふさとした毛に覆われている。


 薄い笑顔を浮かべていて、なんとなく飄々とした印象を受ける人物だ。小馬鹿にされたと受け取ったのかガリシア兵団の面々が顔を顰めて睨みつけているが、意にも介して無さそうだ。


「続いて傍聴人を紹介する。セントルイス王国からの支援物資を運んでくれたミカエル騎士団大隊長エドマンド・イーグルトン殿。そして冒険者、『魔人殺し』のアルフレッド殿だ」


 エドマンドさんと俺は立ち上がり一礼する。エドマンドさんが紹介された時には柔らかい拍手が鳴ったのに、俺の紹介の時には息をのむ声とどよめきが起こった。そりゃ、『龍の従者』ではピンと来ないからかもしれないけど……そんな物騒な二つ名で呼ばれたらねぇ……。


 その場にいる全員から驚嘆と畏怖がこもった目が向けられている気がする。ゼノだけは爛々と目を輝かせてこっちを見てるけど……変な趣味があるわけじゃないよな?


 その後は、作戦の詳細が語られ、細かい段取りの打ち合わせが行われる。1時間ほどの話し合いが続いた後に、ロレンツが立ち上がった。


「作戦開始時刻は正午。本陣からの銅鑼の音と共に突入を開始してくれ。議題は以上だが、何か質問がある者は……いないな? では、以上で本会議を終了する。諸君の健闘を祈る」


 そう言って、ロレンツは作戦会議を締めくくった。




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