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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第216話 仕組まれた婚約

「ふんっだ。デレデレしちゃってさー!」


「……してねえっつーの。むしろヒヤヒヤしたわ」


 二日後、俺達は支援物資を受け取りにラファエル騎士団の本部へと向かっていた。


「どうだかねー? 昨日はテレーゼちゃんと二人で楽しくお茶会だったんでしょー? あーんな綺麗な子と二人っきりで! ゆうべはおたのしみでしたね!!」


「ア、アスカだってマーカスきゅんに王城を案内してもらってたんだろ!?」


「あたしは後ろめたい事なんて、なぁんにもありませんー!!」


「俺だってねぇよ!」


「どーこーがー? ウェイクリングの後継ぎにはならないんじゃなかったっけー? ちゃっかりテレーゼちゃんをいただいちゃってー」


「ぬぐっ……へ、陛下が勝手に話を進めてたんだから俺にはどうしようもないだろ! そっちだってマーカスきゅんから、あからさまにベタベタされてたじゃないか!」


 アスカは朝から非常に機嫌が悪い。それもこれも、特大の爆弾を落としてくれた陛下とマーカス王子のせいだ。


 陛下が落とした爆弾は、もちろんテレーゼ様との婚約の件。そしてウェイクリング家が伯爵から辺境伯に陞爵していたことだ。これは領都チェスターで魔人族を討伐したこと、そして王都でも長子の俺が魔人族撃退に貢献したことが評価されたそうだ。


 だが、このウェイクリング家の陞爵は、本来有り得ない。


 男爵や子爵程度なら、領地開拓に成功したとか、新たな交易路や航路を整備したといったことで陞爵されることはある。だが伯爵や侯爵といった上位貴族の爵位が上がることなど滅多にないことなのだ。


 他国との戦争に勝って新たな領土を得たとか、複数の領地を跨ぐ大規模な内乱を鎮めたといった大きな功績が無いと、上位貴族が陞爵することは無いからだ。


 例えば、魔人族の率いる魔物の群れがいくつもの町や都市を滅ぼし、それを他領の貴族が鎮めたということなら陞爵も考えられるだろう。


 都市や町の領主には、王家に任ぜられた領地の防衛義務がある。防衛に失敗した責任を負わなければならないので、降爵は免れない。場合によっては奪爵されることもある。


 そして降爵や奪爵により浮いた土地は、平定した貴族に分配される。分配された土地の広さや重要度によっては、陞爵されることもあるだろう。


 今回の魔人族の襲撃は、確かに大事件ではあった。チェスターでも、クレイトンでも、多くの命が失われた大惨事だった。だが過去に多くの都市や町が魔人族によって滅ぼされた事を考えると、被害は少なかったと言う事も出来る。


 チェスター・クレイトンともに一日で撃退に成功しているし、分配される土地も無い。本来なら、爵位はその領地に結びついているものなので、陞爵は有り得ないはずなのだ。


 それなのに、ウェイクリング家は伯爵から辺境伯に陞爵している。


 その意図は、ウェイクリング家の家格を侯爵と同等にまで引き上げるため、そしてウェイクリング辺境伯領を俺に引き継がせてテレーザ王女を降嫁させるためのようだ。そのために父アイザックを貴重な転移石を使ってまで王都に呼び出し、俺達がガリシアに行っている2か月弱の間に陞爵を済ませてしまったのだ。


 本来なら、さすがの陛下であっても臣下の跡取りに口を出すことはない。後継者の選定は貴族当主が決定する事だからだ。


 だが父アイザックは【剣闘士】の加護を手に入れた俺を、再び後継者に返り咲かせようとしていた。しかもテレーゼ王女を頂けるとなれば、反対するわけが無い。知らないうちに完璧に根回しがされていたのだ。



 そして、マーカスきゅんが落とした爆弾。あのヤロウ、よりにもよってアスカに求婚しやがったのだ。正式な婚約者は既に決まっているため、側室として迎えたいなどとのたまいやがった。


 しかも陛下がマーカス王子に続いて、ニヤニヤと笑いながらこう言ったのだ。


「なあ、アルフレッド。アスカ殿はアストゥリア帝国の貴族の娘なのだろう? 正室というわけにはいかんが、側室として迎えようではないか」


 陛下の顔を見てすぐに分かった。陛下はアスカが帝国の貴族ではない事(・・・・・・・・・・)に気付いている。クレアがついてくれた嘘は既にバレていたのだ。 


 以前、マーカス王子の親衛隊への誘いを、どうやって断ろうかと返答に窮していた俺のために、クレアは陛下に嘘をついてまでかばってくれた。『魔法都市エウレカの貴族、ミタニ家の令嬢アスカを無事に送り届けなければならない』と。


 ウェイクリング家の跡取りでも無い子息が、お忍びで訪れていた帝国貴族の子女を送り届ける……それぐらいの事だったら、アスカの事をわざわざ調べようとはしなかっただろう。


 だが、俺とアスカは王都で目立ちすぎてしまった。しかも二人とも『火龍の従者』に認定されてしまったのだ。


 アスカの素性を調べるために、アストゥリア帝国の外交官に問い合わせるぐらいはするだろう。そうすれば、ミタニ家なんて貴族は存在していないことぐらいすぐわかる。


 アリンガム家の使者として謁見した際に、陛下に嘘をつく。そんな事が許されるわけが無い。下手したらクレアの首が飛び、アリンガム准男爵家が奪爵されてしまうかもしれない。


 さすがにアスカへの求婚については、既に俺とアスカが男女の仲であることをそれとなくお伝えして、丁重にお断りした。貴族、特に王族は婚姻相手に純潔を求めることもあり、婚約はすぐに撤回してくれた。マーカスきゅんは残念そうな顔をしていて、ならば妾でもとか言い出しそうな雰囲気があったけど。


 もちろん陛下は、俺とアスカが男女の仲であることも知っていただろう。ちょっと調べれば王都滞在中にずっと同室で宿暮らしをしていたことぐらいわかるだろうし、その後も二人きりで旅をしているのだ。

 

 それを知っていながら第一王子との婚約をふっかけたのだ。つまり『お前、後継ぎにならないとか、テレーゼとの婚約を断るとか言わせねえからな。断ったらアリンガム家がどうなるかわかってんだろうな? 俺に嘘をつきやがったんだぞ?』ということだ。


 ウェイクリング家を継ぐつもりは無いなんて言えるわけが無い。俺は『今は天命を全うすることに集中したい。その後の事は全てが終わってから』と問題を先送りする事しかできなかった。


 まさか『龍の従者』である俺と王家に縁を作るためだけに、ここまでするとは思わなかった。陛下には、してやられたとしか言いようが無い。

 

 


 そして、アスカはただいま盛大にご立腹だ。恐らく『クレアをフっておいて、テレーザと婚約するからウェイクリング家の跡を継ぐ? はぁ? 何考えてんの?』といったところだろう。


 クレアがついてくれた嘘の件はアスカにも話してあるので、丁寧に説明すれば、なんで俺が婚約を拒否しなかったかはわかってくれるだろう。だが王城での宿泊は別室だったし、翌日はテレーゼ王女に王城案内だのお茶会だのに引っ張りまわされて、説明する機会が無かったのだ。


 しかも今は同行者がいるから詳細を説明するわけにもいかないのだ。


「アルフレッド君、アスカ殿……。王子と王女に対して、テレーザちゃんとマーカスきゅんは無いだろう。君たちの関係は聞いているが、さすがに慎みたまえ」


 同行者はエドマンド・イーグルトンさん。ミカエル騎士団の大隊長を務めていて、先の魔人族の撃退にも大活躍した騎士だ。王家のミカエル騎士団で騎士団長を務めていた俺の叔父の元部下でもある。今回は、数名の部下を連れてガリシア氏族への使者として同行することになった。


「……失礼しました」


「……ふんっだ」


 そんなわけでアスカに事情も話せていない。二人きりになったら説明したいとは思っているのだが、ご立腹中のアスカはひたすら喧嘩腰だ。


 アスカからすれば腹が立つのもわかる。だけどさぁ、アスカだってマーカスきゅんの求愛行動にまんざらでもなさそうだったじゃないか……。テレーゼ様の事は、俺にはどうしようもないっつーの。




二つ目のレビュー頂きました!

shibaさん、ありがとうございます!!

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