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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第21話 テンプレ展開

「テンプレ展開、来たぁ!」


 両手で口を押えてニヤニヤ笑いながら絡んできた冒険者を見るアスカ。やめてくれよ……タダでさえめんどくさそうなヤツらなのに……。


「あん? 何を言ってやがる? 嬢ちゃん、舐めてんのか?」


「あまり調子に乗ってると……って、お? けっこう可愛い子じゃねえの」


「へぇ、男物の服着てるから気付かなかったが、まあまあじゃん」


「ねぇ君さあ、こんな頼りねえヤツと一緒にいないで、俺らのパーティに入らねえ?」


「そうだな。俺らが、いい思いさせてやるぜ? イロイロとな?」


 そう言いながら無精ヒゲの方が馴れ馴れしくアスカの肩に手を回そうとした。おっと。出来るだけ穏便に済ませたかったけど、そういうわけにはいかないかと思った瞬間……


「きっも!! 汚い手で触んないでよ!」


 アスカは肩に手を置かれた瞬間に、男の手を払う。ふふっ。さすがアスカだ。


「って……ざっけんな、このアマ!」


 無精ヒゲは 顔に激憤の色をみなぎらせて、手を振り上げた。おっと、させないよ? 俺はアスカの頬を張ろうと振り下ろされた手を、がっちりと掴む。


「……いって、てめえ、放せっ!」


 無精ヒゲは俺の手を振りほどこうとするが、俺も手首をがっちり掴んで放さず、睨み合う。すると横にいた尖りアゴの手が腰に帯びた剣の柄に手を伸ばす。おいおいおい。こんなところで剣を抜くつもりか?


「おいっ! 何やってんだお前ら!!」


 冒険者登録しようとしていたのに刀傷沙汰はさすがにマズいなと思っていたら、思わぬところから助けが入った。なんとデール達の登場だ。今日は休んでおくんじゃなかったのか?


「アスカに手えだすつもりなら、わたしたちが相手になるよ」


「ボッコボコにしてやるニャ」


 デール、ダーシャ、エマの3人が間に入り、尖りアゴはすぐに柄から手を離す。無精ヒゲも手の力を緩めたので、俺も手を離す。


「ちっ。聞いたぜデールよぉ? 火喰い狼に手も足も出なかったらしいじゃねえか」


「そんなんで、よくデカい顔してられんなあ??」


「確かに火喰い狼には勝てなかったけどな。だけど、お前ら程度なら簡単に片付けられると思うぜ?」


 デールは目じりをぴくっと吊り上げたが、すぐに言い返す。どうやら無精ヒゲと尖りアゴよりも、デール達の方が格上みたいだ。


「ふんっ。白けたな。行くぞ」


「じゃーな、『草むしり』ちゃん。また会おうぜ?」


 二人組は俺とアスカを一睨みしてから、丸テーブルの方に去って行った。


「助かったよ、デール、ダーシャ、エマ」


「ありがとう!みんな!」


「いや、このぐらいなんでもないよ。気にしないで」


「アルなら、あいつらぐらい簡単にあしらえたんじゃないか?」


「そうニャ。あいつらオークヴィルの嫌われ者ニャ。ベッコベコにしちゃえば良かったニャ」


「いやいや、仮にも相手は冒険者だからな。そういうわけにもいかないだろ」


 アスカも連れているのに喧嘩を買うのもね。そもそも、登録に来たのにそんな騒ぎは起こしたくない。俺は苦笑いをして話を流した。


「で、火喰い狼討伐のために冒険者登録に来たのか?」


「ああ。話はアスカから聞いた。討伐に協力してくれるんだろ? よろしく頼むよ」


「もちろん! あいつには痛い目を見せられたから、借りを返したいとこだったんだ」


「ギッタギタにしてやるニャ」


「よろしくねー。回復薬たっくさん作って行くから、治療はまかせといて!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 デール達とは打ち合わせのために夕食を一緒にすることになり、いったん別れた。すったもんだあったけど、やっと冒険者登録だ。この後に服と防具を準備しなきゃいけないのに、余計な手間を取らせやがってアイツら。


「冒険者ギルドにようこそ。お話が聞こえたのですが、冒険者登録でよろしいですか?」


「はい。お願いします」


 なんだよ。聞こえてたんなら、止めに入れよ受付。まあ、女の子があんな荒事を収めるのは難しいかもしれないけどさ。隣のカウンターの男を睨んだら、慌てて目をそらされた。


「それではこちらの書類に記入をお願いします。代筆は……いりませんね。あっ、お連れ様も登録されますか?」


「あたしは登録しませーん」


 アスカは登録しないことにした。戦闘系の加護を持たないものは冒険者登録は出来ないからだ。薬師ってことにしてあるし、JKってなんだよって話になっちゃうだろうからな。


 俺は渡された書類に必要事項を書き込んでいく。書くことはたいして無く、名前と加護、出身地ぐらいだ。


「ええと、アルフレッドさん、盗賊の加護、チェスターのご出身ですね」


 ここもウェイクリング伯爵領の一部だから、家名のウェイクリングは伏せておいた。伯爵家から除籍されているから、すでにウェイクリング姓は名乗れないんだけどさ。


「ご記入、ありがとうございます。では、簡単にギルドのご説明をさせていただきますね」


 受付の女性は淡々と説明をしてくれた。曰く、冒険者ギルドは国や領主、貴族や商会などの団体や個人からの依頼を仲介し、冒険者に斡旋している。依頼の内容は魔物由来の素材収集や薬草などの採集、荷物運びの短期依頼から護衛まで多岐にわたる。


 そして冒険者ギルド自体が出している依頼が、魔石の収集と賞金首ハントだ。この依頼の達成がギルドへの貢献として最も評価される。


 魔石とは、魔物の心臓あたりに宿る小石のようなもので、大きさは小指の先くらいの小さなものから、手のひらサイズの大きな物まである。弱く小型の魔物からは小さく濁った魔石しか取れないが、強く巨大な魔物からは大きく透き通った魔石が取れる。手のひら大のものともなるとかなり高額で、俺もお目にかかったことは無い。


 魔石は様々な物に利用されているが、多くは魔道具の動力や薬品の材料などになる。森番小屋で使っていたランプや薪ストーブにも使われている。


 何度も使用すれば砕けてしまうが、魔力を補充しながら使用すれば長持ちさせることもできる。薬品の素材として使った場合は、その薬効を向上させることが出来るそうだ。


 デール達を助けた時にレッドウルフの魔石を3個手に入れたけど、俺たちはほとんど魔物狩りをしないのであまり手にすることがない。冒険者は魔石や魔物素材をギルドに売却して生計を立てるのが普通なのだろうけど、俺たちは回復薬で生計を立てられそうだから何とかなりそうではあるけど。


「冒険者はAからGまでの7つのランクがあります。冒険者ランクは魔石のランクに準じておりまして、ギルドに売却した魔石のランクと個数によって冒険者ランクを決定しています。例えば、アルフレッドさんはGランクからとなりますが、Eランクの魔石を一定数を売却していただければランクは一気にEまで上がります」


 なるほどね。だとすると、今のところ魔物狩りをしない俺たちはランクをほとんど上げれなくなるな。


「魔石は使い道が多いですから、ギルドに売却されない方も中にはいらっしゃいます。その場合は依頼を一定数こなして頂ければ、ランクを上げることは出来ます。どうしても魔石の売却より、ランクアップは遅くなってしまいますが……」


 要するに、冒険者ギルドは魔石を出来るだけ売却してほしいわけだ。魔物からしか手に入れることが出来ない魔石を独占れば、莫大な利益を得られるだろうしな。


「ランクを上げることでどんなメリットがあるんですか?」


「ギルドと提携している様々な商店で、割引サービスが受けられますね。例えばこの広場にある宿は私どもと提携しておりますので、冒険者は最低でも1割引で利用できます。Aランクにもなれば半額で利用することが出来ますね」


 それはすごい。最初から冒険者ギルドに登録しておけばよかったな。たった1割でも宿に泊まる機会が多い冒険者からすれば、かなりありがたい。


「また高ランクの冒険者になれば、高額な報酬が保証される王家や貴族からの依頼を受けることも多くなります。そういった依頼をこなし、王家や貴族の覚えが良くなれば、士爵として召し抱えられることもありますね」


 ああ、そう言えば伯爵家の騎士や兵士の中には、冒険者上がりという人も多かったな。なるほど、依頼を出してコネを作り、優秀な冒険者を引き抜いていたのか。


「説明は以上ですが、何かご質問はございますか?」


「今のところは大丈夫です」


「では、冒険者タグを作りますので少々お待ちください」


 そう言って受付の女性は手元に置いてあったプレス機のようなものをガチャンガチャンと音を立てて使い始めた。


「はい、どうぞ。こちらが冒険者タグです。再発行は有料となりますし、時間がかかりますので、紛失にご注意ください。この穴に紐を通して首から下げる方が多いですよ」


「わぁ。ドッグタグだ! 冒険者証ってこういうのだったんだねぇ」


 受け取った冒険者タグは5、6センチほどの楕円状の金属板で、先端に小さな穴が開いていた。金属板には冒険者ランクと8桁の数字、氏名、出身地のみが刻印されている。数字はたぶん冒険者の個人ナンバーなのだろう。ずいぶん簡単な物なんだな。


「手続きは以上です。魔石や素材が手に入りましたら、ぜひギルドまでお持ちください」


「あ、それなら、これを引き取ってもらいたいんですけど」


 アスカはデール達を助けた時に手に入れた素材を、偽魔法袋から取り出す。


「レッドウルフの牙と毛皮、魔石ですね。レッドウルフの毛皮は1枚あたり大銅貨5枚、牙は一対で大銅貨3枚です。魔石はEランクですので一つ銀貨2枚で引き取らせていただきますね。全て3つずつですので……合計で銀貨8枚と大銅貨4枚ですね。よろしいですか?」


 合計で8400リヒトか。森番の給金なら4か月分だというのに、そんなものかと思ってしまう自分にびっくりするな。アスカが回復薬を量産して、一日で5万リヒトぐらい稼いでしまうから感覚がマヒしているな。


「はい。お願いします」


「では、こちらが代金です。それと、レッドウルフは冒険者ギルドから討伐依頼を出しておりますので、依頼達成の扱いとさせていただきます。冒険者ランクが一つ上がりFランクとなりますね。打刻しますので、冒険者タグをお借りできますか?」


「えっ? これだけで上がるんですか?」


「はい。もともと最低のGランクは、荷役や薬草採集などの安全な初心者向けの依頼をこなして頂くランクですから。魔物の討伐をされるようならすぐにランクは上がりますよ。それに、レッドウルフはEランクの魔物ですから。レッドウルフの魔石をさらにいくつかお持ちいただければ、すぐにEランクまで上がりますよ」


 意外と簡単に上がるんだな。とは言っても、それは初心者のうちだけだろう。たぶんG,Fランクが初心者、E,Dランクが一人前、C,Bになると上級者、Aが一流ってところなんだろうな。


 俺は冒険者タグの刻印をFランクに直してもらい、冒険者ギルドを出た。さて、今から買い物だ。火喰い狼との戦いに向けて装備を整えないとな。




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