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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第213話 食料調達クエスト

 日干し煉瓦を積み重ねて作った粗末な庁舎。床は張られず地面のまま。樽に板をのせたテーブルと、椅子代わり並べられた木箱。


 これが武具製造だけでなく石材加工の本場としても世界に知られる鉱山都市レリダのギルド支部なのだから、土人族(ドワーフ)の苦難の程がわかる。むしろ、レリダ陥落から1か月程度しか経っていない中で、支部の体裁を整えただけでも良くやっていると言えるかもしれない。


 そんな冒険者ギルド・レリダ難民キャンプ特設支部で、パウラと俺達は向かい合って座っていた。


「あらためて食料調達を正式に依頼したいんだよ」


「地竜の洞窟に戻って欲しい、ということか?」


 別にそれは構わない。ガリシア氏族が主導すると言うレリダ奪還作戦の準備が整い、実行されるまでは特にする事も無いのだ。ランメル鉱山でダミー達が問題なく稼げるかどうかを見守った後は、ガリシア自治区の転移陣に行くことぐらいしか予定は無かったのだ。


「いや、違う。出来れば、あんた達にはセントルイス王国の王都クレイトンに行ってもらいたいんだ。セントルイスの転移陣には行ったことがあるだろ?」


 そう言ってパウラは、魔法陣が刻まれた手のひら大の白い石をカウンターの上にごろっと並べた。


「転移石? 王都にお使いってこと?」


 こてんと首を傾けてアスカが言う。


「そうだ。アンタら、セントルイス王国から国宝級の魔法袋を借りてるって話じゃないか。それで穀物を仕入れて来てもらいたいんだが……」


 パウラの話を聞くと、冒険者達の活躍で魔物肉の調達はそこそこ出来ているが、穀物類の調達の目途はまだついていないそうなのだ。


 ガリシア自治区が位置するガリシア高地、別名地龍の大地(ラピス・ハイランド)には広大な草原が広がっているが、水源には恵まれていないので農耕にはあまり適していない土地らしい。河川や湖などがある一部の地域では小麦栽培が盛んに行われているが、その生産量はガリシア自治区の胃袋を満たすには程遠いそうだ。


 そのため穀物の供給は主にセントルイス王国からの輸入に頼っているのが実情らしい。冬が終わり、ナバーラ山脈を越えられるようになった隊商が続々とレリダの難民キャンプに到着し穀物を持ち込んだが、レリダ陥落で多くの備蓄穀物を失った難民キャンプではまだまだ足りそうに無いそうだ。


「冒険者ギルドを通して、ガリシアに近いセントルイスの辺境伯には大金を積んで穀物の追加を依頼してる。さっそく輸送を開始してくれてるけど、到着は早くてもあと1カ月はかかっちまう。それまで食糧が持ちそうに無いんだ」


 陥落した鉱山都市レリダの食糧庫から難民キャンプ2週間分ほどの穀物は持ち出すことが出来たと聞いたのが、すでに1週間以上前の事だ。隊商からも1週間分ほどは調達できたらしいが、プラスマイナスゼロで全く備蓄は増えていないわけだ。


「実際のところ、その魔法袋はどのぐらい持ち運べるんだい?」


 なるほど、そこで地竜肉を大量に持ち運んだ魔法袋(偽)に目を付けたってわけか。


 うーん、どう回答しようかな。アスカは『任せた!』って顔でこっちを見てる。


 俺達は地竜の洞窟で倒した40匹分ほどの地竜肉をギルドに納品している。最も多く納品した日で9匹分だったけな?


 地竜は1体あたり5トンほどの重量があるが、食用に出来る肉は1体あたりだいたい1.5~1.7トンぐらいだ。ってことは少なくとも9匹分で15トンぐらいの容量があるって事は既にバレてるんだよな。じゃあ、とりあえず……


「たぶん20トンぐらいは入るんじゃないかな?」


「にじゅっ……マジかよ!? とんでもない量だな……」


「あまり口外しないでくれよ? 万が一、この袋を奪い取ろうとするヤツが現れると面倒だ。国家間の問題にも発展してしまうだろうしな」


 俺は首から下げた白銀(ミスリル)のプレートタグを革鎧の首元から引っ張り出しつつ、念押しする。王家の紋と俺の名前が刻まれた『セントルイスの紋章』だ。


 白銀の鎖には一緒に冒険者タグも通してある。冒険者タグの方は黒鉄(アイアン)製なので、いまいちバランスが悪い。Bランク冒険者になると白銀製らしいから、おさまりも良くなるかな?


「ああ、わかってるよ。この話は地竜の洞窟に派遣している職員たちにも、漏らさないように厳命してある」


 そう言うとパウラは木片と羽ペンを取り出して、なにやら計算をし始めた。計算は得意ではないようで頭をガリガリと掻きながら、木片に数字を書き込んでいる。待っていると日が暮れそうなので俺も頭の中で計算してみた。


 机の上に載っている転移石は合計8個。1回に20トンを運べるとなると、4往復で計80トンは運べる事になる。


 小麦でパンを焼くとして、一人あたりー日分で300グラムぐらいだろうか。難民キャンプにいる2万人もの人たちに配給するとしたら1日当たり6トンもの小麦が必要になる。魔法袋の容量が80トンとしたら、概ね2週間分の食糧が調達できるわけだ。


 俺がそう説明すると、パウラは満面に喜色を浮かべた。


「すげえ!! それなら追加が来るまで、持ちこたえられそうだ! 頼めるか!?」


「それは構わないが……量が量だからな。王家に伝手があるとは言え、簡単な事じゃないぞ?」


 なんたって合計80トンの小麦だ。


 王家だけでなく、王都クレイトンで食品の商会を経営するボビーや、ヘンリーさんの妻で商人ギルドのマスターでもあるシンシアさんの伝手があるから、用意は出来ない事も無いだろう。


 だけど、この量を用意するとなると、王都の食糧事情や穀物の相場にすら影響が出てしまうかもしれない。ガリシアへの食糧支援という側面もあるのだから、王家に話を通しておかないと後々に問題になりそうな気もする。


「そ、そうだな……。ならジオット族長に一筆書いてもらうか……?」


「ああ、それならこれを渡しておいてくれ」


「ん、なんだ? うげっ、この封蝋の印は!」


「セントルイス王国の国王、カーティス・フォン・セントルイス陛下より預かった俺の紹介状だ。俺が何の目的でガリシア自治区に来たのかが書いてある」


「……目的? アンタ、レリダ奪還作戦に参加するために来たんじゃなかったのか?」


「まあ、それも目的の一つだけどな。とにかく、これをガリシア氏族の族長に渡してくれ。そのうえで、族長が支援要請の手紙でも書いてくれれば、陛下は食糧支援をしてくださるだろう」


「アンタ……もしかして、かなり……偉い人だったり? まさか貴族とか……」


「ああ、それと、これだけ転移石があれば100トンぐらいは運べると思う。それも族長に言っておいてくれ」


 実際には、アスカのアイテムボックスには100トンどころか恐らくほぼ無尽蔵の容量がある。同じものは99個までしか入らないという制限はあるが、容器を変えればいくらでも収納できるのだ。


 例えば1~2リットルぐらいの水が入る瓶と50リットルの水瓶は、それぞれ99個ずつ収納できる。10キロほどの麦袋なら99個で990キロ。1トン弱しか運べない。だが1トン強の容量の木箱を99個用意すれば、ざっと100トンの小麦を一気に運べるわけだ。本当に無茶苦茶なスキルだ。


「マジか!? じゃあ、族長に説明するから、アンタも一緒に来てくれよ!」


「いや、ちょっと用があるから謁見は後日な。食糧を運び終わったら、報告がてら挨拶させてもらう」


「ああ、わかった……。じゃあ、ジオット族長に頼みに行って来るから、あんたは夕方前ぐらいにまたここに来てくれ!」


「ああ」


 そう言うと、パウラは冒険者ギルドを空にして駆け出して行った。本当は同行してもいいのだが、一度ランメル鉱山に戻って数日間は留守にするとダミー達に伝えておきたかったのだ。おそらく今ごろダミー達は鉱山に潜っているだろうから、子供たちに言伝しておけばいいだろう。


 俺達はギルドを出て、再びランメル鉱山に向かってエースの背中に飛び乗った。




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