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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第208話 クラーラ,メルヒ,&ダミー

「そこで、我らがヒーロー、メルヒが満身創痍のクラーラの前に立ち塞がる!『俺が相手だ! このトカゲ野郎!!』ってな!」


 ダミーが身振り手振りを交えて孤児院の子供達に熱弁をふるう。子供達も臨場感たっぷりの血湧き肉躍る竜殺し(ドラゴンスレイ)の冒険譚に、目を輝かせている。


「かっこいいーー!!」


「メルヒ兄ちゃん、すごーい!」


「い、いやいやいや! ぼ、僕そんなこと言ってないでしょ!?」


「似たようなセリフだったじゃないか。多少、言葉遣いが違うくらいかな? その後の【牙突】(ブリッツ)も素晴らしかった。地竜(グランドドラゴン)の突進を真正面から弾き返すんだから」


 臆病なメルヒが身体を張って前に出て、見事に放ってみせた会心の一撃。あれが今日の勝負を決めたといっても過言じゃない。


「うん、メルヒ、かっこよかったよ! 惚れなおしちゃった!」


「そ、そうかな……えへへ」


 にっこりとメルヒに微笑みかけるクラーラ。そしてだらしない笑みを浮かべるメルヒ。


「わぁー! メルヒ兄ちゃんとクラーラ姉ちゃん、あっつーーい!!」


「キャーーッ!! クラーラ姉ちゃんも、かーわーいーいー!!」


 子供達が騒ぎだし、メルヒが顔を赤くする。クラーラの方は余裕の笑みを浮かべ、子供達に向かって可愛らしいポーズを決めている。


「おいおーい! オレの活躍も忘れんなっての!」


 メルヒとクラーラに黄色い声を浴びせる子供達に、ダミーがぼやく。そうなんだよなぁ。斥候職って、こういう時に脚光を浴びれないんだよな……。


「ダミー、地竜を倒せたのは、お前が斥候の役割をきちんと果たしたからだ。ダミー無しには今日の勝利は無かったよ」


「ま、まぁな! やっぱ俺がいなきゃ…………って違うか。詰めが甘くて別の地竜が来てるのに気付けなかった。パーティを危険に晒しちまったんだ……」


 ダミーはそう言って力なく肩を落とす。おっと……フォローするつもりが、逆効果になってしまった。


「確かに新たな地竜の接近に気づけなかったのはダミーのミスだ。でもさ、もし俺が倒さなかったらダミー達はどうなったと思う?」


「……皆、魔力が尽きかけてたから……撤退するしかなかった」


 ダミーが悔しそうにそう言った。その通り。撤退(・・)だ。


「と言うことは、撤退は出来たって事だろ?」


「え? そりゃ、まぁ、疲れてはいたけど誰も怪我してなかったし……」


「十分じゃないか。倒した地竜の素材は失ったかもしれない。でもパーティ全員が無事に生き残れるなら問題無いだろう?」


「でも……確実に逃げられたかは……」


「それなら、次に生かせばいいだろ? ダミー達はさ、まだ冒険者になって十日足らずなんだぞ? 実力的にはBランクパーティ並みに強くても、経験はゼロに近いGランク冒険者(ルーキー)なんだ。これから、注意すればいい」


「そう……か。そう、だよな。同じことを繰り返さなきゃ、いいんだよな」


「ああ。それに、これからは地竜の洞窟じゃなくて、他のダンジョンに潜るんだろ? 地竜みたいな強敵はいなくても、多数の敵に囲まれたら撤退もままならない。地竜の洞窟で良い経験が出来たと思えば良いさ」


 ダミー達は明日からランメル鉱山に潜る事にしたらしい。今日は上手くいったが3人で安定して地竜を狩るのはまだ難しいからな。今回は俺とアスカがサポートに付いていたから、何かあった時には俺が壁になれるし、アスカが治癒することも出来た。だけどこれからは、3人でダンジョンに潜らなきゃいけないんだ。


 地竜の洞窟の方が稼ぎはいいだろうが、何の保険も無しに実力ギリギリのダンジョンに潜るのは避けた方が良い。ダミー達には成人まで面倒を見ると誓っている子供たちが10人もいるのだ。無茶なことは出来ない。


 それに本来なら地竜の討伐には剣士職が一人は欲しい。欲を言えば魔法使いや治癒職も欲しいところだ。ダミー達が地竜に挑戦するのは、少なくともパーティメンバーが増えてからだな。もしかしたら成人の儀を迎えた子供たちの中から、メンバー候補が現れるかもしれないし。


「……あの、本当に馬車をお借りしても良いんですか?」


 ダミーのフォローをしていたら、クラーラとメルヒが寄って来た。アスカが大所帯のダミー達に馬車の貸し出しを提案していたのだ。


「うん。子供たちの寝床が必要でしょ? レリダ奪還作戦が終わったらガリシアを旅立つつもりだから、それまでなら使ってていいよ。あたし達はテントがあるから問題無いし」


「…………ありがとうございます、アスカ姉さま!!」


「それと、ランメル鉱山に最初に潜るときは同行するぞ? 大丈夫だとは思うけど、万が一の事があったら子供たちが路頭に迷うことになるからな」


 元々、ダミー達をいっぱしの冒険者に育てて、孤児院の子供達を食べさせていけるようになるまでフォローするつもりでいたのだ。ランメル鉱山に問題なく潜れるかどうかは確かめないと中途半端だろう。


「……どうして、そこまでしてくれるんですか……?」


 メルヒが申し訳なさそうに、そう呟いた。


 俺はちらりとアスカに視線を向ける。元々、ダミー達を助けようとしたのは俺じゃなくてアスカだ。冷たく思われるかもしれないが、俺は彼らに何かをしてあげようなんて思わなかった。


 食糧を分けて一時的に彼らを助ける事は出来ても、俺達はずっとここにいられるわけじゃ無いから、いつかは見放すことになる。それぐらいなら最初から助けない方が良いとすら思っていた。


 だけど、アスカは彼らが自立できるまでフォローすると言い出したのだ。アイテムボックスや魔物解体などのアスカのスキルを知られるのも厭わずに。


「お腹を空かせた子供がいたんだもん。当たり前じゃない?」


 アスカは何でもない事の様にそう言い放つ。


「でも、僕たちはアスカさんを襲った強盗犯ですよ……? 普通ならガリシア兵に突き出して終わりです……」


 メルヒが困惑した顔で言った。まあ普通はそこまでしてあげる事はないよな。俺達には、ほとんどメリットが無いわけだし。


「……うーーん。強いて言うなら、それがテンプレだからかなぁ」


「テンプ……?」


「うん。お約束、ってヤツよ」


 そう言われてダミー達3人は、何かに気付いたようにハッと顔を見合わせた。


「誓約……あぁ、神龍様、あなたがアスカ姉様たちを遣わしてくださったのですね……感謝します」


 そう言ってクラーラは両手を組んで、ウルウルとした瞳をアスカに向ける。ダミーとメルヒも、そんなクラーラを見て、その所作を真似た。


 3人と子供たちが暮らしていたのは、神龍ルクス教会が運営している孤児院だ。日々の糧を与えてくれる神龍ルクスに対して、信心を持っていた事だろう。


 レリダ陥落から悲惨な目に遭い続けて信仰に迷いを持ってしまったから、強盗なんて暴挙に及んでしまったのだろうが、元々は神龍ルクス教徒なのだ。アスカの事を、神龍が遣わしてくれた救いの手なのだと思ってしまうのも無理はない。いや、むしろそう思いたいのだろう。


 ……でも、違うからな? アスカの言う『お約束』って、物語の予定調和っていう意味であって、そんな神龍の遣いとかそういう話では…………ま、いっか。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ちょっとお花摘みに行って来るねー」


 夜中に目を覚ましたアスカが、テントからいそいそと出て行く。


 その日の夜、俺とアスカは王都クレイトンで購入したテントで休んでいた。箱馬車と目隠し付きのタープテントの方は、孤児院組にゆずっている。


 しかし……あー、トイレに行っちゃったかぁ。タイミング悪いな……さすがに近づけばアスカも気付くよな……。


 と言うのも、ついさっき【索敵】の上位スキル【警戒】を発動した際に、ある物音と音声を感知したのだ。索敵は周囲の魔力や音なんかを拾い、気配として感知するスキルだ。それだけに、静かな夜には少し離れた場所でも、ある程度はっきりと聞こえてしまう。


 具体的に言うと、クラーラの悩ましい声が聞こえたのだ。


「うんっ……メルヒ……いいよぉ」

「クラーラ、俺のも……」

「んむっ……ちゅっ……ぁん」

「……はあっ……」


 こういうのが聞こえてしまうから、夜は時々しか【警戒】は使わないようにしてたんだよな……。見張りはエースがやってくれてるし。


 15くらいなら、そういう欲求に夢中になるのは当然だよなぁ。俺が15の時は欲求を溜め込むことしかできなかったけど……。


 しばらくするとアスカが顔を真っ赤にして帰って来た。そりゃ当然気付くよな。というか……


「アスカ、お前……覗きは良くないよ」


「えっ!? な、な、なにを、い言ってるのかな、アル君は」


「【警戒】で位置わかるからバレバレなんだけど?」


 アスカが一人で行動するんだから辺りを警戒するのは当たり前だろ? 用を済ませた後に、アスカがタープテントの前にしばらくいたのも、当然気付いてますけど?


「ち、ちらっとだけだよ! だってシてたんだよ!? しかも3人で!! スリー・パーソンだよ!?」


 そうなんだよねー。クラーラとメルヒが土人族(ドワーフ)同士で付き合ってるのかと思ってたんだけど……ね。


「大丈夫、ちゃんと避妊魔法は孤児院で教わったみたいだから」


「そ、そうい問題じゃなくて! い、いや、それも大事なのだけども!」


 うーん。そうは言っても、関係は人それぞれだろ?


 俺はアスカが他の誰かに……なんて想像もしたくないけど、あいつらは3人でそれこそ兄弟の様に育ってきた、互いを大事に想ってる関係だし。それに……


「珍しくも無いさ。土人族(ドワーフ)は一妻多夫が一般的だからな」


「へ? いっさいたふ?」


「ああ。土人族は男性が生まれやすい種族だから、女性が複数の男性を夫にするのが一般的なんだ。財産も母系相続が普通だし」


「そ、そう、なんだ? じゃあ3人でスるのも土人族では……」


「…………それは、珍しいんじゃないかな?」


「だ、だよね!? びっくりしちゃったよー。3人が……その、つながっ……ゴホンッ!」


 うん。ばっちり覗いてるんじゃねぇか、やっぱり。


 ま、いつかは気付くとは思ってたけどね。あいつら、ほぼ毎日だから。腹いっぱい食べられるようになったし、レベルも上がったから体力が有り余ってるんだろうな。


 ここ1週間ずっとクラーラの悩ましい声を聞かされてたのに、アスカには孤児院組と一緒だからって拒否されてたから、もうずっと悶々とさせられてたんだよなぁ……。


 ちらっとアスカの顔を覗くと、未だに真っ赤に上気している。生で見て来たわけだしな。音だけ聞かされてた俺と違って、そりゃ刺激的だっただろ。


 ん? なんかアスカ、汗ばんでて、目もトロンとしてて……何て言うか……艶っぽいな……。


 んー。子供たちの間近でクラーラ達は仕出かしてるわけだし……今さら『声が聞こえてしまう』とか『子供の教育に悪い』とかは…………言わないよな? 


 


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