表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
212/499

第207話 続・新米冒険者の挑戦

「じゃあ予定通り、今日はお前ら3人がメインで動いてもう。動きは把握してるな?」


「おう! 俺は【索敵】で地竜(グランドドラゴン)を見つけて、待ち伏せ場所(ランデブーポイント)まで引っ張ってくればいいんだよな?」


 ダミーが目をギラギラさせて答える。早く地竜に挑戦したくて、うずうずしているようだ。


「そうだ。上手くいかなかったら俺が【挑発】(タウント)を使って注意を引くから、まずはやってみてくれ」


「おう!」


「待ち伏せ場所まで地竜が来たら私が盾役(タンク)として攻撃を捌きます」


 落ち着いた声でそう言ったのはクラーラ。彼女はなにかと暴走しがちなダミーと臆病なメルヒを上手く取り持つ、3人の中でリーダー的な存在だ。


 クラーラがいながら、なんでアスカを襲うなんて暴挙を許したのかねぇ。飢えとは……恐ろしいな。まぁ、アスカを襲った事で俺達との縁がこうして繋がったわけだから、結果としては良かったのかもしれないけど。


【突進】(ラッシュ)【尾撃】(テイルブロー)は良いとしても、防具が無いんだから【咬刃】(ブレードバイド)【爪撃】(ネイルブロー)には気をつけろよ。俺も補助盾(サブタンク)としてフォローする」


「はいっ!」


「ぼ、僕は隙を突いて【牙突】(ブリッツ)で攻撃すればいいんですよね?」


 そして、イマイチ積極性が無く、臆病なメルヒ。能力的には3人の中で一番の強さを持っているんだけど……。


「ああ。【看破】の発動を忘れるなよ。メルヒの力じゃ、まだ地竜の鱗を貫くのは難しい。逆鱗、鼻面、顎、腹……弱点を正確に狙い打つんだ」


「は、はい。わかりました」


 俺は3人の顔をゆっくりと見回す。ダミーは勇みすぎ、メルヒは怯みすぎのようだが、クラーラが上手くバランスを取ってくれるだろう。

 

「よしっ。じゃあさっそく行動開始だ」


「おうっ! 兄貴、行くぞっ!」


 俺とダミーは腰を上げ、大空洞に足を踏み入れた。ダミーが先行し、俺が追従する。


 ダミーの足取りは軽い。以前は俺とアスカの歩く速さにすらついて来れなかったのに、今や地竜を簡単に撒いてしまうぐらいに速くなった。


 気配を消すのはまだまだだけど、索敵の精度は俺に勝るとも劣らない。さすがは、五感に優れた犬獣人だ。


「見つけた……兄貴、やるよ?」


「ああ。気をつけてな」


 ダミーは【潜入】を解除し地竜の前に踊り出て、拾った石を投げつける。投石を顔面に受けた地竜は、苛立ったような咆哮をあげた。


「グルァァァァ!!」


「おっしゃ! 兄貴、逃げよう!」


 こちらに向かってきた地竜を見て、俺たちは反転して走り出した。ダミーは時おり振り返っては、地竜に向かって石を投げつけて注意を引きつけている。これだけ余裕を持って注意を引けるなら、【挑発】が使える剣士がいなくても地竜を誘導出来そうだ。


 そうこうするうちに待ち伏せ場所まで問題無く地竜を誘き寄せた。うん、すばらしい。このまま重傷を負う事なく遊撃として立ち回れたら、文句なく合格だな。


「グギャァァ!!」


「あなたの相手は私よ! 【爪撃】!」


 足を止めたダミーに襲い掛かった地竜の横っ面をクラーラが引っ叩く。


「うっ、うあぁぁ!!」


 続けて気の抜けるような声を上げてメルヒが反対側から槍を突きだした。だが、ギャリッと金属同士をぶつけたような音を出して、竜鱗が槍を弾いてしまう。


「メルヒ、落ち着いて! こいつは私が止めるから、【看破】(ディテクト)使って狙い打って!」


「う、うん」


「グギャァァァッ!!」


「はぁっ!!」


 地竜が鋭い爪の振り下ろしをクラーラが【爪撃】で迎撃する。腕を弾かれた地竜の腹に、音も無く潜り込んだダミーが鋼の短剣を突き出す。浅く刺さったダガーを抉りながら引き抜き、ダミーはあっという間に地竜の間合いから抜け出した。


「グラァッ!」


「ぐぅっ……!! 今っ!」


 激昂した地竜が半回転しつつ振り回した尻尾を、クラーラががっちりと受け止める。


「【牙突】!」


「グギャァァァァッッ!!」


 間髪入れずに首元に槍が突き刺さる。地竜の逆鱗を狙い打ったメルヒの会心の一撃だ。


「っしゃぁっ!!」


 続けて飛び上がったダミーが地竜の右目にダガーを突き立てる。ブシュッと音を立てて眼窩から鮮血と白濁した液体がこぼれ出た。


 メルヒの逆鱗への刺突に加えて、脆い眼球に穿たれたダミーの追撃。激昂した地竜は、倒れ込むような勢いで不意打ちの【突進】を繰り出した。


「きゃあっ!!」


 クラーラが地竜の捨て身気味の体当たりをまともに食らい、地面を何度も跳ねながら吹き飛ばされる。


「クラーラ!!」


「だ、大丈夫! 【気合】!」


 よろよろと立ち上がったクラーラの体が、薄い青緑色の光に包まれる。体力を徐々に回復させるスキル、【気合】の発動光だ。


 だが、クラーラのダメージは大きい。回復量は大きいが、ゆっくりと治癒していく気合では、戦線復帰に時間がかかってしまう。さすがに、主盾(メインタンク)は交代かな……


「かっ、かかって来い!! こ、このトカゲが!!」


 ……と思ったら、追撃をかけようとした地竜の前にメルヒが立ち塞がった。言葉が分からずとも挑発されたことはわかったのか、真っ正面から地竜が突っこむ。


「【牙突】!!」


 堅い額を前に突っ込む地竜に、短槍を腰だめに構えていたメルヒが真正面から刺突を放つ。15トンもの巨体が繰り出す突進と、メルヒの膂力が一点集中した槍の穂先は拮抗し、互いが弾かれたように後ずさる。


 すごい……! あの地竜の突進を弾き返すなんて俺だって難しい。普通は受け流すか避けるところを真っ正面から突き崩すなんて!


「俺を忘れてんじゃねえぞっ!!」


 その隙を逃さず、頭を跳ね上げられてガラ空きになった首元に、ダミーが飛び上がりつつ斬撃を見舞う。肉が詰まり流血が止まっていた逆鱗の傷口を再び切り裂かれ、鮮血がドバっと吹き出す。


「やってくれたわね!! 【爪撃】!」


「グギャッ!!」


 たまらずに首を庇って頭を下ろした地竜の懐に、小さな体を活かして潜り込んだクラーラが、身体を真上に伸ばすようにジャンプしながら拳を突き上げる。掬い上げるように放たれた打撃は、地竜の頭を再び跳ね上げた。


 直後、かち上げられて伸びきった地竜の頭に、さっと影が差す。【照明】の光源に重なるように急降下してきたのは、【大跳躍】(ハイジャンプ)で高く飛びあがったメルヒだ。


「くらええぇぇぇ!!! 【剛・牙突】(ハード・ブリッツ)!」


 全体重に重力を加え、渾身の魔力で放たれた刺突は地竜の左目を貫き、そのままの勢いで眼底を破壊し深々と突き刺さった。いかにタフな竜種とはいえ、眼底の奥にある脳幹を抉られて意識を保てるはずがない。地竜は、糸の切れた人形の様に前のめりに倒れ込んだ。


「や……やったか?」


「……いくら竜でも……さすがに死んだ……よね?」


「あれをくらって、生きてるわけねえだろ」


 ダメージをおして拳を振るったクラーラがふらつきながら、倒れ伏す地竜を見下ろして呟く。ダミーはダガーの刃の背でとんとんと自分の肩を叩きながら、そう答えた。


「うっわー、ダメだよー。そんなフラグ立てちゃ」


 アスカの呆れたような声で言った。


 そう、『死んだだろう』『勝っただろう』って油断すると、あっと言う間に戦局をひっくり返されてしまうんだ。


「グギャァァァァッ!!」


 再び大空洞に響き渡る地竜の咆哮。


 倒れ伏した地竜は確かに死んでいた。だが、別の個体が現れてしまったのだ。


「なっ……!」


「ウソ……でしょ!?」


「しまっ……気付かなかった……!」


 うん。ダミー、減点。斥候は常に周囲に気を配らなきゃね。


 地竜は単体でこそBランクの魔物だ。複数と戦うと命取りになるから、誘き出して個別に戦うって教えたよな?


 これだけ派手に殺気を撒き散らして戦い続けたら、そりゃあ他の地竜だって寄って来るでしょ。それに気づいて撤退を提案するのは、斥候の役目なんだから。


 まあ……でも、俺は【警戒】で近づいてくるのが分かってたから、烈功(アグレッサー)・瞬身・火装(ブレイブ)風装(クイック)をすでに重ね掛けして準備万端なんだけどね。


【剛・魔力撃】(ハード・スラッシュ)


 一瞬で地竜に詰め寄って飛び上がり、火龍の聖剣を振るう。紅の炎を纏った剣は竜の首をあっさりと斬り飛ばした。


 最後のオマケは置いといて……卒業試験はあくまでも地竜1体の討伐。Bランク冒険者パーティ並みの実力を身に着けたってことで、3人とも合格だな!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ