第206話 新米冒険者の挑戦
「お帰りなさい、アルフレッドさん!」
「ただいま。今日の分は裏に積んでおいたよ」
「お疲れ様です! 今日は何匹狩ってきたんですか?」
「6匹だな。確認しといてくれ」
「了解しました! 報酬は明日の朝でいいですか?」
「ああ。じゃあ、また明日な」
初めて地竜の洞窟に潜ってから1週間。ダミー達との臨時パーティは、かなり注目を集めるようになっていた。
潜った初日は地竜を3匹狩ってから洞窟を出て、冒険者ギルドの出張所に地竜肉を納品したのだが、予想以上に大騒ぎになってしまった。Bランクの魔物である地竜を3匹も倒したくせにケロッとした顔で帰ってきたことと、とても5人では運びきれないくらい大量の地竜肉を持ち帰ってきたせいだ。出張所の裏手に山の様に積まれた地竜の肉を見たギルド職員から、いったいどうやって倒したのか、そしていったいどうやって運んだのかと詰め寄られてしまったのだ。
『どうやって倒したか』の方は、A級決闘士の証書を見せたら納得してくれた。Bランクのパーティでようやく倒しきれる地竜を、Cランクの俺が冒険者に成り立てのダミー達を率いて倒したことに驚かれはしたが、『セントルイス王国のA級決闘士は誰でもこのぐらいできる』と言っておいた。実際、ルトガーやヘンリーさんあたりは出来そうだし。
むしろ説明が面倒だったのは計5トンもの地竜肉を『どうやって運んだか』の方だ。
最初は荷物持ち3人が必死で運んだんだと言ってはみたが、全く信じてもらえなかった。地竜の総重量は15トン、そのうち食用にできる肉は5トン程度だ。一回につき一人100キロを運んだとしても、5人だと洞窟入り口と大空洞を10往復もしなければ運べない計算になる。どう考えても運べるはずがないと指摘されてしまった。まあ、仰る通りだ。
その言い訳には、陛下から預かった『王家の紋章』が大いに役立った。セントルイス王家の紋章と俺の名前が刻まれた白銀のプレートタグで、身分証の代わりにと用意してくれた物だ。
その紋章を見せて「セントルイス王家から借り受けた超大容量の魔法袋を持っている」と煙に巻いたのだ。冒険者ギルドとしても大陸有数の大国の関係者を相手に強い事は言えないし、そもそも枯渇している食糧を大量に調達してくれる冒険者と事を荒立てたくは無いだろう。一応は、紋章をチラつかせて運搬方法は大っぴらにしない事を約束してもらったけど。
「兄貴! 早く馬車に戻ろうぜ! 俺、お腹空いちゃったよ!」
「おう。今日の食事当番は……俺か。手早く作るなら、地竜肉のステーキかな」
「えー! またかよー。昨日も食べたじゃんか。俺、前に作ってくれたボア肉のボロなんとかっていうパスタがいいな! 兄貴作ってくれよ!」
「ワガママ言うなよ。ボア肉も乾麺も残り少ないんだ。時間かかってもいいなら地竜肉の煮込みでも作ってやるぞ?」
「んー、すぐ食べたいからそれはまた今度! しょうがないからステーキでいいよ!」
「はいはい」
地竜を持ち帰るためには黙っているわけにもいかなかったから、ダミー達にはアスカのスキルを一部だけ話している。【魔物解体】と【アイテムボックス】の二つだ。
アスカが手をかざした瞬間に地竜の姿が消えた時には、3人とも声も出ないくらい驚いていた。しかも皮が硬すぎてナイフが入らず解体もできなかった地竜の亡骸が、次の瞬間には肉塊・牙・骨・皮に変わっていたのだ。驚きもするだろう。
もちろんダミー達には、このスキルの事を他言しないようにと厳命している。彼等の前で、黒魔法や回復魔法、騎士や槍術士のスキルなどを俺が使っていることについてもだ。どうせレリダ解放戦に参加したら、複数の加護持ちだということはバレてしまうだろうが、それまでは変に絡まれるのは避けておきたいからな。
「じゃあとっとと戻ろう。チビ達が腹を空かせてるだろう」
「おおーっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「美味しい!!」
「なになに、このソース!? ブルーベリー!?」
「マルベリーだよ。ジャムを使ってソースを作ったんだ」
「すごーい! 甘いソースがこんなにお肉に合うなんて!」
「お兄ちゃん……こんなに美味しいもの食べたの、生まれて初めてだね」
「うん……うん……うまいなっ、うまいなっ……」
エスタガーダの宿で食べた料理を試しに再現してみたのだが美味しくできたようだ。あの時はジャムの爆買いをしたアスカと喧嘩をしてしまったが、お茶に入れたりパンに塗ったりソースにしたりと、かなり役立っている。まだ在庫もたくさんあるし、いい買物だったかもしれない。アスカには言わないけど。
地竜の皮は驚くほど硬いが、肉の方は食べ応えがある程度の硬さだ。味は、鶏肉と白身魚の中間ぐらいだろうか? シンプルに塩胡椒で焼くだけでも美味しいが、アスカに教えてもらったカラアゲにするとなお旨い。
旨いのは良いのだが、一つ困ってしまう事がある。竜肉を食べると……なんていうか、いろいろと滾ってしまうのだ。いつもは頑張っても騎士剣な俺が、聖剣に昇格してしまうぐらいにスゴイ食材なのだ。
二人だけで旅をしていた時だったら食後に一戦を交えられたのだが、残念ながらここは戦場ではない。臨時の孤児院なのだ。
馬車のすぐ横にテント孤児院を立ててからというもの、アスカは『声が聞こえてしまうかも』『子供の教育に悪い』と戦いに応じてくれない。しかも、自分で魔力消費しようにも常に子供達の目があってなかなか隙が無い。もうかれこれ1週間も竜肉を食べつづけているおかげで、俺の聖剣は常時発動してしまっているというのに。
……おっと、いかんいかん。聖剣に意識を奪われていたようだ。ダミー達と話でもして気を紛らわそう。
「どうだ、3人とも? 疲れはたまってないか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「アルフレッドさん、明日は頑張りますね!」
「ああ。1週間の集大成を見せてくれ」
「おう! 見ててくれよな、兄貴!」
ダミー達とは明日でいったんお別れとなる予定だ。3人とも1週間のアスカ式ブートキャンプでかなり強くなったので、区切りとして地竜に挑んでもらうことになっている。
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ダミー
LV 20
JOB 盗賊Lv.2
VIT 160
STR 164
INT 181
DEF 127
MND 134
AGL 440
■スキル
索敵
初級短剣術Lv.4
夜目Lv.7・潜入Lv.6
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メルヒ
LV 21
JOB 槍術士Lv.2
VIT 267
STR 447
INT 36
DEF 259
MND 64
AGL 178
■スキル
牙突
初級槍術Lv.3
跳躍Lv.4・看破Lv.9
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クラーラ
LV 20
JOB 喧嘩屋Lv.2
VIT 449
STR 276
INT 36
DEF 233
MND 50
AGL 209
■スキル
爪撃
初級体術Lv.5
威圧Lv.7・気合Lv.6
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たった1週間のパワーレベリングだが、並行してスキルの熟練度稼ぎもしていたため加護レベルも上がり、すでに3人ともC級決闘士並みのステータスを獲得している。
それでも、さすがに3人だけではB級魔物の地竜を討伐するのは厳しいと思われるので、俺も盾役として戦闘には参加する予定だ。攻撃役として地竜を屠ることが出来れば、おそらくは魔霧の湿原やランメル鉱山辺りでなら、十分に挑戦することが出来るだろう。
俺達はずっと彼らと一緒に行動することが出来るわけではない。いわば明日はダミー達の卒業試験だ。彼らが自立して孤児たちを養っていくことが出来るよう、明日はサポートに全力を尽くそう。




