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騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
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第203話 孤児

「ようやく着いたね!」


「ここが地竜の洞窟か」


 難民キャンプを出て半日。俺達は地竜の洞窟の近くに辿り着いた。普通に徒歩や馬車で向かったら丸一日はかかる距離だが、エースは半分ほどの時間で走破してしまった。


 とは言え、そろそろ日も沈みそうになっている。ダンジョンアタックは明日の朝からだ。


「じゃあ怪しまれないように、ここからは馬車を引いていこっか」


 そう言いながらアスカは幌馬車とハーネスをアイテムボックスから取り出した。俺は二人乗り用の鞍と鐙を外し、アスカから受け取ったハーネスを手早くエースに装着していく。


 最近はエースにハミや手綱といった、頭まわりの馬具はつけていない。エースが馬具を着けられるのを好まないというのもあるが、声をかけたり頭の中で念じたりすれば俺の意図を汲んで動いてくれるので、そもそも着ける必要が無いからだ。


「よしっ。エース、あそこのキャンプまで行くぞ」


「ブルルッ」


 首を撫でながら声をかけると、エースは幌馬車を引いて歩き出した。


 地竜の洞窟は、草原のなだらかな斜面にぽっかりと大きな口を開けていた。洞窟の入り口からは小川が流れ出ていて、その近くにゲルとテントが何張りも立ち並んでいた。


 おそらくは地竜の洞窟にアタックしている冒険者達だろう。余計なトラブルを起こさないようにと、俺達は彼らからは少し離れた場所に馬車を停めた。

 

「じゃあ、行って来るよ」


「はーい。あたしは夕ご飯の用意をしてるね」


 ダンジョンの入り口には冒険者ギルドの出張所があるらしいので、挨拶ついでにお土産に大衆ワインを進呈しておくのだ。大衆ワインはそれこそグロス単位で持っているから、ちょっとした手土産にちょうどいい。安物のワインでも難民キャンプでは貴重品のようで、パウラはかなり喜んでいた。


 食用の魔物肉を納品するのにこれから何度も顔を合わせるだろうし、心証を良くしておいた方が良い。王都では悪い噂のせいで散々な目にあったので、そういう挨拶も大事だと学んだのだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 



「じゃあ、明日から潜りますね」


「はいっ! よろしくお願いします!」


 冒険者ギルド出張所で受付をしていた土人族(ドワーフ)の女性は、満面の笑みでワインの瓶を抱え、手を振って見送ってくれた。酒好きで、背が低く、健康的な少女のような肢体……やっぱりドワーフの女性はこうだよな普通。パウラのことはいったん置いておこう。


 そんな事を考えながら幌馬車の所に戻ると、そこには思いもかけない光景が待っていた。


 幌馬車、馬車から張り出したタープテント、その下に薪ストーブ、そこで料理をしているアスカ。ここまでは良い。


 その前には、脚をおさえて蹲る少女と血反吐を吐いて倒れ伏す少年。そしてエースに前脚で抑え込まれて呻き声をあげる獣人族の少年の姿があった。


「いったい何があったんだ?」


「あ、お帰りアル。食べ物よこせって殴りこんできてね、エースがやっつけてくれたの」


「なるほど……」


 ずいぶん若そうに見えるが盗賊ってわけね。


 それにしても、アスカも神経が太くなったもんだなぁ。こんな惨状を目にしながら平然と料理を続けるんだから。


「エース、もういいよ」


 俺が声をかけるとエースは前脚を少年から下ろし、耳をふにゃんと垂らして尻尾を高く振りながら駆け寄って来る。まるで「褒めて、褒めて」と言わんばかりに、鼻面をすり寄せるエース。俺は苦笑いして、エースの首を撫でてやる。


「アスカを守ってくれて、ありがとうな。よくやった、エース」


「ヒヒンッ」


 さて、こいつらはどうするかな。ギルドの出張所に突き出すか?


 でもあそこはダンジョンの出入りの管理やら、食用肉や素材の引き取りしかしないって話だったからなぁ。ガリシアの兵もいないし、このまま追い払うしかないか。


 すると、エースに圧し掛かられていた獣人の少年がよろよろと立ち上がり、俺を睨みつけながら木剣を構えた。


「クラーラ! 俺がコイツをおさえる! お前たちは逃げろ!」


「だ、だめだよダミー! 足が折れて動けないの! ダミーだけでも逃げてぇ!」


「ば、バカやろう! お前たちを捨てていけるわけないだろ! いいから這ってでも逃げろ! それまでコイツは俺がおさえるから!」


 …………いや、何この茶番。なんで、俺が悪者(モンスター)みたいな扱いになってんだよ。強盗しようとしたのお前らだろうが。


「なんなのコイツら」


「んー、お腹すきすぎてガマンできなかったんじゃないかな。盗賊って言うには弱すぎるし。この子達、みんなレベル1か2よ?」


「ああ……難民孤児ってやつか」


 レリダの難民キャンプでも、保護者を失った孤児達をたくさん見かけた。食糧の配給はされているって事だったが、十分な量では無いとパウラも言っていたし……この子達は食い詰めてキャンプから抜け出してきたのだろうか。


「うおぉぉ!!!」


 どうしたもんかと考えていたら、獣人の少年が木剣を振りかざして突っこんで来た。確かに、弱いなぁ……戦闘系の加護は持ってそうだけど。


 俺は左手に【爪撃】(ネイルブロー)を纏わせて木剣を払う。少年はあっさりと剣を弾き飛ばされ、呆然と立ちすくんだ。


「とりあえず、お仕置きな」


 右手中指にだけ【爪撃】を纏わせて、すーっと獣人少年の額の前に持っていく。


 ガインッ!!


 とてもデコピンとは思えない音が鳴り、弾かれた様に獣人少年が倒れていく。


「ああっ! ダミィィーーー!!」


 滂沱と涙を流して獣人少年に向かって手を伸ばす土人族の少女。


 いや、だから止めろよ、その茶番。まるで俺が酷いことしてるみたいじゃないか。


「んーーー、なぁ、アスカ?」


「あ、大丈夫だよ。大量に作ってるから」


 うん、やっぱりね。その寸胴、俺とアスカで食べるには多すぎるもんな。


 俺は額をおさえてゴロゴロと地面を転がる獣人少年を放置して、血反吐を吐いて気を失っている土人族の少年に歩み寄った。横にいた少女はガタガタと震えながら怯えた目で俺を見る。


「お、お願い、わたしは、ど、どうなってもいいから、ダミーとメルヒは……」


「はいはい。なんもしないから、落ち着け。【治癒】(ヒール)


「えっ……!? 治癒、魔法?」


 うっわー、この子、内臓破裂してんじゃないか? たぶんエースに蹴っ飛ばされたんだな。まあ、即死してないところを見ると、エースも手加減したんだな。アスカが殺さないようにって指示したのかな?


 衣服をめくって腹を見ると、内出血は消えていた。全身を触ってみたけど、骨は折れて無さそうだし、もう大丈夫だろ。


「ゲホッ……! え、あ、あれ? 僕は……」


「気づいたか? よし、もう大丈夫そうだな。じゃあ、君は……足が折れてるのか。あとは軽い擦り傷だな。よし」


「えっ? え、あ、あったか……い……」


 続けて少女の大腿骨の骨折を治す。治癒魔法の青緑色の暖かい光が患部に注ぎ、少女の険しい顔がだんだんと和らいでいく。額の痛みが治まったのかダミーと呼ばれた少年もよろよろと近づいて来た。


「お、お前……なんで……」


「お前もここに座れ。服をめくれ……うん、肋骨が折れてるな。他に痛むところはあるか? 額? それはガマンしろ、お仕置きだからな」


「どうして、俺達を……俺達は、あの子を襲って、飯を奪おうと……」


「ああ。腹が減ってたんだろ? アスカに怪我させてたら許さなかったけど、今回は見逃してやる。それより……」


「できたよー!」


 わけがわからないという少年少女の表情をよそに、アスカの明るい声がひびく。幌馬車の前に置かれたテーブルには、セントルイスの村々に立ち寄った際に焼いてもらったパンと大きなチーズの塊が乗っていた。10人前以上は優に作れそうな寸胴からは野菜の甘い匂いと湯気が立ち上っている。


「とりあえず、飯にしよう。話はそれからだ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「うめーーっ!!」

「あった……かい……」

「おいしい……よう……グスッ」

「おかわり! 俺にもおかわりくれよ!」

「はいはい。もうすぐ出来るから、ちょっと待ってて。そこのパンとチーズはいくらでも食べていいよ」

「お兄ちゃん……こんなにたくさん食べたの、生まれて初めてだね」

「うん……うん……うまいなっ、うまいなっ……グズッ」

「ありがとう……ありがとう、アルフレッドさん……。ありがとう……」

「あー、わかったから食えよ。ほら、ちゃんと噛めよ。また喉に詰まっちまうぞ」


 幌馬車の前の草地に座るのは10人の少年少女たち。その少年少女たちが、涙を流しながらアスカの作ったスープをかきこんでいる。寸胴で作ったスープはあっという間に無くなり、アスカはお替りのスープを作っている。


 土人族の少女クラーラと少年メルヒ、獣人族の少年ダミーの怪我を治した後に食事を勧めたところ、3人とも口をつけようとせず、そのまま持ち帰っていいかと聞いて来た。聞くと孤児の仲間たちが近くで待っているのだと言う。


 乗り掛かった舟だからと呼んで来るように言うと、ぞろぞろと少年少女たちを連れて来たのだ。年のころは一番小さい子で7,8歳ぐらい、クラーラ・メルヒ・ダミーの3人は一番年上で15歳だそうだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アスカの作ったスープのお替りとパンとチーズをたらふく食べさせた後に、全員を風呂に入れ、全員の服を洗濯乾燥して着替えさせた。かなりの異臭を発していたので、アスカが有無を言わさず石鹸で洗い倒したのだ。よくぞここまで汚したもんだと言うくらい、風呂桶と洗濯桶のお湯はどんどん汚れて行ったので、何度もお湯を張り替える羽目になった。


 そして、腹が満たされ、温かい風呂に入った子供たちは、すぐにうつらうつらと舟をこぎ始めたので、毛皮に包んで箱馬車に雑魚寝させた。


 一段落して、薪ストーブの前に俺とアスカ、そしてクラーラ・メルヒ・ダミーの3人が腰を下ろした。


「あ、あ、あの、本当にすみませんでした」

「スイマセンシタッ!」

「ごめんなさい」


 ビクビクした様子のクラーラ、ガバッと地面に手と頭を擦り付けるダミー、そしてどこかボーっとした印象のメルヒ。アスカに強盗を仕掛けたことを三者三様に謝罪していた。


「もう、いいって。お腹すいてたんだし、あの子達のためだったんでしょ? それでも強盗は良くないと思うけど……エースにボコられて痛い目みたんだしね」


「そんな事より、お前たちはなんでこんなところにいるんだ? しかも小さな子供たちを連れて」


「それは……」


 ダミーが顔をしかめ、クラーラが俯き、メルヒがそっとクラーラの肩に手を置く。ダミーが気づかわしげな表情を向けると、クラーラはか細い声で「話して」と呟いた。




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