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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第196話 出発

「兄弟、本当に助かった。この恩は一生忘れない。一家をあげてかならず報いる」


 壮行会の翌日、俺達は冒険者ギルドでバルジーニに頭を下げられていた。魔人族に与した疑いで収監されていたのだが、入念な取り調べにより被害者だということがはっきりしたことと、俺とアスカが連名で釈放を求める嘆願書を出したことで、特別に釈放されたからだ。


「気にしないでください。俺は嘆願書にサインをしただけだし、貴方は魔人の企みに利用されただけじゃないですか」


「いいや。俺が騙されちまったせいで、義弟の大恩人にとんでもない迷惑をかけちまった。それなのに嘆願書にサインをしてくれた。おかげで観察処分とは言え、一家に戻ることが出来たんだ。俺がいなきゃ、一家の皆は食いっぱぐれちまうところだった。本当に感謝してる」


「こっちこそ、オジさんには感謝してるんだから気にしなくていいんだよー? オジさんからレアアイテムを貰ってなかったらキマイラにも勝てなかったしね! お礼を言うのはこっちもだよ!」


「あ、あの魔晶石やら石っころが役に立ったのか?」


「詳細は明かせませんが、もらった素材のおかげで俺達は命拾いしました。感謝していますよ」


「そうか。聖女サマの役に立てたのなら、良かったよ」


「ふーん。あんなに大量の王侯金属(ロイヤルメタル)のインゴットとか魔晶石を手に入れてどうするのかと思っていたのだけど……。アスカちゃん、いったい何に使うの? 製薬するだけじゃ無いんでしょ?」


「こら、シンシア。アルフレッドとアスカのことは詮索するなと言っただろう」


「なによ、もう! アナタが何も教えてくれないからでしょう!?」


 途中から口を挟んで来たのは商人ギルド王都支部のギルドマスターのシンシアさん。なんとヘンリーさんの妻で、セシリーのお母さまだ。


「それにあれだけの量の素材を渡したと言うのに、今日はほとんど手ぶらじゃない。その魔法袋に入り切る量じゃ無いわ。何に使ったのか、気になるじゃない?」


 そう言ってシンシアさんは妖艶な微笑みを見せる。


 シンシアさんは、切れ長の瞳に美しいブロンドの猫獣人の美女だ。セシリーさんとシンシアさんは一目で母娘だとわかるぐらいそっくりな容姿だが、セシリーは綺麗な少女、シンシアさんは色気の香る大人の女性って感じだ。筋骨隆々でゴワゴワした髪質のヘンリーさんの因子は一体どこに行ったのだろうか。


「ん、なんだよ、アルフレッド?」


「いや、セシリーさんは母親似で良かったなと思って。ヘンリーさんに似ていたらゴリラみたいな女の子になっていたでしょうから」


「ぬっ……それは、そうかもしれんが! 俺に似ているとこだってあるだろ!? ほら、髪の色とか、それと……他にも……」


「髪の色ぐらいですね」


「うふふ。セシリーは母親似ですからね。交渉術に算術、経営学にも通じた優秀な子なのよ。この人みたいな脳筋に似なくて本当に良かったわ」


「うぐっ……」


 セシリーの話題を振ってみたら、あっさり乗ってくれた。ヘンリーさんは親バカだから目論見通りだけど、シンシアさんはあえて詮索してこないだけかな?


 セシリーは可愛いし、綺麗だから、ヘンリーさんが親バカになってしまう気持ちもわからなくもない。シンシアさんの方は……さすが商人ギルドマスターだけあって目の付け所が鋭いな。


 実は晩餐会の夜に陛下とマーカス王子に依頼して、魔人族撃退の報酬を全て精霊石や魔晶石などの希少素材に変えてもらっていた。その多種多様の魔石や鉱物などの素材を実際に手配してくれたのがシンシアさんだったのだ。王城の宝物庫だけでなく王都中の貴族や商会に声をかけて素材収集に奔走してくれたらしい。


 俺とアスカの魔人族撃退の報酬は合わせて白金貨10枚、さらに俺とエルサがA級決闘士の証を授かった代わりにアスカは追加で白金貨3枚も授与された。しめて白金貨13枚、1億3千万リヒトというとんでもない大金だ。高位冒険者だって一生かかっても稼げないんじゃないだろうか。さすがは広大な直轄領を統治するセントルイス王家といったところか。


 そんな大金を惜しげもなく投入して用意してもらった素材の中には、金剛石(アダマンタイト)妖精石(フェアリウム)なんかの王侯金属(ロイヤルメタル)も含まれている。平民が所持することは認められていないが、特別に許可してもらった。


 それらの素材はもちろん今は全てアスカのアイテムボックスの中だ。かなりの量の素材を貰ったばかりなのに、旅立ちの日にポーチと魔法袋(偽)ぐらいしか持って無いんじゃ怪しまれもするか。実際に手配に奔走してくれたシンシアさんとしては、素材がどう扱われるのか気になるのは当然だし。



「それで、予定通りガリシア自治区に向かうのか?」


 ヘンリーさんが心底残念といった表情で言う。


「ええ。まずは鉱山都市レリダの転移陣を目指し、ガリシア氏族との接触を試みます。幸いにも陛下より紹介状を賜りましたので、邪険には扱われないでしょう」


「そうか……。慎重で堅実なお前の事だ。心配は要らんとは思うが、くれぐれも気をつけろよ」


「はい。ヘンリーさんには大変お世話になりました。貴方の助力が無ければ、決闘士武闘会や魔人族の襲撃を戦い抜くことは出来なかったでしょう。心から感謝します」


「気にするな。魔人族の件は王都支部の冒険者代表として当然のことをしたまでだ。それに稽古をつけてやったのもスーザンの不始末の詫びだったわけだしな……」


 そう言ってヘンリーさんは表情を曇らせる。


「……アルフレッドさんはヘレフォード子爵と会ったんでしょう?」


「ええ、シンシアさん。スーザンは単独犯だったそうですからね。スーザンには自らの行いの責任を取ってもらうとしても、ヘレフォード子爵家までその責めを負う必要は無いでしょう」


 元冒険者ギルド王都支部受付嬢のスーザンは、もしかしたら魔人族の居所を知っているかもしれないということで、王家所属の闇魔法使いから尋問をされたそうだ。昼夜を問わず行われた尋問と繰り返しかけられた闇魔法で精神が半ば崩壊しかけているらしい。


 だが、その結果として分かったのは、スーザンは魔人族の情報を何も持たず、ただ利用されただけということだった。それを受けて、スーザンの父親であるヘレフォード子爵から会談を持ちかけられ、俺はその謝罪を受け入れた。


 スーザンには罰を下して欲しいと思うが、子爵家にまで影響が及ぶのは本意では無い。俺が謝罪を受け入れたという事実があれば、子爵家への風当たりは多少弱まるだろう。当面の間、冷や飯を食わされるのはしょうがないだろうけど。


「アルは甘いよねー。スーザンの実家なんてほっとけばいいのに」


「子爵家の方は何も関係してなかったってのはわかってるんだ。罰を受けて逆恨みされたら、それこそ面倒だろ? 元々、斜陽貴族なんて言われてたってのに……ヘレフォード子爵にはむしろ同情するよ……」


「本当に面倒をかけたな……アルフレッド」


「だから、その件はもういいですって、ヘンリーさん。貴方には感謝しているってさっき言ったばかりでしょう?」


 スーザンの元上司として責任を感じてしまうのはしょうがないかもしれないけど、もういいってそれは。


「うふふ。ホントに良い人ね、アルフレッドさんは。娘が気にかけるのもわかるわぁ。ねえ、アルフレッドさん、セシリーのことどう思ってるの? ウェイクリング家に戻るつもりがあるなら妾の一人にでも……」


 おっと、またこの話か。またヘンリーさんが炎上して、アスカの機嫌が悪くなりそうだ。まったく、もう……




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「じゃあな、ユーゴー。クレアのこと頼んだよ」


「ああ。任せろ」


 王都の北門に場所を移し、いよいよ出発。北門にはユーゴーがわざわざ見送りに来てくれた。


 ユーゴーは奴隷商から救ってくれた恩を返したいから、二人で旅をしようとする俺達に護衛として同行する申し出てくれた。俺としてはアスカを助けだすついでにユーゴーの面倒を見ただけだったので恩に感じる必要は無いし、せっかく自由の身になれたのだから好きに生きて欲しいと言ったのだが、ユーゴーはそういうわけにはいかないと食い下がった。


 それならチェスターに帰るクレアの護衛をしてもらい、それをもって恩を返すという事にしてもらった。クレアは王都で買い付けたたくさんの商材を持ち帰るそうだから、旅の安全のために優秀な護衛は必須だ。ジオドリックさんは諸手を上げて歓迎してくれた。


「クレアをチェスターに送り届けたら、ユーゴーはどうするんだ?」


「……一度、故郷に帰るつもりだ」


「へえ。ユーゴーの故郷ってどこなの?」


「北の小国家レグラム王国」


「レグラム?」


 聞き覚えの無い国家だ。北の小国家は滅んだり興ったりを繰り返しているから、頻繁に名前が変わるんだよなぁ。


「マナ・シルヴィアの国境沿いにある。故郷はレグラムの辺境。小さな村だ」


「そうか。マナ・シルヴィアにも行くつもりだから、もしかしたらまた会えるかもな」


 そう言うとユーゴーは胸元から一枚の紙片を取り出した。豊かな双丘がプルンと揺れる。


 ちなみにユーゴーは、助け出した時はビキニアーマーと腰巻を装備していたが、今は俺と同じ様な革のブレストプレートと麻の上下を身につけている。あんな裸同然の装備なんて観賞用以外に何の使い道も無いのだから当然だろう。


 たぶん奴隷商に命令されて装備していたのだろうな。ユーゴーは嫌々だったのだろうが……またあの豊満な肉体美を見たい気もしなくはないわけでもないような気もしたりするようなしないような……。


「……なに? 急に黙って」


「いや、ナンデモ」


 アスカがじろりと俺を見る。


 な、なんだよ。考えるだけならセーフだろ? というかカンが良すぎないか、アスカ?

 

「えっと、ああ冒険者コードか」


 差し出された紙片には8桁の数字が書かれていた。


「アルフレッドのも教えてくれ」


 冒険者コードとは冒険者タグに刻まれた個人番号の事だ。


 支部で冒険者コードを伝えて手数料を支払えば、その支部でクエストを受理したことがあるかどうかを教えてくれる。把握していれば所在の情報も教えてくれるそうだ。時間はかかるが、金さえ払えば近隣のギルドに問い合わせもしてくれるらしい。


 国家を股にかけて活動する冒険者を探し出すには、ギルド支部を回って冒険者コードで問い合わせするのが一番早い。逆に言えば冒険者コードを知られれば容易に追跡できるという事なので、信頼できる人以外には教えない方が良いと言われている。


 ユーゴーの事は信頼しているから、もちろん教えた。


「じゃあ、ユーゴー、元気で」


「じゃあね、ユーゴー!」


「ああ」


 俺とアスカはエースの背に乗り、別れを告げる。ユーゴーは腕を組み、頷いた。


 エースは指示せずとも俺の意をくみ速歩(トロット)で進む。俺の後ろに乗ったアスカは、何度も振り返っては大きく手を振っていた。


 次の目的地はセントルイス王国の北、土人族(ドワーフ)の自治区ガリシア。王都にはずいぶんと長く滞在することになったが……いよいよ旅立ちだ。




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