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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第191話 晩餐会

『魔神族の撃退、並びに伝説の魔物『不死の合成獣(アンデッドキマイラ)』の討伐、誠に大義であった! 拳聖ヘンリー、重剣ルトガー、魔法剣士アルフレッド、舞姫エルサ、そして黒髪の聖女アスカに最大の賛辞を!!』


 魔道具で拡声された陛下の声が闘技場に響く。直後、割れんばかりの拍手喝采と歓声が観客席からあがった。


「うぉぉぉーーー!!!!」

「ヘンリー! ヘンリー!!」

「エルサ様ぁーーー!!」

「ア・ル! ア・ル! ア・ル!!」

「ルトガーの兄貴ぃ!!」

「聖女さまぁ! ありがとー!!!」


 あの戦いから1週間後、急ピッチで修繕されたエルゼム闘技場には再び超満員の観客が詰めかけていた。舞台にはフルプレートアーマーに身を包んだ騎士達と、金と紅の刺繍が施された煌びやかなローブに身を包んだ癒者や魔導師達が整然と並ぶ。


 俺達キマイラ討伐組は、そのど真ん中に設置された一段高い壇上で、観客達からの割れんばかりの拍手を受けている。決闘士武闘会で注目を浴びるのには慣れたつもりだったけど……これはちょっと照れるな。


 柔らかい笑みを浮かべ上品に手を振るエルサ、手を突き上げて観客を盛り上げるルトガー、泰然自若といった様子のヘンリーさん。俺はぎこちない笑顔で手を振るぐらいで精一杯。


 アスカ? ぴょんぴょん飛び跳ねながら両手をぶんぶん振って笑顔を振りまいてるよ。「アイドルみたーい」と興奮してる。




 魔人族は近いうちにまた襲って来る

 井戸や噴水に毒がまかれた

 魔人族が王都に潜んでいる


 魔人族襲撃事件の直後、瞬く間に王都民の間に広がった噂だ。今回の戦いでは騎士や決闘士だけではなく、少なくない数の民間人にも被害が出ている。突然の魔人族の襲撃によって不安と混乱に包まれた王都で、そんな流言飛語が飛び交うのは仕方がない事なのかもしれない。


 そんな不安や混乱を払拭するために、敢えて戦いの舞台となった闘技場で戦勝式典が執り行われたのだ。そして、ヘンリーさん・ルトガー・エルサ・俺・アスカの5人は王都を救った英雄に祭り上げられた。


 元から拳聖として高名だったヘンリーさん、人気決闘士のエルサとルトガー、そして決闘士武闘会で隠していた牙をむいた(と言われている)俺、そして魔人族襲撃時に万を超える人の重傷を癒し、Sランクの魔物の討伐にも貢献したという『黒髪の聖女アスカ』の5人は、魔人族を撃退した英雄として祭り上げるのにちょうどよかったのだろう。


 魔人族を無視してとっとと逃げ出そうとしていた俺としては、英雄扱いされる事を辞したいところだったのだが、王都民の不安を払うための象徴になって欲しいと王家に頼まれれば断れるはずも無い。嫌々ながら式典に出席することを了承したのだ。


 アスカは『聖女』の二つ名が気に入ってるみたいで、出席要請にもまんざらじゃ無さそうだったし、式典に出てみたらこのはしゃぎようだから良かったのかもしれない。


『王都を救った5人の英雄に、それぞれ白金貨5枚を授ける! そして魔法剣士ことアルフレッド・ウェイクリング、舞姫ことエルサの両名には、特別に決闘士の殿堂、A級決闘士の証を授与するものとする!』


「おおぉぉっ!!!」

「エ・ル・サ! エ・ル・サ! エ・ル・サ!」

「ア・ル! ア・ル! ア・ル!!」


 いやはや大盤振る舞いだ。白金貨5枚っていったらD・Eランクぐらいの一般的な冒険者の10年分近い稼ぎだ。それを5人分ぽーんと支払うって言うんだからなぁ。


 ちなみにヘンリーさんとルトガーにはさらに白金貨3枚が授けられるとか。せっかく決闘士武闘会で優勝してA級決闘士になれたってのに、準優勝と3位の俺達にもA級の証が授与されるってのは面白くないだろうって配慮みたいだ。


 まあ、ヘンリーさん自身はまったく気にしてなかったし、ルトガーは『火龍杯』で俺達と戦えると喜んでいた。『火龍杯』はA級決闘士とA級冒険者、王家の推薦を受けた者のみが参加できるという4年に一度の決闘の祭典だ。


 俺とエルサがA級になれば祭典で戦えるから、面白くないどころか嬉しいってわけだ。さすがは戦闘中毒者(バトルジャンキー)だ。というか、『火龍杯』なんて出場しないから。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ようこそ、五英雄の諸君」


 その翌日、俺達は王城での晩餐会に招かれた。


 五英雄ってのはヘンリー・エルサ・ルトガー・アスカ・俺の5人ね。商魂たくましいボビーが『五英雄 魔法剣士アルフレッド・聖女アスカ 御用達の店』なんて垂れ幕をスタントン商会の店先に掲げたことから、一気にその呼び名が広まってしまったのだ。


 スタントン商会で買い物をしたことなんて無かったので文句の一つも言ってやろうかと思ったが、決闘士武闘会決勝で俺に賭けたせいで商会の運転資金すら危うい状況らしく、現金収入を得るためになんとか許して欲しいと縋りつかれてしまったのでしょうがなく許可した。大損したのは自業自得だが、俺が負けたせいとなると、ちょっとね……。


「本来なら盛大なパーティを開き、諸君らを歓待したいところだが、白昼堂々の魔人族の襲撃もあって貴族達も慌てていてな。晩餐会とさせてもらった。今夜は楽しんでくれ」


 五英雄を労いたいという陛下の意向で開かれた晩餐会では、なんと王族の方々がホスト役として歓待してくれた。『貴人の間』と呼ばれる王城の一室は王族の貴色である濃い紅の絨毯が敷きつめられ、真っ白なテーブルクロスがかけられたダイニングテーブルの上には磨き上げられた銀製のカトラリーが並んでいる。


 振舞われた食事は、それはもう豪華なものだった。前菜、スープ、魚、肉、チーズと少量の料理が次々と運ばれてくる。


 横長のテーブルに座るのは俺達5人と同数の王族の方々。ホスト側は陛下と王妃陛下、第一王子殿下、第一王女、第二王女と豪華な顔ぶれだ。下座側中央に陛下が座したことから王族の方々が、最上級の貴人として俺達を歓待してくれていることがわかる。


 アスカはなんと女性第一位の賓客扱いで、陛下と王子殿下に挟まれた席だったため、ガチガチに緊張してしまい真っ青になっていた。俺もアスカの向かいの席で王妃陛下と王女殿下に挟まれていたから多少緊張はしていたが、王陛下や王妃陛下が気さくに話してくださったのですぐにリラックスすることが出来た。


「もう少しで盗賊に乱暴されちゃうってところでアルが一人で助けに来てくれたの! ほんとにかっこよかった!」


「百人を超す盗賊団に単身で乗り込むとは……。アルフレッド殿は勇敢ですね!」


 気を遣ってくれたマーカス殿下が、アスカに旅の話題を振ってくれた。アスカも発泡ワインを数口飲んでからは、だんだんと緊張は解けたようで気軽に会話している。


 むしろ緊張が解けすぎて口調が馴れ馴れしくなって冷や冷やする。アスカ……気やすく接してくださってはいるが、その方は王位継承権第一位の王子殿下だぞ? 


 頼むからもう少し丁寧に……ああ、もう酒を飲むな! 禁酒って言ったじゃないか……。いや、陛下や王子殿下に勧められて、断る事なんて出来ないけどさあ。


「千を超える国民を癒す奇跡を施されたと聞いておりましたが、聖女様はとても気さくな方でいらっしゃるのね」


 王妃陛下がマーカス王子と話し込むアスカを見てそう言った。


「申し訳ありません。アスカはこの国の作法には慣れておりませんので、失礼をご容赦ください」


「失礼なんてことはありません。貴方がたは救国の英雄で、本日のお客様ですのよ? 気取りすぎないぐらいで丁度いいですわ」


 俺の謝罪を受けて王妃陛下が微笑む。


 まあ、アスカのテーブルマナーは言うほど悪くない。カトラリーの扱い方やグラスの持ち方もしっかりしている。元から礼儀作法はしっかりしている方だったし、クレアと過ごすようになってから、この国のマナーにもある程度慣れたみたいだし。


 アスカは平民の子という事だったが、やはりニホンの生活や教育の水準はとても高そうだ。平民の子女が無償で高等教育を受けられるという事だったからなぁ。信じられないくらい文明度の高い国家だ。

 

「わぉ! リンゴのタルト? 美味しそう!」


「こちらはアストゥリア産のポワールですよ。アストゥリアご出身のアスカさんやエルサさんのお口に合うようにと作らせたんです」


「んー、おいしー!!」


 クレアの嘘でアスカはアストゥリア帝国出身って事になってる。余計なことを言ってくれるなよ……アスカ。あ、でも、スイーツに夢中みたいだから大丈夫そうだな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 食事の後、俺達5人は別の部屋に案内された。ゆったりと座れるソファが配置された、落ち着いた部屋だ。暖炉から聞こえる、パチパチと鳴る薪がはぜる音が心地いい。


 食後酒が振舞われたが、アスカと共に「酔いすぎたので」と遠慮させてもらう。さすがにこれ以上飲ませると余計なことをしそうだからな。


「さて、少し込み入った話をさせてもらおう」


 暖炉を背にした最も大きく立派なソファに腰を下ろした陛下が、部屋にいた執事に目を向ける。執事は会釈し、メイドたちを引き連れて部屋を出て行った。


 残ったのは陛下と殿下、俺達五人だけだ。なんだろう。魔人族についての情報共有だろうか。


「アルフレッド、そしてアスカ。そなたらに聞きたいことがある」


 さっきまで穏やかな笑みを浮かべてホスト役をしてくれていた陛下だったが、すっと心の奥底をのぞき込むような真剣な目つきに変わった。


「そなたらは、龍の従者なのか?」


 ……やはり、その話題か。


 おそらくは俺とアスカの加護に関わる事だ。キマイラと戦う時は、自重しなかったからな……。おかしいと思われるのも当然だ。


 龍の従者

 神の使い


魔人族やエルサから急に言われた呼称。ようやく、その意味するところを知ることが出来るか……?




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