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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第187話 理不尽な結末

 目の前が真っ白になり何も見えない。激しい耳鳴りで、頭に突き刺すような痛みが走る。


 頭の中に泡だて器でも突っ込まれて掻き回されているかのように、上下左右がぐらんぐらんと揺れる。大波に巻かれ、どちらが水面かどちらが水底かわからなくなって溺れかけた時のようだ。


 頭がぐちゃぐちゃで何も考えられない。吐き気と頭痛ははっきりと感じられるのに、全身の感覚が無い。


 いったい何が……起こった? もしかして、俺は……ブレスを受けて死んでしまったのか?


 そんな思いが過った次の瞬間、頭痛や吐き気、激しく揺さぶられているような眩暈がすっと無くなり、地面に倒れて涎をたらしている自分に気付く。いつの間にか身体に感覚が戻っている。


「アル! 起きて!!」


「はっ!」


 アスカの声に一瞬で意識が引き戻され、目を見開く。俺のすぐ目の前には、ひざを折り、上半身を項垂れさせたキマイラがいた。


 なんだ? どうなってるんだこれ? というか、なんでアスカがここにいるんだ!? 


【水装】(セプタム)を使って!」


「え?」


「早く! キマイラのスタンが解けちゃう!」


「え、あ、ああ!!」


 そうだ。こいつは青灰魔熊のように【威圧】を使って来た。水装で魔法抵抗を高めて対策をしないと、まともに戦えない。


 キマイラは身動きを止めてはいるが、圧倒的な威圧感は消えてない。死んでいるわけじゃないんだ。


「次は【挑発】(タウント)! アンデッド・キマイラのヘイトを稼いで!」


「あ、ああ! 【挑発】!」


 俺は言われた通り、【挑発】を発動する。それと同時に、項垂れていたキマイラが頭を上げ、再び立ち上がった。


「グオォォォッ!!」


 キマイラが荒々しい咆哮を上げる。暗緑色の複眼が俺を睨みつけ、ただでさえ禍々しい殺気が膨れ上がる。


「【鉄壁】を常時発動(アクティベート)! 前に出てキマイラを抑え込んで!」


「お? お、おう!」


 俺は混乱しつつも火喰いの円盾に【鉄壁】を宿らせる。何が起こったのか分からんが、アスカの言う通りこいつを抑えないと!


 俺はキマイラの目の前に躍り出る。振り下ろされる左の鎌を角度をつけた盾で受け流し、続けて横薙ぎに払われた右の鎌をバックステップで躱す。

 

 よしっ。ギリギリだが鎌の攻撃なら何とか捌けそう……ってあぶねぇ!!


 右の鎌に隠れるようにして鎌首をもたげた蛇頭の尻尾から強酸液が吐き出された。俺は鉄壁を留めた円盾から魔力障壁を展開してなんとか受け止める。


 くそっ……反撃に移る暇がない! 無数の棘がついた鎌の様な左右の腕と、隙を突いて吐き出される蛇頭の尻尾。受け止め、避けるだけで精いっぱいだ。


「アルッ! そのまま聞いて! そいつはアンデッド・キマイラ、Sランクモンスターよ!」


 Sランク!? 嘘だろ!? Sランクって言ったら、一軍をもってなんとか対抗できるっていう厄災(カタストロフ)級の魔物じゃないか! 


「アルは常時発動した鉄壁でキマイラの攻撃をしのいで! 反撃は一切しないで防御に専念! 隙があったら【挑発】でキマイラのヘイトを稼いで!」


「あ、ああ! だが、それだけじゃ……」


 俺は鎌や強酸液の攻撃を受け止め、いなし、避けながらアスカに叫び返す。


 キマイラの注目を集めるのは良い。確かにキマイラの動きは早く、攻撃も重いが、防御や回避に専念すれば受け止められない程じゃない。


 隙を見つけて挑発を発動し、気を引くぐらいなら何とかできそうではある。だけど、それだけじゃジリ貧じゃないか。反撃するチャンスなんて見つけられそうも無い。このままじゃ体力と魔力を削り切られてしまう。


 それに……。


 鎌の斬撃を受け、勢いに押されて後ずさった隙に、キマイラは大きく息を吸い込んだ。


 思ったとたんにこれだよ! こればっかりは防ぎきれない……!

 

「アスカ! 俺の後ろに……」


 ああっ……間に合わない! くそっ! アスカ……!!




「―――フラッシュ・バン!」




 アスカの声とともに、再び割れんばかりの轟音が鳴り響く。世界が白い光に包まれ、あまりの眩しさで何も見えなく……


「あ、あれ?」


「下級万能薬で盲目とスタンを治したよ! ほら、挑発でヘイト稼いで、身体強化! AGL(速さ)優先ね! 急いでっ! キマイラのスタンが解けちゃうよ!」


「あ、は、はい!」


 俺は言われた通りに挑発と瞬身を発動。


「レイドバトルで何度も戦ったことがあるから、こいつの攻撃パターンは知ってるの! 大振りの攻撃でノックバックされたらブレスが飛んでくる! ブレスはフラッシュ・バンで止めるから、アルは壁役(タンク)に集中して!」


 そうこうするうちにキマイラが再び立ち上がった。俺は鉄壁を盾に宿らせて、再度キマイラに突貫する。


「ブレスが来ると思ったら耳と目を塞いでうつ伏せになって! 大丈夫! ブレスはぜったい撃たせないから!」


 戦ったことがあるって……WOT(物語の中の世界)でか!


 なんか……アスカがものすごく頼もしいんだけど!?


「グルアァッ!」


「おおっと!」


 鎌の斬撃をバックステップで回避すると、俺の身体を薄っすらと光が包む。アスカが魔力回復薬を使ってくれたみたいだ。


 キマイラの通常攻撃を俺が捌いて、ブレスはアスカが防いでくれて、減った魔力もアスカが回復してくれる……。


 これなら……攻撃手段は無いけど、集中力とアイテムが続く限りは戦えるじゃないか! 俺とアスカが粘り続けていればきっと……




【大爆(エクスプロージョン)炎】(・マキシマ)!」

「爆ぜろ―――劫火ノ大剣(フランベルジュ)!」




 キマイラの巨体を重なる爆炎が襲う。さすがのキマイラももだえ苦しんでいる。


「ごめん! 待たせた!」


「はっはー! すげーのがいやがんな!!」


 エルサとルトガーが俺の隣に駆け付けてくれる。


「ありがとな、嬢ちゃん。このヤロウ……よくもやってくれやがったな!」


 後ろからヘンリーさんの声も聞こえる。俺を庇って強酸液をまともに浴びたヘンリーさんをアスカが助けてくれたみたいだ。


 よしっ……これで反撃が出来る! 覚悟しろよ……キマイラ!




◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

【爆炎】(エクスプロージョン)!」


「おらぁ! 【魔力撃】(スラッシュ)!」


「くらえっ! 【剛拳】(スマッシュ)!」


「パパッ、ルトガーさん、ヘイト取りすぎ! いったん下がって! アルッ、【挑発】!」


「おうっ!」


「エルサ、魔力回復薬(これ)使って! 詠唱に時間かかってもいいから特大の爆炎食らわせてやって!」


「りょうかいっ!」


「俺達は!?」


「ルトガーさんは聖剣! パパ、溜め攻撃(チャージ)出来るよね? 出来るだけ手数は減らして強めの一発を入れて!」


「おっしゃあっ!」


 俺がキマイラの真正面に立って、挑発で注意を引きつつ、ひたすら攻撃を受け止める。エルサ、ルトガー、ヘンリーさんはその周りを走り回りながら、波状攻撃を加えていく。


 最初はうまく連携が取れず、キマイラの注意がエルサに向いてしまったり、アスカのフラッシュ・バンとやらで全員ぶっ倒れてしまったりした。


 だが、アスカが指示を飛ばすようになってからは驚くほどスムーズだ。キマイラは愚直に俺だけを狙い続け、ブレスはアスカに止められ、他3人に削られていく。


「グルオオオオォォォォッ!!」


 突如、キマイラが咆哮を上げ、その殺気や威圧感がさらに膨れ上がる。身体に纏わりついていた黒い靄が赤黒く変色し、さらにおどろおどろしい様相となった。


「ぐぁっ!」


 鎌の斬撃を盾で受け止めたが、まるで小石のように弾き飛ばされ、闘技場の壁に激突した。俺を切った勢いで地面に叩きつけらた鎌は、舞台の地面を地割れのように大きく切り裂く。


 とんでもない威力だ…………だが、それも想定済み(・・・・)


「来たっ! これが狂化(レイブ)だよ! みんな下がって!」


「ええっ!」

「おうっ!」


 闘いながらアスカから聞いていたSランクの魔物の『狂化(レイブ)』。体力が半分を下回ると使って来る、攻撃力が倍になるという恐ろしいスキルだ。狂化状態の時には、いくら注意を引いて(ヘイトを集めて)も関係なしに、周囲にいる者を手当たり次第に襲うようになるため壁役がこなせなくなる。


 だが、行動パターンが変わりブレスを打ってこなくなるので、暴れまわってる間は逃げてしまえばいい。狂化の効果時間である90秒を過ぎれば、その疲労からか十数秒動きを止めるそうだ。そこが反撃の大きなチャンスだ。


 俺はポーチから下級回復薬(ポーション)を取り出して叩きつけられたダメージを癒し、逃げ回る。周囲にいた生ける屍(アンデッド)や決闘士の生き残りが突然襲い掛かって来たキマイラに斬り飛ばされる。


天龍薬(マルチ・ポーション)!」


 アスカの身体から青緑色の光が迸り、光が半球状に広がっていく。すると倒れ伏した決闘士や騎士達が次々に立ち上がっていく。


 これはアスカのアイテムメニューの力なのだろう。癒者の最上級職【聖者】(セイント)のスキル【聖者の祈り】(エリアヒール)と見紛う効果だ。


 天龍薬は確か神人族(エルフ)秘伝の回復薬だったはずだが……いつの間にこんなものを手に入れたんだ? まさか……作ったのか?


 そんな事を考えながら逃げ回っていたら、キマイラの動きが急に緩慢になり、赤黒い靄が黒く変色していった。よしっ、反撃だっ!!


【大爆(エクスプロージョン)炎】(・マキシマ)!」

【大爆(エクスプロージョン)炎】(・マキシマ)!」

「爆ぜろ―――劫火ノ大剣(フランベルジュ)!」


 俺とエルサ、ルトガーの放った爆炎がキマイラを包む。


「食らいやがれぇ!【練・剛拳】(チャージ・スマッシュ)!」


 剛拳の魔力を練り上げたヘンリーさんの拳がキマイラの腹に突き刺さる。その剛撃はキマイラの巨体すら吹き飛ばした。


 これだけの攻撃を食らわせてもキマイラは未だ健在。身体中が焼け焦げているというのに、変わらずに恐ろしい程の威圧感を放っている。


 だけど……時間はかかりそうだが、なんとか倒せそうだ。


 通常状態では壁役に徹し、皆の波状攻撃とアスカの支援でじわじわ削る。狂化状態になったら回避に努め、動きが止まったら全力の攻撃を叩き込む。


 この調子でいけばきっと削り切れ……って、えぇ!!?


 なんとアスカが腕を横にぱたぱたと振り、女の子走りでキマイラに向かっていく。


 なんでアスカが!? 今は動きを止めているとは言え、それはものの十数秒って話だろ!?


 また動き出したら……って、動き出した!?


 キマイラの頭が小さく揺れ、脚が動く。


 やばいっ!! アスカ!!!




【上級万能薬】(ソーマ)!」




 アスカがキマイラの身体に触れて呟く。とたんに眩い光がキマイラの巨体から溢れ出した。


「グギャアァァァァッ!!」


 キマイラを包んだ眩い光が、黒い靄を祓い、その巨体を溶かしていく。断末魔の叫び声が途切れ、光が収まると、そこには腰に手を当てて胸を張るアスカの姿だけがあった。



「前に言ったでしょ? 上級万能薬(ソーマ)はアンデッドを治せるって」


 そう言ってアスカはニッコリと笑った。







以上、アスカ無双回でした。アンデッドの回復アイテム一発昇天はゲームの様式美ってことで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 強敵をパーティーで攻略するのは楽しいですね。 アルとアスカが共闘するの好きです。 [一言] アスカはWOTでどんな戦闘スタイルで遊んだのか気になります。
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