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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第177話 三位決定戦

「ラァッ!」


「ぐっ……、せいっ!」


 ヘンリーさんの回し蹴りを盾で受け止め、練習用の木刀で突きを放つ。剣先が腹に突き刺さり、ヘンリーさんは修練所の地面を転がる。


 回し蹴りで体勢を崩され、腕の力だけで突き出した木刀では決め手にはならない。俺は即座に間合いを詰めて、立ち上がったヘンリーさんに木刀を振り下ろす。


「ふぅっ……見事だ」


 顔面でピタリと止められた木刀を忌々し気に睨みつけながらヘンリーさんが両手を上げた。


「スキル無しじゃ敵わなくなってきたな。まったく、魔法使いのくせにどうやったらそこまで地力が強くなるんだ。俺の倍くらいレベルがあるって言われても疑わねえよ」


 ヘンリーさんのレベルは40くらいだったっけ。倍って事はレベル80か。実際はその十分の一のレベル8だけどね。


「スキルありじゃ、まだまだ敵いませんよ」


 実際、体力を回復させる【気合】や魔力を回復させる【内丹】なんかを使われただけで、アウトだ。元々体力ではかなり負けてるのに回復までされたら、勝ち目がない。じわじわと気力体力を削り切られてしまう。


 俺の方も回復魔法が使えれば、そこまで継戦能力に差は出ないと思うんだけど、詠唱中に潰されて魔法を使わせてもらえないんだよな。さすがは『拳聖』ってところか。


「当たり前だ。俺が何年、冒険者をやってると思ってる。冒険者歴数年のひよっこにはまだまだやられねえよ」


 成人の儀で加護を得たら冒険者登録をすることが出来るから、俺の年齢だと冒険者歴4,5年と思われてるんだろう。実際は冒険者歴になって半年も経ってないけど。とはいえ、成人の儀の後に5年も引きこもりをしてたとは言いたくないから、訂正はしない。


「早朝からの手合わせ、ありがとうございました。身体も十分温まりましたし、今日は良い戦いが出来そうです」


 昨日のうちにヘンリーさんに頼んで、朝から訓練に付き合ってもらった。疲れを残さないように、スキル無しの手合わせだ。スキルありだとボコボコにやられてダメージを残してしまうだろうし、魔力を温存したかったしな。


「そこは絶対に勝ちますとか言えよ。っとに覇気の無えヤツだな」


「絶対に勝ちます」


「遅えよ」


「あはは」


 覇気が無いか……確かにね。上級万能薬を入手するために奮闘していたエルサとは違って、俺は決闘士武闘会(デュエリストパレード)で『必ず勝ちたい』とまでは思って無いからなぁ。


 決闘士武闘会は陛下に強制されて参加しただけだ。元々、闘技場で決闘士をやったのだって加護の強化と経験を積むため。ヘンリーさんやエルサの様な手練れと戦って、経験を積めるってだけで満足しちゃってる自分がいる。


 今日は、優勝候補大本命『重剣』(ツヴァイヘンダー)ルトガーだ。先輩決闘士、そして先輩冒険者でもあるルトガーの胸を借りて、勉強をさせてもらおう。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ヘンリーさんとの朝稽古を終え、エースの世話をした後に、楡の木亭で待っているアスカを迎えに行く。もうとっくに日も昇っているというのに、アスカは食堂でうつらうつらと首を振って、眠そうにしていた。


 バルジーニやボビーにもらった色々な素材が嬉しくて、素材いじりや調剤で昨夜は夜更かししてしまったそうだ。気持ちはよくわかる。俺も火喰い狼素材の武具を購入した夜は、必要も無いのに何度も手入れをしちゃったもんな。


 眠そうなアスカの手を引き、闘技場に向けて出発する。さすがに決勝だけあって、闘技場に向かう街道はいつもより遥かに人通りが多い。


「おっ、あそこにいるの、アルフレッドじゃねえか?」

「がんばってくれよ、アルフレッド! お前に生活費全額賭けてるんだ!」

「アルフレッドさーん!!!」


 俺に気付いた通行人達が、両脇に別れて道を譲ってくれる。応援の声をかけてくれる人も多い。自分で言うのもなんだが、中には黄色い声も交じってる気がする。ちょっと前までは罵声しかかけられなかったのに、えらい違いだ。


「ふっふーん。かーなり人気出て来たねー!」


「そうだな。決勝まで勝ち抜いた甲斐があったなぁ……」


「うんうん! あとはルトガーを倒して優勝だね! アルに酷いこと言った人たちを見返してやんなきゃ!」


「ああ、頑張るよ。でも、昨日言ったろ? ルトガーと戦いたいとは思ってるけど、勝って優勝したいとまでは思って無いって」


「いいのいいの。勝手に期待してるだけだから。魔人族(ダークエルフ)が出場してないんだから、決闘はあくまでも熟練度稼ぎとプレイヤースキルを上げる事が目的だもんね」


 プレイヤ……? 実戦経験を積むってことかな? まあいいか。


「全力は尽くすよ。2か月も闘技場で罵倒されながら修練したんだ。その成果をアスカに見てもらわないとな」


「うん! がんばって!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 闘技場には観客に混ざって、たくさんの騎士団の兵達の姿があった。いつもは出入り口や通路、決闘ベッティングの受付辺りに数名ずつの兵士が立ち番をしているぐらいなのだが、今日はいたるところに完全武装の兵士がいて、辺りを見張っている。


 闘技場の外は軍馬に騎乗した騎士が巡回し、赤い布を着けた従魔達が魔物使いとともに控えている。警備腕章をつけた冒険者達の姿も見える。


 今日は陛下や王子殿下も観戦に来られる。王子殿下はつい最近に魔人族の襲撃を受け、呪いまでかけられてしまったのだ。厳戒態勢も当然だろう。


 冒険者ギルドマスターであるヘンリーさんや魔獣使いギルドに、魔人族への警戒を進言しておいたことも功を奏したのかもしれない。本来はチェスターを襲った魔人族が現れるはずだった……なんて言えるはずも無いが、チェスター・ヴァリアハート・王都の3か所で魔人族の襲撃があったことを伝えると、警戒を強めると言ってくれていたのだ。


 これだけ厳重な警備体制を敷けば、いくら魔人族が現れても怖くない。そうアスカに言うと、『うわーフラグ立てちゃったー』とか言っていた。フラグ?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 いつも通り修練場や従魔の飼育場を通り過ぎて控え室に入る。エルサ、テリーサ、ルトガーは既に到着していた。数十人は入ることが出来る広い控室の三隅にそれぞれ陣取っている。


「おはよう、エルサ。今日はお互い頑張ろう」


「おはよう。なんだか余裕そうね。君の相手はあのルトガーなんだよ?」


「ああ。最強のBランク決闘士。今日は全力で挑ませてもらうよ」


「……なんだか模擬戦の前みたいね。王都中が君とルトガーの話で持ちきりだって言うのに」


 そう言ってエルサが呆れたように笑った。


 今日はエルサとテリーサの三位決定戦が先に行われ、次に俺とルトガーの決勝だ。エルサは既に装備を整え、準備運動も済ませたのか額に軽く汗を浮かべている。


「ちょっと苦手な相手だったから緊張してたんだけど、余計な力が抜けたわ」


「それは良かった。まあ、普通に戦ったらエルサが勝つだろ? アスカとボビーも8割方はエルサの勝利だろうって予想してたよ。オッズもエルサの方が人気みたいだし」


 あ、背中に視線が突き刺さった気がする。エルサの対戦相手テリーサが睨んでるのかな? 失敗したな。声が大きかったみたいだ。


「8割? 九分九厘、私の勝ちよ」


 エルサが大きめの声で答える。わざとテリーサに聞こえるようにしてるな、こいつ。


「それで、君の方はどうなの? アスカちゃんやボビーさんの予想は?」


 エルサはニヤニヤ笑って俺を見ている。なるほど、今度は俺の番ね。


「アスカ達の予想は、俺の勝利だってさ。決闘士武闘会では全て当ててるみたいだから、俺の勝ちは間違いないさ」


 ルトガーに聞こえるように、大きめの声で言う。ルトガーも、ちらりとこちらに目を向けてニヤリと笑った。


「陛下の御挨拶が終わりました。三位決定戦を行います。エルサ選手、テリーサ選手、出場アーチに向かってください!」


 闘技場の職員から声がかかる。いよいよ決闘士武闘会、最後の一日が始まった。




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