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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第17話 不穏な気配

「お待たせしました。参りましょう」


 少しだけ待つとセシリーさんがギルドから出て来た。どうやら、上司が退勤時間の融通を利かせてくれたらしい。品薄の回復薬を今後も納品してくれそうなので、アスカと仲良くしておけということのようだ。さすがは機に聡い商人だな。


 まず陶器を扱うお店をセシリーさんに案内してもらい、森番小屋に置いてあった物と同じくらいの大きさの甕を二つ購入する。この大きさのものが二つもあれば回復薬100個以上は十分に作れるだろう。


 今回購入したものは二つで銀貨3枚だったが、たくさん購入してくれるなら一つ銀貨1枚で作ってくれるとのことだったので、セシリーさんにバレないように発注しておいた。小瓶を大量に仕入れた方が、変に怪しまれなくてなくて済むかとも思ったが、水瓶よりもかなり割高になるのでやめておいた。


 その後、セシリーさんお勧めの仕立屋に赴く。女性向けの衣服を主に扱う店だけに、見本として置いてある商品もほぼ女性もので、中には下着類もある。店の外で待っているって言ったのに、選ぶのを手伝えと言われたので止む無く付き合っているけど……男としてはかなり居辛い雰囲気だ。


「このチュニックかわいいー!」


「かわいいですね。ですが、旅をされるには少し派手かもしれません」


「ええー? ぜんぜん派手じゃないじゃん。もっと明るい色の方が良いくらいだよー」


「街中ではいいのですが、外に出ると目立ちますよ? 魔物に見つかりやすくなるので、もう少し風景に馴染む色合いのものを選ばれた方が……」


「あっそっかー。そうだよね、そういう事も考えなきゃいけないのか。じゃあこれなんてどうかな?」


「ええ。とても可愛らしいですね。お似合いになると思います」


「ね、ね、どうかなアル?」


「あ、ああ、いいんじゃないか?」


 本当にセシリーさんに同行してもらってよかった。こんな助言は俺には出来ないもんな。俺には「いいね」ぐらいしか言えそうに無い。アスカは何を着ても似合いそうだし。


「うっそ……。下着ってこんななの……?」


「ごく普通の下着かと思いますが?」


「ほんとにー? お婆ちゃんがこーゆうの着てたなぁ。ズロースだったっけ? こんなの着てたらガッカリされない?」


「はぁ、ガッカリですか? あっ……アルフレッドさんに……?」


「あ、いや、その……今の無し!」


 うわぁ。下着を取り出した辺りから背中を向けて離れて立ってるけど、本当に居たたまれなくなってきた……。声はどうやっても聞こえてくるもんなぁ。どうしよ。あ、潜入を発動して気配消しておこっかな。


「セシリー、ちょっと来て、こっち! あっ店員さん、これとこれ、試着してもいいですか?」


「はい、どうぞ。採寸もさせていただきますね」


 そう言って、アスカとセシリーさん、女性店員が店の奥に入っていく。店に取り残された俺を店主のオバさんがニヤニヤしながらこっちを見てる。くそぉ、仕事しろ潜入スキル!


 あまりの居たたまれなさにヤキモキしていると、店の奥からセシリーさんの大きな声が聞こえてきた。


「なっ、なんですか、この下着は! すごいです! 可愛いです! アスカさん、見せてください! これっ、どうなってるんですか!? おっぱい詐欺じゃないですか!」


「やっ、ちょっと、セシリー!? ぁんっ!」


「お客様っ! このお下着はどちらでお買い求めになったのですか!? この立体的な裁断! あっ、針金で下支えしているのですね! このおかげで大きく、しかも形がこんなにも美しく! 素晴らしい! 素晴らしいです! どっ、どうかこちらのお下着をお譲りいただけませんか!? 代わりのお下着などいくらでも差し上げます!」


「ちょっ、あっ、やめてっ、いやぁっ!」


うん。ダメだこれは。聞いちゃいけないヤツだ。俺は店主の目を避けて、そっと店を出た。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「かぁんぱーい!!」


「乾杯!」


「ふふっ、乾杯」


 試着と採寸を終えて疲れ果てたアスカが店から出て来るのに、けっこうな時間がかかった。待っている間に夕食の時間になったので、今日のお礼にとセシリーさんを誘い、商人ギルドおススメの酒場「山鳥亭」に繰り出したのだ。


「セシリー、今日はありがとう。助かったよー」


「どういたしまして、アスカさん。こちらこそ品薄の回復薬の納品をしていただいて助かりましたから。このぐらいなんでも無いですよ」


「明日からもじゃんじゃん持ってくるからね!」


「ありがとうございます。アスカさんは若いのにとても優秀な薬師なのですね」


「そ、そうかな……あはは」


 アスカがひきつった笑顔を見せている。それはそうだ。メニューをちょちょいと操作して調剤をしてしまう似非薬師だからな。


 薬効成分の抽出方法や蒸留の仕方どころか、魔力の込め方すら全く知らないわけだし。そもそも魔力も無いし。


「そうですよ! この町にもたくさんの薬師がおりますが、多くても1日30本ほどしか作れません。アスカさんのように、たった1日で60本も作れる者などいないんですよ?」


 おっと。薬を作りすぎるのも目立ってしまいそうだな……。今日と同じ60本ぐらいなら、町の普通の薬師さんの2倍程度だし、さほど目立ちもしないかな? 優秀な薬師って評価で済んでるみたいだし。


「明日からもそのぐらいはお持ち出来ると思いますよ」


 今日は聖域で採った素材があったから少し多めに作れたけど、明日からは薬草だけでなく魔茸(マジックマッシュ)も採取しなくちゃいけない。1日で50~60本ぐらいがちょうどいいだろう。


「ええー? もっといけるんじゃない? 1日100個ぐらいはいけるよ!」


「本当ですか! アスカさん、すごいです!」


 おい、アスカ、バカこら。一気に普通の3~4倍の本数じゃないか。余計なこと言うなっての。


「そんなに多く納品していただけるなら、買取価格を高く設定させてもらえるよう上司に相談しますね。アスカさん達は材料の採取にも行かれていますので、冒険者ギルドに調達を依頼しなくて済みます。手数料がかからない分、上乗せも出来ると思うんです」


 あー、もう手遅れだ。まあでも、しょうがない……か。ずっとこの町にいるわけでも無いし、路銀を稼がなきゃいけないのは事実だし。


「それは嬉しいですね。ありがとうございます。さ、仕事の話はその辺にして、食事を頼みましょう。セシリーさん、何かお勧めはありますか?」


 これ以上話をしているとアスカがどんどん余計なことを言いそうだ。メニューに関することは話さないようにしろって言ってあるのに、ほんとに迂闊なやつだな。


「あ、羊肉のシチューが美味しいですよ。オークヴィルの伝統的な家庭料理なんですが、このお店は羊乳を使ってクリーミーに仕上げてて、とても美味しいんです。私は、ここに来るといつもそれを頼んでます」


「クリームシチュー? 美味しそう! あたしも、それにするね!」


「じゃあ、俺もそれにしようかな。すみませーん!」


 店員さんを呼んで注文をする。乾杯してすぐなのに、いつの間に飲み干したのか、セシリーさんはエールのおかわりも頼んでいた。


「セシリーさん、お酒はけっこう飲まれるんですか?」


 そう聞くと、セシリーさんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「そ、そうなんです。父が大酒飲みの冒険者で、よく付き合っているものですから。すみません、こんなはしたない飲み方を……」


「いえいえ、そんな。ここのエールは良く冷えてるし、香りも豊かで美味しいですよね」


「ええ、美味しいですよね。あら、そう言えばアスカさんはお酒はお飲みにならないんですか?」


「あ、あたしは、おお酒はしばらくいいかなぁって……あはは」


 俺とセシリーはエールを頼んだが、アスカは果実水を頼んでいた。お酒は先日の事もあり、控えることにしたみたいだ。うーん、やっぱりアスカにとって、お酒の失敗ってことなんだろうか……。


 せっかく酒場に来ているのだから、一杯ぐらいはいいと思うのだけど。いや別に、お酒を飲んだら、また前みたいな雰囲気になるかもとか期待していたわけではなく。


 うん。女の子を酔わせて……なんて考えていたわけでは決してない。そう、断じてない。そんな騎士の風上にも置けないようなことを考えるわけないのだ。いや、騎士じゃないけど。


 そんな事を話していると、注文していた料理ができあがった。じゃが芋と玉ねぎ、羊肉が入った、羊乳のクリームシチューだ。バゲットも添えられている。


 味付けは塩と胡椒ぐらいで素朴な味わいなのだが、羊乳を使っているためか、まろやかでコクがある仕上がりになっている。お世辞抜きで、とても美味しい。


「おいしーい! お肉もとっても柔らかいし。いいね、これ!」


「お口に合って良かったです」


「うん。美味しいですね。ぜひ、レシピが知りたい」


「お店のレシピは教えてもらえないでしょうが、良かったら母に教わったレシピをお教えしましょうか? 母のシチューもとっても美味しいんです」


「いいんですか? お願いしたいです!」


「ええ、もちろん。母も喜びます」


「うん! 美味しいから、また食べたい! アル、しっかり覚えてね!」


 ありがたい。美味しい食事は、人生の喜びだからな。旅をしながらこうやって、地方の家庭料理を修得していくのもいいかもしれない。でも、アスカ。食べたいならお前も覚えろよ。なんで人任せなんだ。


 そんな風に、俺たちは料理に舌鼓を打ちつつ楽しい夕食を終えた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「明日は森に入って魔茸の採集ですか……」


 俺とアスカは、遅い時間になったのでセシリーさんを自宅まで送っていくことにした。セシリーさんが生活魔法の【照明】(ライト)を使って道を照らしてくれている。便利な魔法だな。まあ、【夜目】があるから俺はいらないんだけど、アスカは全く見えないから覚えておいた方がいいかもしれない。


「ええ。午前中はシエラ樹海に入って魔茸の採集。午後は牧草地で薬草を採集する予定です」


 シエラ樹海は町の北側に広がる森林だ。鬱蒼と樹木が茂り、そこかしこに回復薬の素材となる魔茸や食用の茸が生えているらしい。


「……そうですか。樹林の中は草原に比べて強い魔物が出るそうですから、気を付けてくださいね」


「ええ、気を付けます。ありがとうございます」


 冒険者ギルドに採集依頼を出すぐらいだもんな。魔物が多く出没するのだろう。まあ、俺たちは逃げ回るから、戦うことは無いのだけど。


「実は冒険者ギルドから回ってきた情報なのですが、樹海で火を吐く狼が見かけられたそうなんです」


「火を吐く狼……。レッドウルフではなく?」


「ええ。森に入って討伐クエストをこなしていた冒険者からの情報なのですが、レッドウルフよりも一回りも二回りも大きい狼型の魔物だったそうです。レッドウルフに向かって火を吹いているところを遠目で見たという話ですね」


 大型の狼か。レッドウルフは名前だけを聞くと火を吹いたり火魔法でも使ってきたりしそうだけど、実際には火も吹けないし魔法も使わない。毛皮が紅いからレッドウルフと呼ばれているだけだ。火を吐いたという事なら、レッドウルフと見間違えという事はなさそうだな。


「最近のレッドウルフの増加に関係しているかもしれないということで、冒険者ギルドは調査隊を樹海に送りこむそうです。アスカさんたちも樹海で魔茸狩りをされるのでしたら、お気をつけくださいね」


 うーん。アスカのおかげで路銀稼ぎも上手く行きそうだったのに、少し雲行きが怪しくなってきな。




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