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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第165話 本戦

「我らは信ず。唯一の主、全知全能の父、天地の創り主たる神龍ルクスを。我らは信ず。神の御子、央人(ヒューム)の庇護者たる火龍イグニスを……」


 闘技場の舞台の中央で祈りをささげる司祭。その周りを本戦に出場する決闘士達が円を描く様に囲んで跪く。超満員の観客席も水を打ったように静まり返っている。


 皆が胸の前で手を組んで祈りをささげる中、俺はまったく集中できずに、本戦出場者の一員として跪きながらボーっと開会の式典を眺めていた。あまりにも眠くて、聖句もほとんど頭に入ってこない。


「加護を給いし天主よ、我らが鍛え上げし剣と技をご照覧あれ!」


 司祭の声に、跪いていた本戦出場決闘士達が一斉に立ち上がって、それぞれの得物を天に向かって突き上げた。


 やべっ……式典の前に流れを説明されていたのに忘れてた。俺も慌てて立ち上がり、紅の騎士剣を掲げる。


『神前奉納試合の開催を宣言する!』


 陛下の声が響き渡り、続いて割れんばかりの歓声が闘技場を包んだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「次は君の出番なんでしょ? そんなんで大丈夫なの!?」


「……ふえっ? な、なんだって?」


 闘技場地下の決闘士控室で腰を下ろして壁に寄り掛かかり、うつらうつらとしていたら神人族(エルフ)の決闘士エルサに声をかけられた。


「……これはダメそうね。大事な試合の前日にムチャするからよ」


「仕方が無かったんだよ……。仲間を奪われたんだから」


 夜中ずっとエースを探して走り回って、魔物使いがけしかけた魔物やバルジーニの手下と戦って……。もう眠くて眠くて意識が朦朧としている。


 アスカお手製の回復薬で体力と魔力は回復しているが、回復薬では精神的な疲労や睡眠欲までは取り除けない。魔法や毒物によるものなら万能薬で打ち消すことも出来るのだが、溜まった疲れや眠さを解消することは出来ないのだ。


 ちなみにエースは冒険者ギルドの馬房で預かってもらうことになった。ヘンリーさんが目を光らせておいてくれるという事なので、楡の木亭や闘技場に預けておくよりは安心できる。


「仲間って従魔にしてた一角獣のことよね? ねえ、また角が生えたら私に譲ってくれない?」


「うん……? 角って一角獣の螺旋角のことか?」


「ええ。本当は私が捕まえて螺旋角を手に入れるつもりだったけど、君に先を越されちゃったからね。角は王家に進呈したんでしょ? だから、また生えたら譲って欲しいのよ」


「螺旋角って……また生えてくるのか?」


「詳しいことはわからないけど……二角獣(バイコーン)は毎年角が生え変わるみたいだから、一角獣もそうなんじゃないの?」


「へぇ……」


 二角獣も珍しい魔物ではあるが一角獣に比べればまだ見つけやすい。確か北の小国郡や大森林辺りで群れを成して生息していると聞いたことがある。


「そうか……だからエースは狙われたのか」


「そうじゃない? それで、どうかしら。春になったら生え変わると思うから譲ってくれない? 高く買うわよ」


「……俺は構わないけど。いちおうアスカにも相談しないとな。でも、なんでまた螺旋角が欲しいんだ?」


 エースの角は万能薬の材料になるという貴重な素材だから、譲ってもいいかアスカに聞いてからでないとな。そもそも俺とアスカは決闘士武闘会が終わったら王都を発つつもりだから、譲るにしても俺たちについてこない限り渡せないんだけど。


「……妹が病気なの。上級万能薬(ソーマ)でもないと治せない難病でね。王都には一角獣のウワサを聞いて、やって来たのよ」


 エルサが決闘士をやっているのは、王都の滞在費を稼ぐため。そして、決闘士として有名になれば一角獣の情報を集めやすくなるし、王家に近づくことが出来れば上級万能薬の方を手に入れるコネも得られるかもしれない。そう思って決闘士となり、武闘会に出場することにしたそうだ。


 なるほどね。だから前に闘技場で見かけた時、俺を睨みつけていたのか。俺は一角獣を奪い取った憎いヤツってわけだ。そして昨日、俺とエースの救出に来てくれたのは、俺に近づくためだったのだろう。


「上級万能薬があればいいのか? それなら数本持ってるけど」


「な、なんですって!? ゆ、譲って!! お金ならいくらでも用意するわ! お願い!!」


 血相を変えて掴みかかるエルサ。美しく整った顔が近づき、鼻腔を蕩かすようなエルサの甘い匂いが香る。


 いや、近い、近いって!!


「ちょっ……! 落ち着け! 今は持ってない! それにアスカに相談しないと……」


「アスカってのは、あの黒髪の子よね!? なら行くわよ! 観客席にいるんでしょ!?」


「だから落ち着けって! もうすぐ出番だから今は行けないよ! 後で紹介するから!」


「約束よ!! 君の試合の次は私だから、終わったら紹介してよ!」


「わかったから! 離れろ!」


「あっ……」


 エルサは我に返り、赤く顔を染めて身を離した。あー、周りの決闘士達や闘技場の職員からも注目を浴びてるな……。


「ごほんっ! じゃ、じゃあ次の試合、頑張って。私は第3試合だから……、お互い勝ち抜けば準決勝であたるわね。せっかくだから、2回(・・)は勝てるように応援してあげるわ」


「ああ、ありがとう。最低でも3回(・・)は勝てるように頑張るよ」


 決闘士武闘会の本戦は16名の決闘士が出場し、トーナメント形式で行われる。くじ引きにより、俺は第2試合、エルサは第3試合に割り当てられている。今日は第1から第8までの8試合が行われる予定だ。


 明日は第1試合と第2試合の勝者による決闘が行われ、明日も勝てれば明後日に第3試合と第4試合から勝ち進んだ相手と準決勝をすることになる。お互いに2回勝ち抜けば、準決勝で衝突するわけだ。


「ふふっ、無理すること無いわ。ベスト4に入れば十分でしょ?」


「そうだな。エルサもベスト4を目指して、頑張ってくれ」


 俺とエルサは互いにニヤリと笑いあったところで、闘技場の職員から声を掛けられた。


「第1試合が終了しました。アルフレッド選手、マイルズ選手、出場アーチに向かってください!」


 さて……いよいよか。ベスト4進出なんて先の事を考えるより、まず目の前の戦いだな。


 既に丸一日以上一睡もしてないわけだし、ヘルキュニアの森や王都を走り回った疲れも残ってる。予選の時とは違って、酷いコンディションで臨むことになってしまった。


 ろくにアスカやボビーと話す時間が無かったから、対戦相手の事も名前くらいしか知らない。しかも相手はBランク決闘士だ。厳しい戦いになりそうだな……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「よお、泥仕合(マッディ・アル)。さっきの聞こえたぜ。最低でも3つ勝つつもりなんだって?」


「……ああ。これは、その初戦ってわけだな」


「ふん、言うじゃねえか。生憎だが俺は4つ勝つつもりなんだ。よろしくな?」


「ああ、頑張ってくれ。大怪我しないと良いな」


「ふっ、お互いにな」


 広い闘技場の舞台でBランク決闘士マイルズと向かい合う。泥仕合って呼ばれたって事は、マイルズは俺の事をそれなりに下調べしたわけだよな。


 対して俺は相手の加護すら知らない。装備からすると……片手剣を腰に下げてるから剣士系か?


 ああ、準備不足もいいとこだな……。エースの騒動さえなければ、アスカから加護やステータスを、ボビーから評判や戦い方を聞くつもりだったのに。


 まあ、マイルズは俺の事を剣が使える魔法使いと思ってるだろうけど、実際には暗殺者・騎士・喧嘩屋・槍術士・癒者・魔術師の六加護持ちだ。前情報が無いからと言って、おいそれと負けるわけにはいかないよな……。


『第二試合、アルフレッド対マイルズ! 始め!』


 拡声の魔道具を使った審判の声と共に、腹に響く大鐘の音が鳴り響いた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] エルサさんは、上級万能薬が欲しかったのか…… 逆恨みですね。 でも、長い目で見れば強い味方になってくれそうな予感(*‘ω‘ *) [気になる点] 対戦相手であるマイルズ氏の下調べが、予選で…
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