表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
165/499

第161話 マフィア

「アルフレッドさん!」


「アル!」


「アスカ。もう大丈夫なのか?」


 楡の木亭に着くとアスカとユーゴー、それにリンジーが待ち構えていた。どうやらリンジーの方も何か手掛かりをつかんだようだ。


「うん、ごめんね、大事な時にバテちゃって……」


「仕方ないさ。俺の方こそアスカの体力を考えずに急いでしまってスマン。それで、リンジー。何かわかったか?」


「魔物使いギルドが把握している飼育場(モンスターファーム)は全て確認したんですけど、エースちゃんは見つかりませんでした……。でも、逆に言えば、いるかも知れない場所は絞り込めました」


「いるかも知れない場所?」


「はい。魔物使いギルド会員でも入り込めない飼育場があるんです」


 王都で魔物を飼育する場合、魔物使いギルドに届け出る必要がある。飼育している魔物が何らかの理由で魔物使いの制御から離れてしまった場合、王都に魔物を解き放つことになるのだから当然の措置だろう。


 魔物使いギルドは定期的に飼育場へ監査に入り、適切に管理されているかをチェックしているのだそうだ。だが魔物使いギルドが立ち入ることが出来ない飼育場もある。


 その一つは王家や貴族が管理する飼育場。騎士団や領兵が軍馬などを飼育している施設だ。軍備に関しては一定の秘匿性が求められるから当然だろう。


 そして冒険者ギルドが管理する飼育場。冒険者ギルドは貴族や王権からも一定の中立性を得ているし、有事の際の予備兵力とも見做されているから、騎士団や領兵に準じる組織として扱われているそうだ。


 どちらとも、例え魔物が暴れたとしても、それを制圧できる武力を擁しているから、魔物使いギルドの立ち入りの必要が無いという建前なのだろう。


「そして……スラムのマフィアか……」


「はい。平民街にあるので、ウチが監査に入る権限はあるんですけど、ギルド長の指示で普段からノータッチなんですよね……」


「そういう組織は王家や貴族とも、ある程度のコネがあるだろうからな……。魔物使い(テイマー)ギルドも、冒険者ギルドだって付き合いが全く無いってことは無いだろうし」


 表立って解決できない様々な問題の処理を、マフィアのような組織に請け負ってもらう……なんて事はどこであっても往々にして行われているだろう。そういったお手伝い(・・・・)の見返りとして、マフィアは行政(貴族)半公的組織(ギルド)からの不可侵を獲得する。


 一般の民衆にとっては迷惑な話だろうが、こういった組織や慣習が無くなる事は絶対に無いだろう。チェスターでも似たようなものだった。


「平民街で確認できていないところは、冒険者ギルドとマフィアの飼育場か」


「すみません、お役に立てなくて……」


「いや、十分だ。門番から聞いた限りでは、中心街や貴族街にエースが運び込まれたってことは無さそうだった。王都に連れて来られたなら、どっちかにエースはいるだろう」


「どうするの、アル……?」


「当然、見に行って確かめる」


 リンジーがひゅうっと息を吸い込んだ。


「確かめるって……まさかバルジーニファミリーの飼育場に乗り込むつもりですか!? いくらアルフレッドさんでも危険すぎます!」


「飼育場を検めさせてもらうだけだ。バルジーニ……とかいうマフィアと敵対すると決まったわけじゃないだろ?」


「なに言ってるんですか! 相手は王都のスラムを牛耳る、泣く子も黙るドン・バルジーニですよ!? 凄腕の暗殺者や剣士を部下に抱え、貴族の馬車だって道を開けるぐらいの大物なんですから!」


「真っ正面から乗り込むつもりは無いさ。見つからないように忍び込む」


「忍び込むって……どうやって? バルジーニのアジトの周りはいつもガラの悪い連中がうろついて見張ってます。アジトの中にだって、たくさんの部下や従魔がいるんですよ?」


「ん……忍び込むだけなら、なんとかなるさ。【警戒】で周囲を窺って、【隠密】で気配を消せば、そう簡単には見つからない。盗賊のアジトに忍び込んだことだってあるんだ。問題ないさ」


「【警戒】と【隠密】って……それ【暗殺者】のスキルじゃないですか。アルフレッドさんには、ほんと常識が通用しないですね……」


 リンジーがため息をつく。青灰魔熊(ブルーグリズリー)の時に手の内はバレてるから今さらだ。口止めもしてるし。


「エースがいたら、どうするの?」


「バレなそうなら連れ出すけど、まあ無理だろうな。その場合はマーカス王子に相談する。欲しい物か、困ったことがあったら何でも言ってくれって言われてるしな」


「そうだね。王子様ならなんとかしてくれるよね!」


「たぶんな」


「よーーし! じゃあマフィアのアジトに行こう!」


 アスカが両手をぐっと握って、やる気十分!といったポーズをとる。いやいや、連れて行くわけないだろ。


「アスカは冒険者ギルドの飼育場の方を見に行ってくれ。ヘンリーさんに話を通せば、見せてくれるだろう」


「あ、そっか。そっちもあったっんだった」


「忍び込むなら俺一人の方が動き易いしな。ユーゴー、すまないけどアスカの護衛を頼んでいいか?」


「もちろんだ」


 さて。もうとっくに深夜で、ほとんど人通りは無い。あと数日で満月だからそれなりに明るいし、さすがは王都だけあって街灯が通りを照らしてはいるけど、少し脇道に入ればほとんど真っ暗だ。スラムともなれば街灯はさらに少ない。


 月夜の闇は【暗殺者】の独壇場だ。エース、必ず見つけ出してやるからな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 王都の南門から城壁沿いに歩いて数十分。ここまでは木造のボロ小屋がひしめく様に乱立していたのだが、急に広大な敷地に建つ石造りの屋敷が現れた。


 ここがマフィアのアジトか。リンジーに聞いた通りだな。


 屋敷の周りには芝生に覆われた庭があり、何匹かの狼型の魔獣がうろついている。リンジーが連れていたガルムに似ているから、たぶんあれはフォレストウルフだろう。かなり鼻が効くって話だったな。


 その庭の外側を俺の背丈ぐらいの石塀が囲っていて、正面の出入口の前には二人組のゴロツキが地面に腰を下ろして話をしている。一見すると油断している様だが、周囲には抜かりなく注意を払っている。


 カスケード山の盗賊のように酒盛りでもしてくれていれば、もっと楽だったんだけどな……。塀の周りを哨戒している者も数名いるようだし、ゴロツキと言えども統制は取れているようだ。


 ……とは言っても、何の問題も無いけどな。目と鼻の先にあるボロ小屋の陰に隠れているのに、全く気付かれる様子は無いし。


 今回は楡の木亭を出た時から【隠密】を発動して気配を隠している。チェスターで魔人族に『隠れるつもりならもっと早く気配を消しておくべきだった』と言われたことを思い出したのだ。


 マフィアの方に【索敵】や【警戒】を使う者がいないとも限らないから、念には念を入れて中心街にいた時から【隠密】を使っておいた。マフィアだし、俺と同じ【暗殺者】がいてもおかしくないしな。


 俺の【隠密】はジオドリックさん仕込みだから、例え同じ暗殺者であっても簡単には見抜けないと思う。旅の間に教えてもらったことが、早々に役に立ったな。


 俺は見張りの目を盗んで一足飛びに石塀を飛び越えて、庭木の陰に身を潜める。うん、槍術士のスキル【跳躍】は、こういう時にも役に立つな。


 アスカは飛び上がって体重を乗せた一撃を加えるスキルだと言っていたけど、どう考えても回避とか移動に使った方が有用だと思う。なんだかアスカが教えてくれる物語(ゲーム)の登場人物は、スキルを使いこなせていないような気がするんだよな……。


 それはともかく、庭をうろつく邪魔者を排除しないとな。俺はポーチから塊肉を数個取り出して、芝生に向かって投擲する。


 塊肉が芝生の上にガサっという小さな音を立てて落ちる。音に気付いたフォレストウルフ達が近寄って来た。


 フォレストウルフは周囲をキョロキョロと見回して警戒していたが、食欲を抑えきれずに塊肉をぱくつく。その数十秒後、フォレストウルフは眠りについた。


 毒殺したわけではなく、アスカ謹製の眠り薬だ。レベルの高い魔獣使い(テイマー)に訓練された従魔だと、主人に与えられた餌以外は口にしないらしいが、そうでもない場合はこういった罠に簡単にかかってしまうらしい。従魔といえども、所詮は犬畜生か。


 さて……。マフィアの敷地への侵入は成功。飼育場はどこかな……?




ご覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ