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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第159話 森のせせらぎ

 薬草類の採集はすぐに終わった。採取できたのは薬草・魔茸・毒消し草などの基本的なものばかりで珍しいものは無かった。下級回復薬(ポーション)下級魔力回復薬(マジックポーション)の素材になるので問題ないけどね。『下級』とはいえ回復量は十分だし。


 アスカは薬草類を採取しながら、せっせと回復薬を作っている。とは言っても採取は素材に手をかざすだけだし、製薬はメニューをつつくだけなんだけどな。本業の【薬師】に見られたら怒られてしまいそうだ。


 魔素の濃い森で採取した鮮度の高い素材で製薬すると、それだけ薬剤の効果は高くなる。アスカの作る薬は商人ギルドに卸すといつも高品質と鑑定されているし、卸値から考えると1,2割は効果が高いんじゃないだろうか。


 アスカお手製の回復薬しか使ったことが無いので、市販品と比較してどの程度の差があるはわからないけど。アスカの薬しか飲んだことないって……なんか『胃袋をおさえられてる』みたいだな。本来の意味の『手料理』の方は1,2回しかいただいたことないけど。そのへんは今後に期待かな。


「おっけー! 薬草も魔茸も、回復薬も魔力回復薬も99個(カンスト)したよん」


「おつかれさん。じゃあエースと初めて会った小川あたりまで行こうか」


「うん。お腹すいたー」


「だな。着いたら昼食にしよう」


 そう言えば、かなり久しぶりに料理を作るな。隊商といっしょに旅をしていた時は毎日のように料理をしていたけど、王都についてからは酒場か宿屋でしか食事してなかったからな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「なに作るのー?」


「ん、マッドボアぐらいしか材料が無いしな……ローストでも作ろうか」


「ローストポーク! いいね!」


「じゃあマッドボアの肉を出して。あとは塩と胡椒、ガーリックと……ローズマリーもあったよな?」


「はーい」


 アスカは森番小屋から持ってきた薪ストーブやテーブルセット、材料を次々にアイテムボックスから出していく。そう言えば旅立ってから外で薪ストーブを使うのは初めてか。


 隊商といっしょに旅をしていた時は、アイテムボックスを秘密にしていたこともあり、持ち運ぶには大きすぎる薪ストーブを出すわけにもいかなかった。クレアが馬車に積んでいたバーベキューコンロか、その辺の岩を並べて作った即席竃で調理していたから、凝った料理は全く作れなかった。


 アスカのアイテムボックスがあれば、大体のものは重さを気にせずいくらでも持ち運べる。コンロとオーブン、テーブルだって運べるんだから、時間さえ許せば何だって作れる。二人旅になったら、旅の安全性は下がるけど、快適さは上がるかもしれない。


「えっとー、どうすればいい??」


「まずはこの塊肉に塩をすりこんどいて。俺は胡椒を砕いとくから、すり鉢とすりこ木を出してくれる?」


「はーい」


 まずは下ごしらえ。ローストに付け合わせがちょっと欲しいとこだけど野菜は何も無いんだよなぁ……。


「あ、そうだ。今日採った魔茸も一緒にローストするか」


「えっ!? 魔茸(マジックマッシュ)って食べられるの!? トリップしたりしない!?」


「トリップ? そんなのしないよ。薬の材料だから高価いし、味気ないから食べることはほとんどないけど」


「そうなんだ……。マジックマッシュルームとかマジックトリュフって言うと、ちょっと……ね」


「……? ニホンでの話か? マッドボアの脂で炒めたら、それなりに食べれると思う。ちょっとだけど魔力を回復させる効果もあるし」


「そーなんだねー」


 肉塊に塩胡椒をふって味を馴染ませている間に、魔茸のカットとストーブの準備をする。俺の薪ストーブは薪が燃えている間はオーブンとコンロの火力調整が出来る優れものだ。


 俺はコンロを弱火にして、鉄鍋でマッドボアの脂を溶かしていく。鉄鍋にうっすら脂が行き渡ったら、塊肉とカットした魔茸を強火で焼いていく。


 火の通り具合は横目でチェックしてたけど、アスカに焼いてもらった。何事も実際にやって覚えないとね。


 きれいに焼き色がついたところで塊肉と魔茸を取り出して、底が深めの皿に盛ってフタをかぶせる。


「えっ? もう焼かなくていいの? これじゃ生焼けじゃない??」


「ああ、いいんだ。今は生焼けだけど、このまま蓋をして置いておけば余熱で火が通るから」


「なるほどーー! 余熱調理とか……なんか料理できる人って感じ!」


 ふふん。森の奥に引きこもって、日々の楽しみと言えば食事しかない生活を5年間も続けたんだ。一人で試行錯誤を続けた料理の腕はなかなかなもんだろう?


 い、今は一緒に食べてくれる人がいるんだ。悲シクナンカ無イ……。


「これで完成?」


「あとはソースだな。アスカ、赤ワインビネガーとマルベリーのジャムを出して」


「あっ! もしかして!」


「ああ。エスタガーダで食べたのを真似してみようと思ってさ」


「すごいすごい! レシピ教えてもらったの!?」


「いや、教えてもらえなかったから、なんちゃってだけどな」


 マッドボアの脂が馴染んだ鉄鍋から、余計な油を取り除いて赤ワインビネガーを投入。弱火でじっくり煮詰めて酢の酸味を飛ばしてから、マルベリージャムを入れて馴染ませる。さらに煮詰めながら味を調整して、酸味・旨味・甘みがちょうどいいバランスになったところでソースも出来上がりだ。


 ローストした塊肉は……うん、ちょうどいい火の通り具合だ。薄くカットして、焼きたてパンに挟んで、マルベリーソースをかければ……よしっ! 『ローストボアのベリーソースサンド エスタガーダ風』の完成だ!


「んふー! さいっこう! エスタガーダで食べたのより絶対美味しいよ!!」


「ん。なかなか上手く出来たな」


 でも……エスタガーダで食べたソースの方がコクがあった気がする。今度は熟成酢を使ってソースを作ってみるか。


「魔茸もおいしーよー! ジューシー!」


「マッドボアの脂が染みてるからな。魔茸は風味がほとんど無いから、炒めて脂を吸わせた方が美味しいんだ」


「そうなんだね! 料理ってむずかしーな。やっぱ、料理はアルにお任せだね!」


「ダメだってーの。ちゃんと教えるからアスカも作れよ?」


「えー!? 」


「上目遣いで見てもダメなものはダメ」


「だって、アルが作った方が美味しいよ?」


「大丈夫だよ。前に作ってくれたスープ、美味しかったじゃないか」


 始まりの森の聖域で、駆け回ってマッドボアを狩った夜明けにアスカが作ってくれたスープ。あれは美味しかったなぁ。疲れに染み渡るようだったし、誰かに作ってもらえたって事だけで美味しかったし。


「そ……そうかな?」


「ああ。また、食べたいな」


「アルみたいに美味しく作れないと思うけど……」


「アスカが作ってくれる料理なら何でも美味しいさ」


「そ、そんなに言うなら……作ろう……かな?」


 アスカが少しだけ顔を赤く染めて言った。


「ああ、頼んだ。じゃあ、まだ火も残ってるし、オヤツに簡単な菓子でも作ろうか」


「お菓子!?」


「さっきキャラメルクリームを買ってただろ? パンも余ってるし、ラスクでも作って、クリーム塗って食べよう」


「ラスク!? ど、どうやって作るの!? 教えて!!」


 ……やっぱり料理と違って甘味はずいぶん食いつきが良いな。まあ、いいか。今まで料理はあまりしたことが無いって言ってたしな。好きな物から覚えてもらう方が良いだろ。


「簡単だよ。バゲットを薄く切ってオーブンで……」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後、カリカリに焼き上げてキャラメルクリームやマルベリージャムを塗ったラスクを、二人で色々な話をしながら食べた。クレアのおススメスイーツは、確かに絶品だった。


 エースの元縄張りだからか、魔物が現れる事も無かったので、久しぶりにゆっくり過ごせた気がする。森深くを流れる、美しい景色と清らかなせせらぎ。俺達はのんびりとし過ぎていて……



 エースが一向に戻って来ないのに気づいたのは、夕方近くになった頃だった。




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