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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第14話 金策

「ごめんくださーい!」


 次に訪れたのは広場から路地に入った先にある、ひなびた薬局だった。傷薬や包帯、整腸薬、解熱剤などの常用薬品類が売られているごく一般的な薬局だ。


 おそらくアスカは採集した薬草や魔茸(マジックマッシュ)などを売却するつもりなのだろう。商人ギルドで売らなかったのは、薬局に直接売れば少しは高く売れると踏んだのかな? さっきみたいに値段交渉もするつもりなのかもしれない。


 だけど今回は、そううまくはいかないだろう。残念ながら聖域で取れた薬草は、薬効が低いためまともな値が付かないのだ。


 薬草の効果は、それが採取された場所とその状態で決まる。魔素の濃い森や高山などの自然の難所に自生する薬草ほどその薬効は高い。当然ながら鮮度が高ければ高いほど、その効果は高くなる。


 始まりの森の聖域は、魔素がほとんどない場所だ。転移陣が周囲の魔素を吸収しているからだと言われているが、真偽のほどは定かじゃない。


 そんな魔素がほとんどない場所で育つ薬草や魔茸は当然のことながら薬効が低くなる。俺も売ることが出来ないかと薬局に持ち込んだことがあるけど、薬師に鼻で笑われてしまった。ちょっとした擦り傷や体調不良に使える程度の薬効はあるので、森での生活には重宝したけど売り物にはならないだろう。


「はーい、いらっしゃい。何がご入用ですか? 冒険者さんなら、切り傷に効く特製の傷薬がおすすめよ」


 店の奥から中年の女性が出てきて、愛想よく対応してくれる。アスカに俺たちが持っている薬草類は売り物にならないことを伝えないとな。店員さんに無駄な時間をつかわせてしまうし、アスカに恥をかかせてしまう。


「アスカ、聖域で取れた薬草は……」


 そこまで言いかけたところでアスカは予想外の言葉を発した。


「すみません、薬じゃなくて製薬道具を買いたいんですけど」


へ? 製薬道具? 薬師でもないのになんでそんなものが必要なんだ?


「あら、あなたも薬師なのね? でも、申し訳ないけど製薬道具は売ってないわ。私が若いころに使ってたものなら譲ってもいいけど……使い古した骨董品よ?」


「それで大丈夫です! 譲ってもらえませんか? 旅をしながら薬作りをしたいんですけど、チェスターじゃ手に入らないからオークヴィルに来たんです!」


「あらそう? じゃあちょっと待っててね。倉庫から引っ張り出してくるわ」


そう言って中年の女性店員は店の奥に入っていった。


「アスカ、製薬道具なんて何に使うんだ?」


「そりゃ薬作りに使うにきまってるじゃん」


アスカは、何を言ってるのと言わんばかりの不思議そうな顔でそう答えた。


「薬作りができるのか?」


「出来ないわよ? 今は、ね」


 そう言われて、俺はハッと気が付いた。そうだ、アスカは加護を与える力がある。俺に薬師の加護を与えてくれれば、薬作りが出来るようになる! そういうことか!!


「は? 薬師? そんな加護があるの?」


 ええ? 違うの?? じゃあ、なおさら製薬道具なんて何に使うんだよ?


 俺が混乱をしていると中年女性店員が、木箱を持って店に出て来た。木箱には木製の薬研と乳鉢に乳棒、変わった形のヤカンと卓上チェストのようなものが入っている。ヤカンは蒸留器で、チェストは「箱ふるい」という篩の一種らしい。


「壊れてはいないけど……こんな物でもいい?」


 確かに年季が入っているし、うっすら埃も積もっている。だが、一見して破損している様子は無く、丁寧に扱われていた物みたいだ。


「はい! ありがとうございます! おいくらで譲ってもらえます?」


「そうねえ……物置の肥やしだったからねえ。大銀貨1枚と銀貨5枚ってところでどうかしら?」


えええ!? 高い!!! 製薬道具ってそんなに高いの!?


「はい! 買います!」


おおおーい!! 即決かよ! ほぼ手持ちの資金全額じゃないか!


「アスカ、ちょっ待っ……」


 制止しようとしたけど、時すでに遅し。アスカは代金を支払い、革袋……というかアイテムボックスに製薬道具を詰め込んでしまった。


「ありがとうございます! 助かりました! アル、行こう!」


 そう言ってアスカはお店を出て行ってしまう。


 しまったああ……。アスカにお金を預けるんじゃなかった。アイテムボックスで保管してもらっていたのが裏目に出た。アスカ以外に取り出せないから盗まれる心配がないと思ってそうしたのに……。


 いかんいかん、呆然としてる場合じゃない。今なら、店員さんになんとか頼み込んで返品させてもらえるかもしれない。慌てて店を出ると、アスカは路地裏の片隅でメニューを開いていた。


「おいっ、アスカ!」


「わっ、何? 急に大きな声出さないでよ!」


「何じゃないよ! あんな物を買って、いったいどうするつもりだよ!」


「だからだいじょうぶだってー。あたしに任せといてって言ったじゃん」


「そんなこと言ったって、もう銀貨1,2枚しか残ってないぞ!? このままじゃ旅どころじゃない!」


 そう言うとアスカはニヤリと笑う。


「ふっふーん。これなぁーんだ?」


 そう言ってアスカがアイテムボックスから陶器の小瓶を取り出した。


「いや、そんな事を言ってる場合じゃなくて」


「い・い・か・ら! これは何でしょーう?」


 アスカがニヤニヤしながら問いかける。いらっとしながらも、その小瓶を受け取る。陶器で出来た蓋をひねって開けると中には液体が入っていた。爽やかな香りがする、青緑色の液体だ。


「ん……? なんだこれ……どこかで嗅いだことがある匂いだな」


「わかんないかなー? じゃあヒントあげるね。さっき買ったのは製薬道具だよねー?」


「製薬道具……? これは……薬草の匂いか……ま、まさか!」


「そう! 回復薬(ポーション)でーす!」


 そう言ってアスカは新たにメニューウィンドウを開いた。覗き込むと、こんな事が書いてある。



----------------------------------------------


■ログ


「骨董品の製薬道具」を入手した。

「調剤」を取得した。

「下級回復薬」を調剤した。

「下級回復薬×19」を入手した。


----------------------------------------------



「へっ? 回復薬を作った??」


「うん。ほら見て」


 アスカはアイテムボックスから陶器の小瓶を次々と取り出して、得意そうな表情でニヤついている。


「これ、回復薬なのか?」


 信じられない。回復薬は薬師のみが作り出せる魔法薬だ。その薬効は素晴らしく、ちょっとやそっとのケガや傷ならたちどころに治してしまう。


 幼いころに大きな火傷を負ってしまった時に、回復薬で治してもらった事がある。一瞬で痛みが引き、痕も残らず治ったのには、本当に驚いたものだ。


「うん。ログにそう書いてあったでしょ?」


 いや、でもおかしい。たしか回復薬は薬師の加護を持つものが、魔力を込めながら調剤すると聞いたことがある。こんな短時間で、しかも魔力が無いアスカが作れるわけは無いんだ。


「そうなの? でも実際にメニューで作れるんだから、それでいいじゃん」


 身も蓋も無いな。薬師が聞いたら卒倒するぐらいのとんでもないスキルだって言うのに……相変わらず万能すぎるな、アスカのメニューは。


「じゃ、商人ギルドに売りに行くよ!」




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