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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第142話 異世界JK日記⑤

■120日

クレアちゃん。ふわふわプラチナブロンドの超絶美少女。しかもアリンガム商会のお嬢様で、幹部を任されるぐらいのバリキャリ女子。これで同い年だっていうんだからびっくりしちゃうよね。


クレアちゃんのお父さんは准男爵っていう貴族サマなんだけど、ホントの貴族じゃなくて特別に貴族の資格をもらってる平民なんだって。ホントの貴族ならその子供も貴族ってことになるみたいだけど准男爵の子供は平民って扱いになるみたい。なんか貴族って、ややこしいし、めんどい。


クレアちゃんは6歳になったときに貴族の子供達が集まる日曜学校っていうのに通い始めた。貴族街にある教会で開かれた学校だったから、周りは貴族の子ばっかりでほんの数人だけが平民だったんだって。


その学校でクレアちゃんは……酷いイジメにあった。クレアちゃんをイジメたのは、アルのお父さんに仕える男爵とか子爵の子供達。貴族の子供達に失礼の無いようにって言われていたこともあって、幼いクレアちゃんは反抗することなんて出来なかった。


クレアちゃん家はチェスターで一番の商人で、チェスターでも一二を争うお金持ち。そのうえ領主のアルの実家とはとっても仲が良い。それが面白くない貴族達は、クレアちゃんのパパを領主に媚を売るゲセンな平民なんて陰口を叩いていたみたい。


子供って残酷だ。相手は身分の低い平民で、反論することも抵抗することもない女の子。しかもニセ貴族だとかゴマスリだとか言われている人の子供。


クレアちゃんは、とっても美人だから嫉妬もあったんだろうな。仲間外れにされたり、水をかけられたり、服や髪を切られたり……とても口には出せないような恥ずかしいこともされたって……。


クレアちゃんのお父さんはいつも忙しく飛び回っていて、お母さんは既に亡くなっていて、相談できる友達の一人もいなかった。自分ではどうすることもできなくて、幼いクレアちゃんの心はボロボロになってしまう。自ら命を断つことを毎日のように考えてしまうぐらい追い詰められてしまった。


そんなギリギリのクレアちゃんを救ったのがアルだった。


アルが友達になろうとクレアちゃんに声をかけて、その日からクレアちゃんを取り巻く全てが変わった。持ち物を隠されることが無くなって、心無い言葉を投げかけられることも無くなって、イタズラをされることも暴力を振るわれることも無くなった。領主の跡取り息子の友達に手を出すなんて出来ないもんね。


クレアちゃんをイジメから救ってくれたアルは、読み書きも算数も、神学や歴史だって難なくこなす秀才で、10歳にもなってないのに日曜学校では敵う者がいないくらいの剣の腕前を持つキリンジだって評判の男の子だった。


そんなアルに、クレアちゃんが恋こがれちゃうのは当然の流れだったのかもしれない。なんたって辛いイジメから救い出してくれた英雄なんだから。アルが自分の婚約者なのだと知った時は、天にも昇るような気持になったんだって。


アルに相応しい立派な女性になろう。そう思ったクレアちゃんは、それまで嫌々やっていた習い事や勉強に打ち込むようになって、ついにはアリンガム商会の才媛なんて呼ばれるようになった。


アルと結婚して、ウェイクリング家当主の第二夫人になる。ホントの貴族じゃないから第一夫人にはなれない。それでも、アルが目指したウェイクリング領の繁栄のために尽くそう。アルに恩返しをしよう。クレアちゃんは、そう願うようになった。


でも、アルが【森番】になってしまって、アルを支えたいっていうたった一つの願いも叶わなくなってしまう。絶望に囚われたクレアちゃんをよそに、周りの大人たちはギルバードとの婚約を決めてしまう。


せめて、アルが叶えることの出来なくなったウェイクリング領の繁栄っていう願いだけでも代わりに叶えよう。せめて、誰からも見放されてしまったアルの心を、一人の友人として支えよう。


自分の願いなんかよりも、自分を救ってくれたアルの願いに人生を捧げよう。そう思って、クレアちゃんはギルバードとの婚約を受け入れ、アルの住む森に通い続けた。


それから数年が経って奇跡が起こる。ウェイクリング家のお屋敷に【剣闘士】(グラディエーター)の加護を手に入れて、チェスターを魔人族から救ったアルが突然現れたんだ。


絶望に打ちひしがれていたアルをずっと支えていたクレアちゃんは、どれだけ感動しただろう。喜びに打ちふるえただろう。当たり前のようにアルの隣にいる(あたし)を見て、どれだけ困惑しただろう。


アルの奥さんとして、アリンガム商会幹部の【商人】として、公私両面でアルを支えたい。一時は諦めた、たった一つの願いを直球で訴えたクレアちゃんに、アルは『ギルバードがいる』って答えた。


元の世界に戻りたいからって、アルやクレアちゃん、アルのお父さんにお母さん……あたしはたくさんの人を巻き込んで振り回してる。皆に迷惑をかけてるあたしに言えた事じゃないけど……。


アルがクレアちゃんに言ったことに……あたしは……怒ってるんだと思う。




■121日

日曜学校でアルと出会った後、クレアちゃんを虐めた貴族の子供たちは、手のひらを返したようにすり寄って来たらしい。クレアちゃんはその子達をどうしても受け入れられなかった。直接イジメに加わらずに遠巻きに見ているだけだった人たちのことも信じることは出来なかった。


だから同年代の友達は一人も作れなかったみたい。表面上はにこやかに接してはいても、顔見知り程度の間柄にとどめて、本音を打ち明けるような関係になることは出来なかった。


当たり前だよね。あたしだって、もし自分が虐められたら、イジメっ子や傍観者たちを簡単に許すことなんてできないもん。


「クレアお嬢様の友人となってくださったこと、アスカ様には深く感謝しております」


楡の木亭に連れてきてくれた時に、ジオさんがそう言っていた。


クレアちゃんとはライバル関係? って思ってたけど、いつの間にか仲良くなったもんね。


クレアちゃんとは、王都までの旅の間ずっと一緒だった。一緒に馬車の御者台に座ったり、お姫様って感じの高級なドレスを着させてもらったり。毎日、馬車で一緒に寝てたから、いろんな事を聞いたり話したりした。


なんでクレアちゃんがあたしを受け入れてくれたのかはわからない。でも、クレアちゃんは、きっとあたしのことを友人だと思ってくれてる。


クレアちゃん。この世界で二か月以上も一緒に過ごした、あたしの友達。


友達にウソをついたままじゃ……ダメ、だよね。その友達に恨まれることになったとしても。




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