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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第130話 パーティメンバー募集

「というわけで、冒険者ギルドに行くよ!」


「……どういうわけだよ」


 今日は遅いし一角獣(ユニコーン)の件はまた明日かと思っていたら、アスカは急に平民街の方に向かって歩き出した。まあ、アスカの行動が唐突なのはいつもの事だから別にいいけど、説明はしろよ。説明は。


「一角獣を倒す仲間を募集しに行くんだよ」


「仲間を……? 一角獣はそんなに手強い敵なのか?」


 Cランクの魔物って話だからもちろん厄介な魔物であることは間違いないのだろうけど……。それでも火喰い狼(フレイムウルフ)とか金爪猿猴(ゴールドエイプ)と同じ程度だろ? 俺もだいぶ強くなったはずだし、さほど手こずらないと思うんだけどな……。


「ん……倒すだけなら大丈夫なんだけどねー。遭遇(エンカウント)するのに条件があってね。あたし達だけだと見つけられないんだよ」


「ふーん……。そう言えば低ランクの冒険者の前にしか現れないとか言ってたな」


「うん。だから条件に合った人を募集しに行くってわけ。あたしじゃ無理だから」


「なるほどね」


 仲間か……。今回の依頼限りの限定パーティにはなるだろうけど、先々の事を考えるとアスカの安全のためにも同行者がいてくれると助かるんだけどな。


 ……普通に考えたら無理だろうなぁ。いくらなんでも世界中をまわったり、魔人族(ダークエルフ)と闘ったりするような危険極まりない旅に同行してくれる人なんているわけが無い。今は多少余裕があるとはいえ、護衛を雇って謝礼を支払い続けるなんて事も出来るわけがないしな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 王都の冒険者ギルドは中心街と平民街の二か所にある。


 セントルイス王国冒険者ギルド本館は中心街にあり、こちらは貴族からの依頼の受付やギルド運営の役員や事務方が詰める事務所などが入っている。


 そして平民街にあるのが、冒険者ギルド王都支部だ。こちらは冒険者の依頼受注の受付、魔石や魔物素材の買取、平民からの依頼の受付などを行っている。冒険者の登録や修練場なんかもこちらにある。


 元々は本館しかなかったそうだが、荒くれ者の冒険者たちが中心街で頻繁に騒ぎを起こしたために、冒険者の受付を平民街に移したのだそうだ。チェスターのダリオやカミル、オークヴィルの無精ひげと尖り顎なんかのことを考えると、さもありなんといったところか。


 だが支部とはいえ、さすがは王都。冒険者ギルド王都支部は、オークヴィルやチェスターの支部よりも一回り大きい石造りの立派な建物だった。


 中に入ると酒盛りする冒険者達でごった返していた。入口近くには掲示板が並んでいて、いくつもの依頼が張り出されている。その奥には酒場があり、丸テーブルは冒険者で満席状態だった。


 依頼帰りであろう冒険者たちの列に並ぶと、周囲から無遠慮な視線を向けられた。『見ない顔だな』という視線と『アイツは泥仕合の……』といった目線が半々といったところだろうか。


 これは、テンプレというヤツが起こるんじゃないかと身構えたが、列は少しづつ縮まっていき順番がやってきた。俺はホッとしてカウンターの椅子に座る。ほらほら、アスカ。睨み返すな。面倒くさいから。


「お待たせしました。依頼の達成報告でしょうか?」


「いえ、パーティメンバーの募集をしたいのですが、可能ですか?」


「ええ、出来ますよ。それでは冒険者タグを見せてもらえますか?」


 俺は首から下げていたタグを受付の女性に手渡す。女性はタグを受け取ると、手元の書類にメモを取り出した。


「ランクD、冒険者番号……、オークヴィル登録っと。チェスター出身で、アルフレッドさん……ああ、あの」


 そう言って女性はチラッと俺を見る。そうだよ。俺が絶賛売り出し中の『泥仕合のアルフレッド(マッディ・アル)』だよ。


 俺は顔を引き攣らせて受付の女性に微笑みかけた。女性は失言に気付いたのか、慌てた様子で咳ばらいをした。


「ご、ごほんっ。ええと……失礼しました。それで、どういったメンバーを募集されますか? アルフレッドさんは魔法使いなのですよね? でしたら募集するのは前衛職でしょうか?」


 あれ? 俺は【盗賊】(シーフ)で登録しなかったっけ? あ、でもチェスターでは【剣闘士】(グラディエーター)って言われてたけど、特に何も言われなかったな。タグにはランクと冒険者番号、名前と出身しか書かれてないからかな。俺は加護がコロコロ変わるから、痛くもない腹を探られなくて都合がいいんだけど。


「前衛でも後衛でもろっちでもいいでーす。ついでに加護もなんれもいいでーす。ランクはD以下の人でお願いしまーす」


 俺が考え事をしてたらアスカが受付の女性の質問に答えてくれた。そう言えば、どういう人を募集するかは聞いてなかったな。やっぱりランクD以下が、一角獣と遭遇するための条件ってことか?


「前衛でも後衛でも? どなたでもいいって事ですか?」


「ううんー。ひとつ条件があるんだー」


 そりゃ誰でもいいってことはないよな。俺は斥候から近接戦闘職、今は魔法職もこなせる。アスカは豊富な回復薬とメニューの機能(スキル)で回復役をこなせるから……やっぱり近接戦闘職の人がいいよな。加護は剣士系か拳士系、次点で槍使いの人とかがいいかな……。


「加護の指定ですか? 剣士系や拳士系でしょうか?」


「ううん。加護は何れもいいの。条件はね……」


 アスカがにっこりとほほ笑む。


処女であること(・・・・・・・)


 ……………はぁ?


「……………はぁ?」


 俺の心の声と全く同じ反応をする受付の女性。いや、ほんと何言ってるんだ、アスカ?


「えっ? わかんないかな。ええと、乙女? 生娘って言えばいいかなー? ぐたいてきに言えばまだセッ」


「ちょっ、具体的に言わなくていいです! 言葉の意味は分かります! そうじゃなくて、なんなんですかその、しょ……条件は!」


 いやほんとその通り。俺も開いた口がふさがらない。


「ええー。だって、それがいちばん大事な条件なんだもーん。加護とか前衛とか後衛とかー、そういうのはなんれもいいんだよね。あ、でも、できれば可愛い子がいいと思うな。ねー、アル?」


「えっ……俺?」


 いや俺に振るなよ。そりゃ新しい仲間は可愛い子の方が……ってそうじゃない!


「……なるほど。貴方のご趣味ですか」


 えっ? 受付の女性が俺を見る目がなんていうかジトっとしてない? というか俺の趣味って!?


「お、おい、アスカ! なんなんだよその処っ……条件は!」


「えー?? だってそうりゃなきゃラメでしょー? けーけんずみだとラメじゃーん。あははっ!」


 ん? しっ、しまった!


 アスカが酔っぱらってるの忘れてた! さっき魔人族の事とか真面目に話してたから酔いは醒めたかと思ってたのに!!


「……わかりました。パーティメンバー募集。ランクはD以下。加護は不問。条件は……処女であること。以上でよろしいでしょうか?」


「はーい! いいれーす!」


「かしこまりました。…………ちっ、豚が」


 あれ? 受付さん? なんか、俺の目を見て酷いこと小声で言いませんでした? しかも、まるで生ゴミでも見るような目で俺を見てません? その条件を付けたの俺じゃないですよ? この子ですよ?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 受付の女性の冷たい目線に晒されながら冒険者ギルドを後にし、千鳥足で歩くアスカを支えながら真意を聞き出す。段々と口が回らなくなってきたアスカから要点を聞き出すのには苦労した。


 アスカ曰く、処女の子を連れて一角獣が棲む森とかダンジョンに行くと、処女の香りに誘われて出てくるのだそうだ。


 WOTではパーティメンバーに女性がいれば出現したそうだが、ニホンの伝承では一角獣は処女の誘惑に弱いとされていたから、処女であることを条件に加えたのだそうだ。


 アスカが言っていたことが事実なら、高ランクの冒険者や騎士団には処女はいなかったということだろう。高ランクに至るほどの玄人冒険者(ベテラン)はそれなりに年を重ねているだろうから、処女がいないと言うのは頷ける。


 騎士団の方は、魔法部隊であるガブリエル騎士団や治療部隊であるラファエル騎士団などには女性も多いが、直接戦闘部隊であるミカエル騎士団はほとんどが男性だ。


 Cランクの魔物の討伐なんか、優秀な騎士揃いのミカエル騎士団にかかれば問題無く討伐できるだろうから、貴重な人材である魔法部隊や治療部隊を魔物素材収集なんかに投入するとは思えない。騎士団が出向いたときに一角獣を見つけられなかったのは、そもそも女性がいなかったからではないだろうか。


 そしてDやEといった低ランクの冒険者というのは、言わば『駆け出し』の冒険者だ。町中の雑用や薬草採集といった魔物との戦闘を伴わない依頼をこなすFランクから上がったばかりで、やっと魔物の討伐をするようになったD,Eランクの素人冒険者(ルーキー)。年若い者がほとんどだ。中には未経験の女性もいたことだろう。


 話をよくよく聞いてみればアスカが冒険者ギルドで提示した条件は、必要なことだったという事がわかった。でもさ、言い方ってあったよね?


 あ、でも、『一角獣は処女を連れて行かないと出会えない』とか言っても信じてもらえないかもしれないし、信じてもらえたとしても話を聞いた他の冒険者が先に一角獣を仕留てしまい、依頼を達成できなくなってしまうかもしれない。となると、今日の冒険者ギルドでの募集のかけ方は間違ってなかったのか?


 でもなぁ。受付の女性のあの視線……冷たかったなぁ……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 次の日、いつも通りの決闘(スキルレベル上げ)を終え闘技場を後にする。毎度のことながら罵声を浴びせられながら。その罵声の中に、昨日までは無かった『ド変態が!』とか『豚野郎!』というセリフが混じっていたのはきっと気のせいだろう。


もちろん、冒険者ギルドにも行ってみた。受付の女性には『応募者? いるわけないでしょ。バカなの?』と吐き捨てられ、虫けらでも見るような冷たい目線を向けられたさ。


 ギルド併設酒場の丸テーブルに座る冒険者達が、俺を指差しながらしていたヒソヒソ話だって聞こえてきたよ。


「処女信仰者だって。きもちわるーい」

「アレがちっちゃいか、相当ヘタクソなんじゃない?」

「泥仕合のチキンっぷりも納得よね」

「あの黒髪の子も可哀そうに。きっと洗脳されてるんだわ」

「幼女でも捕まえてハーレムでも作りたいんじゃなーい? きっも」


 いやはや。いったい誰のことを言ってるんだろうね。アハハハ……


 ハァ……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] かなしみ 頑張れ!
[気になる点] そういえばなんか手紙預かってたな この後渡すのかな?
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