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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第128話 泥仕合

「引っ込めアルフレッドォ!」

「おちょくってんのかテメェ!!」

「ふざけてんじゃねぇ!!」


 【魔術師】(メイジ)に加護を変えてから一週間。今日も今日とてブーイングの嵐だ。


 ま、観客に何を言われても俺がやる事は変わらない。淡々とスキルのレベル上げをするだけだ。


 発動する魔法をイメージすると、脳裏にふっと魔法陣が浮かぶ。今回発動するのは火魔法Lv.3の【爆炎】(エクスプロージョン)だ。


 魔法陣に魔力を注ぎ、射出する魔力弾と爆発をイメージする。威力や射出速度を上げたければ、そうイメージしながら魔力を多めに注げばいい。今回は魔法が発動するギリギリぐらいにしか魔力を注がない。あとは狙う場所をイメージすれば魔法は発動する。


【爆炎】(エクスプロージョン)!」


 爆発を引き起こす魔力弾を、明後日の方向に打ち出す。魔力弾は山なり軌道を描いてヘロヘロと飛んでいき、相手決闘士から数メートル離れた所に着弾して小爆発を起こす。


「っのやろー! またやりやがった!」

「どこ狙ってやがんだテメェ!」

「バカにされてんぞ! ヘルマァ!!」


 対戦相手の獣人族(セリオン)の決闘士ヘルマはキッと俺を睨む。いや、バカにしてるわけじゃ無いんだ。出来るだけ多くスキルを使っておきたいだけなんだ。仕方が無いんだよ……。


 アスカの鑑定によるとヘルマはレベル20の【喧嘩屋】(フーリガン)だ。加護レベルは2みたいだから、それなりの実力者だという事はわかってる。


 でも【魔術師】レベル2に上がった俺が真面目に撃った【爆炎】(エクスプロージョン)だと、2,3発で倒れてしまうだろう。そんな簡単に倒れられちゃ困るんだよ。


 これだけ速度を落として離れた場所に打ち込んでおけば、万が一にも当たる事は無いだろうし爆発の炎や衝撃からも逃れられるだろ?


「くらえぇ! 【爪撃】(ネイルブロウ)!!」


 突進してきたヘルマが放った拳の斬撃を、盾で受け流す。体勢を崩したヘルマに前蹴りを軽く放って蹴り飛ばし、すぐさま距離を取って再び【爆炎】(エクスプロージョン)を放つ。もちろん、ヘルマから少し離れた場所に。


 魔法を撃った直後に俺はヘルマに背を向けて走り、ヘルマが跳ね起きた時には闘技場の端まで距離を取っていた。


「くそぉ!!」


 鬼気迫る形相で追いかけてくるヘルマに当たらないように気を付けて再度【爆炎】(エクスプロージョン)を放ち、再び盾を構える。


 ……すまんが、あと2,30分は付き合ってくれ。今日中に【爆炎】(エクスプロージョン)のスキルレベルを最大にまで持っていくには、あと50発は打っておきたいんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 10分も経った頃には、ヘルマは疲れ果てて足が止まってしまった。おかげで、その後は魔法を撃ち放題だった。


 アスカに作ってもらった下級魔力回復薬(マジックポーション)で魔力を回復させつつ、【爆炎】(エクスプロージョン)を乱れ撃つ。イメージはあの魔人族(ダークエルフ)の劣化版といったところか。


 60発を超えたところで魔法を発動するまでにかかる時間がかなり短くなり、同じ魔力でも爆発の威力が高くなったことに気付く。俺は【爆炎】(エクスプロージョン)のスキルレベルが上がり切ったのだろうと判断し、ヘルマに威力を落とした魔法を撃ち込む。ヘルマは炎と衝撃であっさりと意識を手放し、俺は勝利を手にした。


 そして、1週間前よりもさらに大きくなった罵声を浴びながら俺は闘技場の舞台を後にする。うーん……【魔術師】(メイジ)にしたことで、余計にブーイングが激しくなって無いか?


 でも、これはしょうがないかもな。


 エルゼム闘技場の観客達は俺がわざと魔法を外していると気づいているだろう。


 さしずめ俺は、魔力回復薬まで使って相手の決闘士をおちょくり、ダラダラと間延びした決闘をする嫌なヤツといったところだろうか。うん。【騎士】(ナイト)の時より、よっぽどひどいわ。


 まあ、どっちにしろ【癒者】(ヒーラー)やら【喧嘩屋】(フーリガン)やらのスキルレベル上げも控えてるわけだし、似たような闘い方をしなければいけないんだ。好きなように罵倒すればいいさ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「もうっ! なんなの、王都の住人ってどいつもこいつもマナー悪すぎなんだけどっ!!」


「そうだな。食事をする時ぐらいは放っといてほしいよな」


 午前中の内に決闘を終えて平民街で昼食をとっていたら、あちこちのテーブルの人達から指をさされた。気になって目を向けると慌てて目を逸らすのだが、目を離すとまたひそひそ話を始めて目を向けられる。どう考えても好意的とは思えない目線に、アスカ様はいたくご立腹だ。


「しょうがないさ。いわゆる有名税ってやつだろ」


 エルゼム闘技場に通い始めてから早いものでもう2週間が経った。俺は昇格条件であるDランクでの10勝をあげて、Cランク決闘士への挑戦権を得た。その決闘もあっさり勝利し、Cランクに昇格。そこからも無敗で連勝を続けている。


 Cランク決闘士ともなればそこそこの実力者揃いではあるが、100人以上はいるので街中で指差しされるほど顔は知れ渡らない。だが俺は闘い方の評判がすこぶる悪いので、Cランクになりたての決闘士のわりには異様なほどに顔を知られてしまっているのだ。


「居心地わるー。もう行こっか」

「ああ。もうちょっとゆっくりしたかったんだけどな」

「あ、ちょっと待ってくれ!」


 アスカと顔を見合わせて席を立とうとしたら、不意に後ろから声を掛けられた。後ろ指差すだけに飽き足らず絡んでまで来るのか……と思って振り向いたら、そこにいたのは見覚えのある顔だった。


「やぁ、アル。いや、アルフレッドさんと呼んだ方が良いかな?」


「あ、あの時の!」


「ああ、確かボビーだったか? アルで構わないよ」


 声をかけたのはエルゼム闘技場を見学に行ったときに、隣の席にいて少し話をした商人だった。


「ボビー・スタントン。覚えていてくれて嬉しいよ。アル、それと嬢ちゃん、よかったら少し話でもしないか? お茶でも奢るよ」


「んー、お茶は嬉しいんだけど、パスかな。ここ居心地悪いから(・・・・・・・・・)。」


 アスカはボビーの誘いをそっけなく断った。しかも店の人にも、周りで後ろ指をさしていた人達にも聞こえるように大きめの声でだ。


 よっぽど、不愉快だったんだな。アスカがこうやって怒ってくれると、幾分か気が楽になるな。


 俺だって、あれだけブーイングされたり陰口を叩かれたりすると心労が溜まってはいたんだ。俺の事で怒ってくれる人がいるってのは、救いになる。


「ああ……。急ぎの用があるってわけじゃ無いなら、ウチの店に来ないか? 昼メシの後なんだろ? 上等なデザートワインがあるから、ご馳走する」


「デザートワイン? なにそのステキな響き! 行く行く!」


 アスカがあっさりと了承してしまう。まったく、相変わらずチョロいヤツだ。まあ、ユーゴーと一緒に訓練するぐらいしか用事は無いので、俺も否やは無いけど。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「Cランク昇格おめでとう。乾杯!」


「ああ、ありがとう」


「かーんぱーい! え、なにこれ甘ーい! おいしー!! これほんとにワイン!?」


 ボビーの店は中心街にある、そこそこ立派な店構えの食料品店だった。ワインや干し肉などの保存のきく食料品を扱う、酒屋兼乾物屋のようだ。俺たちは店の奥にある応接室に通されて、チーズや干し肉、デザートワインで饗された。


「アイスワインって言ってね。北の大森林の一部で獣人族(セリオン)が作っているんだよ」


「へー! はじめて飲んだ!! これ好きー!」


「俺も、聞いたことはあったけど初めて飲んだな。これ、けっこう値が張るものじゃなかったか?」


「ま、そうだな。これ1本で、上等なワインが10本は買えるな」


「へぇ……そんなに高いんだ。美味しいもんねー」


 うん、確かに美味い。食後のデザートがわりにちょうどいいな。でも、なんでまたボビーは俺たちに良くしてくれるんだ?


「いや、どうせCランクにも上がれないとか、大口を叩くなとか失礼なことを言ったからな。あっという間にCランクになっちまうし、このまま行きゃあBランクも間違いないほどの実力者じゃないか。一言、詫びたくてな」


 そんな事言われたっけ? 少しイラっとはした気もするけど、そこまで馬鹿にされたようには受け取って無かったんだけどな。


「気にしないでくれ。でも、ボビーにそこまで評価してもらってるなんて驚きだな。なんたって俺は『泥仕合のアルフレッド(マッディ・アル)』だろ?」


 なんと俺はたったの2週間で不名誉な二つ名までつけられてしまったのだ。言うに事欠いて(マッド)とはね。『紅の騎士(クリムゾンリッター)』も恥ずかしくて嫌だったけど、これに比べれば遥かにマシだ。


「ははっ。んなこと言ってるのは、ニワカかモグリだけさ。俺みたいな決闘マニア達からは高く評価されてるよ。未だ実力の半分も出してないだろうってな。決闘を長引かせてるのも、実戦訓練みたいなもんなんだろう?」


「んふー。わかる人にはわかるんだねぇ! そうなのそうなの! アルはAランクになれちゃうぐらい強いんだから!」


 ふーん。まあ、玄人ファンに評価されてるってのは悪い気はしないな。


「印象は悪かっただろうが、縁もあったしな。せっかくだからお近づきになりたいと思ってよ。ほらアル、嬢ちゃん。アイスワインにはちょいと塩っ気の強いハムが合うんだ。合わせて食ってみな」


「ん……ほんとだー! これ生ハムじゃーん。おいしー!」


「うん、確かに合うな。旨い」


 その後、アイスワインとおつまみを頂きながら、ボビーからは闘技場の歴史やら有名な決闘士達のことなんかを聞き、代わりに俺たちはこれまでの旅の話なんかを問われるままに話して聞かせた。さすが商人だけあって話し上手だし、聞き上手な男だ。


「まさか、魔人族を倒せるってのがマジな話だとはなぁ」


「えへへ、すごいでしょー。アルはねぇ、強いんだからー」


 ああ、アスカがだいぶ酔っぱらってるな。甘くて飲みやすいからってガブガブ飲むからだ……。真昼間から飲みすぎだよ。


「ふむ……。Dランクとは言え、実力はBランク以上の冒険者か」


「いや、だから魔人族は毒殺したんであって……」


「なにを謙遜してんだよ。魔人族を毒殺できる腕前のヤツなんてそうそういないだろ」


 そう言うとボビーはすっと笑顔を引っ込め、眉根を寄せて真剣な表情をした。


「アル。あんたに一つ依頼をしたいんだが、相談に乗ってくれないか?」


 依頼、ね。久々に冒険者として仕事を受けるのもアリかもな。決闘士と掛け持ちになるから、内容にもよるけど……?




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