第126話 灯台下暗し
「【魔術師】か…魔力と精神力が上がってるな。あれ? 魔法を覚えてる!? 何もしてないのに? しかも4つも!?」
「あーはいはい。落ち着いて―」
おっと。ステータスウィンドウを見て、思わず興奮してしまった。
生活魔法以外は一生縁が無いものとずーっと思ってたからなぁ。森番になる前は剣士の加護を授かるはずだから魔法は関係ないと思い込んでたし、森番になってからは……言うまでも無いか。
それがアスカに加護を変えてもらっただけで、魔法を覚えることが出来たわけだ。しかも4種類も。なんだか年甲斐もなくワクワクしてしまうな。
「えっとねー魔法使い系の加護は、剣士系とか斥候系とかとスキルの覚え方も加護レベルの上げ方もいろいろ違うの」
「へぇ……どんなふうに?」
クレアの家に帰る道すがら、アスカが魔法使いの加護についていろいろと教えてくれた。ある程度はウェイクリング家で家庭教師から教わった内容の通りではあったけど、初めて知ったことも多い。さすがアスカは博識だ。
まず、魔法使いが覚えられる魔法は火・水・風・土の四属性に大別される。そして各属性には9種類の魔法があり、【魔術師】の加護ではその内の3種類ずつを習得する事ができる。4属性×3種類だから計12種類の魔法が覚えられるわけだ。
魔法使い系の加護を授かったら、無条件で9種類のうち1つ目を習得する事ができる。そしてレベルが10に達した時に2種類目を、以降はレベルが5上がるごとに各属性1種類ずつを覚えることができる。
火属性魔法を例とするなら最初に習得するのは火魔法Lv.1の【火球】で、レベル10になった時に火魔法Lv.2の【火装】を覚える。そしてレベルが15になったら火魔法Lv.3の【爆炎】を習得できるのだ。
普通はそうやってレベルを上げる事で魔法を覚えるのだけど、既に覚えている魔法のスキルレベルをマックスまで上げることでも、新たな魔法を覚える事ができるらしい。【火球】を修得すれば【火装】を覚える事ができ、その【火装】も修得すれば今度は【爆炎】を覚えられる……ということだ。
ちなみにスキルレベルは覚えた魔法を使い続ける事で上げることができるそうだ。このへんは他のスキルと同じみたいだな。
一般的に魔法使いが新たな魔法を覚えるにはレベルを上げる必要があると言われている。スキルレベルを最大まで上げることで新たな魔法を覚える事が出来るというのは初耳だった。
まぁ、そもそもスキルにレベルがあること自体が知られていないのだから、それも当然だ。俺もアスカと出会うまではレベルを上げないとスキルは習得できないものだと思っていたし。
WOTではそうなっていたので、この世界でもたぶんそうだとアスカは言っている 。加護についてのアスカの知識は間違っていた事が無いから、たぶんそうなのだろう。
そして、加護のレベルは同じレベルの各属性魔法を全て修得すれば上げることができるらしい。つまり火属性魔法Lv.1【火球】・水属性魔法Lv.1【氷礫】・風属性魔法Lv.1【風衝】・土属性魔法Lv.1【土弾】の全てを修得する事が出来れば、【魔術師】の加護レベルは一つ上がるというわけだ。
「……ってことは、12種類の魔法を全て修得しないと、【魔術師】の加護はLv.★できないってことか?」
「そうだよ?」
「12種類のスキルをかよ……かなり大変じゃないか……」
「んー。めんどいって言えばめんどいけど、【騎士】のスキルほどじゃないと思うよー? 魔法系のスキルの熟練度は上がりやすいしねー」
「ふーん……。どうせやることは同じだし、まぁいっか。とりあえず覚えた魔法を打ちまくってればいいんだろ?」
「そだよ。あ、でもあんまり当てすぎないように気をつけてね。Dランク決闘士ぐらいだと今のアルのINTでも4,5発も直撃させちゃったら倒しちゃうと思うから」
「ん……わかった」
明日は魔法使いデビューか。あ、その前に魔法の練習ぐらいはしときたいな。実戦で初めて攻撃魔法を使うってのもどうかと思うし……。
「じゃあ今日も魔道具屋巡り行くよー!」
「あ、やっぱり今日も行くんだ……」
うん……練習の時間は無くなりそうだ。まいっか、どうせ決闘が練習みたいなもんだし。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔道具屋巡りを終え、俺たちはクレアの家に戻ってリビングでお茶を頂いていた。クレアがいれてくれたお茶はとてもいい香りで、高級品であることがうかがえる。
「はぁ……今日も見つからなかったね……」
「ああ、『識者の片眼鏡』だっけ? 本当に探す気あったんだ?」
「はぁ? 何言ってんの!? アルが安全に戦えるようにと思って探してるってのに!」
ここ1週間ほど、俺たちは闘技場での決闘と言う名のスキルレベル上げが終わった後に、町中の魔道具屋を巡っていた。ステータス鑑定を覚えられる大事なものである『識者の片眼鏡』を探すためだ。
あまり重要視していない大事なものだったそうで、アスカはどこで手に入れたのかを覚えていないそうなのだ。他人や敵の能力値を見れるなんて、とんでもないアイテムだと思うのだけど……。
「いや、だってアクセサリーとか服ばっかり見てたじゃないか。片眼鏡が無かったらすぐに出て、次の店に行けばいいのに」
「それは……その……し、市場調査よ!」
「へえ。いっぱしの商人みたいだな」
「そ、そうよ! なんたってあたしはGランクの商人なんだから」
「ふーん。Gランクの低級ギャンブラーの間違いじゃなくて?」
「うくっ……」
アスカはここ数日で金貨5枚もの大金をすってしまっていた。闘技場での決闘ベッティングで大負けしやがったのだ。
決闘ベッティングに使っていいのは1日に銀貨1枚までと言ったはずなのに、アスカは1試合に銀貨1枚までと都合よく受け取っていて、俺が気付いた時にはすでに大金を失っていた。
たった1週間で俺がクレアの護衛で稼いだ報酬の4倍もの金額を失ってしまったのだ。もう、ほんとに殴りたい。まあ、ヴァリアハートでアスカが薬師として稼いだ金額とほぼ同額だから別にいいんだけどさ……。
ちなみに唯一アスカが勝敗を当てているのは、俺の決闘の時だけだ。その決闘だけは、俺がどのぐらいの時間をかけて勝つかがわかっているので外しようがない。
だがアスカがアホなのは、負け分を取り戻そうとして俺の試合なんかに何枚もの金貨をつぎ込んでしまっていた事だ。はっきり言って俺の決闘なんかに大金を賭けるような物好きはそういない。そんな決闘にアスカが大金を注ぎ込めば、当然ながら俺の勝利のオッズは著しく低くなる。当たっても雀の涙ほどしか返って来ないのだ。
そもそも俺の言いつけを曲解して1試合銀貨1枚までにしていたはずじゃなかったのか。金貨を賭けてんじゃねえ。
「ん……? 『識者の片眼鏡』ってのは、誰のステータスでも見れるようになる大事なものなんだよな?」
「え? うん、そうだけど?」
なるほどね……。俺の安全のためとか言ってたけど、それが目的じゃ無いな、コイツ……。
「つまり、決闘士のステータスも見れるってことだよな?」
「そうよ! アルが戦う相手のステータスを事前に見れるの。戦う前に敵の情報がわかれば安全に戦えるでしょ!?」
「……安全に賭けられるの間違いだろ?」
「ぎくっ!!」
「『ぎくっ』って口で言ってんじゃねえ! バカにしてんのか!!」
あーやっぱ、こいつは……。賭けに勝つために 『識者の片眼鏡』を探してただけじゃねえか。まったく……。
「アル兄さま、お話しが聞こえたのですが、 『識者の片眼鏡』をお探しなのですか? 当商店で取り扱っておりますが……」
へ? クレアいまなんて言った? アリンガム商会の店で?




