第125話 熟練度稼ぎ
「くらえっ!!」
俺は振り下ろされた槍を、紅の騎士剣で掬い上げるように斬り上げて弾く。土人族の男は弾かれた槍を素早く引き戻して、続けて突きを放ってきた。
俺は火喰いの円盾をやや斜めにして槍を受け止める。槍の穂先が盾の表面を滑り、突きの勢いで身体を泳がせた土人族の男に、俺は盾を前面に掲げて体当たりを見舞う。
「ぐうっ!」
土人族の男はふらっとよろめいたが、さほど衝撃を受けた様子は無い。よし、まだまだ決闘は続けられるな。俺はあらためて、【烈攻】と【不撓】を発動した。
「くっそ! なめくさりおって!」
こちらから攻撃をしようとしない俺に、土人族の男は額に青筋を立てて吐き捨てた。すまんな、魔力が切れてしまうまでは続けさせてもらうよ。もうしばらく付き合ってくれ。
「ふんっ!」
土人族の男が槍を横薙ぎに振るう。俺は落ち着いて半歩だけ後退り【魔力撃】の切り落としで、振られた槍を叩き落とす。
その後も、懲りずに突き出され、左右から振るわれる槍を、俺は淡々といなし、弾き、受け止める。決してこちらからは近づかず、かといって離れもしないで相手の攻撃を捌いていく。
あっ、【烈攻】の効果が切れたな。俺は先ほどと同様に土人族の男に体当たりをかましてよろめかせてからバックステップで後退り、【烈攻】をかけなおす。そうこうしているうちに【不撓】も切れたのでこちらもかけなおす。
ん…… 土人族の男が肩で息をして、槍を下ろしてしまっている。おいおい。それは困るな。
「なんだ? もうへばったのか?」
「っ……なんだとぉ!?」
俺は【挑発】を発動しつつ、土人族の男を煽る。すると男は雄たけびを上げて再び襲い掛かって来た。
そうそう、その調子だ。敵意や殺意を持って敵対してくれなきゃ、スキルのレベル上げは出来ないんだからさ。
「ブーブー!!」
「逃げんな―!」
「マジメに戦えーっ!!」
またしても防御に徹し始めた俺に、観客席からブーイングが聞こえてきた。うーん、嫌われたもんだ。
闘技場に通い始めて1週間。毎日のように似たような決闘を繰り返してりゃ、非難されるのも仕方が無いのかも知れないけど。
ここの観客は決闘士同士の血沸き肉躍る派手な闘いを見たくて来ている人ばかりだ。俺のようにひたすら守りを固めるような闘い方は彼らの好みでは無いのだろう。
それに俺はダラダラと時間をかけて戦う。他の決闘士たちの決闘はおおよそ数分で決着つく場合が多い。俺の場合は最低でも30分ぐらいはかけるからな。それも嫌われてしまう一つの理由だろう。
アスカに聞いた話じゃ、一昨日あたりから俺が戦い始めたとたんに席を立ち、食事をとったり便所に行ったりする人まで出て来たらしい。退屈な決闘で申し訳ないね。
そんな事を考えていると【烈攻】の効果が切れたので、かけなおす。あれ? 【不撓】の方はまだ効果が切れない。こっちはそろそろカンストかな?
さーて、魔力の残りは体感であと半分ぐらいかな。あと15分ぐらいは付き合ってもらうぞ?
俺は土人族の男と観客の罵声を浴びながら、繰り返しスキルを発動し続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おつかれー、アル! 」
「おつかれさま。アスカ」
時間をかけて魔力をほとんど空にした俺は、疲れ果てた土人族の男を全力の【盾撃】で吹き飛ばし、首筋に紅の騎士剣を突き付けて降参させた。今は、観客のブーイングを一身に浴びて闘技場を出て、アスカと落ち合ったところだ。
「おめでと!今日で【騎士】は卒業だよ!」
「おっ、ってことは……!」
「うん!! Lv.★したよ!」
ふー、やっとか。【烈攻】や 【不撓】は修得し難いとは聞いていたけどけっこう時間がかかったな。
とは言ってもたった1週間ほどで修得できたんだから、【騎士】の加護だけしか持っていない普通の人に比べればかなり早いだろう。俺はLv.★した【盗賊】の加護のおかげで、【騎士】の3,4倍ぐらいの魔力がある。近接戦闘職としては多めの魔力でスキルを乱発し、かなり効率的に熟練度を上げられているのだから。
それに闘技場で戦う決闘士たちは、俺よりもレベルが高いから効率はさらに上がる。Dランク決闘士の平均レベルは15ぐらい、Cランクは20、Bランクは25ぐらいらしい。
Dランクの今でさえ5倍以上の早さでスキルのレベル上げが出来ているというわけだ。Bランクにまで決闘士ランクを上げられたら、レベル差は17ぐらいだから……18倍なんていうとんでもない早さで熟練度を上げられる。これはさっさとランクを上げたいところだな。
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アルフレッド
■ステータス
Lv : 8
JOB: 騎士Lv.★
VIT: 643
STR: 536
INT: 224
DEF: 893
MND: 194
AGL: 510
■スキル
初級短剣術・初級弓術・初級剣術・初級槍術・馬術
夜目・潜入・索敵
挑発・盾撃・鉄壁・烈攻・不撓・魔力撃
投擲Lv.4・初級盾術Lv.1
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「だいぶステータスが上がったね!」
「感慨深いな……。憧れだった【騎士】を修得できたのか」
「うんうん。これぐらいのステータスなら、チェスターの時の魔人族だって正面から戦えるよ」
「おお、そんなに強くなったのか……」
「まだ魔法防御力が心もとないから【癒者】に加護を変えてから被弾覚悟で突っこむ感じかな。レベルも15ぐらいまで上げちゃえば、まず負けないよ」
【癒者】は精神力が高い加護だって話だったな。修得した【騎士】は防御力が、【盗賊】は素早さが高い加護だ。だとすると【癒者】を修得して精神力を引っ張り上げれば、魔法に対しても頑丈で、かつ俊敏な戦士になれるってことじゃないか。アスカを護る騎士としては、まず【癒者】のLv.★を目指すべきだな!
「ダメ。次は【魔術師】になってもらうんだから。【癒者】はその次」
「ええ? 別にどっちが先でもいいじゃないか。結局は全部の加護を修得するんだろ?」
先に『硬い』戦士になっておきたいんだけどな。王都にいる限りそう危険なことも無いだろうけど、出来る事なら先に護りを固めておきたい。万が一、不埒な輩に襲われるという事も無いとは限らないのだから。
「だって……悔しいんだもん」
「へ? 悔しい?」
「みんなさ!アルのこと逃げ腰だとか、臆病者とか酷いこと言うんだよ! ブーイングとかするし! すっごい感じ悪いんだもん!!」
……あ、そういうことか。【魔術師】になれば魔法で攻撃はするわけだから、多少は観客の印象が変わるかもしれないもんな。
でも、そんなこと気にしてくれてたのか。俺が馬鹿にされることを悔しがってくれるなんてな。ふふ、愛い奴め。
「アスカが気にしてくれるだけで十分だよ。観客なんて好きなように言わせておけばいいじゃないか」
「だめ! あたしが嫌なんだもん! あー思い出したらムカついてきた! もう、【魔術師】に変えちゃうからね! 大事な物【始まりの短杖】! はいっ、【魔術師】にしちゃったからね!」
「……はいはい」
俺はプリプリと怒るアスカを見て、なんだかほっこりした気持ちになった。
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アルフレッド
■ステータス
Lv : 8
JOB: 魔術師Lv.1
VIT: 643
STR: 536
INT: 270
DEF: 893
MND: 238
AGL: 510
■スキル
初級短剣術・初級弓術・初級剣術・初級槍術・馬術
夜目・潜入・索敵
挑発・盾撃・鉄壁・烈攻・不撓・魔力撃
投擲Lv.4・初級盾術Lv.1
火球Lv.1・氷礫Lv.1・風衝Lv.1・岩弾Lv.1
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