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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第123話 決闘の儀

 獣人族の男に駆け寄っていった数人の人達は、揃いの白いローブを羽織っている。倒れた獣人族の男を取り囲んだ白ローブ達の一人が、男の胸に手を当てて何事かを呟いた。


 すると獣人族の男の全身が、青緑色の光に包まれる。どうやら白ローブ達は救護を担当する闘技場の職員のようだ。


 しばらくすると獣人族の男は意識を取り戻したようで、ふらついてはいたが自分の足で立ち上がって白ローブ達と一緒にアーチから出て行った。良かった、無事だったみたいだな。


「すごい迫力だったねー! やっぱり生で見ると違うなー!」


「ああ。あの神人族(エルフ)の女、相当な腕前だった。獣人族(セリオン)の方もそれなりの戦士だったとは思うけど、まるで子ども扱いだったな」


「そりゃそうさ! エルサはBランク筆頭の決闘士(デュエリスト)だからな!」


 アスカと話していたら、隣の席に座っていた男が急に話しかけてきた。40代ぐらいの小太りな央人族(ヒューム)だ。


「エルサってあの神人族の女のことか?」


「おいおいおい! あんたエルサを知らないのか?」


 小太りな男は驚いた顔でそう言った。


「ああ。ウェイクリング領から来たばかりで、エルゼム闘技場に来たのは初めてなんだ」


「ああ、そういうことなら知らないのも無理ないな。エルサは王都じゃかなり有名人なんだ。この闘技場に来てるヤツで、エルサを知らないなんてアンタぐらいなもんさ」


 へえ。やっぱりあの女は花形決闘士の一人だったのか。


「エルサは、負け無しでBランク決闘士の筆頭にまで上り詰めた凄腕の【魔道士】(ウィザード)さ。今年中にはAランクに上がるって評判のな!」


「ふーん。そのAとかBランクってのは、なんなんだ?」


「そんなことも知らないのか? 決闘士のランクのことさ」


 小太りの男は親切にも闘技場のことを教えてくれた。


 決闘士はAからDの階級でランク付けされており、そのランクごとにマッチメイクが行われるそうだ。同じランク同士の決闘士と戦って10勝以上を上げれば上位ランクの決闘士との入れ替え戦に挑戦することができる。


 晴れて勝利すれば、上がったランクで再び勝ち星を集めていくことになる。負けた場合は積み重ねた勝ち星をリセットされ、もう一度同じランクで勝ち星の集め直しだ。


 Dランクの決闘士は数百人もいて、Cランクは100人程、Bランクは20人ほどだという。Aランクにいたっては数名程しかいないそうだ。


 人数が多いためDランクとCランクの決闘はそれこそ毎日何回も行われている。Bランクは週に1,2回ほど、Aランクは年に何回かの開催だという。ランクの入れ替え戦は、ちょくちょく行われている。


 今日は偶然にもCランクから昇格したばかりの獣人族の決闘士ラッシと人気のBランク決闘士であるエルサの決闘が行われていたようだ。Bランク決闘士の戦いは週に1,2回ほどしかないそうだから幸運だった。そのせいで入場料が高かったみたいだけどな。


 ちなみにCランクの決闘しか行われない場合は大銅貨3枚、Bランクの決闘がある場合は大銅貨5枚、Aランクの決闘がある場合は銀貨1枚になるそうだ。


「エルサは半年ほど前にデビューして以来、今まで負けなしで勝ち上がってきた闘技場のニューヒロインなのさ。Bランクでは既に7勝をあげていて、今年中にAランクに上がるんじゃないかって噂されているんだ」


「へえ。負け無しか。やっぱり凄い決闘士だったんだな」


「ああ。実力ももちろんだけど、華がある戦い方が人気の決闘士なんだ。さっきの入れ替え戦みたいに実力差のある決闘の時なんかには、わざわざ相手の得意な戦い方で勝負をしたり、派手な魔法を使ったりして闘技場を盛り上げてくれるからな」


 なるほどね。やっぱりさっきの決闘では、ショーアップのためにわざわざ獣人族の男と近接戦闘をしていたのか。あの魔法の腕前なら離れて集中砲火するだけで、簡単に勝てただろうしな。


「でもさ! アルならエルサに勝てるでしょ!?」


「え? いや、どうかな。簡単に勝てそうな相手じゃなかったけど……」


 まあ、でも、勝てるだろうな。いくら優秀な魔法使いだったとしても、あの魔人族ほどじゃないだろう。さっきの【爆炎】(エクスプロージョン)の威力も、魔人族が放ったのに比べれば大したこと無さそうだった。


 身体強化魔法を使った時の動きの早さも、盗賊をマスターした俺なら圧倒されることも無いだろう。さっきみたいに近接戦闘を挑んできたら返り討ちに出来るだろうし、距離を取って魔法を撃たれたとしても守りを固めてエルサの魔力が尽きるまで耐え抜けばいい。一対一なら、なんとかなるんじゃないかな。


「大丈夫だよー。アルならあの程度の魔法使い、楽勝だって」


「いや、そもそも俺は決闘士には……」


そこまで言ったところで小太りの男が大きな笑い声をあげた。


「はっはっは。嬢ちゃん、大きな口をきくじゃないか。アルってのはあんたの事かい?」


「あ、ああ、そうだけど。でも俺は……」


「いるんだよなぁ、田舎でちょっと鳴らしたからって、勘違いして闘技場で一旗揚げようとするヤツ。そんなヤツらはだいたいCランクにも上がれずに、尻尾巻いて帰っていくんだ。夢を見るのは止めといた方が良いぜ」


 むっ……ちょっとイラつく言い方だな。決闘士になるつもりも無いけど、こんな言われ方をするとさすがに腹が立つな……。


「ふふん。Bランクであの程度なら、アルならすぐにAランクになれちゃうわよ。なんたってアルは魔人族(ダークエルフ)だって倒せるぐらい強いんだから」


 アスカがそう言うと、小太りの男はもう堪えきれないと言わんばかりに腹を抱えて笑い出した。


「あっひゃっひゃっひゃ!! 言うに事欠いて魔人族だって!? 大言壮語ってのはこのことだな!」


「なによ! ホントのことなんだからね!!」


 ああ、もうやめろよ面倒くさい。何度も言ってるけど魔人族に勝ったのは、実力じゃなくて油断を突いた毒殺だからな?


「やめろって、アスカ。俺は決闘士になんてならないよ。闘技場で戦うのは、デスマッチじゃなかったらって言ったろ? さっきみたいな命のやり取りなんてしたくない」


「ええーっ!?せっかく効率よくスキルレベルを上げれるのにー!」


 俺が決闘士になる事を拒否すると口をとがらせてむくれるアスカ。それを見て小太りの男がにやにやと笑った。


「ははっ。そっちの嬢ちゃんと違って、兄ちゃんはさっきの決闘を見て、身の程を知ったんだろ? まあ、無理するもんじゃないぜ。ここは大陸中から猛者が集まって来るエルゼム闘技場なんだ。恥をかくから止めといた方が良い。俺はあんたのためを思って言ってやってるんだぜ?」


「……そりゃどうも。とにかく俺は、人同士が殺しあうような野蛮な見世物に出るつもりは無い。もし俺が死んだらアスカの旅はどうなる? そんな軽はずみなことは出来ないよ」


「むー……それは、確かにそうだけど……」


 俺がそう答えると、今度は小太りの男がムッとした顔をした。


「なんだよ、その殺し合いの野蛮な見世物って。聞き捨てならないな。神龍ルクス様に奉納する由緒正しい決闘の儀なんだぞ。撤回しろ」


「うん? 気に障ったのなら謝罪するよ。だけど殺し合いには違いないだろ? 俺は理由なく人を殺すのも、殺されるのも御免なんだ」


 そう言うと小太りの男はフンと鼻を鳴らし、小馬鹿にするような表情で俺を見た。


「あんた何も知らないんだな。この闘技場は王家が管理する、公営の興業なんだぞ? 殺し合いを興行になんてするわけが無いだろ?」


「うん? ええと、どういう事だ?」


 小太りの男に詳しく話を聞いてみると、俺が勘違いしていることがわかった。


 この闘技場での決闘では、さほど頻繁に死者が出ることは無いらしい。どちらかがある程度の重傷を負ったら勝敗はついたと見做されて決闘は止められ、先ほどの白ローブの集団が集中して回復魔法をかけて治癒してしまうそうだ。さすがに即死だとどうしようもないが、数分で死に至ってしまうような重症でもあっという間に治すことができるほど白ローブ達は優秀らしい。


 また、決闘士は故意に相手を殺すことを禁じられているそうだ。具体的には『止めを刺すな』ってことだ。


 そうは言っても真剣でぶつかり合う決闘なんだから、死者が出ることもある。そういった場合には殺してしまった者に罪が着せられることは無い。


 だが、明らかに故意に止めを刺した場合には殺人同様の刑罰が科せられるそうだ。そうは言っても通常の殺人に比べればかなり減刑されるそうだけど。


「騎士や貴族がやるような、どちらかが死ぬまで戦うような決闘とは違う。興行である事は間違いないが、あくまでも奉納試合なんだからな」


「そうなのか……」


 それなら……決闘士をやるのも、やぶさかではない……かな?




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