第115話 パーティ
「え? そうなのか? アスカのメニューは人のステータスを見れるんじゃないのか?」
「ううん。あたしが見れるのはアルとあたしのステータスだけ。ユーゴーのもクレアちゃんのもジオさんのも見れないよ」
「そうなのか……」
アスカのメニューなら誰のものでもステータスが見れるのかと思ってたよ。人の能力を数字で表すことが出来るから、相手の実力を測るのにはとても便利だ。もし敵の能力を知ることが出来たら、さらに利便性が高かったんだけど……そう上手くもいかないか。
「ジオドリックさんのステータスも実は見てみたかったんだけどな。あ、でも前にデールとかエマとかのステータスを見たことがあっただろ? あれはなんだったんだ?」
「ああ、あの時はダーシャとエマとデールと火喰い狼を倒すためにパーティを組んでたでしょ? だから見れたの」
ああ、そう言えばあの時は俺・アスカ・デール・ダーシャ・エマの5人でパーティを組んだんだった。火喰い狼と戦った時には尖りアゴと無精ヒゲが乱入して来たから、火喰い狼とはほぼ一対一で戦う羽目にはなったけど、魔素はパーティメンバーの5人全員に宿ったみたいだったしな。
トドメを刺したから俺には多めに魔素が入ったのだとは思うけど、それでも5人で山分けだったからな……。強力なランクCの賞金首を倒したってのに1しかレベルが上がらなかったのは残念だった。人生初のレベルアップだったから、それでも嬉しかったけどさ。
「へぇ、なるほどね。あれ? ってことは俺とアスカはパーティだけど、クレアとジオドリックさん、ユーゴーとはパーティじゃないのか?」
「そうなるね。クレアちゃんとあたしたちの関係は依頼主と冒険者、でしょ? クレアちゃんとジオさんの二人は雇用主と使用人って関係でもしかしたらパーティかもしれないけど。ユーゴーはクレアちゃんの依頼を受けた、別の冒険者ってところじゃないかな」
「ふーん……。なんか差がよくわからないな」
依頼主と冒険者がパーティじゃなくて、雇用主と使用人ならパーティ? 何が違うんだ?
あ、でもそうか。隊商と支える籠手の関係で考えればわかりやすい。『護衛を依頼する商人』と『依頼を受けて護衛する傭兵』が同じパーティなわけ無いもんな。
「あれ? だとしたら、どうやったらパーティって扱いになるんだ? 支える籠手みたいに傭兵団を作るとか、冒険者みたいにクランを組めばいいのか? それとも冒険者ギルドでパーティ登録するとか?」
クランとは数十名からなる冒険者の集まりのことだ。クランの内部でメンバーを融通しあっていくつかのパーティを編成し、依頼に合わせて組み合わせを変えたり、複数のパーティで依頼をこなしたりしているらしい。早い話が、クランはギルドとは直接関係のない冒険者同士の互助会みたいなものだ。
オークヴィルの冒険者ギルドには無かったけど、チェスターやヴァリアハートにはいくつかのクランがあった。チェスターでは紅の騎士とかいう二つ名で有名になってしまったおかげで、冒険者ギルドに行くたびにクランに勧誘されたりもしていた。
傭兵団についてはよくわからないが、たぶん傭兵ギルドに登録しているパーティとかクランみたいなものじゃないだろうか。
ちなみに冒険者ギルドではパーティの登録が出来る。そのパーティで依頼を達成した場合はパーティメンバー全員の実績となる。依頼報酬は変わらないので、パーティメンバーでの山分けだ。
エマ、デール、ダーシャとは火喰い狼の討伐依頼を受ける時に、ギルドにパーティとして届出をした。討伐が終わった後にすぐ解消したけど。
「んーギルドの事はよく分からないけど、あたしのメニューの場合はあたし達がこの人とパーティを組みたいって思って、相手が受け入れたらパーティになるって感じだと思うよ? ダーシャ達の時には、ギルドに届け出をする前からパーティ扱いになってステータスも見れるようになったから」
「ギルドは関係ないのか」
「WOTだと、パーティメンバーに出来る人にパーティを組もうって申し込んで、相手が受け入れてくれたらパーティを組めるって感じだったよ。ダーシャ達の場合は、火喰い狼を一緒に倒そうってお願いして、受け入れてくれたからパーティになったって感じかな」
「ふーん、なるほど」
ギルドに比べると簡単なんだな。あ、でもそれはこっちでも同じか。冒険者ギルドで特に登録しなくても仲間同士でパーティを組めば、魔物を倒した時の魔素はきっちりパーティメンバーで分配されたりするみたいだしな。
「じゃあ、クレアとジオドリックさんはあくまでも依頼主とその部下だし、ユーゴーは同行者だからパーティじゃない。だからステータスも見れないってことか」
「あ、でもあの奴隷商のステータスは見れてたよ。たぶんアルの奴隷だったからじゃないかな。【商人】の加護だったよ」
「ああ、アイツな。アイツはどうでもいいや、もう」
「あの『隷属の腕輪』を外して騎士団に引き渡したら見れなくなったけどね。奴隷は強制的にパーティに入るみたいね」
なんてことだ。あんなヤツがパーティに入っていたなんて……。パーティメンバーだから何があるって事も無いけど、『隷属の魔道具』の使いどころには気を付けないとな。
いや、あんな危ないアイテムをおいそれと使うつもりは無いけどさ。アスカのアイテムボックスに奴隷商から取り上げた、『隷属の魔道具』が3つ入ってるけどね。
「あ、『識者の片眼鏡』って大事な物が手に入れば、他の人とか敵のステータスでも見れるようになるよ! 一部の敵は見れなかったりするけど」
あ、見えるようにはなるんだ。片眼鏡か……たぶん俺が持ってた『解体ナイフ』とか『伐採鉈』で、アスカが【魔物解体】とか【植物採集】を覚えたのと同じようなアイテムなんだろう。
「そだね。王都に着けば手に入るとは思うけど……どこで貰えたのか記憶が定かじゃ無いんだよねぇ。WOTではわざわざ使わなかった大事な物だから……」
「そうなのか? 敵のステータスが見れるなんて、すごく便利じゃないか。敵の能力の特徴とかスキルが先に分かれば、戦いをかなり有利に進められるし」
「んー、便利っちゃ便利なんだけど……。向こうではウィキで調べれば大抵の事はわかったから、わざわざスキルで敵のステータス見るようなことはしなかったかなぁ」
「敵の情報が先にわかるのか!?」
「うん。なんでものってる辞典みたいなもんかな。敵の攻略法とかイベントの情報とかがのってるの」
へぇ…アスカが色々と博識なのはその辞典があったからなのか。アスカの世界にはずいぶん便利な物があったんだな。
「よく考えたら便利だったなぁ。こっちでもネット通じたら生産チートとか出来たかも知れないのに」
「ネット? 生産…?」
「うん。現代知識で大儲け!的な、ね。あーもっとちゃんと勉強しとくんだったなぁ。農業の知識とか有ったら革命起こせたかもしれないのに!」
「農業で革命?」
「そう。クローバーとカブで生産量をアップさせるのよ!」
「……なんだそれ?」
「あたしもよくわかんない」
知らないのかよ。アスカって突然に意味のわからないことを言い始めたりするんだよぁ。今でも隣で『こうなったらテンプレのマヨネーズね!』とか言ってるし。
ああ、でもマヨネーズは美味しいよな。今度、新鮮な玉子が手に入ったら作ってみようかな。傷みやすいけど、アスカのアイテムボックスがあれば問題ないだろうし。




