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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第111話 ヴァリアハートの夜

「おーそーいー!!」


「悪かったよ。ただいま、アスカ、ユーゴー」


 思いのほかあっさりと終わった会食を終え、俺たちは宿に戻って来た。アスカとユーゴーは既に宿に戻っていて、俺達の帰りを待っていた。


「お土産はー?」


「ねえよ、そんなもん」


「えー!? 無いのー? 自分たちだけ美味しいもの食べてきたくせにー!」


「遊びに行ったんじゃないんだからさ……」


 出された食事は確かに豪華だった。荒野のど真ん中だってのに山菜やら、海水魚まで出てきたからな。


 でも緊張してて味が良くわからなかったんだよなぁ。久しぶりの宮廷料理だというのに、もったいないことをしたかも。


「それでー? 侯爵とのオハナシはどうなったのー?」


「ああ、それなんだけど……」


 俺は侯爵の館での出来事を宿屋の一室に集まった居残り組に説明する。ジオドリックさんは自分の主が狙われただけに、険しい表情で聞き入っている。


「なるほど……。少々、意外ですな。奴隷商(あの男)とユーゴー殿の引き渡しを強要してくるかと思いましたが……」


「そうですね。思ったよりもすんなりとこちらの要求が通ったので、拍子抜けでした」


「ふむ……。だとすると……侯爵の使いを名乗った者は、偽物だったということでしょうか」


 奴隷商にクレアの拉致を指示し、『隷属の魔道具』を融通したのは本当に侯爵なのだろうか。侯爵が黒幕だとしたら、俺たちが奴隷商を王都に連行することを認めはしないだろう。ウェイクリング家とアリンガム家との火種を抱えるばかりか、違法な奴隷売買に手を染めていた事が表沙汰になってしまうのだから。


 だとすると侯爵の使いを名乗った男は、侯爵とは何の関係も無かったという事も考えられる……?


「おい。お前が言ってた侯爵の使いってのは、どんなヤツだったんだ?」


 部屋の隅に立っていた奴隷商がゆっくりと俺の方に向き直った。手首に『隷属の腕輪』をつけた奴隷商は死んだ魚の様な昏い目をしている。


 同じ腕輪を嵌められていた時のユーゴーも似たようなどんよりとした目をしていた。もしかしたら『隷属の腕輪』は精神を鈍化させる機能でもあるのかもしれない。


「灰色のローブを纏った男だった。いつも目深にフードを被って顔を隠していた。年はおそらく30から40の間。中肉中背で、声が低い」


「ずいぶん怪しげな奴だな。誰の紹介だったんだ?」


「紹介では無い。不意に私の商会にやって来て、侯爵の下知をくだした」


「……本当に侯爵の使いだったのか? そいつは」


「侯爵の紋章の封蝋が施された手紙で下知が下されていた。指輪印章を持っていたので侯爵の使いで間違い無い」


「その手紙を持っているか?」


「手紙は読み終わった後に、使いの者がいつも焼却していたから持っていない」


 ……怪しさ満点じゃないか。印璽やら指輪印章なんて盗み出せば手に入るだろうし。奴隷商(こいつ)が騙されただけで、侯爵と何の関係も無い第三者って可能性も出て来たな……。


「……これでは敵が誰かもわかりませんな」


「ですね……。まあ奴隷商(こいつ)を王都まで連行すれば、あとは王家騎士団の仕事です。奴隷商(こいつ)の証言だけでは、侯爵の仕業だと立証することは難しいでしょうが、少なくともアリンガム商会やウェイクリング家に手を出しにくくはなるでしょう」


「釈然としませんが、致し方ないですな」


 まあ俺としてはユーゴーの無実が証明できればそれでいい。奴隷商については、クレアを拉致しようとし、アスカを攫った実行犯だから、厳しい裁きを受けさせたいとは思うけど。犯罪奴隷にでもなれば分配金ももらえるしな。


「ユーゴー、侯爵から君を王都まで連れていく正式な許可をもらえた。もう少しの辛抱だ」


「あ、ああ……。ありが…とう」


 ユーゴーがほんの少し目じりを下げ、こくりと頷いた。


 まあ、なんにしても王都に着いてからの話だ。俺たちは各自の部屋に戻り、休むことにした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「アルフレッド……」


 真夜中に名を呼ばれ、ぼんやりと頭にかかった薄いもやをはらって目を開けると、枕元に座ったユーゴーが俺の顔をのぞき込んでいた。黒みがかった銀髪が窓から差し込む月明かりをぼんやりと反射し、ゴールデンイエローの美しい瞳が俺の顔を映している。


「お、おい……何して……」


 ユーゴーは俺の口を手でふさぎ、顔を寄せてくる。すっと通った鼻筋と形の良い唇が近づく。銀色のふさふさとした毛におおわれた耳が頭の上にぴょこんと立っていた。


 ふわりと漂う甘い香り。否応なく俺の胸は早鐘を打ち始める。ダメだ、ユーゴー。隣の部屋にはアスカがいるんだ。こんな所じゃ……


「静かに。敵襲だ……」


 あ、そうですよね。おれの勘違いだよね。べ、べ、べつにやましい事なんてなにも考えてなんていないさ!


 目の前にユーゴーの綺麗な顔があって剣を嗜んでいるだけあって固くはあるけどほっそりとした指が俺の唇に触れていて甘くていい香りがして心臓のドキドキって音がはっきりと聞こえてアスカは柔らかくて可愛らしいって感じだけどユーゴーは綺麗だなって思っただけ……って、ええ!!? 敵襲!?


 俺は反射的にベッドから跳ね起きて、即座に【索敵】を発動する。


 うっわ。宿の周りに怪しい奴らがうじゃうじゃいるじゃないか!


「ユーゴー、クレアを起こしてきてくれ。俺はアスカを起こして来る」


 俺はユーゴーに小声で囁き、アスカの部屋に向かう。ノックをせずに部屋に入ると、アスカは腹を出して大股を開いた豪快な寝相で眠っていた。


「アスカ、目を覚ましてくれ。緊急事態だ」


 肩をゆするとアスカはゆっくりと目を開く。


「えっ……アル、なに……ムグっ」


 俺はアスカの唇を手でふさぎ、人差し指を口の前に立て、できるだけ声を出さないようにと目くばせした。アスカが頬を真っ赤に染めつつこくんと頷いたのを確認して、俺はアスカの耳に顔を近づける。


「だ、ダメだって、隣にユーゴーが」


「アスカ、宿の周りを怪しい奴らに取り囲まれている」


「えっ、あっ、敵? え、ええ!?」


 小声でそう言うと、俺の表情から尋常ではない事態だとわかったようだ。顔は真っ赤なままだったが、緊張した顔つきに変わった。


「アスカ、装備を」


「うん。【装備】(イクイップ)


 俺の全身が淡い光に包まれ、俺は一瞬にして使い慣れたクロースアーマーとレザーアーマーを着こんだ状態になっていた。うん、やっぱり便利だな、アスカのメニューは。


「何があったの?」


「たぶん奴隷商とユーゴーを狙った刺客だ。行こう。」


 俺はアスカの手を引きスィートルームのリビングに向かう。ちょうどユーゴーがクレアとジオドリックさんを連れてやって来たところだった。


「宿の中には誰もいないようです。元から夜襲をかけるつもりだったのでしょう」


「ええ。他の客どころか従業員の気配すらありません。嵌められましたね……」


 ウェイクリング領ではアリンガム御用達の宿を利用していたが、エクルストン侯爵領に入ってからは商人ギルドから勧められた宿を利用していた。アリンガム商会は東西の交易でこの領地を通る事が無いため、馴染みの宿が無かったからだ。


「商人ギルドに手を回すことができるとなると、黒幕はマッカラン商会……でしょうな」


「そうでしょうね……。さて、どうしましょうか」


「援護が期待できない以上、立て籠もるのは下策だ」


 いつの間にかビキニアーマーと大剣を装備したユーゴーが言った。俺はユーゴーの意見に頷きで返す。


「敵は突入の準備を整えているようです。あまり時間はありませんね」


「……正面突破して隊商のキャンプを目指しましょう。大通りに出れば、さすがに手を出しにくくなるでしょうし」


「承知しました」


「……了解」


 俺たちは灯かりをつけずに準備を整え、物音を立てないようにそろりそろりと正面玄関の前に移動した。


「前衛は俺とユーゴー。クレアとアスカはその後に続いてくれ。奴隷商(アントン)、お前は身を呈してでもクレアとアスカを守れ。ジオドリックさんは最後尾をお願いします」


 皆が俺の言葉に黙ってうなずく。


 盗賊共にアスカを攫われた時みたいなヘマはもう繰り返さない。最優先はアスカとクレアを守り切ることだ。そのためになら俺自身が傷つくことなんか厭わない。奴隷商は……最悪肉壁にでもなってもらう。


 さて……開戦だ。


「行くぞっ!!」


 俺はドアを蹴り飛ばし、宿の正面に躍り出た。




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