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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第110話 会食

 その後、盗賊を討伐した褒美として白金貨を授けると言った侯爵の申し出を辞退し、さらに謁見の間の空気を凍らせてしまった。


 さすがに怒らせたかと思ったが、ウェイクリング家と敵対することを忌避したのか、追い出されたり危害を加えられることは無かった。ただ、侯爵とその部下の顔つきが険しくなっただけだ。相当に心証が悪くなっただろう。


 俺は既にリムロックの冒険者ギルドで、盗賊討伐の報酬として金貨3枚を受け取っていたから不要だと言っただけなんだけどな。元々、その報酬は領主であるエクルストン侯爵から出ているのだろうが、それは冒険者として正当な報酬を受け取っただけだ。


 侯爵は俺に報酬を出したという形にしたかったのだろうけど、そうはいかない。たかが盗賊の討伐で魔人族討伐の2倍の報酬なんて、どう考えても他の意図が含まれてる。受け取ってしまったら、侯爵からの要求を飲まざるを得なくなってしまうからな。


 ちなみに隊商と支える籠手(ガントレット)にも盗賊を連行した報酬が与えられた。マルコ隊長とサラディン団長は断るわけにもいかず、素直に受け取っていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 侯爵側の会食の出席者は、侯爵に文官と侯爵騎士団長、そしてマッカラン商会の会長ハーヴィ・マッカラン准男爵の4名だ。


 双方が向かい合った食事席で、中央に俺とエクルストン侯爵が向かい合い、俺の左にクレア、右にマルコ隊長・サラディン団長の順で並んでいる。向かいは、エクルストン侯爵の右に騎士団長、左にマッカラン准男爵・文官が並んでいる。


 クレアとマルコ隊長、マッカラン准男爵が東西の通商を中心とした話題で場を温めてくれたおかげで、会食は思ったよりも和やかに進行した。あくまでも表面上は、だけど。


「さすがはクレア殿。噂にたがわぬ才媛ですな。ウェイクリング領産の絹織物を高級銘柄品に押し上げた手腕は本物だったという事ですな」


「恐れ入ります。ですが、私がしたことなど絹糸の増産と職人の囲い込みをした程度です。運と時世に恵まれただけですわ」


「いやいや。その機運を見定める力こそ、クレア殿の類い稀な才覚でしょう」


 クレアは知らぬ間に一流の商人として活躍し、王侯貴族や商人達と関係を築いていたみたいだ。クレアが身に付けた社交術のおかげで、会食の雰囲気も悪くない。俺が5年も森に引きこもっていた間に、クレアは努力を積み重ねていたんだなぁ……。


「ところでアルフレッド殿は冒険者としても活躍しておられるとか。チェスターが魔人に襲われた際にも獅子奮迅の働きをされたとうかがいましたぞ」


「いえ、冒険者としてはまだまだ駆け出しです。騎士団とともに町の防衛をした冒険者の一人にすぎませんよ」


「それはまたご謙遜を。チェスターでは紅の騎士(クリムゾンリッター)の二つ名で呼ばれているというではありませんか。アイザック殿も立派な後継者に恵まれましたな」


 出たよ……紅の騎士(クリムゾンリッター)……。恥ずかしい二つ名を広めるのはやめてくれよ……。本人はたかがDランクの冒険者だってのに。それに後継者でもないし。


 しかしマッカラン准男爵はウェイクリング領の状況にもずいぶん詳しいんだな。やっぱりウェイクリング領で尾行してきたやつらは、エクルストン侯爵かマッカラン准男爵の間者とみて間違いなさそうだな。


「カスケード山での盗賊討伐もアルフレッド殿がほぼお一人で成されたとか。いやはや、凄まじい腕前だ」


「人数はそこそこいましたが、所詮は盗賊です。大したことはありませんよ」


 本当はこっそり忍び込んで、毒薬やら暗殺やらと手練手管を駆使して討伐したんだけどな。でも、ここは謙遜するよりも、『さすがはウェイクリング家の騎士』とでも思ってもらった方が良いだろう。


 ウェイクリング家でも騎士でもないけど。あ、加護は【騎士】(ナイト)になったか。


「いやいや。その盗賊のせいでカスケードの山道は魔物だけでなく人攫いも出る危険なルートと評されていたのですぞ? アルフレッド殿のおかげで東西の交易もしやすくなるというものです。商家としては感謝しきりですな」


「ふむ……。そう言えば、件の盗賊共はリムロックで引き渡されたと聞いたが、一部の者は貴公が拘束しているそうだな?」


 エクルストン侯爵が口をはさむ。ようやく本題に移るようだ。


 食事もメインが下げられ、次はデザートだ。ちょうどいいタイミングだろう。


「ええ。盗賊共と共謀して人を攫い、奴隷として国外に売り捌いていた闇奴隷商を捕えました。奴隷商ギルドを介さずに奴隷を扱うことは言うまでも無く重罪です。王都まで連行し、王家騎士団に引き渡す予定です」


「闇奴隷商……。しかし王家に所属する【闇魔術師(ダークメイジ)】でもなければ、攫った人間を奴隷化することなど……」


 マッカラン准男爵が訝し気な表情を浮かべる。どうやって奴隷化したのかが疑問なのだろう。


 俺も隷属化した奴隷商から聞いて知ったことだが、人を奴隷にする方法は三つあるらしい。


 一つ目は契約によって奴隷とする場合。自分自身を抵当として借金をした者が期限までに借金を返せず、奴隷商ギルドが用意した契約スクロールで奴隷落ちする……というのがその最たる例だ。貧しい農村などで口減らしのために子供を奴隷商に売る場合なんかも、この契約奴隷になる。


 当然ながら『契約』であるのだから、双方の合意が無ければ成立することは無い。そのため無理矢理に奴隷化することなど出来ないはずだ。


 そして二つ目は、闇属性の魔法を扱える魔術師が【隷属(スレイブ)】の魔法を施す場合。犯罪奴隷や戦争奴隷はこの方法で奴隷になる。


 闇属性の魔法は王家により秘匿されているため、どのような効果を持つ魔法があるのかは一般には知られていない。その中で唯一、広く一般に知られている魔法が【隷属】で、その名の通り強制的に人を隷属させる事が出来る魔法だ。


 闇属性の魔法を扱える加護を授かる者は非常に珍しく、それらの加護を授かった者は半ば強制的に王家に召し抱えられる。半強制的とは言え好待遇で迎えられるため、在野の闇魔法使いはほとんどいない。いたとしても王家から逃げ出したか、他国から潜入したかのどちらかだ。


 この場合は無理やりに奴隷化することも出来るかもしれないが、在野であれ王家のお抱えであれ、希少な【闇魔術師】がそんなつまらない罪に手を出すとは考えにくい。


「奴隷商は複数の『隷属の魔道具』を所持していたのです」


「ほう……『隷属の魔道具』ですか……」


 そして第3の方法が『隷属の魔道具』だ。【闇魔術師】と【付与師(エンチャンター)】が協力して作る魔道具らしいのだが、そうそう出回るものじゃ無い。俺もユーゴーが着けられているのを見たのが初めてだ。


「そのような希少な魔道具を使用して奴隷を売っても、儲けるどころか足がかなり出そうですがねぇ……」


「仰る通りです。なぜ、希少な『隷属の魔道具』を複数所持していたのかはわかりませんが、それを明らかにするためにも王都にて公正な裁きを受けさせるべきかと考えております」


 奴隷商が『侯爵の使い』を名乗る者からの指示でクレアを拉致しようとしたことも、『隷属の魔道具』を購入していたということも、奴隷商から聞き出していることは敢えてこちらからは話さない。俺たちが連行すると伝えればいいだけで、こちらが把握していることを伝える必要などないのだから。


「ふむ……貴公の言い分はよくわかった。だが、その者はまずこちらに引き渡していただこう。今までにたくさんの領民がカスケード山で消息を絶っているのだ。その中にはその奴隷商に捕らえられた者もいたことだろう。我が領地の民が被害にあっている以上は、その奴隷商を取り調べる必要がある。取り調べが終われば、責任をもって我々が王都に連行することを約束しよう」


 侯爵はさも当然のように奴隷商の身柄の引き渡しを要求してきた。言っていることは至極当然で正当性があるようにも聞こえる。そうなると……ここで何も話さずに拒否するのも違和感があるな……。


「申し訳ありませんが、それは出来かねます。実はその奴隷商は、こちらのクレア・アリンガム嬢の誘拐を目論んだのです。護衛の機転で最悪の事態は避けられたのですが、貴族令嬢の身柄を狙うなど言語道断です。アリンガム家と親交の深いウェイクリング家としても捨て置ける事態ではありません。この件は我々が預かり、王都にて厳しい審問と公正な裁きを受けさせます」


 俺は一枚カードを切って、はっきりと侯爵の申し出を拒絶する。さて……どう出る?


「なるほど……そういった経緯があるのであれば致し方ない。その者の身柄は貴公に預けよう」


 あれ? 意外とあっさり……。何が何でも奴隷商の身柄の引き渡しを強要してくると思っていたのに……。もしかして、奴隷商の言っていた『侯爵の使い』ってのは……ニセモノなのか??




ご覧いただきありがとうございます。

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