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騎士とJK  作者: ヨウ
第四章 絢爛の王都クレイトン
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第107話 ユーゴー

「なっるほどねー。クレアちゃんも変なヤツに目を付けられちゃって大変だねー」


「侯爵を変なヤツ呼ばわりか……。アスカらしいな」


 今日もろくに整備もされていない街道を進む。一定の距離ごとに石碑が立っていて、街道なのか荒野の一部なのかわからないような悪路だ。隊商の前には乾いた大地と岩しか無く、後ろには馬車の轍と足跡しかない。


 クレアや隊商の商人たちは皆一様に疲れきった表情を浮かべている。アスカはアクセサリーの効果で脚力と体力が補強されているからか、さほど苦にしていないようだ。


 というかアクセサリーをつけただけでオークヴィルで共闘したデールやエマ並みのステータスを得られるって、よく考えてみたらおかしくないか? エルフの【付与師(エンチャンター)】謹製のアクセサリーらしいけど、気休め程度の効果しか無いって聞いていたんだけどな……。


 そんなに効果があるなら俺も一つぐらいは身に着けてみたい。王都に着いたらアスカに選んでもらおうかな。


「じゃあ、王都までは一緒だね。よろしくね、ユーゴー!」


「……あ、ああ」


 馬車の横を一緒に歩いていたユーゴーがわずかに眉をひそめてアスカに答える。10センチ以上は背が高いユーゴーを上目遣いで見つめるアスカに戸惑っているみたいだ。


 ユーゴーはダークブラウンのフード付きのローブを、ビキニアーマーの上から羽織っている。お肌が傷ついちゃうとか、ユーヴイ? がどうとか言って、アスカが隊商の商人から購入したものだ。


 燦々とふりそそぐ太陽の下で肌をさらすと火傷のように焼けてしまうし、薄着の方がかえって熱い。陽の光を遮るために厚手の服を着た方が涼しく感じられるぐらいなのだ。


 豊満で健康的な肉体がローブで隠されてしまったことを残念になんて思ってはいない。ないったらないのだ。


 そんな益体のないことを考えていたら、ユーゴーが険しい表情でアスカに語りかけた。


「……お前は私に……思うところはないのか……?」


「え? 思うところ?」


「……私は……お前を……攫った」


「ああ。誘拐のこと? だってユーゴーはアイツに命令されてただけなんでしょ? しょうがなくない?」


「……だが」


「それに、盗賊のアジトでもアタシに水を飲ませてくれたり、拘束されてたあたしの、ほら、アレの……世話もしてくれたりしたじゃない。むしろ感謝してるよ?」


 ん? 尻つぼみに声が小さくなってよく聞こえなかった。なんだって??


「……アレの?」


「なんでもない!! 女の子の話を盗み聞きしないでくれる!?」


「ええ!? 隣にいたのに盗み聞きもくそも無いだろ!?」


「うっさい! 女の子には聞かれたくないデリケートな話もあるの! 察して耳塞いでよ!」


「ムチャ言うなよ!」


 ったく。普通に会話してたってのに、急に察して耳塞げって出来るわけないだろ。何がデリケートな話だよ。


 ん? デリケート……盗賊のアジト……拘束されていたアスカ……。ああ、トイレか。


「ぐふっ!!!」


 そう思った瞬間、脇腹に蹴り脚がめり込んでいた。あれ、声に出てた?


 さすがはアスカ。【騎士】(ナイト)の高い防御力を容易く貫くとは……。あ、やばい、脇腹痛くて息が出来ない……。くそぉ……仕事しろ【騎士】(ナイト)の加護ェ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ふっ!!!」


「くっ!【鉄壁】(ウォール)!」


 振り下ろされる木剣をなんとか受け止める。【不撓】(ディフェンダー)を発動しているというのに、【鉄壁】を使わないと防げそうに無いほどのとんでもないパワーだ。


「【盾撃(シールドバッシュ)】!」


 だが俺も黙ってやられっぱなしってわけにはいかない。間髪入れずにカウンターでスキルを発動しユーゴーを跳ね飛ばす。


 バランスを崩し転がったユーゴーに詰め寄る。よしっ! これでやっと一勝だ!!


 だが追撃の刺突を放とうとしたところで、失策に気づく。ユーゴーは獣の様に四つ足で構えて待ち構えていたのだ。


 しまっ……誘われたか!!


「ガアァッ!!」


 ユーゴーの【戦場の咆哮】(ウォークライ)に一瞬身が竦み、足がもつれる。流れた俺の身体を掬い上げるように、地面すれすれから放たれたユーゴーの拳が鳩尾にめり込んだ。


「ごふっ!!」


 身体が浮かび上がるほどの衝撃に足元が覚束なくなり、とても立っていられずに俺は膝をつく。呼吸が止まり、強烈な吐き気と悪寒が全身に広がる。やばい……意識が飛びそうだ。


「はーい、ユーゴーの勝ちー!」


「げほっ……げほっ……。くっ、そ……!!」


 ここ数日、野営地で繰り返しているユーゴーとの模擬戦。対戦成績は0勝7敗だ。


 ユーゴーの力は俺よりも上。体力や速さはほぼ同じ。防御力は俺の方が勝っているだろう。


 ほぼ互角のステータスだと言うのに、まったく勝てる気がしない。盗賊のアジトで勝ったのが信じられないくらいだ。


「強いねー、ユーゴーって」


「信じられませんな……魔人を倒したというアルフレッド殿を一蹴とは……」


「はあっ、はあっ……。だから……魔人は、不意を、突いて、毒殺、しただけ、ですって……」


 息も絶え絶えになりながら大事なことなので訂正する。もういい加減に魔人を倒したって過大評価するのはやめてくれ。


 それにしても、ユーゴーは強い。たぶん盗賊のアジトで戦っていた時は本領を発揮していなかったんだろうな。


 いくら鍛えられた肉体と技があったとしても、そこに戦う意思が無ければ真の実力は出せない。奴隷として無理矢理に戦わされていたユーゴーだったから、俺はなんとか勝つことができたのだろうな……。


「ふうっ……。付き合ってくれてありがとう、ユーゴー」


「…………ああ」


 ユーゴーとの模擬戦は本当に勉強になる。簡単には体勢を崩させない驚異のバランス感覚に、手の内を読ませない多彩な技と立ち回り。そしてスキルの使いどころが抜群に上手い。自分の戦い方は剣士に凝り固まっていたんだな、と思い知らされる。


「これが、実戦経験の差かぁ。ステータスが上がったからって調子に乗ってたよ」


「言ってもまだまだ低レベルだからねー。伸びしろはまだまだあるから!」


「ん。まだまだ努力しないとな……」


「…………」


「ん、どうした? ユーゴー?」


 アスカと話していると、ユーゴーがじっと俺を見ているのに気づく。ユーゴーは何かを考えこむように俯いて、少しして意を決したように俺を見た。


「……なぜ、本気を出さない?」


「本気? いや、本気でやってるんだけど……」


 本気でやって0勝7敗なんですけど、なにか?


「……あの時は……もっと……」


「ああ」


 盗賊のアジトでやりあった時のことを言ってるのか。


「あれは、なんていうか……火事場のくそ力みたいなもんだよ」


 アスカの話じゃ【暗殺者】(アサシン)の加護に変わってたって話だったな。確かにあの時は急に身体が軽くなって、狂戦士化したユーゴーの動きですら見極められるようになった。


 その【暗殺者】の加護を今は外してるから、敏捷性の補正も無ければスキルも使えないんだよね。つまり今の俺の本気ではユーゴーには届かないってわけだ。


 対人戦では速さに秀でた方が有利に戦いを進められる。タイミング良く斥候系の中位加護に変わらなければ、たぶんあの時もユーゴーに負けていただろうな。


 普通に考えれば加護が変わる事だって有り得ない事なんだけど……どうせアスカの仕業だろうから考えるだけ無駄だろう。


「…………」


「ま、それだけ必死だったってことだよ」


 俺は無理やり話を打ち切った。俺のコロコロ変わる加護のことは説明できないしなぁ。


「とにかく、王都に着くにはまだ随分あるしさ。特訓に付き合ってくれよ」


「…………わかった」


 道中はレベル上げもスキル上げも出来ないみたいだし、歴戦の傭兵『怒れる女狼(フェイタルフューリー)』に協力してもらって鍛えるとしよう。




誤字報告、ありがとうございます。助かります。

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