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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第103話 宴

「アルフレッド殿に感謝を! 乾杯!」


「かんぱーい!!!」


「ありがとう!!!」


 翌日の夕方、リムロックで一番大きいという酒場を貸し切り、宴が催された。誰一人欠けることなく無事にカスケード山に到着したことを祝い、酒や料理がこれでもかと用意されている。全てマルコさんの隊商の奢りだ。


 普段なら隊商と支える籠手(ガントレット)は移動中にこのような宴会を開くことはない。ちょっとした晩酌程度はするにしても、危険な旅の間に緊張感を切らさないようにするための決まり事なのだそうだ。


 だけど、今回は特別だ。一度は隊商が壊滅寸前まで追い詰められたのだ。それを救った俺を歓待し、無傷でリムロックに到着することが出来たお祝いをしないわけにはいかないとのことだった。


「ありがとう! アルフレッドさん!」


「マジでしびれるぜ兄貴!!」


「あんたのおかげでまた息子に会えるよ!」


 皆から感謝の言葉をかけられ、次々とカップに酒を注がれる。ここに来るまでに何度も何度もお礼を言われたから、もう十分すぎるぐらいなんだが、まあ悪い気はしない。


「あ、ども。ええ、どういたしまして。良かったですね」


 注がれるままに飲んでいたらあっという間に酔い潰されてしまいそうだ。せっかくだからと最初は米のワインを飲ませてもらっていたが、途中から薄いエールに切り替えさせてもらった。


「なあ、アルフレッドさん。アリンガム家の指名依頼は王都までの護衛なんだろ? その後は支える籠手(ガントレット)に入りなよ! あんたなら大歓迎だよ!」


「そっすよ! 兄貴ならすぐにでも中隊長クラスになれますよ!」


 あの一件以降、支える籠手(ガントレット)のメンバーからしきりに加入しないかと誘われている。今度はわりと仲良くさせてもらっているグレンダさんやジェフからも声をかけられた。


「王都のあとはガリシア自治区に向かう予定だからムリなんですよ」


「えー!? そうなんすかー?」


「アルフレッドさんが入ってくれたら、支える籠手(ガントレット)ももっと有名になれると思ったんだけどなー」


「そっすよね! 兄貴が加入してくれたら、『荒野の旅団(ヴァルド・イェーガー)』とか『鋼鉄の鎧(ギラム・パンツァー)』にだって負けねっすよ!」


「誘ってくれてうれしいけど、当分は冒険者として旅するつもりだからさ。そのうち、縁があったらな」


「そっか。残念だけどしょうがないね。まあ、王都まではよろしく頼むよ」


「ええ。よろしくお願いします」


 傭兵か……あえて戦場に身を置きたいとは思えない。でも、隊商の護衛みたいな任務ならやってみるのもいいかもな。


 俺はそんな事を思いながらアスカの姿を探す。アスカは店の奥の方にあるテーブル席に陣取っていた。席にはクレアやジオドリックさん、ユーゴーの姿も見える。一通り皆に挨拶も済んだし、そろそろアスカ達と寛ごうかな……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「アスカさぁぁぁん!! ごべんなざいーー!! わだじのせいでー!!!」


「あ、アル。おつかれさまー! 挨拶は終わったのー?」


「あ、ああ。どうしたんだコレ?」


 アスカ達が座る席に向かうと、クレアが大泣きしながらぐびぐびとワインを飲んでいた。アスカにしがみついて滂沱の涙を流していたかと思うとふいに離れてワインを飲み、またアスカにすがりつく。さすがのアスカも苦笑いだ。


「んークレアちゃんって泣き上戸なんだってー」


「そ、そうなのか……こんなに酔っぱらったクレアは初めて見たよ」


「あーーアル兄ざまぁー! わだじアル兄ざまになんでお詫びすればいいかぁー!」


「ちょっクレア!! 離れなさい! はーなーれーろー!!!」


 俺が席に着くと今度は俺に抱き着いてくるクレア。抱きとめた瞬間にアスカがクレアを引き剥がし、ジオドリックさんの方にぶん投げる。


 さっきまでクレアを抱きしめて背中をぽんぽんと優しく叩いていたアスカはどこに行った……。ジオドリックさんは苦笑いしつつも冷静にクレアを受け止めて席に座らせた。


「ひっぐ、ひっぐ……ほ、本当にアスカさんが無事でよかったですー!! わたくし、わたくし、アル兄さまに合わせる顔が無いって……ひっく!」


「だから、もういいってクレア。もう何度も謝ってもらったじゃないか。そろそろ水に流そう?」


「そうだよー。だいたいあたしが勝手にクレアちゃんを名乗ったんだから気にすること無いってー」


「でも! でもぉ!」


 泣き止まないクレアの横にアスカが座り、ふわふわのプラチナブロンドの髪を優しくなでる。同年代なのにイマイチ相性が悪そうだった二人だけど、こうして見ていると仲の良い姉妹のようにも見える。


「あたしも隠れようとしたけど間に合わなかったから、クレアちゃんに成りすましただけだって言ったでしょ? あいつらクレアちゃんを捕まえたいみたいだったから、クレアちゃんのフリをしておけば酷い目に合わされることは無いだろうって踏んだんだよ?」


「ひっく……でもわたくしの代わりにアスカさんを……怖い目に合わせてしまって……」


 アスカは盗賊団のアジトを抜け出してからずっと、『クレアのフリをしたのは人質になった方が安全そうだったから』と言い張っていた。どう考えても身代わりになってクレアを守ろうとしたに違いないのに。


 本当に素直じゃない。まあ、アスカらしいなとも思うけど。


「そーれーにー。あたしの騎士(ナイト)が助けに来てくれるって信じてたからねー」


「んむっ!?」


 クレアがぴたっと涙を止めて顔を強張らせる。にやにやと下卑た笑いを浮かべてクレアを見下ろすアスカ。


 ……うん??


「あ・た・し・の・ナイトがねー。あたしのために単身で盗賊のアジトに戦いを挑んでくれるなんて、さっすがアルだよねー!」


「うぐっ……」


「クレアちゃんにも見せてあげたかったわー。ばったばったと盗賊達をなぎ倒していくアルの雄姿を! 縦横無尽に盗賊のアジトを駆け回り、ちぎっては投げちぎっては投げの大活躍! かっこよかったなー。あ・た・し・の・ナ・イ・ト!」


「ふぬー!!!」


 クレアが憤怒の表情で顔を真っ赤にさせた。さっきまで尾を引くように嗚咽していたのがウソのようだ。


「……っていうか、盗賊達とまともに戦ってるとこなんてほとんど見てないだろアスカも」


 盗賊の長らしきヤツらを倒しているところを見ていたけどあれは一瞬だったし。そもそもまともに盗賊と戦ったのあれだけだし。それ以外は寝込みを襲うか、睡眠薬飲ませるか、背後から刺殺したわけだし。どこが『ちぎっては投げ』だ。


 諫めてはみたが、アスカとクレアがギャーギャーと口喧嘩をし始める。ほんと仲が悪いんだか、良いんだかわかんないなコイツら。


 でもクレアが子供の時みたいに大声で喚いている姿を見るのも久しぶりだ。なんか、こいつらの関係も悪くないのかもな……。


 俺は苦笑いしつつジオドリックさんとグラスをチンっと鳴らして乾杯した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺は酔いを醒ますために酒場を出て、広場のベンチで一息を入れた。酒場では、まだまだ宴もたけなわって感じで皆が騒いでいる。


 本当に皆を助け出せてよかった。最初は見捨てる気まんまんだったけど。


「…………なぜだ」


 唐突に背後から声をかけられる。


「なぜだって、何が?」


「なぜ助ける」


 背後にいた人物が俺の前に姿を現す。さっきまで黙りこくってチビチビと酒を飲んでいたユーゴーだ。


「見覚えがある目をしてたからかな」


「………見覚えのある目?」


「ああ」


 盗賊達を容赦なく殺し、大半を犯罪者として騎士に突き出した俺が、なぜ奴隷商の専属護衛という立場だったユーゴーだけを特別扱いして助けたか。


「全てを諦めて、絶望した目をしてた」


「…………」


「あの奴隷商……アントンって言ったか。アイツから聞いたよ。戦場で傷ついて半死半生だったユーゴーを拾って、隷属の腕輪で無理矢理に奴隷にしたって」


「…………ああ」


「アントンの悪巧みに利用されて、何人もの人たちを……傷つけたって」


「…………ああ」


 やりたくもない暴力を、殺人を、アントンに強いられていたユーゴー。隷属の腕輪で縛られ、ユーゴーはその命令に逆らうことは出来なかった。反吐が出るほど酷い話だった。


 ユーゴーはそんな命令を下されるたびにどんどん心を削っていき、ついには死んだ魚の様に瞳を淀ませたのだろう。ユーゴーの瞳には深い絶望と諦観が浮かんでいた。


「おこがましいけど……救いたいって思ったんだ」


 ユーゴーの事情に比べれば遥かにマシだけど、森にいたころの俺も、同じような目をしていたから。




ご覧いただきありがとうございます。

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