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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第100話 盗賊隊商

 盗賊団によるアリンガム家令嬢と隊商マルコの拉致監禁事件から10日後、俺たちはいくつかの農村を通り過ぎエクルストン侯爵領リムロックの町にたどりついた。


 本来ならゴブリンが集落を築こうとしていた野営地から3日もあれば着く距離なのだが、ここまで着くのにかなりの時間がかかった。


 その理由は隊商が100名を超す大所帯に膨れ上がったからだ。アジトにいた盗賊たち全員を拘束して引き連れているのだ。拘束……ともまた違うかもしれないが。


 ちなみに盗賊のアジトで救い出した行商人とその護衛も隊商に帯同している。彼らは元々このリムロックに向かう途中で盗賊たちに襲われて拉致されたということで、道中の安全のために隊商に同行することになったのだ。


 50人を超す粗野な男たちを引き連れる異様な隊商は、街道ですれ違う行商人や冒険者たちからの奇異の目にさらされ、露骨に距離を取られた。途中の農村には立ち寄りを拒否をされたぐらいだ。


 それはそうだ。俺だって森番小屋の近くに、盗賊にたむろされたら不安でたまらず身構えただろう。


 代官として派遣された騎士と自警団ぐらいしかいない農村で、拘束しているとはいえ多数の盗賊を引き連れた一団が歓迎されるわけがない。おかげで、このリムロックの町までは無補給で移動する羽目になった。


 まあ奇異な目線を向けられたのは、それだけが理由じゃないけど……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 盗賊のアジトを制圧した翌日は、それこそ蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。


 支える籠手(ガントレット)のメンバーは翌朝早々に野営地でキャンプを畳み王都に向けて出発しようとしていた。荷をまとめ出発目前だった彼らにもたらされたのは俄かには信じがたい話だった。


 アリンガム家令嬢クレアの護衛、紅の騎士(クリムゾンリッター)ことアルフレッドが盗賊のアジトをたった一人で制圧し、隊商の商人たち全員を解放。50人を超える盗賊たちを拘束したというのだから。


 半信半疑で盗賊アジトに急いだ支える籠手(ガントレット)の傭兵達が見た光景は、アジトの入り口前の広場に盗賊たちが貯めこんだ財宝やら食料やらを運び出している商人達の姿だった。



 それから出発の準備にかかったのは丸四日。まず盗賊のアジトから金目の物や食料を運び出すのに一日。それらを森の獣道を通って野営地まで運ぶのに、さらに一日。そして牢屋に閉じ込めていた盗賊たちを、一人一人縛り上げつつ野営地まで連れて行くのに、またさらに一日。盗賊のアジトから運び出した物を隊商の荷馬車に積み込むのと準備を整えるのに、もう一日かかった。


 捕えた盗賊たちは皆殺しにしてしまえと支える籠手(ガントレット)は訴えた。だが、盗賊たちを最寄りの町まで連れて行って騎士団に引き渡せば、盗賊を討伐した報酬だけではなく、盗賊を犯罪奴隷として売却した金額の半分が手に入る。隊商隊長のマルコさんは連行すべきと主張した。


 かと言って、20数人しかいない支える籠手(ガントレット)が50人以上の盗賊たちを監視しながら連行するのも骨が折れる。脱走されたり、あまつさえ寝首をかかれるようなことがあっては目も当てられない。


 支える籠手(ガントレット)のサラディン団長は強く反対し、全員殺処分と訴えた。アジトに残したら盗賊の残党が助けに来ることも考えられるため妥当な判断ではある。


 万が一、逃がしてしまったらカスケード山を通過する人たちの命と財産を奪い続けてきた盗賊達を再び野に放つことになるのだ。そう言われれば、殺す以外に選択肢は無いようにも思えた。


 しかし、隊商隊長のマルコさんは盗賊の監視を容易にし、しかも安全に最寄りの町に辿り着ける、斜め上の提案を出してきたのだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「おらあっ! 足が止まってるぞ!!」


 荷馬車の御者台に座ったジェフが駄馬に鞭を振るう。駄馬達は悲鳴(・・)を上げて、わずかに歩みを早めた。


 そう。鳴き声(・・・)ではなく悲鳴(・・)を上げて、だ。


「しかし……見慣れてきたとはいえ、マルコさんもよくこんな事を考えつくよな。さすが隊商を率いる隊長さんだ」


「でも、さすがに町の近くでは悪目立ちしすぎますわね。我が家の馬車だけでも、馬に引かせるべきでしょうか……」


「今さらじゃなーい? もう町の人たちから大注目を浴びてるじゃん」


「これは……旦那様からお叱りを受けてしまうかもしれませんな」


 アリンガム家の馬車を御すジオドリックさんと、御者台の後ろから町の様子をうかがうアスカとクレア。俺はアリンガム家の馬車を引いていた馬に乗って並走している。


「まさか盗賊に馬車を引かせるなんてな……」


 アリンガム商会の立派な幌馬車を引くのは、粗末な衣装を身を包み、馬車とロープで繋がれた裸足の盗賊達だ。目の下にくっきりと黒い隈を浮かべ、一様に疲れ果てた表情で幌馬車を引いている。隊商の荷馬車も同様だ。そして、支える籠手(ガントレット)の面々は御者台に座るか、その周りを騎乗して警戒と盗賊たちの監視を行っている。


「確かに食事と寝る時間以外をずっと馬車を引かされていたら、疲れ果てて逃げ出す気力も失せるよな」


支える籠手(ガントレット)の面々も、騎乗して機動力が上がっております。逃げ出したとしてもあっという間に追いつけるでしょう」


「お馬さんたちも馬車を引くよりは人を乗せた方が楽だろうしね! しかも人が引くのんびりした早さだしー」


「盗賊のアジトにたくさんの食料備蓄がありましたから、多少は遅くなっても問題はありませんでしたしね。ここまで予定の2倍以上の日数がかかってしまいましたけれど」


 もちろん最初は盗賊達も素直には従わなかった。馬の代わりに馬車を引くなんて受け入れられない、どうせ処刑か奴隷落ちだから一思いに殺せと騒ぎたてた。


 それを黙らせたのは支える籠手(ガントレット)のサラディン団長だった。サラディン団長が言う事を聞かない盗賊達に対して、見せしめに行ったとある実演が盗賊達を恐怖の底に落とし込んだのだ。


 反抗的な盗賊の幹部に対し、サラディンさんが取り出したのは湾曲した刀身を持つナイフだった。彼はそのナイフを巧みに使い、全身の皮を綺麗に剥いでみせたのだ。


 生きたまま、しかもはっきりと意識のある状態で、皮を剥がされていった盗賊の幹部は、この世のものとは思えない悲鳴をあげ続け、やがて血の海に沈んだ。あの叫び声は当分忘れられそうにない。


 さすがに、そんな凄惨な解体ショーを見せられた後に逆らえる盗賊は誰一人いなかった。『簡単に殺してもらえるなんて、そんな贅沢がお前らに許されるわけがないだろう?』という一言が決め手になったようだ。


 そして今、盗賊に馬車を引かせる隊商と傭兵団が、亀の歩みでようやくリムロックの町にたどり着いた。町人から奇異の視線を集めながら。




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