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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第98話 出来ること

 金色の瞳が怪しく鈍い光りを放つ。身を低く屈め、今にも飛びかからんとするその姿は獣そのもの。その身体からは手負いの飢えた狼を思わせる獰猛で濃密な殺気が溢れ出ている。


「ガアッ!!」


 叫び声と共に、予備動作無しに突っ込んで来たユーゴーが、荒々しく剣を振り回す。素早く正確な剣捌きで投げナイフを叩き落し、俺の短剣を易々と捌いて見せた技巧は鳴りをひそめ、まるで子供のチャンバラ遊びの様な拙い剣捌きだ。


 だが……


「くっ……早いっ!」


 ユーゴーの剣は【盗賊】(シーフ)の加護を修得した俺を凌駕するほどの速さで振るわれる。まるでズブの素人のような剣捌きだが、振るわれる早さが尋常じゃない?嵐のように猛々しく乱暴に振るわれる剣は早いだけでなく、骨身にずっしりと響くほどに重い。


「うぉっ……ぐぁっ!!」


 左斜め上から振り下ろされた剣を受け流そうと漆黒の短刀を合わせるも、その勢いに押されて後ずさる。泳いだ身体に、間髪を入れずにユーゴーの剣が迫った。


 なんとか短刀での防御が間に合ったが、俺は吹き飛ばされてごつごつとした岩肌の地面に転がった。倒れた俺に容赦なく振り下ろされる剣を、無様に転がってなんとか躱す。


 ガチインッ!


 岩肌の地面に打ち付けられた剣が火花を散らす。もし回避が間に合わなかったら……あの剣は容易く俺の命を奪っていただろう。


「はあっ……はあっ……!」


 荒々しく打ち付けられる剣をなんとか捌き、躱すことだけで精いっぱい。全くもって反撃する暇を見出すことが出来ない。それどころかユーゴーの重い剣を受け止める度に腕が痺れ、今や漆黒の短刀のグリップを握りしめる手が震えている。


「まさに……狂戦士か……」


 立ち上がった俺に、一切の躊躇いなく突進してくるユーゴー。この痺れた腕ではユーゴーの剛剣を受け止められない。



 ……ならば、全てを躱す



 剣が無い、盾が無い、腕が痺れたなどと、無い物や出来ないことに捉われてなどいられない。ここでユーゴーを仕留め、一刻も早くアスカを追いかけなければならないんだ。


 捉われるな。俺は、俺にしか出来ない戦い方があるだろう。アスカから授かった俺の加護で、教えられたスキルで、出来ることはまだまだある!


 乱雑に振るわれる剣を最小限の動きで躱していく。少しかすっただけでもばっさりと斬り裂かれそうな剣を躱すたびに、ヒヤリと背中に冷たい汗が流れる。


 だが……躱せる……!


 両手で扱っていた剣を軽々と片手で振舞わす膂力。俺を上回るほどの早さで振るわれる剣。一気に強化された圧倒的な身体能力。


 もし戦場で培われたのであろう剣の技巧を、この身体能力で振るわれたなら、俺に躱すことは出来なかったかも知れない。


 だが、今のユーゴーに技巧や知性は感じられない。ただただ力任せに振るわれる剣だ。ギリギリではあるが集中すればなんとか躱せる。



 もっと……速く……速く……!



 俺は全神経を体さばきと振るわれる剣のみに集中する。


 しだいに周囲の音が届かなくなった。ユーゴーの振るう剣が切り裂く風の音だけが聞こえる。さっきまでうるさく聞こえていた轟々と流れる水の音がしない。いや、耳には届いているが、頭には届いてはいないのだ。



 ……身体が軽い。



 ついさっきまで紙一重で避けていたユーゴーの剛剣を、今や余裕をもって躱すことが出来ている。自分の体さばきが、体重の移動が、どんどん速くなってきているのがわかる。


 そして、ふと気づく。自分が何をしたのかを。何を身につけたのかを。


「【瞬身】!」


 そのスキルの名を加護が教えてくれる。さらに身体が速くなるのがわかる。狂戦士と化したユーゴーをも圧倒する速さで、次々と振るわれる剣を躱していく。



 まだ、やれる……まだ、出来る……!



 一歩踏み出して【潜入】を発動し、また一歩を踏み出して解除する。二歩踏み出して【潜入】を再発動し、五歩進んで解除する。


 【潜入】の発動と解除を無作為に何度も何度も繰り返す。殺気を膨らませて接近し、その数瞬後に全ての気配を隠して遠ざかる。


 気配が現れ、次の瞬間には気配が消失する。緩急をつけた歩法でユーゴーの周囲を旋回する。狂気と殺意に染まっていたユーゴーの金色の瞳に、困惑の色が浮かぶ。


 ユーゴーには俺の姿が現れたり、消えたりを繰り返しているように見えていることだろう。狂戦士化し、知性と技巧を手放したユーゴーには、俺の動きを冷静に見極めることなどできない。


「【暗歩】」


 加護が教えてくれるスキルの名を俺はつぶやく。【瞬身】のスキルで圧倒した速度と、【暗歩】の緩急をつけた歩法でユーゴーを翻弄する。振るわれるユーゴーの剣は戸惑いを宿し、何度も宙を斬る。


 俺はユーゴーの周囲を駆け回りながら、懐から火喰いの投げナイフ(フレイムスロー)を取り出す。ユーゴーの隙を突く方法を、加護が教えてくれる。俺は加護に従いナイフを振るう。


「【影縫】」


 火喰いの投げナイフをユーゴーの足元に投擲する。足元の影に突き刺さったナイフは鈍く輝き、一瞬だけユーゴーの動きを止めた。


 ほんの一瞬だけ。時間にすれば1秒にも満たない、ほんの刹那だ。


 だが、それだけの時間があれば十分だ。俺はユーゴーの背後に回り、漆黒の短刀を振るう。


「ぐっ……!」


 俺は短刀の柄で首筋を強打し、ユーゴーの意識を刈り取った。




ご覧いただきありがとうございます。


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