第10話 ステータス
「つかれたあーーーー。アルぅ、お腹すいたよー!」
今夜は二人で狩りと薬草集めで聖域を歩き回った。おかげで食糧や素材が集まったけど、アスカはさすがに疲労困憊なようだ。
「すぐ寝るんだから簡単に済ませるぞ?」
「ありがと! あと、身体拭きたいからお湯も出して」
「しょうがねえな。【静水】」
俺は生活魔法の【静水】でタライにお湯をためる。静水は氷や熱湯は出せないけど、冷水やぬるま湯なら作り出せる。飲み水にも困らず、清拭にも使える便利な魔法だ。
「サンキュ! 身体拭いてくるね。覗いちゃダメだよ?」
「はいはい」
アスカはタライを持って物置に行ってしまった。くぎを刺されてしまったし俺も体を拭いて、夜食……というか朝食の準備をするか。
俺は体を拭いた後に、マッドボアの干し肉とオート麦でスープを作る。作ってる間にさっぱりした様子のアスカが帰ってきた。さて、朝食を食べながら今後の予定の打合せだ。
「転移石を手に入れて、日本に行けるかどうか試してみたいの」
アスカは転移陣から現れた。ということは転移陣を使えばニホンに戻れるかもしれない、とのことだ。
それを試すには転移石が必要だ。転移石は迷宮や遺跡で稀に発見される魔石の一種。転移陣の利用に必要になる消耗品だ。
ただでさえ希少品なのに、利用すると砕け散ってしまう。そのため非常に高値で取引されていて、一般には流通していない。
売買されていたとしても貴族や豪商の間でだけだ。貴族であっても緊急事態でもなければ使用することは無い。
「たぶん、王都の近くにある転移陣の神殿にあったと思うのよね」
アスカはその希少な転移石を入手できる当てがあるそうだ。あくまでもWOTでの話だけど、とアスカは言う。
「まあ、そこに無かったとしても、探せば一つぐらいは見つかるんじゃないか?」
「うん。迷宮とか遺跡に行けば、たぶんあると思う」
「じゃあ、当面の目的地は王都クレイトンだな。長い旅になるぞ」
王都はここからはるか東にある。徒歩で行くとすれば二か月はかかるだろう。
「あ、最初はオークヴィルに行きたいの」
「いいけど、なんで? 王都とは逆方向になるけど」
オークヴィルは始まりの森から西に1日ほど歩いた場所にある山間の町だ。王都への道のりを考えれば誤差程度の距離だけど、遠回りしてまで寄る価値のある場所でもない。
「旅をするには、まずお金を稼がないとでしょ?」
「オークヴィルで稼ぐのか? 城下町のチェスターの方が金策はしやすいと思うけど……」
「ちょっと試しておきたいことがあるんだ。いいでしょ?」
「ああ、まあ先の長い話になるし、少し寄り道するぐらいいいか」
「うん! じゃあ最初の目的地はオークヴィルね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、二人で話し合ってオークヴィルへの出発は二日後にすることになった。盗賊のスキルの熟練度を上げてから旅立つためだそうだ。
「加護のレベルを上げて、ステータスの底上げをしとかないとね」
「ええと……加護のレベル? ステータスって?」
「えっと、ステータスってわからないかな? その人の能力を数字にしたものなんだけど……あ、見てもらった方が早いか」
そう言ってアスカはメニューを開いた。
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■ステータス
アルフレッド・ウェイクリング
LV 1
JOB 盗賊Lv.1
VIT 63 (15)
STR 60 (15)
INT 66 (15)
DEF 54 (15)
MND 57 (15)
AGL 150 (15)
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「へぇ……これが俺の能力ってことか?」
「うん。VITは身体の頑丈さ。STRは攻撃する力ね。INTは魔法を使う力で、数値が高ければ高いほど魔法が多く使えるようになるし、威力も上がるの。DEFは敵からの物理攻撃のダメージを減らす力で、MNDは魔法攻撃のダメージを減らす力。AGLは敏捷性ってところね」
「う、うん」
「まあ、この辺はおいおい説明していくよ」
「ちなみにこのカッコの中の数は?」
「アル自身の能力値だよ。これはレベルが上がると、高くなっていくの。カッコの外は加護の補正を受けた後の数値ね」
「すごいな……加護を授かるとこんなにも能力が上がるんだな……。というか敏捷性だけ妙に高くないか?」
「【盗賊】は敏捷性が上がる加護だからね。加護によって補正値が変わるんだよ。例えば【剣闘士】なら防御力が高くなって、【喧嘩屋】なら体力が高くなるの」
「なるほどね……」
確かに身体が軽くなったように感じる。足もかなり早くなったと思ってたけど、そういう事だったのか。
「えっとね、じゃ、あたしのステータス見て」
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■ステータス
アスカ・ミタニ
LV 1
JOB JK
VIT 10
STR 7
INT 0
DEF 8
MND 0
AGL 12
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「……よっわ」
なんだこの低さは……。戦闘系の加護じゃないとこんなにも低いものなのか。
「うっさい! あたしはごく普通の女子校生なんだよ!? 当たり前じゃん! アルだって加護がなきゃ似たようなもんでしょ!?」
「ゴメン、ゴメン」
言われてみればそうだな。加護を与えてくれたアスカに感謝しないと。
「あれ? でもアスカは加護を変えないのか? 神具を使えば加護を変えられるんだろ?」
そう言うと、アスカは険しい表情になる。
「あたしの加護は変えられないみたいなんだ。試してはみたんだけど……」
「そうなのか。メニューも万能ってわけじゃないんだな……」
俺だけ加護を授かるなんて申し訳ないな……。
「残念だけど、変えられないのはしょうがないよ。それに加護がつけられたとしても戦力にならないだろうしね」
「どういうこと?」
「魔力と精神力の初期値がゼロだから……加護を変えたとしても全く増えないんだよ。ステータスの加算は足し算じゃなくて掛け算だからね」
「……そうなのか。それは残念だな……」
魔力が全くないとなると魔法もスキルも使うことは出来ない。加護を授かったとしても確かに戦闘は厳しいだろう。
「せっかくWOTっぽい世界に来たんだからスキルとか魔法とか使って、あたしTUEEEEE!したいところなんだけどねー。まあ魔法なんてない世界から来てるんだから、魔力とか精神力が無いのも当たり前なんだけど」
アスカのJKってのもなかなか不遇の加護みたいだ。でもアスカにはメニューってすごいスキルもあるし、森番よりはるかにマシか。あれ? メニューは魔力が無くても使えるのか?
アスカに聞いてみたら、分からないそうだ。デフォルトでついてる機能だからとかなんとか。
「でね、話を戻すけど、レベルと加護レベルを上げればステータスが上がるの。自分のレベルが低い方がスキルの熟練度が上げやすいってのは前にも話したよね?」
「ああ、そういう話だったな」
「熟練度をあげてスキルを修得できたら、加護のレベルが上がるの。盗賊の場合は、潜入と索敵と夜目ね」
「え? そのスキルはもう習得できたって言ってなかったっけ?」
「えっと……『習得』はできだけど『修得』はできてないの。『修得』したスキルは他の加護に変えた時でも使うことが出来るんだよ。今は盗賊の加護があれば『習得』したスキルを使えるけど、他の加護に変えた時には使えなくなっちゃうんだ」
「スキルの『修得』か……」
「うん。ちょっとこれを見てみて」
そう言ってアスカはウィンドウを開いた。
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アルフレッド・ウェイクリング
■スキル
初級短剣術・初級弓術・初級剣術・初級槍術・馬術
潜入LV.1・索敵LV.2・夜目Lv.3
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「このレベルがついてるのは【盗賊】の加護をつけている時に使えるスキルね。レベルが無いのがアルが修得しているスキルだよ。こっちはどの加護をつけていても使えるの」
「へえ……この剣術とか弓術とかってのはいつの間に修得したんだ?」
「これは加護に関係なく武器を扱う事で取得できる基礎スキルね。アルが訓練して修得したんじゃないの?」
「ああ、なるほど……。家庭教師に習ってたから修得できていたのかな」
「これってスゴイことなんだよ? 初級剣術も短剣術も、剣闘士とか盗賊の加護をマスターしてやっと修得できるスキルなんだから!」
アスカが興奮した様子でほめてくれた。だとすると騎士を目指して訓練に明け暮れていたことも無駄じゃなかったってことか。
あ、でも魔物を相手にしないとスキルは修得できないって話だったから、この森で手に入れたのか? スキルは家庭教師から教わって習得してて、修得は聖域での生活で身に着いたってことだろうか。
「アルには、潜入と索敵と夜目の3つのスキルを修得してもらいたいの。あと丸二日も訓練すれば【夜目】は修得できて、加護のレベルも上げられると思うから」
「わかった。じゃあ、あと二日間は夜にスキルを使いながら狩りと採集をすればいいんだな?」
「そういうこと! 狩りは何の役にも立てないけど、解体と採集はあたしの方が早いと思うから、いっしょにがんばろうね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから二晩、俺とアスカは狩りと採集を続けた。手に入れた素材はアスカのアイテムボックスに収納している。魔物は兎・鹿・猪をそれぞれ10匹以上、回復薬の原料になる薬草や毒草、魔茸などは99個ずつ採集した。
アスカに聞いたところ同じ物は99個までしかアイテムボックスに収納できないらしい。なぜ99個なのかと聞いてみたら『そういうものでしょ?』と答えられた。よくわからないが、そういうものなのだろう。
試しに自然乾燥させていた薬草を渡したら、別の物として収納できたそうだ。アイテムボックスはWOTより便利かも……とアスカはつぶやいていた。
まずはお金稼ぎと言っていたが、魔物を狩りながら素材を集めるだけでもそれなりに稼げそうだ。重い魔物の素材を運ばなくても済むと数を稼ぎやすいから、かなり有難い。
狩りや採集以外の時間はひたすら料理をしている。二人で串焼きやスープなどを大量に作り、アスカがアイテムボックスに片っ端から収納した。
「こないだ試してみたんだけど、アイテムボックスに入れてから二日経ってもスープが出来立ての温かいままだったの。たぶんアイテムボックスに入れると時間が止まるんじゃないかなぁ?」
いつでも出来立ての美味しい食事を食べられるのは、すごく嬉しい。旅先で料理をつくるのは面倒だろうしな……。
「WOTだと料理を食べると体力回復とバフがついたんだよねー。そういう料理もあるの?」
バフとはステータスなどを一時的に増加させる効果を指すそうだ。攻撃力や魔力を高める料理とかは聞いたことが無いな。精力が高まる料理とかは聞いたことがあるけど。亀とか蛇の魔物料理とか。
というか精力の方はどうしよう。物置とかでこっそり自己処理しても、なんかこう、発散できないんだよな……。アスカもなんだか前向きになってきているみたいだし、迫ってみてもいいものかな。一夜限りとか言ってたし、落ち込んでいたから手を出すのは控えていたけど……。
「一度させたからって、また出来ると思わないでくれる?」
……とか言われたら、一緒に旅するの辛いしなぁ。どうしたものか……。




